鈴木 亮平
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子どもが巣立った、夫婦二人暮らしの家
今回訪問したNさんご夫婦が暮らす家は、新潟市西区の高台の住宅街に立っている。坂道の向こうには日本海を見下ろすことができ、海から吹いて来る風が心地よく、真夏の厳しい暑さを少しだけ和らげてくれる。
「まちなか山荘住宅」と名付けられたこの家は、すでに子どもが独立をしたシニアの夫婦のための住まい。以前は同じ敷地内の築30年ほどの家に住んでいたが、これから夫婦2人で暮らすのにちょうどいい大きさの家で暮らしたいと、以前よりも小さな住まいに建て替えることにしたと言う。
家は延床面積30坪とコンパクトだが、土地は約100坪もあり、建て替えのタイミングで新たに造園も行った。モミジなどの落葉樹が茂る庭は、家の中から見て美しいだけでなく、外からは程よく建物を隠してくれる。北側の道路から見ると、ちょっとした林の奥に家が見え隠れするような、高原の別荘のような風情を感じさせる。
「まちなか山荘住宅」という名前の通り、住宅街でありながら窮屈感はなく、風にそよぐ庭の木々を眺めながらぼーっと過ごしてしまいたくなるような穏やかな時間が流れていた。
小さな建築事務所との出会い
この家を手掛けたのは、新潟市西区坂井にある山川建築事務所の山川潤さん・雅代さん夫婦。Nさん夫妻は、「自然素材を使った家に住みたい」と、展示場を持っているいくつかの住宅会社を訪問していたが、どこもしっくりと来なかったという。
そんな中、インターネットで検索を繰り返していく中で見つけたのが山川建築事務所だった。ちょうどそんな時に、築3年になる山川さんの自宅兼事務所の見学会が開催されることになり、足を運んだと言う。
「玄関に入ると正面にリビングの大きな木製の窓が見えて、それが魅力的でしたね。木の風呂もいいなあと思いました」(ご主人)。「それから、見学会に訪問したのに、住所や名前を書かせるようなアンケートの依頼がなくて、商売っ気がないなあと思いました(笑)」(奥様)。
見学会には約3時間も滞在しながら、杉などの自然素材がふんだんに使われた空間をじっくりと体感してきたのだそうだ。家に帰り夫婦でお互いの感想を話し、「じゃあちょっと話を聞いてみようか?」と、数日後に山川建築事務所に電話をした。
100坪の土地を生かし、住みながら建て替える
実はNさん夫婦はそれまで住んでいた土地に隣接する隣の土地も購入をしていた。貸し駐車場にしていたこともあったが、新しく家を建てる際にはその土地も含めて計画をすることができた。下の図の右の部分がもともとの土地で、左の部分が後から購入した土地だ。
新しい家は、土地の空いている部分に建てたため、実は建て替えとしながらも、もともとの家に住みながら工事を進めることができたのだという。家が完成した時点で引っ越しをし、その後に古い家を取り壊して、そこを庭につくり変えたり、小屋を作ったりしたのだそう。
テレビを暮らしの中心に置かない
N邸の中心はダイニングだ。約9畳ほどの空間に、Nさんが昔から使っているというダイニングテーブルが置かれている。書棚とキャビネットがあり、キャビネットの上にはBOSEのサウンドシステムが置かれている。暮らしの中心となるこの部屋にはテレビはない。
「昔からテレビが好きじゃなくて。その代わりNHKラジオを聞くことが多いですね」(奥様)。テレビがあることにより、家具の配置や過ごし方が制限されてしまうというのは、テレビがあるのが当たり前になりすぎていて忘れてしまいがちだ。
N邸はテレビを置かないことで、どこか肩の力がすっと抜けたような気持ちにさせてくれる。
そして、その代わりにダイニングからは豊かな庭が眺められる。大きな木製サッシを開放すれば、家の中と外の境界は曖昧なものになる。
