【インタビュー】家づくりではなくコトづくり。働き方も新しいサルキジーヌ・大福匠さん

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。

2017年11月に新潟市秋葉区で起ち上げられたサルキジーヌ。

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サルキジーヌは同じ秋葉区にある工務店、有限会社井上建築設計の中でつくられたチームですが、元々の井上建築設計のスタッフと大福匠さんをはじめとした新規メンバーで構成。

物売りではなく「コトをつくる」という新しいコンセプトで、住宅・店舗の設計施工を中心に、さまざまなデザイン業務を行っています。

ほとんど広告を出すことがなく、公式WEBサイトでも詳細が分からない(2019年3月現在は「COMING SOON」の表示が出ている)サルキジーヌ。元倉庫を改装した事務所に訪問し、大福さんから詳しくお話を伺いました。

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サルキジーヌ 大福匠さん

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1979年生まれ。新潟市出身。美術系の大学で建築を学び、卒業後、東京都内の設計事務所勤務、新潟市内の住宅会社勤務を経て2017年にサルキジーヌを起ち上げる。

 

施主と業者の垣根を取り払い、一体感を持って家づくりをする

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鈴木:はじめにサルキジーヌさんが目指している家づくりについて教えて頂けますか?

大福:僕らは「物売り」ではなく「コト売り」をしたいと思っていて。家をつくるっていうのはものづくりなんですけど、コトづくりをお客さんと一緒にやっていきたいと思っています。

そこでお客さんと僕らの間に壁があると一緒につくっていくことにはならないなと感じていて。一緒のチームとして楽しいこと辛いことを乗り越えながらやっていきたいなという思いでやっています。

そうやって施主と業者の垣根を取り払ってチームで家づくりができると、みんなが終わった後にものすごく感動できるんですよ。

お金の関係ではなくて、人と人との関係を大事にしたいなと。

サルキジーヌっていう名前がまさにそれなんです。施主さんが桃太郎で、僕らサル、キジ、イヌっていう色々な役割を持ったメンバーがお供して、目的を達成したときに一緒に喜びを分かち合うみたいな。

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鈴木:ちなみにサルキジーヌという名前はどのようにして出てきたんですか?

大福:最初は色々な名前のアイデアが上がったんですけど、どうも抽象的で伝わりにくいものばかりでピンとこなかったんです。そこで、人間味ある名前にしたいよね、という話になって。「じゃあ、昔話に例えるとなんだろう?」ってなって、桃太郎の話に例えたらドンピシャで出てきましたね。

 

秋葉区の工務店、井上建築設計の中でサルキジーヌを起ち上げる

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鈴木:サルキジーヌ起ち上げの経緯について教えて頂けますか?

大福:さっき話したような「コトづくり」をやっていきたいよね、という話を何人かでしていて。そんな時に秋葉区にある井上建築設計の井上社長から「会社をやってくれないか?」と相談を持ち掛けられたんです。

工務店を起ち上げるのに資本金をどうするか?とか考え始めていた時だったんですけど、すぐに新築のスタートを切りたいのに一から会社をつくると建設業許可を取るのに時間が掛かってしまうというのもあって。それで、井上さんの力を借りてスタートしたんです。この事務所も井上建築設計の倉庫を改装したものです。

井上さんは秋葉区でやってきた工務店だから地元のお客さんとの繋がりが強くて、僕たちサルキジーヌは秋葉区以外のお客さんとの繋がりがある。元々の井上建築設計と、サルキジーヌの2つの入口がある状態です。

井上建築設計の中でサルキジーヌを起ち上げたことで最初のスピードが速かったですね。そうしている内に色んなメンバーが集まり出して、気が付けば駐車場も足りなくなり最近拡幅しました。

鈴木:最初は何人で始めたんですか?

大福:2017年11月に起ち上げた当初は、僕ともう1人で始めました。元々井上建築設計にいたメンバー4人と合わせて6人ですね。今はさらに4人増えて10人でやっています。立ち上げから1年ちょっとでここまで増えるとは思わなかったです。

 

それぞれの施主のクセに合わせたデザイン・設計をする

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鈴木:デザインはどういう風に考えているんですか?

大福:家のデザインはアートではないから、使いやすさは大事にしていますね。必ずその施主さんならではのクセがあるんですよ。生活グセが。それを、心地よく形に落とし込むように考えていますね。そのクセが強いと面白い家ができていきます。一緒に話しながら歩きながら、くみ取っていく感じです。

その夫婦にとっては普通のことなんだけど、それがその二人にしかない個性であり、いい姿だなあと思っていて。「特徴的な暮らし方とか何にもないですよ」ってみんな言うんですけど、絶対何かあるんですよ。

それは趣味だったり、休日の過ごし方や遊び方だったり。そういうことを楽しめるものを入れていくと、その家族の家になっていきますし、そういう設計をするのが昔から好きです。

鈴木:「何にもない」という人からもヒアリングをしながら見つけていくんですね。

大福:とことん何にもないという人の場合も、それがその家族の個性なんですよね。その場合は例えばとことんシンプルな家を提案したり、それを敷地や環境に合わせて建築として解いていったりします。

