鈴木 亮平
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阿賀野市下一分にある工務店、宮﨑建築株式会社。
前回の記事、「#019 築40年。隙間風が吹く極寒の建売住宅が、断熱リフォームで春のように暖かい家に再生!」の断熱リフォームを手掛けた工務店です。
代表の宮﨑直也さんは、高気密・高断熱住宅を手掛ける大工であり建築士。
年に1~2棟の新築住宅と大規模リフォーム、小規模リフォームを手掛けていますが、特に力を入れているのが断熱リフォームです。
「老朽化した寒い家を、リフォームで暖かい家にすることが使命」とする宮﨑さんは、家の状態や暮らし方に合わせた難易度の高い(多くの工務店が嫌がる)「部分断熱リフォーム」も得意としています。
なぜ宮﨑さんが断熱にこだわるのか?なぜあえて難しいリフォームに力を入れるのか?
山小屋風の宮﨑さんの事務所で、詳しくお話を伺いました。
宮﨑建築株式会社
代表・二級建築士・一級技能士 宮﨑直也さん
1978年生まれ。阿賀野市出身。高校を卒業後、工務店に入り大工の道に進む。その4年後に家業である宮﨑建築に入り、2012年に事業継承。高気密高断熱仕様のリフォーム・新築に力を入れている。
匠塾での大工修行を経て、家業の宮﨑建築を継ぐ
鈴木:では最初に宮﨑さんの経歴を教えていただけますでしょうか?
宮﨑:高校では土木科で学んでいて、卒業後は重川材木店の匠塾に入り、棟梁に付いて見習いのような仕事からスタートしました。4年間そこで働き、その後に実家の宮﨑建築に入りました。2010年頃から父から事業を引き継ぎ始め、2012年に事業継承して今に至ります。
鈴木:匠塾ではどのような働き方をしていたんですか?
宮﨑:各棟梁に付いて、現場で教わるような形でしたね。冬場には座学で教わることもありましたが、基本は現場で教えてもらいながら技術を身に付けていくような感じです。4年間のうち、最初の2年間は寮に入って同期と一緒に生活をしていました。
鈴木:そこで大工としての基礎を築いていったんですね。
東日本大震災を機に、高気密高断熱住宅に注力
鈴木:次に、宮崎さんが家づくりで大事にしている考え方を教えていただけますか?
宮﨑:まず第一に暖かい家をつくることを大事にしています。素材や構造、デザインに対するこだわりはもちろんありますが、基本性能として「暖かい」というのを満たした上で、他の要素をプラスしていくという考え方でやっています。
鈴木:それだけ「暖かくすること」を大事にしているんですね。
宮﨑:はい。やはりそこをきちんとしないと、いくら素材が良くてもデザインが良くても、満足できる家にならないと考えています。
鈴木:暖かい家をつくろうと考え始めたタイミングやきっかけは何だったのでしょうか?
宮﨑:ずっと家を暖かくしたいという思いはあったんですが、以前はどうしたら突き詰めてやることができるのか分からないでいました。建材メーカーさんの勉強会に行ったりもしていたんですが、自社の建材の特長の説明が中心だったりして、なかなか本当に自分が知りたいことにたどり着けないでいました。
そんな時に高断熱住宅を研究している全国的な組織・新住協の存在を知り、興味を持つようになったんです。その後、建物の性能を数値化しシミュレーションできる「Qpex」というソフトを新住協で販売をしていることを知り、ある日「それをすぐに買わなければ!」と思って新住協のWEBサイトで購入の申し込みをメールでしたんです。
実はそれが東日本大震災が起こった日で、新住協の事務局が仙台で被災地域だったことを知らずにメールを送ってしまい、すごく失礼なことをしてしまった…と、後から反省をしました。
数日後に返信があり、Qpexを購入できたのですが、震災で原発が止まり計画停電が行われたり、灯油を買うのに行列ができたりということが起こっているのを見て、「エネルギーを大事に使わなければいけない」と強く感じるようになったんです。そのためには、住宅をつくるならば、今まで以上に建物の基本性能を上げていかなければいけないと思いました。
新住協への加盟、そして実務で知識と技術を身に付ける
鈴木:東日本大震災が、エネルギー問題についてより真剣に考えるきっかけになったんですね。
宮﨑:その後、新住協に入り、パッシブハウスジャパンというエコハウスを研究している団体の勉強会に話を聞きにいったりもしました。また、その頃に、県内の高気密高断熱住宅を手掛ける設計事務所さんや住宅会社さんの施工を請け負うことで、知識を深めていきました。
今では通常の断熱材の外側に、さらに断熱材を充填する「付加断熱」をすることもありますが、はじめの頃は実践をするために付加断熱をサービスでやらせて頂いたりもしていましたね。隅の納まりや窓回りなどは少し複雑で、実際にやることでどれくらいの手間や費用が掛かるのかを覚えていきました。
鈴木:付加断熱の実績ができると、その後提案しやすくもなりますよね。付加断熱を本格的にやり始めたのはいつからでしょうか?
