【インタビュー】シンプルな家で遊ぶように暮らす。昭設計・渡辺亮さんの家づくり

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新潟市江南区天野にある有限会社昭設計(あきせっけい)。2013年に社長の長男で一級建築士の渡辺亮さんが入社し、以来シンプルでラフな「サンカクノイエ」と名付けた住宅づくりを行っています。

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サンカクノイエ1(昭設計事務所兼住宅)写真提供:有限会社 昭設計

白い横張りのガルバリウムに軒のないシンプルなフォルム、2階部分をせり出した形が特徴です。また、内部にはさまざまな作業に使える広い土間を設けたり、DIYで造り込んでいけるラフな内装仕上げとすることが多いのも特徴です。

そんな「サンカクノイエ」について、一級建築士の渡辺亮さんにお話をうかがいました。

 

有限会社 昭設計(あきせっけい)
一級建築士 渡辺亮さん

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1977年生まれ。大学の建築学科を卒業後、新潟市内の設計事務所、住宅会社勤務を経て、2013年に実家の有限会社 昭設計に入社。シンプルでラフな住宅「サンカクノイエ」シリーズを展開する。

<インタビュアー>
Daily Lives Niigata(デイリー・ライブズ・ニイガタ)編集部
鈴木亮平

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1983年生まれ。美術系の大学で建築デザインを学び、旅行情報誌、地域情報誌、住宅情報誌の編集を経て2018年にフリーランスの編集者に。住まいや建築士・工務店を紹介するWEBマガジン「Daily Lives Niigata」を運営。

 

社長である父と協業して家づくりを行う

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鈴木:では、渡辺さんの経歴を教えて頂けますか?

渡辺:東京の大学で建築を学び、卒業後新潟に帰ってきて、新潟市内の設計事務所に入りました。厳しい働き方の事務所で、特に僕が入った頃は4人しかいなかったので本当に大変でしたけど、そこでデザインのスキルが鍛えられました。

次に入ったのは断熱性能に力を入れている住宅会社で、9年間勤務しました。

その2社で共通して良かったことは、大きな会社のように仕事が分業されておらず、予算管理や業者との交渉からディテールの設計、現場監理まで担当者として全て任せてもらえたことですね。責任も伴いますけど、個人でやるのと同じ感覚の仕事を経験できました。

鈴木:なるほど。担当者が1から10まですべてに関わるようなやり方だったんですね。

渡辺:ですね。で、5年前の2013年の春に親父がやっている昭設計に入りました。上の子が小学校に上がる少し前で、自分の家もそろそろ建てたいなと思っていた時期でもありました。

でも、親父と一緒に仕事をしてみたら、ぶつかることも多くて(笑)。

鈴木:そうなんですか!?(笑)

渡辺:親父は構造にかなり厳しいんですが、僕はなるべく間取りを自由に取りたいというのがありますので(笑)。

鈴木:でも、それにより意匠と構造のバランスがとれているんですね。それはすごくいい連携なのではと思います。

渡辺:そうそう、実際そうなんです。構造のチェックを親父にしてもらうことでうまく役割分担もできています。

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シンプルにつくり、お客さんがカスタマイズできる余白を残す

DSC_4218鈴木:では次に自宅でもある「サンカクノイエ1」について教えて頂けますか?

渡辺:独立してやっていくにあたって自分の売りっていうのをつくらなければいけないと考えて、「サンカクノイエ」というコンセプトを考えました。

でも「特別なものを作ろう!」っていう感覚ではないんです。自分の中では特別なものほど飽きてしまうので。逆に言うと「自然体の物をどれだけ自然にさり気なく作れるか」っていうところを大事にしていて、「さり気ないものの心地よさ」を求めてサンカクノイエをつくりましたね。

形の部分ではシンプルにすることで、建築時のコストやメンテナンスコストを抑えたり、断熱のロスを抑えたりというのを意図してます。

あと、まず自分の家ということで、予算的に「キツイな!」と思うところは工夫するわけですよ。特に昭設計に入って1年目でお金もあまりたくさん借りれなかったので(笑)。

だから、限られた予算の中で見せられるものを建てるための工夫が必要になりましたし、その結果として、背伸びしたものではなく、多くの人が建てられるモデルハウスに自然となりましたね。

