#017 壁厚220mmの高気密高断熱仕様+自然素材の家。菅原建築設計事務所・菅原さんの自邸訪問

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。

「高気密高断熱」という言葉が、多くの住宅会社や工務店が使うキャッチフレーズとして定着してきた。しかしながら、実際の性能が具体的に見えにくいというのが現状だ。

そんな中、エシカルハウス 株式会社菅原建築設計事務所は徹底した高気密高断熱住宅を手掛けており、さらには、具体的な断熱の仕様や性能値を自社WEBサイトで公表している。

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エシカルハウス株式会社菅原建築設計事務所HPの施工実例より

また、事務所敷地内に2014年に建設した代表・菅原守利さんの自邸は、モデルハウスとしても活用されており、その断熱性能がもたらす快適さや内外装にふんだんに使った自然素材を体感できる。

今回、菅原さん家族が暮らすモデルハウス兼自邸に訪問し、守利さんと、奥様の美香さんに家づくりについて教えてもらった。

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代表の菅原守利さんと、総務・経理を担当する奥様の美香さん。

 

健康にいい家を目指し、高気密高断熱を追究

菅原さんの自宅があるのは、新潟市中央区姥ケ山2丁目の住宅街の中。新潟駅南口からまっすぐ伸びる弁天線沿いの戸田書店から歩いて5分程の場所だ。

敷地手前には事務所があり、ピロティをくぐった先に自宅が立っている。

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木材をタイル状にレイアウトしたユニークなアプローチ。
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外壁は杉板とそとん壁仕上げ。定期的に塗り替えが必要となる杉板は足場を組まずに塗装ができる場所に使用。

代表の菅原守利さんは、中央工学校の建築設計課を卒業後、新潟市内のゼネコンに勤務。ビルやマンションなどの大規模建築の現場監督として経験を積んだ後、1997年に独立した。しばらくは、大規模建築の施工図を描く仕事をしていたが、やがて住宅へとシフトしていったという。

「住宅を始めた当初は今ほど性能にこだわっていたわけでもなく、自然素材を使っていたわけでもなかったです」と、守利さん。

DSC_4545家づくりをしながらも、どこか引っかかるものを感じ、やがて「人の健康にいい家をつくろう」という目標を持つに至ったと言う。

「高気密高断熱住宅を研究する『新住協』に出会ったのもその頃でした」(守利さん)。その後は、高気密高断熱の家づくりを改めて勉強し、勉強会にも積極的に参加。また、新住協に所属する県内外の工務店の見学会に足を運ぶなどして、知識を深めていったという。

そうして、基礎断熱をして床下から家全体を暖める「床下エアコン」や、通常の断熱材の外側にさらに断熱材を加える「付加断熱」という施工法を新潟県内でもいち早く取り入れていった。

「うちの断熱性能の最低基準はHEAT20のG2基準にしており、Q値=1.3、UA値=0.34以上の断熱性能を持つ家をつくっています。それにより、家の中でヒートショック(※家の中の急激な温度差で起こる体への悪影響のこと。冬場に起こりやすく心筋梗塞など命に関わる危険がある)が起こらない家にしています」(守利さん)。

そんな守利さんは、2015年からは新住協新潟支部の支部長として、新潟県内の木造住宅の断熱性能の底上げにも力を注いでいる。

 

220mm断熱+床下エアコンで寒い場所のない家に

そんな守利さんがつくり上げた自邸のリビングは、大きな吹き抜けからたっぷりと光が注ぎ、心地よい明るさに包まれている。

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壁は調湿消臭効果のある中霧島の塗り壁、床は杉の無垢材、構造材にも杉の無垢材を使っており、自然素材ならではの穏やかで優しい表情があふれている。

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ちょうどいい湿度に保たれているため、空気はすっきりとして気持ちよく、柔らかい杉の床はヒンヤリすることなく温かい。

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右側はキッチンマットを敷いている部分で色の変化が少ない。4年の月日が経ち、光が当たる場所は色が変化している。