また、この家は南側ではなく、北東側に開いている。だからこそ、太陽に照らされた庭が家の中から鮮やかに見えるし、その間接的な光によって家の中は穏やかな光で満たされる。
「南側に庭をとると、夏とても暑くなるというのが経験的にありました」と話すのは設計をした山川潤さん。庇を伸ばして直射日光を防いでも、真夏の照り返しによる熱が避けられないからだ。
小さいながらもバランスのとれた構成
1階のリビングの隣には6畳の和室があり、こちらの掃き出し窓からも庭が眺められる。奥には仏壇が置かれ、テレビもこの部屋に置かれている。そのテレビも壁の真ん中ではなく、押入れの下につつましく間借りをしているような印象だ。
キッチンは4畳弱で、ダイニングと分けているが、右に目を向ければここからも庭が眺められる。
そして、その奥にあるのがユーティリティ。玄関とキッチンから入れるようになっている。収納や食品庫であり、洗濯室や物干しスペースでもある。また、奥様のデスクが置かれており、ここでパソコンで作業をしたり調べ物をしたりするそうだ。
ダイニングや和室をシンプルな空間に保てるのは、このユーティリティに生活用品をストックできるから。
そして、2階は6畳の寝室と3.75畳の個室があり、他は箪笥部屋などの収納スペースとなっている。寝室の奥に設けられた小さな書斎からはちょうど正面に海が眺められる設計だ。
寝室も個室も吹き抜けに面しているので、小さいながらもゆとりを感じさせる。
庭と一体になるウッドデッキと小さな離れ
何よりもN邸を山荘たらしめているのは、広いウッドデッキの存在だ。建築面積の約3分の1がウッドデッキという贅沢なつくりだ。北側には庭を眺められ、その奥が駐車スペースとなっているので、通りがずいぶんと遠く感じる。
そして、このウッドデッキと屋根で母屋と繋がる、3畳の小さな離れがある。元々はご主人のロードバイクを置くための小屋として作ったものだが、実際にはご主人が書斎として使っている。本棚と机が置けるだけの小さな空間だが、その小ささがちょうど良く、窓からは鮮やかな庭が眺められる。
「朝早く起きて、ここで本を読んで過ごしたりしていますね。小さな家ですが、家の中に夫婦それぞれの自分の場所があるのが気に入っています」(ご主人)。
現代的な枯山水庭園
庭の水まきはご主人の日課だ。「この辺りは砂地だから水を吸いやすいんです。だから水まきをすると1時間くらいは掛かりますね」と笑う。「枯葉を掃除したり、草取りも手間がかかりますが、お客さんが庭を見て喜んでくれるのが嬉しい」と奥様。
砂利の部分をぐるぐると回遊できる庭で、砂利の部分を枯山水のように水路に見立てているのだという。見た目の美しさだけではなく、砂利や石の面積を広めにとることで、草取りの手間を減らせるようにというのが作庭した造園士の考えなのだそう。
既に子どもが手を離れたシニアの家づくりは、子育てに重点が置かれる30代40代とは大きく異なる。広さは二人で暮らせるだけのスペースがあればよく、一方で落ち着いた豊かな時間を過ごせることが重視される。それに、自分たちが好きなモノやコトをよく分かったうえで家づくりができるのは、年の功と言えそうだ。
山川建築事務所が提唱する「まちなか山荘住宅」の基本理念は、小さく、単純で、豊かな素材感があること。そんなイメージがNさん夫婦の理想にぴったりと合致し具現化された。
人生は長くなっているので、60代は新しい人生のスタートと言える。
Nさん夫婦は、新たな住まいとともに、新しい人生の時間をスタートさせた。
N邸
所在地 新潟市西区
延床面積 108.06㎡(32.62坪)
長期優良住宅認定取得
竣工 2015年7月
設計・施工 山川建築事務所
山川建築事務所Facebookページ
(写真・文/鈴木亮平)
鈴木 亮平
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