家として本当に必要なのかなあ?と思っていた部分を改めて見直していくうちに、「幅木は小さくてもいいか」とか「枠とか付ける必要あるのかな?」とか考えるようになり、必要なものとそうでないものを分別しながら家をつくっていった感じです。

鈴木:なくても困らないものをどんどん削ぎ落としていったんですね。

渡辺:そうそう。それもあって自ずとシンプルになっていきました。あとは材料が高いものを使えなかったので、「現場に落ちている下地材をどうにかこのまま仕上げ材として使えないかな?」とか、いろいろ考えながらやっていました。

あと僕の中で「工事途中の空間が好き」というのがあって。合板を仕上げに使うのってまさにそういうことで、「終わってないウキウキ感」ってあると思うんですよ。これからまだ進んでいく余地を感じさせるような。

鈴木:たしかに。完成したらもうその先がない感じがして寂しいですよね。

渡辺:だからそういう余白を残してお客さんに渡したいなと。それが、うちの「完成」でもあるんですけど(笑)。引き渡してからお客さんがDIYしながら、いい状態をつくっていってもらえたらいいなあと思っています。

シンプルな形は、構造や断熱という観点で見ても合理的

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鈴木:構造や断熱についてはどのように考えられていますか?

渡辺:まずシンプルにつくることで、全てにおいてプラスになると思っています。

躯体だったら、大きな部材を入れなくても均等な部材をきれいに並べて組めるので材料費が抑えられます。それに、シンプルな形だと係る力も均等になりやすいので、安定感・安心感がありますね。

あと、温熱に関する話だと、四角形に近い形の場合は熱をロスしやすい角や隅を少なくできるというメリットがありますね。

鈴木:なるほど、基本的にあまり出っ張りがない形にしているんですね。

渡辺:2階部分を1階より少し出っ張る形にすることは多いです。ただ、3尺(約90cm)以上は出っ張らないようにしていますね。ちなみに3尺くらい出っ張らせると、ポーチ部分に屋根ができるというメリットがあります。基礎の面積を抑えられ、下屋を省略できるのがコスト面で大きいですね。

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サンカクノイエ10(新潟市K邸)

それ以外の出っ張りはなるべくつくらず、外観をすっきりシンプルにさせています。

ただ住むだけではなく、「楽しめる」空間を入れる

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鈴木:サンカクノイエには明確なコンセプトがありますが、お客さんの共通点はありますか?

渡辺:何かしら生活を楽しむ趣味を持っている人が多いですね。仕事のほかに打ち込んでいるものがあるというか。この家もそうですけど、土間空間を取り入れる人も多いです。

自分もそうですけど、釣りやキャンプ、自転車など、アウトドアを好んだり、あとDIYが好きな人もいますね。だから「作業ができる土間が欲しい」という人も多いです。

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サンカクノイエ11(三条市A邸)

あと、これまで美容室や花屋さんの店舗併用住宅や作業場併用の住宅もつくってきました。土間はそういう場所としても使える空間ですね。

鈴木:渡辺さんのこの家のこの場所もそうですけど、普通に居住するためとは違う使い方ができるのが特徴ですよね。「遊び用」か「仕事用」かが住む方によって変わるというのはありますが。

渡辺:そうそう。これは他社が使っている言葉ですが「住むより楽しむ」っていうのはまさにそうだよなあと思いますね。「住むための家」ってみんなつくっているけど、そこにさらに「楽しい」っていう価値を加えたいですし、趣味の部分にアプローチできるといいなと思っています。

鈴木:たしかに、こういう遊べる土間空間みたいな場所を考えずに家をつくると、実は制約が多いのかな?とも思えてきますね。居住に必要な機能ってある程度決まってますし…。

渡辺:僕、基本的に家は最小限でいいなと思っているんですけど、そこにプラスして余白というか「楽しめる空間」を入れてあげたいなと思っています。

引き渡し後に、DIYのサポートをしたい

DSC_4196鈴木:ところで、お客さんは引き渡した後にどんな暮らし方をしているんですか?

