【加藤淳設計事務所×文京田中建設】四季の移ろいを感じさせる、庭のある住まい

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。

住宅街の角地に立つ、シャープなフォルムの家

新潟市東区の高台に広がる住宅街。Kさん夫婦はその中で売りに出されていた南東角地の土地を購入し家を建てた。数十年前に開発されたこの分譲地は新陳代謝の真っ最中で、古い家と新しい家が入り混じっている。

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アイボリーカラーの金属サイディングに包まれた住まいは2階建てだが、高さが抑えられており威圧感がない。それでありながら、シンプルでシャープなフォルムは凛として美しく、独特の存在感を放っている。

東側は木のフェンスによって通りからの視線が遮られており、中の庭からはアオダモやカエデなどの木々が顔を出している。

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この庭は室内からどのように見えるのだろうか?ふとそんなことが気になってしまう外観だ。

「僕は大学時代から20代後半までを東京で過ごし、それから新潟市に戻ってきたんです。東京で家を持つならマンションだけど、新潟なら戸建てがいい。そんなことを考えながらも、この家を建てるまでの15年程の間に賃貸マンションや貸家を3軒住み替えてきました。そして、その経験から、新しく建てる家をどうしたいか考えることができました」とご主人は話す。

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「貸家も賃貸マンションも、夏暑く冬寒いことが大きな悩みでした。それから、日当たりが悪い家も嫌だし、洗濯物をリビングに干すのも嫌。家事の負担はなるべく少なくしたい…。これまで住んできた賃貸のような不便さがない家にしたいと思いました」と奥様。

設計を依頼したのは加藤淳設計事務所。別々に情報収集をしていたKさん夫婦がどこに相談に行きたいかを話し合うと、偶然にも一致したという。

「僕は住宅情報誌に載っていた『新発田猿橋の家』を見て、シュッとした世界観がいいなあと思いました。その家は敷地に対して斜めに立っているんですが、土地の性質や施主さんの要望をすべて勘案して斜めになったという理由があり、そういう設計の考え方にも共感しましたね。

加藤さん以外に、別の住宅会社さんにも設計をして頂いたのですが、提案としては少し物足りなさを感じました。一方、加藤さんは方位だけでメインの窓の位置を決めるのではなく、どこに抜けがあるのかを考えた上で窓や間取りを決める。それから加藤さんは最初に『やりたいことを全部出してほしい』と言って、僕たちの要望を引き出した上でバランスを考えて設計してくださって。その結果、とても満足できる家ができ上がりました」とご主人。

 

家事の時短を叶える洗濯&収納動線

K邸の玄関ドアを開けると正面には真っすぐ廊下が伸びており、玄関ホールに造られた洗面台を斜光が照らしている。艶のない落ち着いた質感の床は桐の無垢フローリングで、そのやわらかい踏み心地は体が軽くなったような心持ちにさせてくれる。

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ホールの右手はリビング・ダイニング。一方、廊下をまっすぐ進めばサニタリーやファミリークロークにつながり、キッチンの背面へと回り込むこともできる。

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空間にしっくりとなじむ造作洗面台は、木製の天板に白い洗面ボウルを置いたシンプルなデザイン。水がかかりやすい壁や床はタイルで美しく仕上げられている。

その洗面スペースを通り過ぎてまっすぐ進むと、2畳のサニタリーに辿り着く。

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こちらは2本の物干し竿で洗濯物を干せるランドリー兼脱衣室。引き違い窓の外には格子で囲まれた外物干しも設けられている。

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「外物干しはよく使っています。ここに干しておくと洗濯物がよく乾きますし、窓を開けると家の中に風が通って気持ちいいですね」(奥様)。

乾いたタオル類はそのままサニタリーの棚に、洋服類は隣のファミリークロークに収納する。ワイシャツやTシャツはたたまずにハンガーに掛けたままにしておくことで、家事の時短もできているという。

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石と草木の庭を眺めるリビング・ダイニング

一度玄関ホールに戻り、そこからリビングを見たところがこちらの写真。

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少し光が抑えられた玄関ホールの先に、穏やかな光に包まれた空間が広がっている。

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中央には円形のダイニングテーブルが置かれ、その上にはデンマークの照明ブランドLE KLINT(レ・クリント)の折り紙のようなデザインのペンダントライトが吊り下げられている。

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キッチンはリビング・ダイニングと同じ空間につくられることが多いものだが、K邸はキッチンを建具で仕切って明確に分離できる間取りになっている。

K邸のリビング・ダイニングから独特の静けさが感じられるのは、雑然としがちなキッチンが切り離されているからだ。

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K邸のダイニングチェアやソファに腰を掛けると、視線は自ずと敷地の北東角につくられた庭へと向かっていく。木塀で囲まれた庭は石が敷き詰められ、その周りにはアオダモ、カエデ、ツバキ、ツリバナ、ナツハゼなど多様な木が植えられており、その複雑味が実際の面積以上の広がりを感じさせる。

「プライバシーに配慮しながら南北2つの庭を楽しめるプランを提案させて頂きました。窓を斜めにしている理由は、庭を広く取りたかったのと、ソファだけでなくダイニングや和室からも庭を楽しめるようにしたかったからです」と設計をした加藤淳さんは説明する。

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「この庭は新潟市南区にあるとみい造景さんに造って頂きました。インスタグラムでとみい造景さんを見つけて、加藤さんに連絡を取って頂いたんです。どのような庭にするかはほぼお任せでしたね。雨の日の雰囲気もいいですし、夜もいいですよ。一人掛けの椅子に座ってよくぼーっと眺めています」とご主人。

