【インタビュー】安心の基本性能をベースに、“自然”と“トレンド”を取り入れる。風間建築事務所・風間広大さん

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。

新潟市江南区嘉瀬にある古民家の一室にオフィスを構える株式会社風間建築事務所の代表・風間広大さん。

(※2021年、新潟市江南区酒屋町98-1の新事務所に移転)

耐震等級3の耐震性能や高気密高断熱仕様など、安心の基本性能に、自然を感じられるアウトドアリビングやトレンドのデザインを取り入れた家づくりが特徴です。

2019年の創業以降、コンスタントに新築住宅の建築を続ける風間さんにお話を伺いました。

 

株式会社風間建築事務所 代表 風間広大

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1981年新潟市生まれ。新潟工科専門学校を卒業後、設計事務所を経て新潟市に拠点を置くハウスメーカーに勤務。営業、設計、現場監理、企画、商品開発など幅広い業務を経験し、16年の在籍中に200棟以上の新築に携わる。2019年に独立し、株式会社風間建築事務所を開業。

 

16年勤めたハウスメーカーで、商品開発も経験

鈴木 では最初に風間さんのこれまでの歩みを教えて頂けますか?

風間 高校時代は理系クラスにいて、工業系に進みたいと考えていたんです。子どもの頃からファッションやインテリアがすごく好きだったので、工業系の中でも芸術性やファッション性がある建築に進みたいと思い、高校卒業後は新潟工科専門学校に行って建築を学びました。

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2年間専門学校で学んだ後に設計事務所に入ったんですが、もっと外に出る仕事がしたいと考えるようになり、ハウスメーカーの現場監督の募集を見つけて応募したんです。ただそこでは、最初は営業としてスタートしました。そこで16年間お世話になる間に、現場や設計を経験した他、県外の支店勤務や、企画、商品開発にも携わりました。

鈴木 商品開発にも携わっていたんですね。

風間 ハウスメーカーだったので商品が必要だったんです。仕様や坪単価を決めて価格を明快にすることで、営業マンがお客様に説明しやすくなりますので。

当時僕が考えた規格住宅で、コンパクトでスカッとした間取りの商品はすごくよく売れました。誰にでも当てはまるオーソドックスな設計で、コストを抑えられるのが特長でした。マイナーチェンジをしながら、今もその商品は販売されています。

鈴木 その仕事、すごく面白そうですね…!合理的にコストが抑えられた住宅は常にニーズがあるでしょうし。

風間 あとは学生を対象にした設計コンペをして、著名な建築家の方に審査をして頂き、優れた設計の家を実際に建てたり…といった企画など、いろいろなことをさせて頂きました。

規格住宅のいいところは、経験が浅いスタッフでも説明しやすいところです。ただそうすると、標準化した同じような形の家しかできないんですね。

広告を打っていく時に、そうではなく、もっと魅せられる住宅を出していく必要がありました。そこで僕が退職する4年前くらいに、デザイン性の高い注文住宅に特化した事業部を立ち上げから任されたりもしました。

鈴木 すごくいい経験をされていたと思いますが、それでも独立したんですね。

風間 そうですね。いずれは一人でやりたいと考えていましたので。40歳になる前にはということで、去年2019年7月に独立をしました。

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鈴木 独立をしてからコンスタントに新築住宅を建てられていますが、どのようにして集客をしているんですか?

風間 だいたい8割が紹介なんですよ。ハウスメーカー時代の施主OBの方や関係業者の方、僕が独立してから建ててくださった施主さんや不動産会社さん、専門業者の方、そういったご縁があった方からご紹介を頂けています。今後も一つ一つの出会いを大事にしていきたいですね。

鈴木 16年勤めたハウスメーカー時代の信頼が財産になってそうですね。

風間 ハウスメーカー時代に年間20~30棟を売っていて、累計で200棟以上の新築に携わってきたので、それだけたくさんの人との関係性を築くことができました。

鈴木 新築をしたお客さんの数がすごいですね。お客さんの数だけ要望も多種多様でしょうから、どのように提案したら喜んでもらえるか?というアイデアの幅も広がりそうです。

風間 そうですね。商品開発においても価格を抑えながらいいものをつくる必要がありましたので、工夫する力が培われていきました。

 

基本性能に責任を持つことが住宅のプロの役割

鈴木 次に、風間さんが家づくりで大事にしている考え方を教えて頂けますか?

