#014 廃墟のような空間が理想。自身の意図を超えた空間を目指したマンションリノベ

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鈴木 亮平

新潟市在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。

オークのヘリンボーンの床に、荒々しさを感じさせるコンクリートの躯体、下地材に使われるラワンベニヤの壁…。

海外のしゃれたゲストハウスのラウンジのような空間が広がっているが、ここは新潟市中央区内のマンションの一室だ。

築37年のヴィンテージマンションの高層階の角部屋で、信濃川を眼下に望め、新潟市を一望できる眺めもこの部屋の魅力となっている。

この部屋に暮らすOさんご夫婦に話をうかがった。

 

開放的な眺めを愉しめるリラックス空間

「以前は賃貸暮らしをしていましたが、好きな空間で暮らしたくて1年くらい物件を探していました。マンションに絞っていたわけではないのですが、予算的に中古マンションがちょうど良かったですね」とご主人。

ご主人がこだわっていたのは「川」と「商店街」だったという。

「水面を見ているのが好きなんです。海を眺めるのも好きですね。なんて言うかマインドフルネスのような感じでしょうか」。

物件探しをする中で、加茂市の加茂川を眺められる築100年の古い戸建てを見に行ったりもしたそう。

「学生時代から30歳まで東京に住んでいたんですが、車で出掛けるよりも街を歩くのが好きで、新潟市でも古町とか小さな店がたくさんある場所の近くに住みたいというのもありましたね」とご主人。

そんなご主人にとって、川が眺められ、街なかであり、角部屋で眺めのいいこの部屋は理想的な物件だったという。内見をしてすぐに購入を決めたのだそうだ。

一方の奥様は「私はあまりこだわりがない方なので、ほとんど全て任せていました」と微笑む。

 

リノベーションのテーマは「廃墟をつくること」

88㎡程のマンションははじめからリノベーションをするつもりで購入したという。

リノベーションを依頼したのは、株式会社モリタ装芸のリノベーションブランド「classicaL(クラシカル)」を担当している小倉直之さん。

ここ数年はリノベーションの専任担当者として、着実にマンションリノベーションの実績を積み重ねている。

※小倉さんの実績はこちらでも紹介→【新潟市中央区西大畑】古さを生かしたヴィンテージスタイルのリノベーション(新潟面白不動産)、【新潟市中央区西大畑町】古さを生かしたヴィンテージスタイルのリノベーション-その2-(新潟面白不動産)、

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株式会社モリタ装芸の小倉直之さん。

物件探しと並行して、モリタ装芸の完成見学会を度々訪れて小倉さんとやり取りをしていたご夫婦は、新しい住まいづくりのパートナーとして小倉さんを指名した。

「元々『廃墟をつくる』というのが自分の中のテーマでした。年月を経てできるものは、自分の意図を超えていて、そこが面白いと思っていたんです。あと、雑誌で見つけたコンクリートの躯体を現したリノベーションの事例にも影響を受けました」(ご主人)。

 

モルタル・コンクリート・無垢・ラワンベニヤ。4種の素材で構成された空間

そうして完成したのは、約24畳ほどの大きなLDK、寝室、将来の子ども部屋、ウォークインクローゼット、水廻りという構成だ。

まず玄関ドアを開けて中に入ると、玄関の土間と同じモルタル仕上げの廊下が奥へと伸びている。

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両サイドの壁はラワンベニヤで仕上げられており、さらに建具までもが同素材でつくられているので、ドアの存在感をほとんど感じさせない不思議な空間になっている。

左側のドアを開けると子ども部屋・ウォークインクローゼット・寝室が連なる空間が現れた。

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寝室はコンクリートの天井、ラワン、オークのフローリングに囲まれた空間。無機質さと自然素材が溶け合った部屋は、不思議と落ち着ける空気が漂っている。

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窓から見えるのは、信濃川を一望できる贅沢な眺め。あえてカーテンはつけていないのだとか。

再び廊下に戻ると、逆側には、トイレ、洗面脱衣室、浴室が並ぶ。

トイレは壁・天井・建具の5面がラワンベニヤ。床は無垢のオーク材を使ったパーケットフローリングだ。

DSC_9761-2その隣にある洗面脱衣室の床は、玄関・廊下と同じモルタル仕上げ。

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ラフな素材を使いながらも、無駄な線を削ぎ落としたシンプルなデザインは、品のいいホテルのような趣を感じさせる。

