【エスネルデザイン×梶原建築】富士山を望むHEAT20G3グレードの家

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。

日照時間が長い山梨県甲斐市で新築

甲府盆地の北部に位置する甲斐市は、甲府市に次いで山梨県人口第2の都市。北部にある標高1,700m級の山々の裾野に町が広がっている。

Iさん夫婦が家を建てたのは、甲斐市旧敷島町の新しい分譲地。南西角地の日当たりのいい土地で、日本トップクラスの日照時間を誇る地域特性もあり、太陽の恵みをたっぷりと享受できる。

また、空気が澄んでいる日には、南東方向に富士山を望めるのも魅力だ。

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設計は新潟県柏崎市の設計事務所、住宅設計エスネルデザインが手掛け、施工は山梨県富士吉田市の工務店、梶原建築(かじはらけんちく)が担った。

 

エスネルデザイン&梶原建築との出会い

Iさん夫婦の自邸が完成したのは2023年7月。家づくりを検討し始めたのはその6年前の2017年だったという。

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「一番最初の頃は住宅に関する知識やこだわりがなかったのですが、地元の工務店の家づくり勉強会で、“高気密高断熱”という言葉を聞いてから真剣に考えるようになりました。

はじめは高気密高断熱で定評があるハウスメーカーを見ていたんですが、家の雰囲気にあまり共感できなくて…。その後に自然素材を使った家づくりを得意とする工務店巡りを始めました。でも、その条件で高気密高断熱住宅を手掛ける会社がなかなか見つけられずにいました。

ようやくいい工務店さんに出会えたのですが、その工務店さんと連携して設計を行っていた建築家の方の意向と私たちの要望が合わず、そこでの家づくりも断念。

そんな時に検索をして見つけたのがエスネルデザインの村松さんでした。高気密高断熱住宅に特化している建築士の方で、設計事務所だから遠方でも受けてくれるかもしれない…。そう思いメールをして、後日新潟まで相談に出かけました」とご主人。

「エスネルデザイン村松さんのホームページを見ていて、住む人のことをよく考えているのが伝わってきましたし、電話で話した時の受け答えからも優しい人柄が伝わってきて安心できました」と奥様。

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そうしてエスネルデザインとの打ち合わせが始まり、UA値0.23(HEAT20G3グレード)、耐震等級3(許容応力度計算)の家の図面が仕上がっていった。

「初めての山梨県での設計でした。僕は窓から自然の景色を眺めるのがとても好きなのですが『とうとう富士山を眺める家を設計させてもらえる時が来たか。』と感慨深かったです」(村松さん)。

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住宅設計エスネルデザイン・村松悠一さん。新潟県柏崎市出身・在住の一級建築士。新潟県柏崎市に事務所を持つ。2018年に一級建築士事務所「住宅設計エスネルデザイン」設立。「超高断熱の小さな家」を提唱している。床下の天井高を約1.4m確保する高基礎が特徴の一つ。

その後、工務店選びの段階になり、梶原建築の梶原高一さんに相談をしたのは、SNSを通して高気密高断熱住宅の実績があることを知っていたからだという。

「会ってみると、あいさつの感じからすごく良くて、誠実そうな方だなと思いました。設計者へのリスペクトがあるのもいいなと思いました」(ご主人)。

「私はすごく前向きでプラスの気がある方だと感じましたね」(奥様)。

そうして2017年に始まったIさん夫婦の家づくり計画は、紆余曲折を経て2023年1月に着工に漕ぎ着けた。

「エスネルデザインの村松さんとは、新潟の“住学”という建築系コミュニティに参加させてもらった縁で以前からつながりがあったんですよ。村松さんが設計する家は高基礎が特徴で、僕が普段やる仕様ではないのですが、丁寧に資料をもらえたので理解しやすかったです。

現場が動いてから不明点が出てきた時はその都度LINEで連絡をしていましたが、返信が早いので非常にやりやすかったですね。窓周りの納まりなど、勉強させて頂くことも多くありました。

工事においては設計者の図面通りに正確につくるのはもちろんですが、いかに無駄のない段取りで進めていくかを重視しています」(梶原さん)。

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梶原建築代表・梶原高一さん。山梨県富士吉田市の工務店・梶原建築の3代目、一級建築士。耐震等級3(許容応力度計算)、UA値0.28以下(HEAT20G2グレード)、C値0.3以下を標準仕様とする高性能住宅の建築を行っている。新築は年間1~2棟、大小のリフォーム・リノベーションを手掛けている。家づくりで特に重視しているのは地盤・構造・耐久性・断熱の4点。

 