「冬でも日が差すだけで室内の温度が上がっていき、暑いと感じることもあります」と美香さん。

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リビング内にある温湿度計。左が室内、右が屋外の数値。

南側からたっぷりと日射を取り込める上に、壁は220mmという一般的な木造住宅の2倍の厚さを持っているため、取得した熱を失いにくい。そのため、冬でも熱を逃がすために、2階の天井近くにある高窓を開けることもあるという。

ダイニングのTV台の下には、床下を暖めるエアコンが仕込まれており、家の床の各所に設けられたガラリから暖められた空気が上がってくる設計だ。

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それは床暖房のようなダイレクトな暖かさとは異なり、もっとさり気ない。もちろん寒い外から入ってくると「暖かい」と感じるが、少し経つと何も感じなくなる。それは、家じゅうの温度が均等で寒い場所がないため、寒さとの差で感じる「暖かい!」という感覚がなくなるからだ。

「もちろん窓が結露することもありません。唯一、玄関ドアの金属の鍵の部分だけが外の熱を伝えるので、真冬になると鍵のツマミだけが結露するんですよ(笑)」と美香さん。

「それから、2階のホールで洗濯物を干していますが、冬は特に乾くのが早いですね」。

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ちなみに吹き抜けのある家には天井にファンが付けられることが多いが、この家の場合は自然対流で空気が流れるため、ファンが必要ないのだという。それゆえに天井のデザインもすっきりとしている。

 

窓の性能や配置にもこだわる

断熱性能に影響を与える窓選びについても、守利さんは妥協しない。

「断熱性能だけでなく気密性能も高い樹脂サッシを提案することが多いですね。あと、気密性が低い引き違い戸はあまりおすすめはしていません」(守利さん)。

菅原さんの自宅のリビングの窓は引き戸だが、ヘーベシーベという気密性の高い窓を採用している。

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レバーハンドルを180度回すとロックが外れ、引き戸が少し持ち上がって滑らかに動くが、再び窓を閉めてロックすると密閉される仕組みだ。

また、窓を開けた時の風の流れも考慮されており、低いところから高いところへと流れる空気の性質を利用した窓配置にしている。

 

丁寧に造り込んだ造作家具と暮らしやすい設計

家具や建具などを造作するのも菅原さんの特徴だ。それにより、暮らしやすく、一体感のある空間が造られている。

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玄関ホールも造作の下駄箱ですっきり上品に仕上げられている。正面は櫛引仕上げの塗り壁にスポットライト。美香さんが選んだ花器に季節の花や植物が生けられ、ゲストを迎える。

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窓辺にも植物が並んでいるが、冬の間はこの場所に置いておくのが一番いいのだそう。外は寒すぎるが、リビングは日当たりが良すぎて冬にもかかわらず植物が成長してしまうからだ。

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ちなみに玄関をすっきりさせるために、隣にはシューズクロークが設けられている。あまり表には出しておきたくないものやガーデニング道具などは、このシューズクロークに整理整頓して収納しており、お客さんの目につくこともない。

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ダイニングテーブルはブラックチェリーを使って造ったオリジナル。

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よく使う部分が白っぽく経年変化しているのも味わいとなっている。

洗面スペースにはガラスタイルに間接照明。流れるようなフォルムが美しい輸入品の洗面ボウルを使い、品のいいホテルのパウダールームのように仕上げている。

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トイレは杉板の腰壁と塗り壁の組み合わせ。

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高い断熱性能だけでなく、家の隅々まで心地よい素材やデザインが考えられており、ホッとくつろいだ気持ちにさせてくれる。

「200年住み継げるしっかりとした家をつくる」というのが守利さんが掲げるコンセプトだが、最後には建材を再活用できるように、ということも考えた上で自然素材を選んでいるという。

石油由来の建材は最終的には廃棄物になるが、自然素材であればリユースをしたり自然に還したりできる。

さまざまな思いを込めて菅原さんがつくる家。ホームページの施工実例を見ると、同じように厚い壁を持ち、同じように自然素材が使われている家が並んでいるが、その根底にあるのは住まう人の健康や快適さはもちろん、さらには環境にまで配慮するというぶれない信念だった。

 

取材協力/エシカルハウス 株式会社菅原建築設計事務所 菅原守利さん・美香さん

写真・文/鈴木亮平

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。