【インタビュー】木質構造のスペシャリスト「ウッド・ハブ」代表實成康治さん×三条市のアーキテクトビルダー「サトウ工務店」代表佐藤高志さん

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鈴木 亮平

新潟市在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。

三条ものづくり学校(新潟県三条市)に事務所を構えるウッド・ハブ合同会社。ウッド・ハブは主に中大規模の木造建築の構造設計を手掛ける会社で、保育園や商業施設、クリニックなどの構造設計を行っています。

2015年に設立し、實成康治さんと小林淑人さんの2人の代表と、管理建築士の村上典子さんの3名で運営をしています。

これまでも三条ものづくり学校にオフィスを構えていたウッド・ハブですが、業務拡大のために2018年11月により広い隣の部屋(教室)に移転をすることになりました。

そして、それに合わせ、室内にはウッド・ハブの木構造を体感できるブースを施工。このブースの設計施工を手掛けたのは、同じ三条市内のアーキテクトビルダー「サトウ工務店」(参考記事:「#004 のどかな土地に立つ、大きな屋根の家。」)。

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今回、ウッド・ハブの代表・實成康治さんと、サトウ工務店の代表・佐藤高志さんにお話をうかがいました。

―――中大規模の木造建築の構造設計とは一般の人になじみのないお仕事ですが、どんなことをしている会社なんですか?

實成康治さん(以下、實成):まず僕が今の仕事を始めることになった経緯をお話しますね。僕は元々大断面の設計(※断面寸法30㎠以上の部材を使った大規模な木造建築の設計の意味)をしていたんですよ。そこで仕事をしながら、木造でできることって実はたくさんあるのに、あまり活用されていないな…と感じていました。特殊な技術やノウハウを持っている会社にはできるけれども、そうでない会社にはできない。それをもっとみんなができるようにしたい…、というのが自分の中のベースとしてあります。

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そう考えているうちに、便利な接合金物があれば設計や施工のコストを抑えられるので、よりたくさんの会社が大規模な木造建築を作れるようになるというところに行きつきました。で、大断面の設計をしている会社から、接合金物をつくる見附市のメーカーに転職をしたんです。

そこで開発に携わり、自分なりにすごくいい金物ができてすごく設計が楽になったんですよ。コストも下がりましたし。それで色々な建物が木造で建てられるようになりました。…でも、それがなかなか売れないんですよ(笑)。なぜかというと、木造の構造設計をできる人がいないからなんです

で、その課題を解決するために独立して始めることにしました(笑)。

木造ってそんなに肩肘張らなくても「あんなことも、こんなこともできる」というのを体現するのがうちの活動ですね。接合金物といういい材料があっても、例えるなら料理の仕方が分からないために広がっていかないというのがあります。そこで、料理人として、「あれもできるしこれもできる!しかも高くない!」というのを自ら体現していくしかないなと(笑)

例えば地域の保育園とか公民館くらいの規模だったら、(鉄骨造や鉄筋コンクリート造でなく)木でも十分建つんですよ。そこに木が使われないのは、できないからではなく、やり方が分からないからなんです。そこら辺を、こうすれば木でもできますよ、というのを見て頂きたくてやっています。

あと、僕は元々開発者なので、金物メーカーがつくる接合金物等の開発コンサルタントもやっています

あそこにある柱脚金物も自分が設計法の整理に携わり今年の春に出たものなんですが、今年グッドデザイン賞を取ったそうですよ。

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あそこにある金具もそうです。あれは以前勤めていた会社に入る前に自分から「こういうのを作れると思うのでやりませんか?」と提案をして、その後入社して開発をして作ったものです。

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―――ちなみに、木造でつくることで鉄骨造や鉄筋コンクリート造よりもコストは抑えられるものなんですか?

實成:それはケースバイケースですね。木造に適している規模や建物形態でしたら安くなりますが、必ずしも安くなるわけではないです。僕は木造至上主義ではなくて、技術者として木が適している場合に木をおすすめしています。クライアントにとってのベストミックスを提案するのが私たち設計の仕事だと思っていますので。

よくあるんですけど、強度的に絶対できない建物を「この木で造れませんか?」と相談されたりします。その場合は「鉄でやった方がいいですよ」とお答えしていますね(笑)。

―――では、今回新しいオフィスにつくったこのブースの目的や特徴を教えて頂けますか?