風間 住宅を提供する僕たち建築士は、耐震構造や断熱性能、設備性能など、基本性能に責任を持たなければならないと考えています。

そこに、住む人に合わせた空間や、トレンドを取り入れたデザインを提案し、お施主様と楽しみながら家づくりをしていきたいと思っています。

鈴木 風間さんの設計する家は、インテリアデザインのカッコよさに目が行きますが、目には見えない基本性能を高めることをより重要視されていたんですね。

風間 今の住宅業界はまだまだ正しい知識や技術を知らない設計者や施工者の方がたくさんいらっしゃると思うんです。「構造計算が面倒…」とか、「高気密高断熱工事のやり方が分からない…」とか、そういった理由で、今の時代に求められている耐震性能や断熱性能を標準仕様とせずに、オプション扱いにしていることもあります。

施主さんに「追加料金が掛かりますけど、こういう耐震性の高い構造にしますか?」とか、「高断熱仕様にしますか?」と聞いて、求められなければ取り入れないというハウスメーカーは実際に多いです。

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鈴木 性能を高めるかどうかを施主側が選べるということですね。

風間 構造や断熱は専門的な知識や判断力が必要ですから、お施主様に選ばせるのではなくて、プロである私たちが責任を持って高い基本性能を持った家を提供しなければならないと考えています。

鈴木 風間建築事務所さんのパンフレットやWEBサイトにも、そのあたりのことがしっかり書かれていますね。耐震性能の項目では「耐震等級3レベルの耐力壁量」と記載されています。

風間 まず基本性能で重要なのが、1つ目が高気密高断熱、2つ目が耐震等級3、3つ目が長期優良住宅だと考えています。基本性能なので、それよりも下のグレードはつくりません。

そこに風間建築事務所ならではの付加価値として「+ESSENSE.(プラスエッセンス)」という考え方をしています。例えば、パッシブデザインで太陽光や風などの自然エネルギーをコントロールした心地いい住環境や、軒下のウッドデッキをリビングと連続させたアウトドアリビング、トレンドを取り込んだデザインなどを提案しています。

 

自然の心地よさを住まいに取り入れる

鈴木 今の住宅が持つべき基本性能をしっかりと担保した上で、風間さんならではのセンスや心地よい住環境が+ESSENSEとして表現されているんですね。目に見える部分としては、その+ESSENSEの部分が風間さんらしさだと思いますが、そのあたりのことをもう少し詳しく教えて頂けますか?

風間 先程話したパッシブデザインがそうなんですけど、具体的には風を通す計画や、夏場の強い日射を抑える日射遮蔽、冬場の日射熱利用、太陽の光を活用する昼光利用をすることで、よりよい環境をつくり出すことができます。しかもそれらは、お金を掛けずに設計の工夫でできることなんですよ。

卓越風という、地域ごとに吹く方向がある程度決まっている風があるんですが、それを取り込む設計にしたり、吹き抜けを設けることで、建物内の低いところから高いところへと空気が上昇する性質を利用する重力換気を取り入れたりとか、そういう設計は独立前からずっと心掛けてきたことでした。

あと、僕はアウトドアがめちゃくちゃ好きというタイプではないんですが、屋外で食事をしたりとか自然を感じることが好きなので、自ずと光や風の心地よさを取り入れようとしているかもしれませんね。

鈴木 風間さんはサーフィンをやっているんですよね。

風間 海がすごく好きなんですよ。それに昔から泳ぐのが得意だったんで、サーフィンをやるようになりました。角田山の大自然をバックに海に入ったり風を浴びたりするするのがすごく気持ちいいですし、夜暗いうちに出発して、海から朝日を見るのもいいですね。

鈴木 そういう感覚が風間さんの家づくりに現れていそうですね。例えば、すごく心地よく過ごせそうなウッドデッキを毎回つくられているように思います。

風間 ウッドデッキは、ソファやイスを出して本を読んだり、飲み物を飲んだり、風にあたりながら過ごせたらいいなと思って提案をしています。そこに緑があったらさらに気持ちいいでしょうし、欲を言えばそこに水があると最高なんですよね。

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新潟市西蒲区O様邸(2020年4月竣工)

鈴木 水ですか?

