【インタビュー】もみの木の内装材にこだわる「もみの木ハウス新潟」山田雄一さんの家づくり

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鈴木 亮平

新潟市在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。

クリスマスが近づき各地でイルミネーションが始まり、街がきらびやかになってきました。クリスマスと言えばクリスマスツリー。クリスマスツリーと言えばもみの木ですよね。

今回お話をうかがったのは、内装にふんだんにもみの木を使った家をつくる工務店「株式会社 もみの木ハウス新潟」の代表・山田雄一さん。2016年秋に創業し3年目に入りましたが、なぜもみの木にこだわった家づくりをしているのかを詳しく教えて頂きました。

 

株式会社 もみの木ハウス新潟
代表 山田雄一さん

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1979年生まれ。中央工学校で設計を学び、施工会社、実家の山田建築店を経て、2016年に株式会社もみの木ハウスを立ち上げ、内装材にもみの木を使った健康住宅を手掛ける。独自の家づくりの考え方をブログで発信し、共感する顧客とともに家づくりを行っている。

 

<インタビュアー>
Daily Lives Niigata(デイリー・ライブズ・ニイガタ)編集部
鈴木亮平

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1983年生まれ。美術系の大学で建築デザインを学び、旅行情報誌、地域情報誌、住宅情報誌の編集を経て2018年にフリーランスの編集者に。住まいや建築士・工務店を紹介するWEBマガジン「Daily Lives Niigata」を運営。

 

もみの木の床には、数値には現れない体感的な温かさがあった

鈴木:では、まずは山田さんの経歴について教えて頂けますか?

山田:高校卒業後、東京にある中央工学校という建築系の専門学校に入り、そこで設計の勉強をしました。実家が山田建築店という工務店をやっていてイノスグループ(※住友林業と地域の工務店がコラボレーションして家づくりを行うネットワーク)に入っていたんです。であれば、まずは住友林業の家づくりを学ぶのがいいだろうと考えて、千葉の住林建設に入り4年間そこで働きました。その後、25歳の時に実家に帰ってきて山田建築店に入り、12年間勤務しましたね。そして2016年に退社をし、「もみの木ハウス」を立ち上げたんです。

鈴木:名前の通り「もみの木」を内装材に使った家づくりをされていますが、現在の家づくりを始めた経緯について教えて頂けますか?

山田:鹿児島県の新建設(※現・もみの木ハウスかごしま)という会社の社長がイノスグループの会員だったんです。竹下さんという、ホームページやブログで集客するちょっと先を行った感じの方だったんですけど、オレそのブログのファンだったんですよ。

で、ブログで竹下社長がもみの木の記事を書いていて、良さそうだなと気になっていて。

4年前の秋に東京でイノスグループの集まりがあった時に竹下社長がいたので挨拶して、そこでもみの木について色々聞いたんです。そしたら「ぜひ見においでよ!」と言ってくださって。で、さっそく翌月の12月25日に鹿児島に行きました。

鈴木:クリスマスの日に行ったんですね(笑)。

山田:そうそう、クリスマスの日に(笑)。それが、たまたまものすごく鹿児島が寒い日で、気温がマイナス1度くらいだったんです。南国のイメージで夏のスーツで行っちゃったもんだから、すごく寒くて(笑)。で、もみの木の製材をしているマルサ工業という会社の社長のお宅に連れて行ってもらって、もみの木の家を体感したんです。

その家は、無気密無断熱のお宅なんですけど、床や壁がもみの木で仕上げられていて。ちなみに、自分が勤めていた山田建築店では高気密高断熱に特化した住宅をつくっていて、その年の8月に「Q値=1」という高性能のモデルハウスが完成したんですよ。

だけど、不思議とそのお宅の方が、自分たちが作っている家よりも寒く感じなかったんです。

鈴木:そんなことがあるんですか!?室温はどれくらいだったんですか?

山田:そのお宅の室温は14度くらい。その室温だと普通は寒く感じるんですけど、足に触れる部分が柔らかいもみの木だから、冷たく感じなかったんでしょうね。うちらのモデルハウスは床は無垢材だけど堅い木を使っていたので、14度でいたらそれなりに寒いわけですよ。そこで「もみの木すごいな!」と思って。そこから改めて木の勉強をし始めました。

 

高気密高断熱の家だからこそ、内装材にこだわる

鈴木:木についてどんなことを学び直したんですか?