實成:まず「自分ができることを、みんなができるように」というのがうちの設立趣旨なんですけど、なかなか体現してお手本を見せても設計者が増えてこないんですよね。やりたいけどできない方が多いんです。

設計って隣に座って教えないと伝えられないことがたくさんあるからですよね。そこで、インターンで受け入れて、うちに来てうちのやり方を真似して自社の仕事をやって頂くようなサービスを始めることにしました。で、お金を頂いて受け入れるのでちゃんとした環境を整えようと思って。

ちょっと部屋を手直しして簡単なブースを作るくらいのつもりでサトウ工務店の佐藤さんに相談したところ、佐藤さんにそそのかされて…(笑)。「こんな風にしたら?」とご提案を頂いたんです。

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佐藤高志さん(以下、佐藤):最初は塗装して小ぎれいにしたいというお話を頂いたんですが、塗装の見積もりを出すついでに私からの持ち込み企画で、せっかくだからこういうのもしませんか?とブースの提案もしたんです。そうしたら、それにのってくださって(笑)。そこから、具体的な使い方をヒアリングして最初のプランから直して今のプランにしました。

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フレームは全てウッド・ハブさんで計算をして、意匠部分をこちらでやっています。

實成:部材の開発や構造体の設計をしているので、それを見て頂けるのはお客様にも伝わりやすいと思うし、いいなあと思いました。

佐藤:これが最初の提案ですね。

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これは詳しく話を聞く前なのでインターンの方がいる場所がないんです(笑)。ウッド・ハブさんの純粋なオフィスとしての提案でした。

で、そこから色々と使い方のお話を聞いて、今のレイアウトに変わっていきました。

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CG新01 CG新02實成:インターンの方が仕事をするために、柔らかく区切らなければいけないというのがありました。バチーンと区切っちゃうとうちに来た意味がなくなりますし、かと言ってベタベタに一緒だとやりにくいですし。

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ある程度区切られているけど、すぐに聞いたり教えたりできるようにしたいなと思っていて。それを形にしてもらいました。黒板側にインターンの方、逆サイドに私たちのデスクが並びます。

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で、真ん中のブースが共有スペースですね。この打ち合わせスペースのほか、資料、コピー機などがこのブース内に入ります。

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それから、窓側のこの部分は当初予定していなかったんですが、追加をしました。僕ここにハンモックを吊るしてソファも置きたいなと思っていて(笑)。

DSC_0195 ここでみんなでお茶を飲んだりしたいなと思っています。あと、窓側って明るすぎてパソコンのモニターを見ながら仕事するのに向いていないんですよ。だから休憩スペースにちょうどいいなと思って。

―――インターンの方は1回来られるとどれくらいの期間ここで仕事をして過ごすのですか?

實成:お客様の都合にもよるので特に決めてはいないですが、イメージ的には半年くらい一緒にいて、うちのやり方を知って頂きたいと思っています。でもそれだけじゃ完全にできるようにはならないんですけど、半年くらい一緒にいると気心も知れてくるじゃないですか。そうすると、会社に帰ってからも電話でやり取りがしやすくなると思うんです。「同じ釜の飯を食う」じゃないですけど、そういう意味もあるなと思っています

―――そうして木造の構造設計ができる人を増やすことが大事なのですね。

實成:はい、やはりできる人が増えないことには木造建築の存在感は出てこないですから。時々「それって自分の競争相手を増やしていることだよね?」とよく言われます。でも大丈夫です。自分はもっとすごいことができるようになっていこうと思っているので(笑)。

それに今自分たち3人でできることって知れているんですよね。死ぬ気になって設計したって、年間何十棟もできるわけじゃないので。できる人が全国で100人になるとだいぶ変わってくると思います。友達100人計画でやっています(笑)。

そういう取り組みの一環で、他の構造事務所さんにうちのノウハウを伝えようということで「木構造テラスという団体を設立していて、その代表もやっています。業界の方が60社くらい集まる団体になっていて、定期的に勉強会を開いたりしています。

―――中大規模の建築がメインということでしたが、住宅で構造設計をすることでどんな可能性が広がっていくでしょうか?