宮﨑:2016年に「小栗山の家」のリノベーション工事で本格的な付加断熱を行い、壁に合計220ミリの断熱材を充填しました。
新築では2018年竣工の「新栄町の家」で付加断熱を行っています。
ただ、必ずしも全ての面に付加断熱をするかどうかは検討するべきところで、例えば北面や西面のように窓が少なくて壁の面積が大きい場所は効果が出やすいですが、窓の面積が大きく、軒が出ている南面は工事の難易度が高い割にあまり効果が出にくかったりします。ですので、付加断熱をする面を選んで工事をするという方法もあります。
断熱改修を伴う大規模リフォームの依頼が増えている
鈴木:宮崎さんは新築とリフォームはどれくらいの割合でやっていますか?
宮﨑:件数で言うとリフォームの方が多いですね。年によって違いはありますが。今年は特にリフォームの割合が高く、大掛かりなリノベーションが増えています。先日鈴木さんに取材をして頂いたA様邸のように、築40年くらいの家に住むシニア層の方が多く、その後もう大きな手を入れないでいいくらいの改築を希望されます。
鈴木:そういうお客さんはどのようにして宮﨑さんのことを知って依頼されるんですか?
宮﨑:ネット検索で知る方が多いようですね。最近は地元の阿賀野市よりも新潟市の方からの依頼が増えています。「断熱リフォーム」などのキーワードでたどり着く方が多いのかもしれません。リフォームで暖かくして、灯油を買わなくていい暮らしがしたい、と言った要望を頂いたりしますね。
あと、今は築20年くらいの家の大規模リフォームもやっています。
鈴木:築20年くらいで大規模リフォームなんですか?
宮﨑:屋根はしっかりしているんですけど、外壁の窯業系サイディングがかなり傷んでいて。もともとあまり質のいいサイディングではなかったようで、特にリビングや寝室など暖房をする部屋の窓の両側の下に水が浸透していて、そこが一番傷んでいましたね。
窓で結露した水が外に排水されていって、その水が凍ったり溶けたりを繰り返したのが影響していると思います。
鈴木:定期的な塗り替えをしていたら防げたんでしょうか?
宮﨑:雨風や西日などでの劣化は塗り替えで長持ちさせられたと思いますが、結露した水が浸透しているのは厳しいですね…。
鈴木:窓の断熱性能が低いことで、家の中が寒かったり光熱費が高くなるだけでなく、家の老朽化も早めてしまうんですね。
宮﨑:あと、床・天井は無断熱で、壁には50ミリ厚の断熱材が入っていましたが、かなりへたっていて30ミリくらいに見えましたね。窓以外の断熱性能もほとんどなかったと思います。
ただ、築20年ということであまり使っていない和室などはすごくきれいだったんですね。そこを解体せず残したまま断熱性能を上げていくリフォームですので、かなり難しい工事になりました。それこそが自分じゃないとできない工事だと思っていますので、とてもやりがいを感じました。
施主のメリットを考え、建て替えを推奨することも
鈴木:ところで、大規模リフォームで、築40年くらいでシニアが暮らすケースが多いということでしたが、その場合、お客さんは建て替えかリフォームかで悩んでいたりするんでしょうか?
宮﨑:そういう方もいらっしゃいますね。現地調査や耐震診断をして、天井裏や床下なども見るんですが、劣化の度合いを見て、費用的にどちらがおすすめかを話すようにしています。
もちろん、リフォームを希望される方は「できれば直して住みたい」と思っていることが多いですが、必ずしもリフォームをおすすめするわけではありません。状態によっては新築以上にお金が掛かってしまいますので。
鈴木:なるほど…。リフォームか建て替えか?どちらがメリットがあるかを見極めて提案するんですね。
宮﨑:私たちは新築とリフォームの両方をできますし、トータルで住まいのことを考えることができます。逆に、一部しかやっていない業者さんだと自社の仕事になるように引っ張って行くことがあります。
例えば、リフォーム屋さんが建て替えをおすすめすることが難しかったり、耐震的に厳しい瓦屋根の家は軽い板金屋根にした方がいいのに、瓦屋さんに相談すると次も瓦屋根になってしまうとか。外壁をもう張り替えた方がいいタイミングなのに、塗装屋さんに相談したら塗装をすすめられてしまうとか…。これって本当によくあることなんですよ。
なので、住まいの相談の窓口として全体のことが分かる工務店がいた方がいいですし、そういう存在になっていかなければいけないと思っています。
断熱リフォームでお客様の満足度が以前よりも大きくなった
鈴木:今のような徹底した断熱リフォームをするようになって、リフォーム後のお客さんの反応に変化はありましたか?