山田:まず「柾目で浮造りが大事」ということですね。

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多くの人が、「無垢材=調湿作用がある」とイメージを持っていると思うんですけど、必ずしもそうではないんです。まず、板目の材は調湿しにくいです。あそこにある木は板目ですけど、あれはあまり調湿しないですね。

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鈴木:なるほど…。ところでこの浮造りの床の凸凹感。足裏を刺激する感じで気持ちいいですね。

山田:鈴木くんは木から水が吹いてるのを見たことある?

鈴木:(…木から水が吹く?)見たことないです。

山田:うん、オレもない(笑)。木の中の水の通り道って、この年輪の中。つまり上下と円状にしか水を運搬できないわけ。

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だから当然木の樹皮から水が出てくることはないんです。その理屈から分かるように、「板目」の大部分は水を通さない部分で、「柾目」が水を通す部分になる。だから、柾目は水を吸う(=調湿効果がある)んです。そういう勉強をし直しました。

あと、「自然素材ならなんでも健康にいい」というイメージがありますが、それも必ずしも正しいわけではないんですね。例えば、同じキノコでも、食べられるキノコもあれば毒キノコもあるじゃないですか。色々学んでいく中で、天然乾燥させたもみの木が一番いいというところに辿り着いたんです。さらに、浮造り加工をすることで調湿性能が高まり、足触りも良くなります。

もみの木を使い始めたきっかけなんですが、最初は、「自分たちがやっている高気密高断熱の家にもみの木を使ったらどうなるんだろう?」という興味からでした。

高気密高断熱の家は暖かい反面、水分や有害な化学物質を排出しにくいという問題があります。24時間換気をしていても、厳密には全ての空気が入れ替わるわけではないので、高気密高断熱の家ほど、内装材の選定に気を付けた方がいいんですよ。

あと税制上の話ですが、住宅って20数年で資産価値がゼロになるんです。本当に家の価値がゼロになるわけではないんですけど、カビが生えたりすると家の本当の価値も低くなります。もし2,000万円で買った家が何十年か経って、同じくらいの値段で売れたら一番いいですよね。その資産価値を維持するためには、カビが生えちゃダメ。うちで使っている天然乾燥のもみの木はカビを防いでくれるので、資産を守ってくれるというのもありますね。

あと、壁の仕上げ材では漆喰を使うことがあります。ただ、消石灰につなぎとしてふのりや麻、もみの木の切粉という天然素材を混ぜて作るので量産できないのが悩みですね。

調べ始めたら止まらないタイプだからトコトンまでやるんですけど、その結果が今の家づくりになっていますね。

鈴木:そのあたりの知識は独学で学ばれたんですか?

山田:独学の部分と、あとは大学の教授などの有識者から教えてもらったことも多いですね。毎年12月にマルサ工業が主催する研修旅行で、もみの木の産地であるドイツに行くんです。そのメンバーの中に木材の権威でもある大学教授がいて、旅行中に色んなことを教えて頂いています。

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ドイツの旧市街。(写真提供:もみの木ハウス新潟)

鈴木:旅をしながら大学教授から学べるなんてとても贅沢ですね…!そのようにして、健康に暮らせる家を追究しているんですね。

山田:最初から健康住宅を目指していたわけではないんですけど、せっかく建てた家で住む人が苦労するのは嫌だなというのがあって。なるべく変な材料は使わないようにしたいと思うようになりましたね。

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鈴木:確かに何十年という長さのローンを組んで買う家は、やり直しできないですもんね…。後悔するようなことは避けたいですよね。

山田:家は一発勝負です。失敗させるわけにはいかないです。

 

「建てない方がいい」とアドバイスすることもある

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鈴木:ところで、家づくりを依頼されるお客さんはどんな方が多いですか?共通点などはあるのでしょうか?

山田:うちはブログに力を入れているので、グーグル検索でHPの中のブログ記事に辿り着いて、記事をよく読み込んだ上で問い合わせいただくケースが多いですね。そのせいかもしれませんが、「直感力」が強い印象を受けることが多いです。問い合わせを頂いてから、決断するまでのスピードが速いです。

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鈴木:かなりブログを読み込んでいらっしゃるから、山田さんの家づくりをよく理解しているのでしょうね。

山田:そうですね。初めて会う時には、最終確認だけをしに来るような状態であることも多いかもしれません。あと、最近はラジオを聞いて知る方も多いようです。毎週第2・第4火曜日の18:03からFM新潟のサウンドスプラッシュという番組の中で話しています。家以外の話をしていることも多いんですけど(笑)。

鈴木:ちなみに検索でブログ記事に辿り着く方は、例えばお子さんがアレルギーを持っているとか、切実に健康住宅を求めている方が多いんですか?