實成:住宅って壁量規定、耐力壁の配置のルールにのっとって設計されているんですよね。それは(中大規模の建築と比べると)すごく簡易な設計方法なので自由度が低いんですね。精緻に構造計算をする必要がない分、安全率を多めに見るからです。

プラン的にできるだけ開放的にしたいとか、できる限りオープンなスペースを取りたいとか意匠的な要望があっても、構造上耐力壁を設けなければいけないからスパンが飛ばせないとか自主規制をしながら設計をしている人が多いと思います。

そこで、構造設計と意匠設計が協業することで、安全性もプランの自由度も両立する道筋がいくつも見えてくるようになると思います。設計の自由度というのは確実に上がるでしょうね。あとは性能がきちっと担保できるようになります。この2つのメリットがありますね。

ただ、「4号特例(※木造2階建住宅では構造審査を行わなくてもいいという法律)」というのがあるので、あまりメリットばかりを言い出しにくいというのはありますけど…。

木造はS造・RC造と比べると圧倒的に弱いんです。だからこそ、木造こそが意匠設計と構造設計が協業する必要があると考えています。それに、木造は意匠の壁が耐震の壁を兼ねているんですよ。なので、プランができてお客さんに見せてから構造計算をした時に構造的に問題があるとやり直しになってしまうんです。設計の早い段階で協業するのがいいと思います。

―――ところで、實成さんと佐藤さんはどんな関係で今回お仕事を一緒にしたんですか?

佐藤:實成さんは色んな専門誌に記事を書いていて、5~6年前から實成さんの存在を知っていました。興味を持って読んだ記事によく實成さんの名前が書いてあったんです。すごく気になって検索をしてみたら、すぐ近くの三条ものづくり学校にいることを知って驚きました。

ただ、自分は住宅が中心で、實成さんは中大規模の建築が中心。仕事上あまり繋がらない感じでしたが、いつかコラボしたいと思っていたんですよ。3年前に非住宅の案件で顔を合わせることができましたが、その仕事は実施に至らなかったんです。それが今回このブースづくりでやっと協業が実現しました。

實成:私もサトウ工務店さんとは金物メーカーにいた時に他の担当者の方とやりとりしたことがあって、色んな凝った住宅をつくられていることを知っていました。今回、室内の手直しをしたかったんですが、知っている業者さんもいなくて…。こういう小さい仕事はやってくれないかな…と思いながら連絡をしてみたんです。聞いたら悪いかな…なんて思いつつ(笑)。

でも、今回こうして協業ができて、それによって生まれる新しいものがあるなあというのを体現できました。非常に面白かったですね。

 

木造建築の可能性を広げていくことをミッションとする實成さんは、「エンジニアは、今までできなかったことをできるようにすることが存在意義」と話します。新しいものを生み出す實成さんは、精緻な実施設計ができる共同代表の小林さんとタッグを組み、お互いの強みを生かして事業を起こしました。

また、今回オフィス内のブースを作った佐藤さんは、安全で高い性能を担保しながら自由度の高い家づくりを行っています。耐震等級3をクリアしながらも、その敷地条件や家族の暮らしに最適化した開放的な家づくりを行う佐藤さん。

仕事の守備範囲は違えど、互いに共感するものがあっての協業でした。

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構造はインテリアやデザインと比べると、家づくりを考える多くの人にとって興味を持ちにくいものかもしれません。しかし、住宅においても構造のプロが加わることで、自由度が高く安心できる住まいができあがります。

家づくりに一歩踏み込んだ「構造設計」という視点を取り入れてみると、新しい発想で家づくりができるようになるかもしれませんね。

取材協力/ウッド・ハブ合同会社・代表 實成康治さん、株式会社サトウ工務店・代表 佐藤高志さん

写真・文/鈴木亮平

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鈴木 亮平

新潟市在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。