風間 川が流れてたりとか、潟が見えたりとかですね。水があると空気の温度差ができて気流が発生するのでより心地よく感じられるんですよ。

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あとは、庭に植栽があると植物の蒸散作用で同じように空気の温度差ができて風が流れ、心地よく感じられます。

鈴木 ウッドデッキにしっかり屋根を架けるのにも、風間さんのウッドデッキへの想いが感じられます。

風間 屋根があることで雨が降っても外に出られますし、やっぱり屋根で強い日射を遮れてこそ心地よさが生まれるんですよね。

鈴木 たしかに、直射日光って寒い時期以外はけっこう不快ですよね。夏に屋根のないウッドデッキで過ごそうとは思えないですから。

風間 あとウッドデッキの素材は必ず木を使うようにしています。樹脂製のデッキは日が当たるとすごく熱くなるんで裸足で歩けないんですよね。裸足で木を感じながら過ごして欲しいなと思っています。特にハードウッドのイタウバという木が、耐久性が高くおすすめです。

 

屋根付きウッドデッキは、夏場の冷房負荷も抑えてくれる

鈴木 僕はアウトドアが好きなので居心地のいいウッドデッキに興味があるんですが、例えば住宅密集地の場合でもウッドデッキをつくるんですか?

風間 やはり+ESSENSEとして、パッシブデザインとアウトドアリビングは入れたいと思っています。小さくても屋根が架かったウッドデッキはつくるようにしていますし、さらにデッキの前には緑を植えられたらと思っています。

鈴木 ご自宅の設計にあたっても、アウトドアリビングは重要視されましたか?

風間 そうですね。うちもそんなに広い敷地ではないんですがウッドデッキを設けています。緑も植えて風が発生するようにしていますよ。あと、住んでて思うんですけど、屋根付きのウッドデッキがあることで、夏場の室内の冷房負荷がものすごく抑制されているのを感じます。

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風間さんの自邸のリビング(画像提供:株式会社風間建築事務所)

直射光がリビングに入るのと入らないのとで、冷房の効きが全然違ってきます。夏場の直射光を遮るのはすごく重要なことで、例えば昔の日本の家は冬めちゃくちゃ寒いですけど、軒が長く伸びているおかげで夏は比較的涼しいんですよ。

リビングの外側にある屋根付きのウッドデッキは、それと同じように夏場の直達光を遮る役割も果たしているんですよね。

鈴木 なるほど。屋根付きのデッキはパッシブデザインの「日射遮蔽」でもあったんですね。

 

シンプルな構造設計でコストコントロール

鈴木 では次の質問に行きますね。風間建築事務所さんではどれくらいの予算で家が建てられますか?

風間 住宅の仕様も車と同じで上を見たらキリがありません。お客様の限りある予算の中で計画するため、有名建築家が設計するような斬新なデザインの住宅や、とにかく性能だけを突き詰めたような住宅は提案しません。

シンプルな構造設計とし、基本性能を充実させるようにしています。建築費はだいたい2,000~2,500万円(税別)くらいが多いですね。延床面積は35~38坪くらいが多いです。

ちなみに僕は基本性能にはこだわりますが、それ以外の部分では「絶対こうじゃなきゃダメ」みたいなものはないんです。

「建材はこれじゃなきゃダメ」とか、建築士側のこだわりが強すぎるとみんな同じような家になってしまいますし、それによってお客さんの予算に合わせることが難しくなるからです。

費用が掛かり過ぎてお客さんの生活をひっ迫したり拘束してしまうようでは、幸せな暮らしにはなりませんから。

鈴木 シンプルな構造設計も大事にされている部分なんですね。

風間 はい。一番コストを抑えられ、構造的にもバランスがいい総2階にすることが多いです。耐震等級3の家でも形が複雑になると構造的に負担がかかる場所ができるので、そこにお金が掛かっちゃうんですよ。構造計算に掛かるコストも増えますし。なるべくそういうのをなくすことで、経済的かつ合理的にしています。

形にこだわれば独特で象徴的な建築になるでしょうけど、どうしてもそこにお金は掛かってくるので、極力家の形はシンプルにしています。

 

流行りは、取り入れる

鈴木 風間さんがつくる家は、中に入るとすごく変化に富んだ空間が広がっているので、「総2階」と聞いて意外な感じがしました。「シンプル=削ぎ落したストイックなデザイン」というイメージでしたが、インテリアもワクワクするようなコーディネートがなされていますし。