宮﨑:以前からリフォームをした方は満足されていたんですが、本当にしっかり断熱をやるようになってからはお客さんの反応は全然違いますね。年末にあいさつに行くとすごく感激してもらえることが多いです。
鈴木:Aさんも、そうでしたね!家の暖かさを実感しながら「宮﨑さんのことを思い出す」とおっしゃっていましたね(笑)。暖かいことが人をそれだけ幸せにするんですね。
宮﨑:暖かくなることもなんですけど、やっぱり暮らし方そのものが変わるのも大きいのかなと思います。例えば以前は冬になると仕切った狭い部屋だけを暖房して過ごしていたのが、断熱リフォームをすると春や秋のように開放的に暮らせるようになります。そこは特に驚かれることですね。
ただ、断熱リフォームと言っても家じゅうすべてを断熱する必要はないとも思っています。例えば以前「正月に息子夫婦が帰ってきて2階で寝るんですけど、そこも頑張ってリフォームした方がいいかなと思ってるんです」と相談されたことがあって。正月だけの話なので「そこはリフォームせずに、その間だけストーブをずっとつけておく方がいいと思います」と提案したところ納得して頂けましたが(笑)。
鈴木:普段使わないなら、数日間の灯油代の方が圧倒的に安く済みますね(笑)。すべての部屋を解体しなくても、宮﨑さんが得意とする部分断熱リフォームで解決できるわけですね。
宮﨑:はい。なるべくお客さんの生活に合わせた断熱リフォームをしていきたいと思っています。ただ、そうすればする程工事は難しくなっていくんですけど(笑)。
県内外の新住協会員と高断熱住宅の知識を共有
鈴木:断熱リフォームの知識や技術をどのようにして身に付けていったんですか?
宮﨑:施工の技術としては、ベースは昔から変わっていませんが、そこにプラスして、断熱気密の新しい技術や知識を勉強していきました。新住協に入り、関東エリアで断熱住宅において先進的な取り組みをしている工務店さんから現場を見せて頂いたことが大きかったですね。特に断熱リフォームを徹底している会社は新潟県内ではあまりなかったので。付加断熱を標準仕様とする工務店さんも何社かいて、刺激を受けましたね。
他にも新住協の勉強会で各社が実績を共有する機会があるのですが、それも勉強になっていますし、「床下エアコン」などの新しい技術が新住協の会員工務店によって実証されていきますので、そういう技術を採用していくようにしています。
鈴木:かなり新住協から得ていることが大きいんですね。
宮﨑:はい。実践的なところがとても勉強になります。
自分じゃなければできない難しい断熱リフォームをやっていく
鈴木:では最後に、今後取り組んでいきたいことを教えて頂けますか?
宮﨑:基本的には何か変わったことをやっていこうというのはなくて、今まで通りのことを積み上げていきたいですね。あとは、仕事の大小に関わらず地域の仕事をしっかりやっていきたいです。
去年は出湯温泉にオープンした愛着珈琲出湯温泉喫茶室さんや、旦飯野(あさいいの)神社さんの改修工事など、断熱とは関係ないんですけど、そのような地域の仕事で声を掛けて頂けたのはすごく嬉しかったです。
あとは新築も大事ですけど、リフォームには今後も力を入れていきたいですね。建物の状態やご家族の希望によりケースバイケースで難しい工事が多いですが、それこそが自分じゃないとできないことだと感じますし、その難しさが面白さでもあります。
鈴木:リフォームって新築よりも問題を解決していく感じがありますよね。
宮﨑:それはありますね。今やっている現場も、おそらく新潟でできる方が本当に少ないのではと思うくらい大変な工事でした。ちなみに全然変わったことをやっているわけではないんですけど、とにかく大変なんですよ。地味に大変っていう…(笑)。
鈴木:それによって劇的にすごいデザインの家ができるとかそういうわけではないんですね?
宮﨑:はい。見えない部分で苦労しているので、見た目はあんまり変わっていないです。でも、逆にそれがまたいいなあと思っています(笑)。
何よりも断熱を大事に考える宮﨑さん。暖かくないと「いくら素材が良くてもデザインが良くても、満足できる家にならない」という宮﨑さんの考え方には、多くの人が共感するのではないでしょうか。
築30年40年が経過した無断熱の住宅にたくさんの人が暮らしています。健康で心地よく、そして省エネな暮らしが実現できるように、宮﨑さんは使命感を持ちながら断熱リフォームで着実に住まいの問題を解決していきます。
リフォームか建て替えか?断熱リフォームがどんなことをもたらしてくれるのか?
そんなことに興味のある方は、宮﨑さんに相談をしてみてはいかがでしょうか?
取材協力/宮﨑建築株式会社 宮﨑直也さん
写真・文/鈴木亮平
鈴木 亮平
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