【インタビュー】建てることが目的ではなく、大事なのは丁寧に使い続けられること。神田陸建築設計事務所・神田陸さん

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鈴木 亮平

新潟市在住のフリーランスの編集者・ライター(屋号:Daily Lives)。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。紙・WEB問わずコンテンツ制作を行う。

五泉市にある神田陸建築設計事務所。

住宅、福祉施設、家族葬施設を中心に手掛けている設計事務所で、代表の神田陸さんが重視しているのは、完成してからその建物がどのように使われ続けていくか。

常にそのことをイメージしながら設計し、最近では建築がうまく活用されるように完成後も建築に関わっています。

どんな思いで設計をし、建物と付き合っていくのか?今回は神田陸さんが2014年に手掛けた、阿賀町にある角神湖畔青少年旅行村の森のステージでお話を伺いました。

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神田陸建築設計事務所
建築家 神田陸さん

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1974年生まれ。五泉市出身。工業高校の建築科を卒業後アメリカへ遊学。1995年に山本建築設計事務所に入社。2012年に同事務所を引き継ぎ、2016年に神田陸建築設計事務所に社名を変更し今に至る。

 

工業高校の建築科を卒業後、海外での遊学を経て建築の道に進む

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鈴木:では最初に神田さんの経歴を教えて頂けますか?

神田:僕は中学時代、絵を描くのが得意だったんですよ。それで、将来的に絵を描くのを仕事にしたいなと思っていたんです。でも当時担任の先生が「絵で食べていくのは簡単じゃない。美術をやりたいなら建築という選択肢もあるぞ」とアドバイスをしてくださって。それで、工業高校の建築科に進んだんです。

ただ高校に入ってから建築への興味がそれほど高まっていかなくて、卒業後はアメリカのフィラデルフィアに語学留学に行きました。そこで英語を学んだり、あとはバイトに明け暮れていましたね。フィラデルフィアで遊学した後、新潟に戻ったんです。

そんな時に同級生に会ったら、大学で建築を学んで専門性を高めていたり、就職してゼネコンで現場監督としてバリバリ働いていたりと、随分と差を付けられてしまったのを感じて。そこで、改めて建築の道を志そうと思いこの業界に入ったんです。その時は正直、追い詰められた気持ちで仕事を始めていました。

鈴木:そこで1995年に山本建築設計事務所に入ったんですね。

神田:はい。20数年前になりますね。その後、最初に自分が事務所で手掛けたのがこの角神湖畔青少年旅行村のバンガローだったんです。今僕たちがいる「森のステージ」は僕が事務所を山本さんから引き継いだ後、2014年につくりました。

角神湖畔青少年旅行村バンガロー(画像提供:神田陸建築設計事務所)
角神湖畔青少年旅行村バンガロー(画像提供:神田陸建築設計事務所)

このキャンプ場は冬の間やっていなかったんですが、冬にかまくらを作って遊んだりとか、冬のキャンプやアクティビティを楽しむベースとなる場所を提案し、自治体や地元の民間企業と一緒につくった建物なんです。

材料には地場産の木を使い、ルーバーにして風通しを良くすることで木が傷みにくいようにしています。

角神湖畔青少年旅行村「森のステージ」(画像提供:神田陸建築設計事務所)
角神湖畔青少年旅行村「森のステージ」(画像提供:神田陸建築設計事務所)
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角神湖畔青少年旅行村「森のステージ」(画像提供:神田陸建築設計事務所)

鈴木:この「森のステージ」は広場のような場所で、用途が限定されていない感じがいいですね。

神田:その通りで、これからの時代、用途を決めすぎる建築ってどうなのかなあ…とも思うんです。この場所にしても「食事スペース」とか「休憩スペース」とか決めちゃうと、それだけの場所になっちゃう。色んな価値観や考え方の変化が速い時代においては、「建物の用途を決めない」っていうのが大事になってくるのかなと思います

 