杉板外壁に包まれた切妻屋根の家

家づくり計画を始めて6年の月日を経てようやく完成したI邸。暮らし始めて1年と少し経過した2024年9月上旬に伺った。

こちらが南東側から見た外観。

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4.5間×3.25間の総二階がベースで、入口がある西側に下屋が付いたシンプルな構成だ。屋根は雨漏りリスクが最も少ないとされる切妻屋根で、外壁は経年変化はするものの機能的には長期間メンテナンスがいらない杉板で仕上げられている。

高さ約1mの基礎や、眺望を楽しむための大きな窓もエスネルデザインの家の特徴的なデザインだ。

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屋根は左右対称ではなくへの字型。棟木がちょうど主要な耐力壁のラインに乗るように構造から導き出されている。

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ルーバーで囲われた下屋も村松さんがよく使う設計手法の一つ。外部からの視線や強い日差しを遮ることで、ポーチを居心地のいい居場所に仕立て上げている。

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床下に広がる巨大な収納スペース

玄関ドアを開けると右手にはオープンな靴棚。正面にはお子様たちの保育園の道具が詰まったキャビネットがあり、その上は季節のしつらえができるスペースになっている。

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玄関内には上着を掛けられるバーと有孔ボードがあり、コンパクトな空間を十二分に活用できるようにつくり込まれている。

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そして、ユニークなのが床下へと下りていく階段だ。

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床下空間は高さ1.4mあり、巨大な収納スペースとして使うことができる。

「私たちは片づけるのが苦手。でもこの床下空間があるから荷物をたっぷり収納できていて、1階2階にあまり物を置かずに生活できています」(奥様)。

「僕は仕事柄、夜勤明けに帰ってきて日中家で眠ることがあります。そんな時に床下空間に布団を敷いて寝たりもするんですが、穴倉にいるみたいでよく眠れるんですよ」とご主人。

構造計算された基礎は、構造区画に沿って立ち上がり部分が最小限に抑えられているため、空気が籠もらずよく通り抜ける。特に冬場は床下エアコンの暖気が最初に行き渡る場所になるため、温熱環境としても心地いい場所だ。

 

杉の温もりあふれるLDK

玄関ホールに上がるとすぐ右手が18畳のLDK。

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床はやわらかい足触りの杉の無垢フローリング。キッチン前の腰壁や壁面につくられた収納も杉の幅はぎ材で統一され、木のぬくもりがあふれている。

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キッチンはウッドワンのスイージー。面材にパインの天然木が使われており、造作キッチンのように空間に溶け込んでいる。

「私は家事の中で食器を洗う時間が一番苦手なので、ボッシュの食洗機がとても役に立っています。キッチンとキャビネットの間は1mとってあるので動きやすいですね」(奥様)。

キッチンの背面にはウッドワンのキャビネットとオープンな造作棚。棚には食品ストックがたっぷり入っているが、白いポリエチレンケースですっきりと整えられている。

 

冬は朝の3時間だけ暖房。それ以外は無暖房で

キッチンに立った時に見えるのがこちらの景色。

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正面には丸いダイニングテーブル、その奥には明るい畳リビングが見える。

コーナー部分に設けられた大きな窓は、1カ所を除いてすべてがFIX窓。それゆえに枠がすっきりとしており、椅子に腰かければ大きな空が窓いっぱいに広がる。

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窓の外には日射遮蔽用の庇が付いているが、それでも光が強い場合はウッドブラインドで調整する仕組みだ。

(↑中央の矢印を左右にスライドすると、ブラインドを開閉した状態を比較できる。)

太陽高度に合わせてブラインドのスラットの角度を調整すれば、眺望と日射遮蔽の両方を得ることができる。

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「この家に住んで、冬に寒いと感じることがありません。冬は早朝4時頃~7時頃の3時間ほどだけ床下エアコンの暖房を入れますが、それ以外の時間帯は無暖房で過ごせます。日中ブラインドを全開にして日射を入れておくと、夕方帰ってきたときの室温が25℃くらいあるんですよ。夜寝る頃になっても23℃くらいまでしか下がらないんです。大きい窓が冬場は特にプラスに働いていますね。夏場は2階のエアコンの弱冷房で涼しく過ごせます」(ご主人)。

「私は冷え性なんですが、この家に住んでから冬に家の中で靴下を履かなくなりました。以前は上下ヒートテックを着た上で毛布のようなパジャマを着ていましたが、今は綿のズボンで過ごせます。家の中が快適で外気温が分からなくなり、外出時に玄関ドアを開けた時に外の寒さに驚くことがよくあります」(奥様)。