 

24畳のLDK。それはラウンジのようなくつろげる場所

廊下を通り抜け、ハイドアを開くと、そこに広がっているのは24畳の大きなLDK。そしてその先に見えるのは、高層階ならではの抜けるような眺望だ。

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3枚の無垢材をワンセットにした特殊なヘリンボーン張りのフローリング。通常のヘリンボーンよりも大雑把でラフな印象は、この部屋の世界観にぴたりと合っている。

ちなみにこの床材は、2017年に新潟市中央区沼垂東(沼垂テラス)にオープンした無垢フローリング店「and wood」から購入したものだそう。

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「でも最初は中古の足場板を使おうと考えていたんですよ…」と話すご主人。

すかさず奥様がその先の言葉を引き取った。「私がそれだけは反対しました。家の中では裸足で過ごしたかったので。足場板だとささくれが刺さりそうじゃないですか(笑)」。

これが今回のリノベーションにおいて、奥様がご主人に反対をした数少ないことだったという。

「ちなみにヘリンボーンにした理由は、無垢材の個体差が通常の張り方よりも強く出ると思ったからです」(ご主人)。

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部屋の右側にはステンレスキッチンとダイニングテーブルが並び、その隣の壁一面は棚になっている。左奥には大きなL字型ソファ。

これだけの家具が余裕を持って収まっている上に、ソファの手前にはまだ余白を感じさせるスペースが広がる。そこは角部屋ならではの掃き出し窓が切られており、ここからも光が注ぎ込む。

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壁の本棚は、右のキッチン側に行くと調理家電や食品を置くスペースになる。

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用途を限定しすぎない自由度の高い棚は、パソコンデスクでもあり、オーディオを置く場所でもあり、飾り棚の役割も果たしている。

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棚には奥様が好きな「太陽の塔」のぬいぐるみが。

「イメージとして、あまり作為的にしたくないというのがありましたね。家っぽさを排除したいと思っていました。結果的に家具を入れてはいますが、この空間を『LDK』という用途がはっきりした空間にしたくないとも思っていました」(ご主人)。

DSC_0038-2 そんな個性的な思いを持ってリノベーションを依頼したご主人。それに対して小倉さんは「ご要望がはっきりしていたので、それを『整えて収めていく』ということに徹しました。例えば、ラワンベニヤは全て継ぎ目の線が揃うように収めています。粗い素材を使いながらも、収まりをきれいにすることが大事だと考えているからです」。

ラフでありながらもどこか気品を感じさせるのは、小倉さんの細部へのこだわりによるものだ。

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クリエイティブな発想を生み出す空間

景色に恵まれた静かで落ち着ける空間。休みの日、ご主人は家でパソコンをいじりながらお酒を飲んでリラックスして過ごすことも多いのだとか。

現在は会社員として働くご主人だが、東京で過ごしていた20代の頃は写真で生計を立てていたことがあったという。

当時つくっていた写真集を見せてもらった。

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何気ない日常や街の風景を切り取った写真だが、ご主人のフィルターを通り作品化された写真は、全てが非日常のものに見えた。

今は作品づくりをしていないということだが、今後やってみたいテーマがあるという。

「年配の方のこれまで生きてきた歴史を集めてみたいと思っているんです。それを文章や写真にして残してみたい。対象とする方は決して特別な人ではなく普通の人。そういうことを今後仕事として成り立たせられたらと考えています」。

世界を見つめる独特の視点。その感性は空間づくりにも現れている。

住む環境はクリエイティブな発想を生み出す上で少なからぬ影響を与えるもの。O邸のリビングは、家の中でありながら、カフェやゲストハウスのような公の場のような印象を感じさせる。

日常の中に非日常を持ち込んだような、リラックスをしながらも集中力が研ぎ澄まされるような、そんな独特の空間だ。アイデアを生み出したり、創作活動に没頭したりするのに最適な空間のように思えてくる。

家をただ生活をするだけの場所にするのはもったいない。真の自分たちらしい暮らし方に最適化できることこそが持ち家のメリットであり、O邸は高い次元でそれが実現されている。

 

O邸
新潟市中央区
延床面積 88.10㎡(26.65坪)
構造 SRC造
築年数 37年
工事完了年月 2018年8月
設計施工 株式会社モリタ装芸

(写真・文/鈴木亮平

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鈴木 亮平

新潟市在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。