使う人の気持ちの中にどっぷり入って設計する

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神田:2018年に西蒲区の旧巻町で「花むすび」という家族葬の施設を設計したんですけど、そこは葬儀する場所でありながらヨガ教室も開催するんですよ。普通に考えたら葬儀場でヨガ教室というのは抵抗があると思いますよね。

花むすび(画像提供:神田陸建築設計事務所)
花むすび(画像提供:神田陸建築設計事務所)
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花むすび内観(画像提供:神田陸建築設計事務所)

鈴木:たしかに…。ちょっと考えますよね。

神田:そこで僕らが考えたのが「葬儀場ではなく住宅をつくろう」ということだったんです。昔は家で葬儀をしていましたよね。家でやっていたから特に「葬儀する場所が怖い」というのはなかったんですよ。住宅を怖がる人っていないじゃないですか。

例えば、花むすびには、入口に上がり框(あがりがまち)があるんです。普通だったらキャスターでお棺を運ぶから段差はない方がいいんですが、ここではみんなでわざわざお棺を持ち上げて運ばなきゃいけないんです

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花むすびの上がり框(画像提供:神田陸建築設計事務所)

そうしてみんなでお棺を運ぶと、置いた瞬間に空気が変わるんですよ。久しぶりに集まった家族や親戚の間に流れる空気が変わるんです。例えば小学校高学年くらいの孫が一緒に手伝ったりすると、すごく責任感を感じて自分の存在意義を確認できたりとか。

そんなことをイメージして設計をした部分なんですが、実際にそんな空気になると聞きました。

ごめんなさい。さっき何の話をしてましたっけ(笑)?

鈴木:葬儀をする場所でヨガ教室もする、という話でした(笑)。

神田:そうそう。ヨガ教室をしても違和感がないのは、そこが「葬儀場」ではなく「住宅」だから、ついさっきまで葬儀をしていたとしても違和感なくヨガ教室ができるんです。他にも料理教室を開いたりとか、今後も色んな使い方を考えていこうとしていますし、後程話しますが、その企画にも僕が関わっています

ここで僕が伝えたいのは、葬儀とか死っていうのが特別なことじゃなく紙一重みたいなもので、怖いとか忌み嫌うとかではなく、より自然な場所で自然にやりましょうということなんです。

花むすびの和室(画像提供:神田陸建築設計事務所)
花むすびの和室(画像提供:神田陸建築設計事務所)

鈴木:一般的な葬儀場にあるお斎(おとき)会場はないんですか?

神田:そうなんです。お斎の場はつくってないんです。例えば、「おでんをみんなで食べようよ」とか「夏だからそうめんを食べようよ」とか、その家族らしさが現れるようにしたいというのがあって。ここでは、和室で過ごす人がいたり、リビングで過ごす人がいたり、大きな会場はなく家で過ごすような感じになりますね。

鈴木:なるほど。家の中の色んなところに人がいる感じなんですね。

神田:ただ限度はありますので、20名以下を推奨しています。最大でも30名ですね。ちなみに30名になるとかなり窮屈なんですが、意外とクレームにならないんです。ここが葬儀場ではなく「家」として見られているからですよね。

あと、さっきの上がり框の話になりますが、段差があって歩きにくそうにしている年配の方がいたら、周りの人がサポートするんです。バリアフリーじゃないことで逆に人間関係のバリアが外れて温かい空気ができます

鈴木:そういう人の関係性やできあがる空気なども考慮して設計しているんですね。

神田:そこが僕の強みかもしれませんね。使う人の気持ちの中にどっぷりと入って設計することを得意としています。結果としてユニークなデザインになったりもしますが、それを目的にやっているわけではないですね。

逆に、そこに意味がなく、何となく見栄えのする装飾だけがあるようなデザインは好きじゃないです。

 

香りを粒体でイメージして設計する

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鈴木:神田陸建築設計事務所さんのWEBサイトには「香りを意識した建築をする」と書いてあります。どんなことか教えて頂けますか?