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「庭の手入れは難しいのかなと思っていましたけど、雑草でも違和感がなければそのままにしています。うっそうとしていても整っているように見える庭ですね」(奥様)。

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庭を正面に眺められるソファは、奥の南東角に配されている。

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ソファの上に見える東側の窓の向こうに道路があり、その奥には企業の広い駐車場が広がっている。窓の高さや大きさは、通りを歩く人からの視線を遮りながら景色を採り込めるように、慎重に検討されたという。

「抜けを絶妙なところにつくって頂きました。外の視線が気にならないので日中はプリーツスクリーンを全開にしておけます」とご主人。

コーナー窓の東面はFIX窓だが、南面は横すべり出し窓。この窓と、建物の対角にあるサニタリーの窓を開ければ、心地いい風が家の中を通り抜けていく。

 

不規則性を採り入れた、複雑味のある空間

ソファの隣は6畳弱の和室。日中はリビングの一角の畳スペースだが、建具を閉じれば寝室として使える。天井まで高さがある建具は壁のラインまで引き込めるため、開放時にはほとんど目立たない。

(↑中央の矢印を左右にスライドすると、建具を開閉した状態を比較できる。)

朝起きたら布団をサッと片づけられるように、しっかり奥行がある吊り収納も確保されている。

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少し籠り感のある和室から眺める庭も美しい。

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単純な長方形の中にダイニング・リビング・和室がゾーニングされているのではなく、長方形のダイニングと和室、台形のリビングの3つが絡み合うことで多様な表情の空間がつくられている。

構造的に見ても、ダイニングは総二階の1階部分だが、リビングと和室はそこから突き出した下屋という違いがある。

それは、和室のコーナーにある柱や、天井高の違い、耐力壁の位置にも表れており、3つの空間が一つの室でありながら独立性を感じさせる所以となっている。

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そして、どこにいても視線は部屋の中央に向かうのでもなく、テレビに向かうのでもなく、コーナーにある庭へと導かれる。

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木造軸組工法の住宅は3尺×3尺のグリッドで間取りや構造が検討されることが多く、それに忠実な長方形や正方形はさまざまな面で合理的だ。しかし、そのルールに忠実である程、プランは均質化し建築の自由度が制限されるともいえる。

K邸では3尺×3尺のグリッドに従った長方形を基本としながらも、リビング・ダイニング・和室においては、あえて不規則性を採り入れることによって、一つの空間に多様性を生み出している。

不規則な形は構造的なバランスが悪くなってしまいそうだが、しっかり許容応力度計算がなされており、耐震等級は最高等級の3をクリアしている。

加藤さんが全棟で実施している許容応力度計算は、高い安全性を担保するのはもちろんのこと、建築の自由度を高める上でも大きな意味を持っている。

 

日本酒をディスプレーする飾り棚も

奥行250~350mm程度の使いやすい収納が散りばめられているのもK邸の特徴。

例えば、ダイニングの一角に設けられた棚は、壁に埋め込むように空間と一体に造られており圧迫感がない。

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床置きエアコンの設置場所でもあり、本や雑貨を置くスペースでもある。床に近い場所は、ご主人が希望した日本酒のディスプレーコーナーになっている。

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庭を眺める独立型キッチン

ダイニングの隣に配されたキッチンは5畳で、サニタリー側の廊下からも入れる設計だ。

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独立型のキッチンだが閉塞感はなく、正面のFIX窓から植栽を眺めながらすがすがしい気持ちで料理ができる。

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「ダイニングと分かれているので、中学生の娘と一緒にこそこそ話をしながら料理をするのも楽しいですね」(奥様)。

ちなみに空間としては独立しているものの、建具を開ければダイニングはすぐ隣。食事の準備や片付けはとてもスムーズだ。

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庭の手入れが新たな楽しみに

「私は寒い家が嫌だったので、はじめは床暖房を希望していたんですが、加藤さんから『桐の床なら冷たくならないので大丈夫ですよ』とアドバイスを頂き、桐を採用しました。住んでみると、冬は温かく、夏はさっぱりしていて新潟の気候に合っていますね。桐の経年変化も楽しみです。

それから、この家に住んでから夫がよく家事をするようになりましたし、家の手入れもよくしてくれます」(奥様)。

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「家事動線がよくて、何も考えずにシステマチックに家事ができるんですよね。あと、この家に住んでから毎日が楽しいです。水やりをしたり、雑草を抜いたり、庭の手入れをする習慣もできましたし、少し離れたところまで歩いて行って、遠くから家を眺めるのも好きです(笑)。角地なので見る角度によって建物の見え方が変わるのが面白いんですよね。

愛着があるから、家で過ごす時間も増えました。2階のDJブースの窓から外を眺めて過ごす時間も気に入っています」(ご主人)。

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中学生の娘さんも「冬暖かくて夏涼しいのが最高ですね。遊びに来る友達にも好評です」と新しい住まいへの満足感を教えてくれた。

賃貸住宅で過ごした期間に思い描いた理想の住まいのイメージは、考え方を深く共感できる建築士との出会いによって具現化された。

日が沈むとライトアップされた緑や石がしっとりとした表情に変化する。

そんな穏やかな風景を眺めながら日本酒を一献。野山を切り取ってきたような庭が1日の締めくくりに粋な時間を演出してくれる。

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K邸
新潟市東区
延床面積 99.91㎡(30.15坪)
1F 68.03㎡(20.53坪) 2F 31.88㎡ (9.62坪)
竣工年月 2023年4月
設計 株式会社加藤淳設計事務所
施工 文京田中建設株式会社
耐震等級 3(許容応力度計算)

(写真・文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。