上品な旅館の客室を思わせる、オガスタのエッセンスが凝縮したマンションリノベーション

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。

新潟駅徒歩圏内、築25年のマンションを改築

「自然素材の家で暖かく暮らす。」

このタグラインの元、自然素材を品よく使った高気密高断熱住宅を手掛けてきたオーガニックスタジオ新潟株式会社(本社:新潟市西区山田)。

同社が初めてマンションリノベーションを行い、5月に完成させました。

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場所は新潟市中央区米山にある1999年竣工の15階建て・総戸数202戸の大きなマンション。新潟駅まで徒歩8分という利便性の高い立地です。

今回のマンションリノベーションを担当したのは、代表の相模稔さんと、オーガニックスタジオ新潟黎明期から外部パートナーとして設計業務に携わってきた山下真さん(一級建築士事務所ma主宰)。

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相模稔さん(左)と山下真さん(右)

今回、代表の相模さんが直々に関わっているところに、並々ならぬ熱量が感じられます。

そして、オーガニックスタジオ新潟の建築のベースをつくり上げてきた山下さんは、自然科学の原理原則を大事にした普遍的な設計を特徴としている方。

トレンドが反映されやすいマンションリノベーションにおいて、山下さんはどのような空間を設計&デザインしたのでしょうか?

また、オーガニックスタジオ新潟の特徴の一つである高気密高断熱は、マンションリノベーションでどのように表現されたのでしょうか?

 

オーガニックスタジオ新潟の住宅をマンションでも展開

これまで戸建ての新築・リノベーションを手掛けてきたオーガニックスタジオ新潟。

なぜ今回マンションリノベーションに挑戦することにしたのか、代表の相模さんに聞いてみました。

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「私たちがやってきた建築のスタイルを横展開してみたいと思ったからです。実際に完成し、新たな選択肢を提示できるようになったと感じています。

このマンションは築25年なので、新築時に35歳で購入して住んでいる人は60歳になります。子育てを終えて夫婦2人になり、住宅ローンも払い終えている。そして、今後もこのマンションに住み続けたい…。そう考えている方はけっこういらっしゃると思うんですよ。新潟は雪も降りますから、駅近のマンションというのは年を取ってからも便利ですしね。

そういう方に、今回のようなリノベーションを提案できると考えています。費用感としては2,500万円くらいですね。

それから、マンションが好きじゃないという人にも新しい選択肢を提示できる空間になったと思っています。

マンションの内装は最大公約数で決められることが多く、空間にこだわりたい人は物足りなく感じてしまうものですが、今回のリノベーションはオートクチュールの世界。

私たちが普段やってる自由設計を持ち込んでいます。これまで培ってきた設計力や造作家具の技術力、現場対応力を駆使してつくり上げました」(相模さん)。

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たしかに、築25年が経ちライフステージも変わるタイミングというのは、思い切って大規模なリノベーションをするにちょうど良さそうです。

そして、これだけ自然素材を使ったマンションリノベーションはなかなかお目にかかれません。中に足を踏み入れると、まるで旅館に来たような気分に浸れます。

 

豆砂利洗い出し仕上げの玄関土間

マンションに見えない理由の一つが玄関にありました。

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なんと、土間が豆砂利洗い出し仕上げです。文字通り水を使って洗い流す『洗い出し仕上げ』をマンションで行うのは大変だったのではないでしょうか?

それをあえて行っているところに、「オーガニックスタジオ新潟らしいマンションリノベーションをしよう」という強い意志が感じられます。

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ちなみにこの玄関土間は、元々は個室があった入口右手側に広がっていて、とてもゆとりがあります。

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この空間にエアロバイクを置いて運動をしたり、デスクを置いて仕事をしたり…という使い方が想定されているのだそう。

そして、断熱と美しさの両方を重視する姿勢が玄関ドアに見られます。

元々の鋼製ドアの内側にスライド式の木製断熱ドアが付いており、木製ドアを閉じると鋼製ドアが隠される仕組みです。

熱が伝わりやすい鋼製ドアは断熱上、大きな弱点になってしまいます。しかし、マンションの玄関ドアは『共用部』になるためドア自体の交換は難しい…。

その問題を解決するために、このように二重のドアが設けられました。

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ちなみにマンションにしては床の位置が高いのもこの部屋の特徴。その理由は浴室の位置を変えたことにあります。排水管の長さが以前よりも伸びてしまったため、床の高さを上げて排水勾配を確保する必要が出ました。

それにより、戸建てのような玄関に仕上がっています。

 

風の通り道に浴室をレイアウト

位置を変えた浴室がこちらです。

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なんと、玄関の室内窓を開けると、その中に浴室があります。そして、浴室の向こう側には脱衣室、キッチン、主室が続いており、さらに窓の外の景色まで見通すことができます。

逆から見たところがこちらの写真。

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コンクリートの梁で少し天井が下がっている部分がありますが、海外のホテルのようなレインシャワー付き。

