鈴木 亮平
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母方の実家に養子に入り、枝豆農家の跡取りに
新潟市西区の黒鳥集落。田園地帯の中にあり、茶豆の名産地として知られている。今回訪れたのは、そんな黒鳥集落の枝豆農家であるKさんのお宅だ。
Kさんは現在30歳で、黒鳥集落の農家では最年少なのだそう。実はKさんは、この黒鳥で生まれ育ったわけではない。実家は東京都新宿区にあり、生まれも育ちも東京だ。この家はKさんの母方の実家であり、現在Kさんは奥様とおばあさんの3人で暮らしている。
「東京で育ちましたが、毎日満員電車に揺られて仕事へ行くという生活が自分にはイメージできなくて。それと、私が高校生の時に、この家を継ぐはずだった叔父が亡くなってしまい、20歳の時にこの家に養子に入って家を継ぐことにしたんです」(Kさん)。
そうして新潟に移り住んだKさんだが、当初は農業まで継ぐという決心はしていなかったという。「子どもの頃からずっとテニスをやってきたというのもあり、はじめは市内のスポーツ用品店に就職したんですが、しばらくしてやはり家業である農業を自分が継ぐことを決めました。今はスポーツ用品店ではアルバイトとして、農業と並行して働かせていただいています」とKさん。
新潟の農家は、冬の農閑期に建設業や製造業などで働くことが多かったが、Kさんは大好きなスポーツに関わる仕事を兼業にしている。
そんなKさんが奥様と結婚したのは2014年のこと。築60年と家の老朽化が進んでいたこともあり、結婚と同時に家の改築も決めたのだそうだ。
かつての続き間を解体し、家の半分を改築
新潟の典型的な農家の家の間取りだったK邸は、1階の約半分が和室の続き間となっていた。かつて、冠婚葬祭や集落の寄り合いなどが自宅で行われてきたため、襖を外すと大空間になる間取りの家が必要とされていた。
しかし、時代は移り変わり、冠婚葬祭は結婚式場やセレモニーホールで、寄り合いは集落内の集会場で行われるようになり、続き間は役割を失い物置化していたという。
そんな続き間を取り壊し、家の半分を新しく造り直して、既存部分と繋げる工事をすることに決めた。
「はじめはハウスメーカーの家を見に行ったりしていたのですが、あまりぴんとこなくて…」というご夫婦。そんな時に、奥様が旧知の間柄である丸正建設(新潟市西区五十嵐二の町)の専務である古俣忠孝さん・麻未さん夫婦の家を訪れたという。「無垢材がふんだんに使われていて、とても温かみのある家でした。それで、すぐに『古俣さんにお願いしよう』と2人で考えが一致しました」とご夫婦。
新しく作る家のテーマは「お客さんをもてなす家」。「あまり奇をてらうことはしたくなかったですが、かと言って普通の家も嫌でした。遊びに来たお客さんが心地よく過ごせて、何か印象に残る体験にできたらいいなと考えました」とKさん。そんな要望を受けて古俣さんが提案したのは、ダイニング・キッチンから庭を眺められる家だった。
ダイニングの掃き出し窓の外にはウッドデッキが伸びており、内と外の境目が曖昧に感じられる。それ故に、窓を閉めていても窮屈さを感じることはなく、おおらかな雰囲気が気持ちをリラックスさせてくれる。
また、「ファンヒーターやエアコンの風が苦手」というKさんは、床暖房を希望した。ラーチの床から伝わってくる熱で、冬の間、特に空気を暖めなくても心地よく過ごせたのだそう。
壁は漆喰、床には無垢フローリング、家具や建具は職人による造作で、古俣さんの自宅と同様に温かみある自然素材と、職人の手仕事がふんだんに盛り込まれた家となった。
「当たり前のことを当たり前にやるだけ」というのが古俣さんの家づくりの考え方だ。それは、先人たちが積み上げてきた新潟の気候・風土に合った家づくりを大切にしながらも、高い断熱気密性能とし、現代の暮らしを形にするというもので、そこには繊細な感覚とこだわりが見え隠れしている。
ゆとりある収納が、来客時に重宝する