神田:例えば昨年完成した五泉市内の住宅「茶茂庵(ちゃもあん)」は、家の北側にキンモクセイが植えてあるんです。五泉は夏に北から風が吹くんですが、それをリビングの高窓から採り込めるようにしています。

風上にキンモクセイが植えられているので、夏の終わりに咲くキンモクセイの花の香りがリビングに流れてきて、南側の掃き出し窓へと抜けていくんです。香りを粒体でイメージして設計をしています

茶茂庵(画像提供:神田陸建築設計事務所)
茶茂庵(画像提供:神田陸建築設計事務所)

鈴木:なるほど…。ちなみにキンモクセイの木がリビングから見えるわけではないんですか?

神田:そうなんです。見えない場所にあるんですよ。少し話が変わりますが、建物がどういう形であるかではなく、その建物がどう使われるか、完成した建物でどんな現象が起こるかに興味があるんです。ここではキンモクセイはリビングから見えることではなく、香ることを目的としています。

香りを重視しているのは、香りが空間を五感で感じる上で重要な要素だと思っているからです。僕自身が香りに敏感でお香を持ち歩いていたりもするんですが、香りを空間のしつらえの一つとして考えていますね。

香木を炊いたり、練り香を使ったりするんですが、お客様へのおもてなしとしても考えています。

 

四季折々の風景が楽しめる家

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鈴木:茶茂庵は南側に広がる田園風景を見渡せることもポイントでしょうか?

茶茂庵(画像提供:神田陸建築設計事務所)
茶茂庵内観(画像提供:神田陸建築設計事務所)

神田:そうですね、目の前が田んぼなので、春に田植えが始まり、秋は金色の野が広がって、やがて刈り取られて、冬は真っ白い雪景色が見える。そしてその向こうに白山が見えるんですよ。四季折々の風景が楽しめるように設計しています。そして、余計なものが視界に入らないように、濡れ縁の両サイドに角度をつけた壁を設けているんです。

茶茂庵(画像提供:神田陸建築設計事務所)
茶茂庵の濡れ縁(画像提供:神田陸建築設計事務所)

それから五泉って地下水が豊富なので、庭に井戸を掘ると水が自噴するんですよ。そこで水盤を僕たちがセルフビルドで造ったんですけど、水の音を楽しんだり、家庭菜園の野菜を冷やしたり、この水でコーヒーを淹れたりできるようにしています。軟水で美味しいコーヒーになるんですよ。

茶茂庵の水盤(画像提供:神田陸建築設計事務所)
茶茂庵の水盤(画像提供:神田陸建築設計事務所)

鈴木:大地に溶け込むような外観も特徴的ですね。

神田:最初のプランでは建物全体をベレー帽のように丸みを帯びた形にして、風景になじむようなイメージだったんです。ただ、その案は予算を大幅にオーバーしてしまっていて(笑)。それでプランをやり直したんですけど、柔らかい感じを残しているので、そう感じてもらえるんだと思います。風景に「なじませる」というのは僕が大事にしていることですね。

鈴木:素材も大事にされていますか?

神田:素材も僕が大切にしていることの一つです。要らないものをどんどん削っていって、最後に残った素材がその建築のエッセンスというふうに考えています。

 

長居しやすい居心地のいいカフェを設計

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鈴木:2016年に完成しウッドデザイン賞2017を受賞した、三条市のITOYA荒町ラウンジについて解説をお願いできますか?