渡辺:やっぱりDIYとか自分でインテリアをいじるのが好きな方の場合は行くたびに変わっていっていますね。あと、ガーデニングを楽しんでいる方もいます。自分で作り込むのが好きな人が多いので、引き渡し時よりも良くなっているケースが多いです。

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サンカクノイエ2(新潟市K邸)

最近も施主さんから電話があり「棚をつけるのにどれくらいの長さのビスを買えばいいか」を聞かれました。そうやって、服を着こなすように家を住みこなしてくれるのはうれしいですね。逆にせっかく建てた家で窮屈な思いをして欲しくないですし。

DSC_4195あ、ちょうど今、今年お引き渡しをしたお施主さんから「廃材余ってますか?」とLINEが来ました(笑)。

実は、今後DIYを助けられるようなことを始めたいなと思っています。今、近くに新しく事務所をつくりたいなあと思っていて、そこでちょっとしたDIYに使える端材を用意したり、工具を貸し出したり、板のカットをしてあげたりとか。

鈴木:それはいいですね!確かに一般の人がいきなり数万円のインパクトドライバーを買うのはハードルが高いんで、貸し出してもらえたらありがたいですよね。

渡辺:そこで材料を売るとかいう考え方ではなく、そうやって引き渡し後もお客さんと繋がっていられるとうれしいですしね。あと、そういう場になると、お客さんの方でも、何か家に不具合があったりした場合とかに気軽に声を掛けやすくなるとも思うんです。

図面で全てを決めず、現場を見ながら決めていく

鈴木:あと、渡辺さんの家づくりで、大事にしていることってどんなことがありますか?

渡辺:そうですね。図面をたくさん描くのではなく、現場でお客さんと一緒に決めていくことが多いというのがありますね。その方がお客さんとしてもスケール感がつかみやすくなりますし、完成した時の思い入れも強くなると思うんですよ。

最初に決まらないので、大工さんや職人さんには負担を掛けてしまっていますが…。

鈴木:お客さんとしても「一緒につくっている感じ」を共有できそうですもんね。

渡辺:あと、模型は作るようにしています。自分はあまりCGが得意じゃないというのもあるんですけど、やっぱりこうやって手に持って眺められるのは模型の良さですよね。

鈴木:たしかに、手に取ってくるくる回して見るのは模型じゃないとできないです。

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渡辺:ちなみにこの模型では、窓のバランスを施主さんと一緒に検討するのに使っています。窓を必要以上に大きくしたり、数を多くしたりしたくなくて。それを見ていくには模型が一番分かりやすいです。これだと側面が、窓、窓、窓でなんか顔みたい…ってなっちゃったんで「やめましょう!」なんて話をしていました(笑)。

あと、模型はお客さんにプレゼントするんですけど、引き渡し後に行くとテレビ台に飾ってくれていたりして。お客さんも模型を喜んでくれますし、僕もうれしいですね(笑)。

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鈴木:取材先のお宅で建築模型を飾っているのを見ることがありますね。模型を作らない住宅会社さんも多いと思いますが、模型は絶対うれしいし大事にとっておきたくなるでしょうね!

 

ただ快適に暮らすだけでなく、「遊ぶ」ことを大事にしている渡辺さんの家づくり。

それは、渡辺さんの事務所を見ただけで伝わってきます。仕事場でありながら、釣り竿やスケートボードが散乱する、趣味と仕事が混然一体となった事務所。

DSC_4208DSC_4205コストを抑えながら高い断熱性能や耐震性能を引き出すためにシンプルなつくりにし、それがデザインの美しさにもつながっているサンカクノイエ。そこには土間空間をはじめとした、人生を楽しむための「遊び」の要素が凝縮しています。

きれいに住むのではなく、子どもの頃に秘密基地を作って遊んだ感覚を大人になって改めて味わうような、そんな「楽しさ」を詰め込んだ家づくりが昭設計の渡辺さん流。

共感する人はぜひ渡辺さんのHPやブログを見てみてはいかがでしょうか?

 

取材協力/有限会社昭設計 渡辺亮さん (渡辺亮さんのブログ

写真・文/鈴木亮平