すごくドライブが掛かっている人もいれば、ニュートラルな人もいます。それぞれの個性に合わせた家を提案していきますし、それを一緒に楽しんでつくっていきたいと思ってますね。「一緒に楽しむ」っていうところをかなり重視しています

鈴木:打ち合わせの時間も楽しむことを意識してやっているんですね。

大福:もちろん、ふざけて笑わせるとかじゃないですよ。意外とまじめにやっています。最後には「やっぱりあなたたちじゃなきゃダメでした」と言われて終わりたい。逆に僕らじゃなくてもいいという人は、僕らじゃなくていいと思うんです。

家づくりって結婚みたいなものだから、結婚式以上に楽しんでもらいたいし。

 

仕事ではなく、お客さんのためになることを役割分担して実行する

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鈴木:ところで、あまり広告を出していないと思いますが、どのようにして依頼者が来るのでしょうか?

大福:僕たちが今まで付き合ってきた業者仲間や、美容師やショップをやっている方からの紹介が多いですね。自然とサル、キジ、イヌのような仲間になっていた人たちが紹介してくれるんです。起ち上げてから週に1回くらいのペースでずっと続いていますね。不思議に思えるくらい、それがずっと続いています。

鈴木:それはすごいですね…。

大福:あと、ここで一緒に仕事をしているメンバーは、遊ぶ時も一緒だったりするんです。遊びながら仕事をしているわけではないけど、仕事をしている空気が心地よくて、それが周りの人にも伝わっているみたいで。色んな人に「楽しそうですよねー」と言われますね。

仕事を楽しんでやる人間が集まっているから、自然とそうなるんでしょうね。

鈴木:「仕事=苦しいこと、我慢してやらなきゃいけないこと」っていうのではなくて、遊びとの境界線がないような感じなんですね。家づくりって楽しいものであって欲しいから、そういう空気を感じ取った周りの人がおすすめしたくなるというのもありそうですね。

大福:「境界をなくす」っていうのは本当に大事だと思っていて。それは建築業界の請け負い方についても思うんです。仕事を請け負うとなると、一社がすべてを握らなければいけないっていうスタイルがあるんですけど、そうすると、下請けだ何だって変な縦社会ができるんです。そんなのはもうやめたいっていうか、みんな並列でありたいですね。

例えば誰かが家を建てたいってなったら、「みんなで集まってどうにかしてやろうぜ!」みたいな。お金のことを考えないわけではないんですけど、自分のところで全部請け負ってしまうのではなくて、他の会社でも得意な人間がいたら加わった方がいいと思っていて。

実は前の会社にいた時に、他社と一緒になって仕事ができないか考えていたことがあったんです。でも、責任問題がどこにあるのかという話になり実現はできなかったんですね。

でも、「責任」っていう話がお金の線引きになると結局それって「物売り」になってくるな…と思って。それが「コト売り」であれば、メンテが必要になった時には施主も一緒になって起こったことに対して立ち向かうという関係性ができるんじゃないかと思っていて。

もちろん、家をつくる側が責任感を持っていることは前提ですが。

鈴木:業者間の境界線もなくしたい、というのは新しいですね。

大福:仕事っていう捉え方ではなく、「お客さんのためにするべきことを役割分担をしてする」みたいな感じなんです。ただ、お金はどういう風に考えるんだ?っていうところで怒られたりはするんですけど(笑)。

鈴木:そこが課題でしょうか(笑)?

大福:うん。現実での課題。僕たち「コスパいいよね」ってよく言われるんです。とことんまで付き合っちゃうから(笑)。2年目の課題はそこなんですが、でもビジネスっぽくはしたくないですね。

 

みんなが並列だから、 名刺に肩書きを入れない

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鈴木:ところで、サルキジーヌのみなさんの名刺には「部長」とか「主任」とか、肩書きが入っていないのも特徴ですよね。

大福:サル、キジ、イヌっていうようにみんなが並列で力を持っていないとダメだなと思っていて。誰かが抜きんでた力を持っていたり、誰かをリーダーみたいにしたくはなくて。あくまで「みんなでやっている」っていう形でいたいですね。

それに、肩書きで見られたくないですしね。ビジネスをしてる世界で考えてないから。逆に肩書きばかり見る人っているじゃないですか。肩書きを見て態度を変える人って一番好きじゃないし(笑)。

鈴木:たしかに「部長」や「課長」っていう肩書きは職能を示すものではないですよね。「僕が『部長』です」って言われるよりも、「僕は設計ができます」「資金計画ができます」って言ってもらえた方がいいですしね。

大福:うんうん。やっぱり「人」と「人」のつながりが大事だしね。

 

誰かの「コトづくり」のために、モノをつくる

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鈴木:住宅以外のことにも取り組まれていますが、どんなことをやってきましたか?