ITOYA荒町ラウンジ(画像提供:神田陸建築設計事務所)
ITOYA荒町ラウンジ(画像提供:神田陸建築設計事務所)

神田:この建物のオーナーが子どもの頃、地元の名士の方が自分の土地を地域の子どもに開放してラジオ体操の場所をつくってくれたそうなんです。自分も何かしら町に対して貢献をしたいと考えるようになり、地元の人が集まってゆっくり過ごせるカフェや、地元の人が活躍できる場所をつくりたいと相談を受けました。オーナーからは「採算はあまり気にしないので、好きなようにつくって欲しい」という希望を受けて設計したものなんです。

そこで、ここに来た人が長居しやすいように、小さな建物をいくつもつくって分散させる建築を提案したんです。キノコがたくさん生えているようなイメージですね。オペレーションは大変になるけれど、居心地の良さを優先したかったので。

最終的にはバラバラにはせずに建物を繋げましたが、独立した建物が連なっているような建築になりました。

ITOYA荒町ラウンジ(画像提供:神田陸建築設計事務所)
ITOYA荒町ラウンジ(画像提供:神田陸建築設計事務所)

今実際にカフェの他、いろいろなセミナーや教室を行う場所として活用されています。

ITOYA荒町ラウンジ(画像提供:神田陸建築設計事務所)
ITOYA荒町ラウンジ(画像提供:神田陸建築設計事務所)
ITOYA荒町ラウンジ(画像提供:神田陸建築設計事務所)
ITOYA荒町ラウンジ(画像提供:神田陸建築設計事務所)

鈴木:なるほど…。オーナーが子どもの頃にしてもらったことを、今度は自分がする側になったんですね。

神田:そうですね。ここの活用方法についても相談を受けたりして、関わっています。

 

建物を建てることが目的ではなく、どう使われていくかが大事

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鈴木:神田さんが引き渡し後も建物の活用に関わっていく「BRIDGE(ブリッジ)」という取り組みについて教えて頂けますか?

神田:最初に話したように、僕は建物を建てることが目的なのではなく、建った後にどう使われていくかに興味があるんです。自分が設計した建物は自分の子どものようなものだから、生きた使われ方をされて欲しいと思っていて。ブリッジは、住宅以外の施設でイベントの企画を考えたり、利用を促したり、ブランディングをしたりという取り組みですね

あとは、引き渡し後に不具合があって連絡を頂くことがありますが、その対応をすることはむしろ嬉しいことなんです。自分の子どもがケガをしたり風邪を引いたりした時、それを面倒だと思わないのと同じ感覚ですね。

もし建築を「引き渡した時点で終わり」という捉え方をしていたらアフターフォローは面倒なことに思えるかもしれませんが、僕はその後もずっと関わっていきたいと思っています。

有名な公共建築などでも、使う側が設計者の意図をよく理解せずに使っていると、全然いい使われ方がされず建物が腐朽していくという残念なケースはよくあります。だからこそ、建ってから関わっていくことも建築家の使命なんじゃないかなと思うんです

鈴木:そうすると設計以外の業務もたくさん出てきそうですね。

神田:いえ、そのブリッジの取り組みも設計の一環と考えています。日本以外では、わりと当たり前のように行われていることなんですよ。

鈴木:では最後の質問になりますが、神田さんが今後力を入れていきたいことはどんなことですか?

神田:ワクワクすること、楽しいことに向かっていきたいですね。漠然とした回答ですけど、そうすることで必ずいい人が現れて、必ず面白いことが起こるんですよ。そこが僕が居るべき場所なのかなと思います。

 

表層的な意匠の操作をするのではなく、どのように建物が使われて、そこでどのようなことが起こるのかを考えて設計を行う神田さんは、建物が完成した後も長期的に関わっています。

ブランディングを得意とする外部のパートナーと連携してそのような仕事をしているそうで、一般的な設計事務所の仕事の枠組みを超えた働き方をしているのも特徴です。

建物は建てることが目的ではなく、うまく活用できてこそ人の役に立つものになる。そんな根本的な部分を大切にしながら神田さんは建築に携わっています。

 

取材協力/神田陸建築設計事務所 神田陸さん

写真・文/鈴木亮平

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鈴木 亮平

新潟市在住のフリーランスの編集者・ライター(屋号:Daily Lives)。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。紙・WEB問わずコンテンツ制作を行う。