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大きな吹き抜けによって家全体が大きなワンルームのようになっており、外観のイメージ以上に家の中は広々と感じられる。シンプルな造りのため、エアコンの冷気や暖気が家の隅々へと行き渡り、温度ムラができにくいのもI邸の特徴だ。

円形のダイニングテーブルとダイニングチェアは小泉誠氏がデザインしたもの。紺色のソファはデンマークGETAMA社のヴィンテージで、デザイナーはハンス・J・ウェグナー氏。

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「家具は気に入ったものを少しだけ置くようにしました。直径120cmの円テーブルはセンター脚なので6人でも楽に座れるのがいいですね」(ご主人)。

 

洗面脱衣室にはクローゼットの機能も

リビングのソファの裏手には洗面脱衣室と浴室が配されている。

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約4.4畳の洗面脱衣室は村松さんが「マルチWIC」と呼ぶ空間で、洗面と脱衣に加え、洗濯・物干し・収納の機能が集約されている。冬場の暖房に使用する「床下エアコン」の設置スペースにもなっている。

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「子どもたちの服はすべてこの空間に収納しています。それ以外に私たち大人の部屋着やよく着る服もここにまとめています。乾いた洗濯物を持ってあちこち歩き回らなくていいので楽ですね」(奥様)。

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洗面台も棚と同様に杉の幅はぎ材を使った造作で、空間にしっくりと溶け込んでいる。

 

大きな吹き抜けで上下階が一体に

2階の勾配天井にも杉の幅はぎ材が使われており、上品なストライプがリズムをつくり出している。

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廊下沿いにある部屋は7.5畳の子ども部屋。真ん中に間仕切りをつくれば、3.75畳×2室になるように入口が2つ設けられている。

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奥行2,275mmの空間はベッドの納まりもいい。「ロフトベッドを置いたことで子どもたちそれぞれのスペースができ、よくベッドの下で遊ぶようになりました」(奥様)。

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2階中ほどはホールとトイレ。奥には6畳の寝室と3.75畳のウォークインクローゼットがある。

I邸のようにダクトを使わない全館空調においては、建具を開放しておくことが望ましいが、すべて引き戸が使われているため開き戸よりも開け放しておきやすい。

 

スペックや数字だけではない魅力

家づくりを検討し始めてから6年の歳月を経て完成したI邸。建築中のことをIさん夫婦はこう振り返る。

「以前住んでいたアパートが近くだったので、建築中はほぼ毎朝通園・通勤時に現場に寄っていて、梶原さんに見送って頂くのがルーティーンでした。子どもたちも梶原さんに会うのを楽しみにしていたので、家が完成してから『梶原ロス』になっていました(笑)」(奥様)。

「早く完成して欲しいけど、家づくりが終わってしまうのは寂しい…。そんな気持ちでしたね。引き渡しの日にみんなで写真を撮った時には込み上げてくるものがありました。」(ご主人)。

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「僕も同じですね(笑)。僕は建築中にお客さんと接触するのがとても大事だと思っています。特に完成したら見えなくなってしまう構造や断熱などの部分は、建築中にぜひ見てもらいたいですから」(梶原さん)。

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夕方になると、雲に隠れていた富士山がうっすらと姿を見せた。

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「家づくりでは、はじめはスペックを気にしていました。でも、そのための専門的な知識や技術は前提としてあるべきで、その上で人柄や相性がすごく大事なんだな…と途中で気づきました。村松さんと梶原さんのおかげで家づくりを進めることができましたし、スペックや数字では表せない部分でもとても救われました」(ご主人)。

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住宅は高額な買い物であり、多くの人にとって長く使っていくもの。しかしながら、建築の工程の多くは工業化されておらず、現場で人がつくり上げていく。それゆえに、設計や工事に携わる人の人間性が大きな意味を持つ。

設計を担ったエスネルデザイン・村松悠一さんと、施工を担った梶原建築・梶原高一さんは、どちらも一人で事業を行っている小さな事業者だ。だからこそ、各々が持つ理念や技術が100%薄まることなく発揮されるという強さがある。

「工事中から愛着が深まっていった我が家が今後経年変化で味わいが深まっていくのが楽しみです。自分でも手直ししながら暮らしていきたいですね」(ご主人)。

長い検討期間をかけてようやく完成した理想の住まい。共感・信頼できる人たちと一緒につくり上げたという満足感があり、それが深い愛着につながっている。

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I邸
山梨県甲斐市
延床面積 89.11㎡(26.9坪)
竣工年月 2023年7月
UA値=0.23
耐震等級3(許容応力度計算)
設計 住宅設計エスネルデザイン
施工 梶原建築
(写真・文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平

 

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。