大福:なんでもしますよ。「こういうのしたいんだけど…」と頼まれたら拒まないですね(笑)。自動車販売会社さんからの依頼でキャンピングカーの内装を作ったり、結婚式のウエルカムボードを作ってそれを新居のTV台に組み込めるようにしたりとか。

「家・店・モノづくり」を掲げてやっているんですが、生活に関わるもの、家を中心に派生していくものづくりはどんどんやっていきたいなと思っています。洋服とかもですね。やってて楽しいこと、ワクワクすることをしていたいですし。今うちの嫁さんも仲間として入っててカバンを作っていますね。

あと、例えば誰かにとって大切な「コトづくり」のために必要なモノを作るとか。売っているものを選ぶのではなく、その人に合ったものを一緒に作っていきたいと思っているので。考え方は家づくりと一緒ですね。

あと、家づくりに関してなんですが、お客さんが家づくりを考え始めてからじゃなくて、できれば家を建てる前の結婚や出産のタイミングで会いたいんです。そのあたりから一緒にいたい。

そうすれば、いよいよ家を建てるってなった時には、その人のことをよく分かっている…という状態で関われるので。それはこれから本当にやってみたいです。それに、相手のことをよく分かっているから、場合によっては別のビルダーを紹介することもできるはずなんですよ。

そのためには僕らがカフェとかをやって、そこでレストランウェディングができて、そこで「コトづくり」の相談ができて…という場所をつくりたいですね。

そのハコには僕たち建築士や施工技術者の他にも、カメラマンやグラフィックデザイナーなどコトをつくれる人がいっぱいいて、「コトづくり」をしたい人とそれを叶える人をくっつけるようなこともしたいと思っています。「コトの集合体」をつくりたい。

鈴木:シェアオフィスがより楽しくなったような場所をイメージさせますね。

大福:そういうことを一緒にやってくれる人を募集しています。例えば結婚式のサービスをどうやってやればいいか僕らは分からないから、同じような感覚でできる人が集まってくれるといいなあと。

鈴木:それは会社としてメンバーを増やしていくイメージなんですか?

大福:そうでなくてもいいですね。場所をシェアできて一緒にやれたらいいと思っています。新潟にそういう場所ができたら楽しいじゃないですか。そこに行けば色々な人がいて、「ウインドーショッピング」じゃなくて「ウインドー人物」みたいな。そういう人と出会って話していく日曜日とかって楽しいですよね。そういう場所って子どもにとってもいいと思うし。

鈴木:たしかに。楽しそうに働いている大人を見ると、将来どうなりたいとか目的意識ができるでしょうし。すごく共感します。それはいつ頃からスタートする予定なんですか?

大福:早ければ早いほどいいと思っていますが、そのために今自分たちがやっていることをしっかりやり、色んな人に会っていかないとと思っています。

 

色んな力を持った人が集まる場をつくりたい

鈴木:ところで、サルキジーヌさんのメンバーはどのようにして集まってきたんですか?

大福:うーん、友達ですね。好きな仲間。そうしている理由は、ちゃんと分かり合えている仲間じゃないと一緒に仕事をするのが難しいというのがあって。なので、全く知らない新しく出会う人と一緒に働くというのは今はまだ考えていないですね。

あと、一緒に働く人は「個」としての力がある人がいいですね。要はサルなのかイヌなのかキジなのか?建築に関わらず、色んな力を持った人が集まっている場をつくっていきたいし、楽しい空気体をつくりたいというのもあります。

今もまじめに仕事をしているんだけど、自然と楽しい空気ができています。

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鈴木:なるほど。それには、やはりある程度付き合いが長くて、お互いのことを分かっているメンバーじゃないと難しいわけですね。

大福:ただ、5年後10年後はそこは課題になっていくんだろうなと思います。でも、建築に携わるメンバーはあまり多くはしたくないですね。見えない仕事を増やしたくないし、自分が関わっていない仕事ができるのも嫌だし(笑)。

なので、他にプロダクトや物販、飲食、グラフィックなど別のことも起ち上げて、10人ずつくらいのチームをつくってやっていきたいなあと。その複数のサービスでお客さんと付き合うと、お客さんのことをよく分かっている状態で色んな事ができるのかなあと。

今建築の仕事が忙しくてうれしいんですけど、他のコトづくりもどんどんやっていきたい。気づいたら建築だけの会社じゃなくなっているような感じにしていけたらいいなと思っています。

 

「コトづくり」をテーマに掲げるサルキジーヌ。

それはこれまでの工務店の概念とは異なる目線で、目指す場所も違っています。そして、一般的な会社のイメージとは異なる自由で楽しい空気もサルキジーヌの特徴です。

ビジネスとしての家づくりではなく、施主の目的である家づくりを、施主と同じ目線・同じ立ち位置で助け、共に進んでいくというスタンス。それは、「仕事を何のためにやるのか?」というミッションが非常に明確で、だからこそサルキジーヌのメンバーは楽しく生き生きとしているのだと思います。

サルキジーヌが実践する仕事、そして働き方。今後の展開にも目が離せません。

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取材協力/サルキジーヌ 大福匠さん

写真・文/鈴木亮平

 

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。