ユニットバスではなくハーフユニットバス。壁はタイルで、天井は檜の小幅板風羽目板で仕上げられているところにもこだわりが感じられます。

なぜ浴室をこの場所に配置したのでしょうか?設計をした山下さんに聞いてみました。

「以前は風が抜けにくい間取りだったのですが、日々の生活で風を感じられるようにしたいと思いました。そのためには浴室の場所を変える必要があったんです。ただ、位置を変えても普通に浴室をつくってしまうと風が抜けないので、両側に開口部をつくって風がよく通るようにしました。ここ以外にも、中央の廊下とウォークインクローゼットがある動線も風の通り道になっています。主室に本棚を設けていますが、ここも風が通るように背板のない本棚にしています」(山下さん)。

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オーガニックスタジオ新潟が得意とする造作キッチン

脱衣所の引き戸を開けると、その先はキッチン。

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オークの面材とステンレス天板を組み合わせた上品なキッチンは、オーガニックスタジオ新潟が得意とする造作キッチン。床材専門店and wood(新潟市中央区)が扱っているヨーロピアンオークの床とも相性よくまとまっています。

シンクとコンロが分かれたセパレート型のキッチンで、ゆったりとした作業スペースが確保されています。

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壁は流行り廃りのない白いスクエアタイル。シンク隣にはAEGの食洗機がビルトイン。

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冷蔵庫や調理家電を置く場所は主室側からは見えにくいですが、使いやすい場所にレイアウト。そんなさり気ない工夫に美意識が感じられます。

 

繊細な小幅板風羽目板と北欧デザインの照明が融合

一度玄関に戻り、今度は中央の廊下をのぞいてみましょう。

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グレージュの壁は珪藻土の塗り壁で、ルイスポールセンの照明『PHランプ』が意外にも和の趣ある空間に似合います。

そして、長手方向に張られた天井の小幅板風羽目板が空間の奥行感を際立たせています。

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廊下は内法で幅1,200mmと余裕のある広さ。木造住宅では壁芯で3尺(910mm)幅の廊下が多いので、それと比べると1.5倍ほどのゆとりがあります。本棚に置かれた蔵書も気持ちよく選ぶことができそうです。

本棚の向かいの引き戸の中はトイレ。

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配管の都合からトイレの位置は以前と同じ場所にしていますが、中は造作家具やタイルでオーガニックスタジオ新潟の新築戸建て同様に丁寧に造り込まれています。味わいのある手洗いボウルは新潟市南区の陶芸作家・後藤奈々さんが制作した焼き物なのだそう。

少し戻って廊下のすぐ右手の引き戸を開けると洗面脱衣室につながります。

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その逆の廊下左側は寝室。

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北欧の建築を彷彿させるリブ状の壁は『こなみいた』という名前の桧の羽目板。その上に設置されている、欧州赤松でつくられた北欧デザインの照明『ヤコブソンランプ』が調和しています。

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窓辺には棚を造作して出窓風に。部屋の長手方向にベッドを置くと、棚やカウンター部分がスマホや眼鏡などの小物を置くのに重宝します。

 

カビのリスクを抑える、風通しのいいプラン

寝室の隣はウォークスルークローゼット。

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このクローゼットを通り抜けると、主室の手前の廊下へと至ります。

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通り抜けられる動線が便利というのもありますが、より重要なのは、先ほどの山下さんの説明にもあった、風が通り抜けることでしょう。

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主室から玄関方面を見ると、3本の動線が奥行方向に伸びており、それらがすべて風の通り道になっていることが分かります。

鉄筋コンクリート造のマンションは、その気密性の高さから空気の滞留が起こりやすく、カビが発生しやすいといわれています。

そこで、いかに空気を同じ場所に留めないかが重要になりますが、山下さんの考案したプランは、空気が滞留しやすいクローゼットや浴室までを風の通り道にしています。

東西両側の窓を開ければ、爽やかな空気が室内を通り抜けていくことでしょう。空気がよどまない住まいというのは、風水的にも良さそうです。

 

木製窓に造作家具。一切の妥協を排除

主室は、LDKと和室の2室に分かれていたところを一体にして、半分を畳スペースにしています。

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玄関からキッチンまでの天井は小幅板風羽目板でしたが、主室の天井は、オーガニックスタジオ新潟の戸建て住宅でよく使われる栂(ツガ)の羽目板仕上げ。板を張る方向もここで奥行方向から間口方向に切り替わります。

ビニルクロスやシート張りの床などの石油由来の新建材は見当たらず、すべてが豊かな質感を持つ自然素材。その徹底した素材へのこだわりが、品格ある美しい空間をつくり出しています。

ところで、マンションにおける断熱改修といえば、既存の窓に内窓を追加する方法が一般的です。その窓周りをより美しく仕上げるため、山下さんが考案したのが木製の内窓でした。

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既存のアルミサッシの存在感をやわらげ、木の温かみをプラス。さらに、使わない時には壁の中にすっきりと隠すことができます。

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木製の内窓の手前には、障子も設けられており、障子まで閉じるとさらに断熱性能が向上する仕組みです。