一方、奥様の要望は「階段を上り下りすることなく、1階だけで生活の全てが完結するようにしたい」というものだった。1階の約半分は南向きのLDKで、北側には玄関・寝室・トイレ・物置が配置されている。また、「物が多いので、お客さんが来てもすぐに片付けられるようにと、収納を多めに設けて頂きました」とKさん。ロフト部分はたっぷりと物が置ける収納スペースになっており、1階も随所にゆとりある収納スペースを設けている。「今日もですが、お客さんが来た時にすぐにいろんなものを隠せるのが便利ですね」(奥様)。
また、日当たりのいい南側ではあるが、窓を設けると隣家から丸見えになってしまう場所は割り切ってサンルームにしている。お客さんが来ても、洗濯物を干したままにしておけるので、家事のストレスも軽減されているのだそう。
米と枝豆の栽培で、4月~10月が繁忙期
Kさんは枝豆の他に米の栽培も行っている。米づくりは地域で法人化して行っているため、精米機やトラクター、田植え機などの大型の機械は集落内の農家で共有している。米は農協を通して流通しているほか、卸業者を介して近年日本食の人気が高まっているシンガポールでも販売されているのだとか。
田植え時期の4月~5月、枝豆の収穫時期である7~8月、稲刈り時期の9~10月と、春・夏・秋と忙しい期間が続く。
とりわけ枝豆は「朝穫り」のものが当日スーパーに並ぶため、収穫は夜中の2時に始まるのだとか。朝7時には出荷を完了し、後片付けをして自宅で朝食をとり仮眠をする。そして昼からはスポーツ用品店のアルバイトへ出かける。夕方家に帰り夕食を食べた後、早めに寝て、翌日の収穫に備えるという。
枝豆づくりにおいて難しいことは?と聞くと、「収穫の手間ですね」とKさん。機械化できない部分も多く、最後の枝豆の分類も目視しながら手作業で行うという。
「黒鳥の茶豆は、かつて山形県の庄内地方から持ち込まれた茶豆がよく育ったことで、地元で定着するようになったそうです。昔は沼地だった場所で、その特性が茶豆と相性が良かったのでしょうね。そんな土地なので、家を建て替えるときは地盤改良が大変でしたが(笑)」(Kさん)。
4月には初めてのお子さんが生まれる予定だというKさん夫婦。「きちんとした子ども部屋は用意していないんですが、自分が子どもの頃、個室で過ごすよりも家族と一緒にリビングで過ごすことが多かったから、子どもにもそうやって過ごしてほしいですね」とほほ笑む。
これから忙しい田植えのシーズンに差し掛かり、その後、初めての夏を迎えることになる。冬を快適に過ごせる家だが、風通しがいい設計なので、夏はロフトからダイニングへといい風が抜けていきそうだ。
都会で育ちながらも、新潟への移住を決めて、10年前にこの家に入ったKさん。家の増改築を終えて、さらに新潟の豊かさを楽しめる住空間ができあがった。
ところでKさんは、これからは茶豆を流通業者に卸すだけでなく、直販する方法も模索していきたいという。そのためには、美味しい茶豆を食べることの価値を伝えることが不可欠だ。
お客さんを呼ぶことが好きなKさん夫婦は、この夏は当然ゲストをもてなすのに茶豆を振る舞うことだろう。夕方、少し涼しくなった風を感じつつ、庭を眺めながらよく冷えたビールを飲み、その日の朝に収穫された茶豆を食べる。
そんな体験をゲストに提供することこそが、黒鳥茶豆の価値をしっかりと伝えていく何よりの方法になるのかもしれない。
※本記事の取材は2017年3月12日に行われました。お子さんの誕生は4月が予定日でしたが、予定より早く3月23日に3002gの男の子が生まれたそうです。Kさん・奥様おめでとうございました!!
K邸
新潟市西区
増改築部床面積 139.72㎡(42坪)
増改築部工事完了 2016年9月
設計・施工 有限会社 丸正建設(有限会社 丸正建設Facebookページ)
(写真・文/鈴木亮平)
鈴木 亮平
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