#016 庭の緑に癒やされる。加茂市鵜森にあるARCHI LABOのコンセプトハウス

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鈴木 亮平

新潟市在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。

信濃川のほとりに広がる集落、加茂市鵜森。果樹園と畑と住宅が入り混じる昔ながらの風景が今もなお残されている。

その集落の中にある株式会社山内組は87年の歴史を持つ建設会社だ。元々は大工集団として始まった山内組だが、時代の流れに合わせ土木工事を事業の主軸とするようになったという。現在は道路工事や河川工事などのインフラ整備や、冬季の除雪などで地域の生活を支えている。

そんな山内組は住宅の設計施工も行っているが、数年前までは設計を外部の設計事務所に発注をし施工のみを行っていた。しかし、設計事務所と工務店での経験を持つ一級建築士の山内孝明さんが2009年に入社したことで、設計から一貫して提案できるようになった。2014年には一級建築士事務所ARCHI LABO(アーキラボ)を社内で立ち上げ、住宅事業に力を入れ始めている。

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一級建築士の山内孝明さん

長期優良住宅の基準をクリアした品質と、住まい手の価値観やライフスタイルに合わせた設計が山内さんが手掛ける住宅の特徴だ。

今回取材に訪れたのは、2018年9月に完成したアーキラボのコンセプトハウスでもある山内さんの自邸。

「数年前から構想をしていましたが、モデルハウスとしても見て頂ける自邸をと考えてつくりました。長期優良住宅をスタンダード仕様とするのはもちろんですが、自由度の高い家づくりができることを伝えたいと思っています」と山内さん。このモデルハウス兼自邸の完成を機に、住宅事業にさらに力を入れていく方針だという。

集落との調和と刷新が現れた、ガルバリウムと杉板の外壁

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山内さんが建てた自邸は、山内組の本社から数十メートル程の場所にある。南側の土手と北側の実家に挟まれた場所で、河川区域という土地のため、土手から少しセットバックをする必要があった。

鵜森集落に立つ家は板張りの外壁の家が多く、隣に立つ実家も板張りだ。周囲との対比と調和を意識し、東側は杉板押し縁の外壁で仕上げている。

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吹き抜けのあるアプローチ。ピロティになっているのは、すぐ右側に立つ実家に対しての圧迫感を和らげるため。

シンプルな三角屋根にピロティとベランダが見え、伝統的な要素を用いながらも設計は現代的だ。ちなみにピロティは駐車スペースで、雨に濡れずに家と車を行き来できるほか、洗車やスノーボードのワックス掛け、雨天時に立ち話をするのにも便利な場所となっている。

そして、上の写真からも分かるように左奥は横張りのガルバリウムで全く異なる表情にしている。周辺環境との調和を意識しながらも、自由度の高い建築を目指すアーキラボとしての姿勢も現れており、そのハイブリッドな外観デザインがコンセプトハウスの特徴となっている。

新旧の庭に囲まれた住まい

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建物の南側に回ってみると、2種類の庭があることに気付く。写真奥に見える伝統的な和風庭園は先代が造り上げた庭で、手前右側に見えるのが今回新しく造った庭だ。

庭の後ろにはコンクリートの壁が見えるが、この壁は土手の法面(のりめん)に造られている。元々ここには土手から入れる古い建物があり、その建物を取り壊した際に残った基礎部分なのだという。

この庭を造ったのは同じ加茂市の造園会社EN GARDEN WORKの小川俊彦さん。工事が始まる前の更地の現場を見てもらい、既存の庭との調和をテーマに作庭を依頼したという。

最初に現場を見た時、小川さんは無機質なコンクリート壁の扱いに頭を悩ませたが、その壁を背景として生かすことで、モダンで美しい庭を造り上げることに成功。壁は遺跡のようでもあり、ネガティブな要素と思われたものがむしろ独特の情感を感じさせるものとして見事に緑と調和している。

庭に埋め込まれた船型の石は元々庭にあったものを活用したものだという。そこには苔が敷かれ、詫び寂びを感じさせる風景ができあがった。

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ガルバリウムの建物と呼応するモダンな庭だが、既存の庭とのバランスが取れているのは、日本的な要素で構成されているからだ。

そんな新旧の庭が建物をL字型に囲むように配されている。

シンプルで美しい庭とモダン空間の見事な調和

では、ここから山内邸の内部空間を紹介していきたいと思う。

まず玄関に入ると現れるのは、白を基調としたシンプルな空間だ。

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玄関土間と同様に廊下の床もタイルで仕上げており、統一感を感じさせる。

2.5畳分のクロークは家族4人の靴はもちろんのこと、趣味のスノーボードも余裕で収まる。可動棚で棚の位置を自在に変えられるので、さまざまなサイズの物に対応できる。

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さりげなく空間に温もりを添えているのは天井のシナベニヤ。廊下は間接照明を中心にしたことで天井のデザインもすっきりと仕上がり上質さを感じさせる。

そこからドアを開けて進むと最初に現れるのは、約12畳のリビング。

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こちらの床も全てタイル仕上げ。大きなソファが余裕で収まり、南側の窓からは先ほどの新しい庭が鑑賞できる設計だ。さらには、床暖房が仕込まれているので、見た目のクールさとは対照的に冬はポカポカと暖かい。

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また、東側に切られたFIX窓からは先代が造った和風庭園を望める。