木製窓を閉じた状態もきれいですが、障子を閉めると窓周りのノイズが完全に消え去り、障子ならではのやわらかい光が空間全体に回ります。

そして、このマンションを旅館のように感じさせる大きな要素は、やはりこの畳スペースでしょう。

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ただ畳を敷くだけではなく、壁側に家具を造作したことで落ち着いた空間に仕上がっています。

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TVボードの引き戸にはラタンを張り軽やかに。エアコンは本体を格子で目隠しするだけでなく、右手のふかし壁の中に配管を隠す工夫も見られます。さらに、エアコン左手には吊り戸を造作してまとまり感をつくり出しています。

そもそも、鉄筋コンクリート造のマンションの多くは太い梁が空間の内側に露出する構造のため、意外と空間が凸凹してしまうもの。それを個性と捉え、あえてコンクリート剝き出しの梁を現す表現もありますが、この部屋の主室では、造作家具を組み合わせることで目立たないようにしています。

実は吊り戸の内部には梁があるのですが、扉を閉じているとそこに梁があるようには見えません。

また、キッチンの真上を見ると、塗り壁で美しく仕上げられ、ダウンライトが取り付けられた下がり天井が見られます。

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実はここにも太い梁が隠れていますが、空間を区切るアクセントに見えます。

さらに、上部の空間にはライン照明が隠されており、光源が見えない間接照明として夜には一層くつろいだ雰囲気を演出します。

 

屋久島地杉のウッドデッキで憩う

そして、ベランダはそのまま使用するのではなく、ウッドデッキにしてはだしでも上がれる居心地のいい空間にしています。

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樹種はハードウッドではなく屋久島地杉を使用。屋久島地杉は、杉ならではのやわらかい足触りでありながら、油分が多く含まれ耐久性に優れているのだそう。

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共有部の壁が少々無機質さを感じさせますが、植物を置いて壁の存在を目立たなくすることで、リラックスムードあふれる空間に仕上がりそうです。

 

断熱の監修はマンション改修の経験を持つ山田さんが担当

オーガニックスタジオ新潟が大事にしている断熱に関しては、壁や床にボード系の断熱材を施工することで断熱性能を高めています。その指揮を取っていたのは同社の一級建築士・山田剛さん。

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オーガニックスタジオ新潟 設計部主任 山田剛さん(画像はオーガニックスタジオ新潟 公式HPより)

普段は設計業務を行っていますが、今回は現場監督としてプロジェクトに加わっていました。というのも、山田さんはオーガニックスタジオ新潟に入社する以前、リフォーム会社でマンションリノベーションを経験していたから。

会社としては初めてのマンションリノベーションでしたが、実はノウハウを持つメンバーが社内にいたのですね!

 

木造住宅とは異なる表現ができるマンションリノベーション

最後にリノベーションを終えた感想を山下さんに伺いました。

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「マンションはフレームが決まっていて、木造軸組工法の住宅と比べると、やれることが限られています。そのため、方向性を決めてしまえばあまり悩むことはありません。ただ、解体してみないと実際の梁の大きさなどが分からないので、解体前に作成していた図面の寸法はあくまで参考寸法にしかならないという点はマンションの特徴だと思います。

あと、施工に関しては資材置き場が確保できないことや、水道が使えないことなどが戸建てにはない難しさでした。今回塗り壁や洗い出し仕上げなど、水を使う湿式工法がかなり使われていますので、職人さんは大変だったと思います。後日お酒を飲みながら改めて反省会をしたいところですね。

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それから、工事に入る前に、お施主さんと一緒に首都圏でマンションリノベーションの実績を多く持つ建築会社さんの見学会に行く機会があり、そこで学ばせて頂いたことも今回の設計や工事に生きています。

マンションリノベーションは初めてでしたが、とても勉強になりましたし楽しかったです。木造住宅と共通している部分もありますが、違う引き出しを求められる感じでした。

空間が限られているので、間仕切りは壁よりも造作家具で仕切ることが多く、この考え方は木造住宅にも生かせると思います。マンションリノベーションはオガスタでいつもやっている木造住宅とは違うボキャブラリーを使いやすいので、今後コンクリートを剝き出しにするデザインなどもやってみたいですね」。

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初めてのマンションリノベーションとは思えない程の非常に手の込んだ空間。

今回の部屋の用途は住宅ですが、新潟駅の徒歩圏内につくられたこの美しい空間は、旅行者にとっても興味をそそられるものなのではないでしょうか?

例えば外国から日本を訪れた旅行者が新潟に立ち寄ります。新潟駅に近い場所に泊まりたいけれど、一般的なホテルよりもっと日本らしい空間はないだろうか…。そう思った時にこのような部屋を民泊サイトで見つけたら、泊まってみたくなるのではないでしょうか?

住宅以外の用途を見越して、積極的に投資するという考え方もあるかもしれませんね。

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固定観念にとらわれない自然素材あふれるマンションリノベーション。

新潟市で今後の住まいについて検討している方は、ぜひ選択肢に入れてみてはいかがでしょうか?

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取材協力/オーガニックスタジオ新潟株式会社 代表 相模稔さん、一級建築士事務所ma 山下真さん

写真・文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。