山田:いや、意外とそうでもないんです。でも健康に気を遣っている方は多いですよ。あと、自分のブログでは、家事の効率化についても多く書いています。家事効率のいい家に住むことによって時短できると、自分や家族の時間が増え、おでかけする時間が増えたりします。そういうことも家の価値だと思っていますね。

鈴木:もみの木の話や健康の話だけを書いているわけではないんですね。家事効率のいい家に住むことで使える時間が増えるというのはすごくいいですね。

山田:そうなんです。だから設計の考え方に共感してくださる方も多いような気がします。

それから、お客さんに初めて会った時には「どんな家に住みたいか?」ではなく、「どういう暮らしをしたいか?」を聞くようにしていますね。あくまでも自分たちの理想の暮らし方があって、それを叶えるための家があるわけですから。

鈴木:家づくりの初期の相談ではどんなやり取りをするんですか?

山田:まず、「売れればいい」とは一切思っていないので、正直にいろんなことを言いますね。色々要望されても、自分の経験上おすすめできないことや、こうした方がいいということははっきり言います。あと、最初は資金計画の話ですね。お金の話はしっかり聞きますし、場合によっては「今はまだ建てない方がいい」とアドバイスすることもあります。

あと、十分な収入があるのに貯金が少ない方の場合、話を聞いていると支出に問題があったりします。例えば洋服や飲食にお金を使い過ぎていたりとか。その場合は、支出をどうコントロールするかのアドバイスもしますね。

あと、うちの家づくりの考え方と全然違う要望、例えば「スタイリッシュな家に住みたい」みたいな希望があった場合は、それはうちではやれないから「それが得意な他の工務店さんでやった方がいいですよ」と言うこともあります。

鈴木:柔軟にお客さんに合わせるスタンスの住宅会社も多いと思いますが、それとは全く違う考え方なのですね。自社の得意分野でない場合は他社を促すという潔さもすごい!

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山田:人からは「面倒くさいやつ」と言われたりもします(笑)。でも、お客さんには豊かに生活してほしいですから。

 

室内干しで洗濯物が一晩で乾

鈴木:家が完成すると、お客さんはどんなことに満足されていますか?

山田:一番驚かれるのは洗濯物の乾く速さですね。もみの木の調湿作用により、夜干したものが翌朝には乾いて着れるので、たたんで片付ける作業が減るんですよ。

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新発田市Y邸の洗面脱衣室は物干し・収納を兼ねている。(写真提供:もみの木ハウス新潟)

あと、居心地が良くてお客さんが帰らなくなります。あ、これは常に良いことではないかもしれませんが(笑)。空気環境がきれいというのはもちろんみなさんが感じています。もみの木の家に住むとにおいに敏感になるので、ホームセンターの接着剤などの化学成分のにおいがダメになるという話も聞きますね。

自分の家はリフォームでもみの木の内装にしたんですが、リフォームをしてからはお酒を飲んだ翌日の二日酔いが弱まるようになりましたね。あれ?オレ酒強くなったのかな…なんて思ったんですけど、リフォームをしてからなので空気の良さが関係していると思います。

鈴木:機械設備に頼らずに洗濯物が一晩で乾くというのは、すごく画期的ですよね。物干し=クローゼットとなりそうです。

山田:すぐ乾くから、そもそも服の数が少なくて済むようになるかもしれない(笑)。 

鈴木:最低限の服しか持たないミニマリストのような暮らしが無理なくできるかもしれませんね。人によっては暮らし方も大きく変わりそうです。

 

…山田さんの話はまだまだ続きましたが、ひとまず今日はこの辺で。

「お客さんの生活を豊かにする家をつくりたい」という一貫した理念を持ち、もみの木という建材に辿り着いた山田さん。

お話を聞きながら、お客さんに対して常に正直でありたいという気持ちが強く伝わってきました。

ブログでの発信に力を入れていらっしゃいますが、家づくりへの真剣さとお客さんを思う優しさは、直接会うことで強く感じられると思います。

定期的に開催される見学会をHPでチェックし、もみの木の家の空間を体感するとともに、山田さんの家づくりの考え方に触れてみてはいかがでしょうか?

 

取材協力/株式会社 もみの木ハウス新潟 代表 山田雄一さん

写真・文/鈴木亮平

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鈴木 亮平

新潟市在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。