風間 信念を持って飽きの来ない、流行り廃りのないデザインを目指す建築士の方もいらっしゃって、それはそれですごくいいことだと思っています。

でも僕はわりと流行りが好きなんですよ。例えば内装って、もちろん普遍的で長い時間変わらないものもありますが、時代時代に合ったデザインや考え方もあると思っていて。

新しい素材も出てきますし、新しいデザインも出てきます。僕はそういうものは積極的に取り入れていきたいと思っています。

時代が変わって、「あの頃のデザインの家だね」となるかもしれないですが、それがその時代の建物の良さだし、それを僕は否定的には捉えていないんです。

流行りを取り入れるというと、「建築士として考えが浅い」と思う人もいるかもしれません。でも、僕はそこで頑固にはなりたくなくて。

鈴木 それ僕も共感します。インテリアに限らず、70年代のデザイン、80年代のデザイン、90年代のデザイン、2000年代のデザインがありますし、巡り巡って再び昔のデザインの価値が見直されたりもしますから。

あと、普遍的なものを求めても、それでもその時代特有の考え方が出るので、本当に普遍的なものってそもそもないような気もします。

 

共働き世帯の家事負担を減らす設計

鈴木 ところで風間さんのつくる家では、幅が180cmあるオリジナルの洗面台がよく見られます。あの洗面台、風間さんの独自性があり、すごくかっこいいですよね。

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新潟市西蒲区O様邸の洗面台

風間 さっき、流行りが好きと言いましたが、もちろんオリジナリティも出していきたいと思っていて。この洗面台はお客さんにも気に入って頂けています。1坪の洗面スペースにトイレを隣接させてユニットとして考えているので、プランもまとまりやすいですね。

鈴木 洗面台にティッシュを取り出すためのスリットまで設けられていて、使用シーンがすごく考えられていますよね。

あと、設計において家事のしやすさも丁寧に考えられていますよね。

風間 共働きの方が多く「いかに家事をラクに楽しくできるか?」というのが皆様に求められていますから。特に洗濯は一番気を使っているところです。

だいたい夜に洗濯機を回して屋内干しをするのが当たり前になっていますから、その屋内干しのスペースをしっかり取ることや、洗濯機から物干しスペースまでの動線を短くすることを意識していますね。

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新潟市西蒲区O様邸のランドリールーム。

オール電化ではなくガスを利用される方にはガス乾燥機の「乾太くん」を薦めています。そうやって「家事の時短」ができる暮らしを考えています。

 

リノベやオフィス設計にも挑戦したい

鈴木 では最後に、今後新しく挑戦をしていきたいことはありますか?

風間 今は新築100%でやっているんですけど、今後は中古住宅の流通が多くなっていきますので、耐震改修や断熱改修にチャレンジをしていきたいですね。

建て替えまでは考えてないけど、耐震性能や寒さに不安や悩みを抱えている方たちの役にも立ちたいと思っています。リノベの中でもマンションリノベというよりは、既存住宅の改修をやっていきたいですね。

性能向上リフォームは難易度が高く専門性が求められ、やりたがらない業者が多いです。だからこそ、そういう分野に挑戦をしてみたいです。

鈴木 新築では何か新しくやってみたいことはありますか?

風間 今住宅100%でやっていますが、店舗や事務所建築にも興味があります。今はオフィスのデザインも変わってきていて、社員が集まって休憩できるスペースとか、クリエイティブな仕事をしやすいリラックスした雰囲気が求められるようになっています。お声がけを頂ければぜひやってみたいですね。

また、今はリモートワークの時代なので、住宅の書斎を設計する際にはオフィスのデザインや考え方を取り入れるのも重要だと感じています。

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鈴木 風間さんのインテリアデザインは店舗やオフィスにそのまま応用できそうですよね。昔と比べて、仕事とプライベートの境界も曖昧になってきています。ぜひ風間さんが提案する新しいオフィスを見てみたいですね!

 

ハウスメーカー時代に数多くの新築を手掛け、商品開発にも携わった経験を持ち、住宅や住宅に求められるニーズを俯瞰的に見てきた風間さん。

たどり着いた答えは、安心の基本性能を担保しながらも、コストを合理的に抑えること。そこに、自然に触れるのが好きだという風間さんの感性や、トレンドのデザインが融合し、オリジナリティある住宅がつくられます。

中でも象徴的な空間が、リビングから続く居心地のいいウッドデッキ。心地よい「風」を大切にする風間さんの住まいづくりについて詳しく知りたい方は、ぜひWEBサイトを熟読してみてはいかがでしょうか?

 

取材協力/株式会社風間建築事務所 代表・風間広大さん

文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。