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色味を抑えたリビングから見る庭の緑は一層鮮やかに目に飛び込んでくるが、このリビングという空間が内部だけで完結するのではなく、庭との融合により完成していることに気付かされる。

住宅を考える際に、内部のインテリアや間取りに目が行きがちだが、外の風景を含めて考えることで、より居心地のいい住まいを計画できる。

リビングの隣はダイニングキッチン。

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鉄のスケルトン階段がリビングとダイニングキッチンをそれとなく分けている。リビングの引き戸を閉じれば、空間を分けて使うことも可能だ。

そして、リビングと同様にダイニングキッチンからも庭を眺められる。窓の外は屋根のあるテラスでイスに腰掛けて気軽にアウトドアを楽しむこともできる。

実は庭がある土手の上は車道で、車通りが少なくない。インナーテラスが緩衝地帯となり、外から家の中が丸見えになることを防いでいる。

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キッチンはダークグレーのセラミックトップ。前面パネルはウォルナットの突板仕上げで洗練された家具のようでもある。

奥の引き戸を開けると3畳ものパントリーがあり、冷蔵庫もその中に収めることで、生活感を感じさせないシンプルなキッチンが完成している。

ちなみに、手前に置かれたダイニングセットは、先代が残してくれた神代杉(水中や土中に長年埋もれていた希少な杉材)を製材したもの。

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木目の独特の模様が特徴的だ。「先代が昔掘り起こしてきた希少な材を製材して、ダイニングテーブルやベンチ、テレビ台などに活用しています」(山内さん)。

長く眠っていた材は、山内邸の空間を構成する要素として再び命が吹き込まれた。

家事のしやすさや、生活時間を考慮した設計

次に階段を上がって2階へと向かった。

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2階は二人のお子様の部屋と、夫婦の寝室、水回りが配置されている。

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西側には2つの子ども部屋。8畳+4畳のクロゼット付きの部屋が左右対称にレイアウトされている。広めのクロゼットを設けたことで、室内はすっきり広々とくつろげる空間が広がっていた。窓からは土手や梨畑の景色を眺められる。

2人のお子様はそれぞれ小学校高学年と中学生。自室で過ごしたくなる年齢ということもあり、独立した個室を設けている。

一方、廊下を挟んだ東側は夫婦の寝室だ。

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寝室の手前にはセカンドリビングが設けられており、ここでソファに腰掛けてゆっくりとくつろげる。窓の外はテラスになっており、気候のいい時期には周辺の緑を眺めながらここでリラックスして過ごすのもよさそうだ。

「ここにセカンドリビングを作ったのは、時期によって私と妻の生活時間がずれるためです。冬になると深夜から除雪の仕事が入るので、私は早めに寝て夜中に起きるという生活になります。そんな時、互いに気を遣わずに過ごせるセカンドリビングが重宝します。これは私たち家族の生活リズムに合わせた設計ですが、生活時間という視点でもお客様に合った最適な設計をしたいと思っています」(山内さん)。

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セカンドリビングの一角には半個室の小部屋があるが、こちらは奥様のドレッサーと山内さんの書斎を兼ねた空間。

「住宅の図面を作る仕事だけは、会社ではなく夜ここで集中してやっています」(山内さん)。

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寝室は窓の大きさを抑えた落ち着ける空間だが、東側に高窓を切っているので朝はたっぷりと光を取り込める。

2階の奥には、洗面脱衣室・ランドリー・浴室が配されている。

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洗面脱衣室の奥には4畳のランドリーがあり、天井に取り付けられた2本のスチールパイプにたっぷりと洗濯物を干せる。

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さらには、奥のテラスにも出られるので、外干しもスムーズだ。

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テラスに敷かれているウッドタイルは山内さんがDIYで施工したもの。

土手と実家の間という敷地条件、杉板の外壁を用いる地域性、庭との関係性、山内さんの家族構成とライフスタイル、生活や家事のしやすさ。さまざまな視点から、合理性や心地よさ、家族にとってのフィット感を突き詰めた設計とデザインになっている。

「私が提案する家は『こういうスタイル』というのがあるわけではないんです。こういう素材しか使わない、というようなこだわりもありません。独自のスタイルにこだわるのではなく、お客様ごとに異なるご要望に対してトコトンお話を聞き、お客様にとって最適な設計やデザインを追求していきたいと思っています。このモデルハウス兼自邸から、そんなコンセプトを感じて頂けたら嬉しいですね」(山内さん)。

今回の取材を通して山内さんから感じられたのは、謙虚さと真剣さ。それは、自由設計の注文住宅という正解が分かりにくいものに対して一つの答えを提示するのではなく、お客さんと一緒になって答えを導きだそうという真摯な姿勢の現れであるように感じられた。

対話を通して、一つ一つの設計の理由を確認しながら進めていく。そんな丁寧で安心感のある家づくりを一緒に進めてもらえそうだ。

ちなみに今回紹介したモデルハウス兼自邸は、事前予約制で見学可能。実際に見てみたい方は、アーキラボのホームページからお申し込みを。

 

山内邸(コンセプトハウス兼自邸)
加茂市鵜森
延床面積 207.92㎡(62.9坪)
竣工年月 2018年8月
設計施工 一級建築士事務所 株式会社 山内組 アーキラボ

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(写真・文/鈴木亮平

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新潟市在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。