鈴木 亮平
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株式会社石田伸一建築事務所(SIA inc.)と株式会社坂詰製材所の2社が協働してつくり出した新しい住宅ブランド『素木(SIRAKI)』。そのモデルハウスが2024年9月に長岡市琴平に完成しました。
こちらは既にオーナーが決まっている期間限定のモデルハウスで、公開期間は2024年9月14日(土)~11月24日(日)。
予約制になっていますので、見学希望の方は素木(SIRAKI)の公式WEBサイト(本記事の最後に掲載)からご予約ください。
「素のままの木」と書いてシラキ。どのような特徴を持ったモデルハウスなのでしょうか?
SIAの代表・石田伸一さんと、株式会社坂詰製材所の専務取締役・桐生透さんにお話を伺いました。
『地材地建』の家づくりを当たり前のものに
新潟市中央区女池神明に拠点を置くSIAは、石田伸一さんが2018年に設立した設計事務所。その後石田伸一さんは、2020年11月に製材を行う株式会社UC Factory(新潟県十日町市)を、2024年1月に大工集団である株式会社MtRiverSea(新潟市中央区)を設立しました。
現在は設計事務所業務に留まらず、伐採士が木を切り出し、製材士が製材し、建築士が設計し、大工が施工するところまで一貫で建築をする体制を整えています。
一方、新潟県阿賀野市に本社を持つ株式会社坂詰製材所は、1963年創業の製材所。木の伐採から製材、乾燥、プレカット、木工加工、建物のプランニングや建築に至るまで、木にまつわる工程をすべて自社で行うことができます。
ではお話を聞いてみましょう。
――木材の流通の世界では、林業を川上、製材業を川中、建築業を川下と、川に例えられます。SIAさんと坂詰製材所さんは、川上・川中・川下を一気通貫でできるという共通点がありますが、どのようにして今回のコラボレーションにつながったのでしょうか?
桐生さん 地元の木を使って地元の建築をする『地材地建』の家づくりを新潟県内に広めていきたいという思いがあり、石田さんに相談をしたことが始まりです。そのために新しい住宅ブランドをつくりたいと思い、コンセプト設計からブランドイメージづくり、実棟の設計までをSIAさんに依頼をすることにしました。
石田さん 僕たちSIAも坂詰製材所さんも川上・川中・川下をやっている会社ですが、そういう会社は新潟県内には他にありません。会社規模は僕たちの方が全然小さいですが、林業の6次産業化(川上・川中・川下を融合させること)をやっているうちと坂詰製材所さんが手を取り合って、地材地建を当たり前の考え方にしていくことを目標に今回のコラボが始まりました。
均整の取れた3間×5間のモデルハウス
――地材地建を広めることを目標に素木(SIRAKI)がつくられたんですね。どのような特徴がありますか?
石田さん 「手が届く自然素材の家」というのがコンセプトの一つです。そのために、地元の木を使うこと、ありのままを使うこと、素直に設計することを重視しています。
ちなみに素木(SIRAKI)は規格住宅ではないですが、3間×5間の平面を持つこのモデルハウスは規格化していこうと考えています。3間×5間は絶妙な大きさですし、構造区画もきれい。土地も短辺が7mくらいあればはまります。個人的に好きなプランなんです。
家の真ん中に6畳の吹き抜けを設けており、エアコンの暖気や冷気がムラなく隅々まで行き渡るのもこのプランの特長ですね。
今回この3間×5間プランにしたのは、土地とお客様の要望の両方に合致したからですね。
土地に対して素直に建てることを大事にしているので、土地を見て2階LDKにすることもありますし、平屋を提案することもあります。
それから「大黒柱のある家」というのもコンセプトの一つです。このモデルハウスでは杉の丸柱を入れていますが、素木(SIRAKI)では丸柱か角柱の大黒柱を見えるところに施工していきます。
県産材を使った新しい面材を開発
――このモデルハウスはすごく形が整ったバランスのいい佇まいですね。素木(SIRAKI)の特徴の一つ「地元の木を使うこと」についてですが、どれくらい地元の木が使われていますか?
石田さん 土台に県外産のヒノキを使っていますが、それ以外の木はすべて新潟県産です。構造材、羽柄材、合板、どんとパネル、内装材、外装材などに県産杉を使用しています。
桐生さん 素木(SIRAKI)で使っている杉はほとんどが当社、坂詰製材所が製造している材料で、新潟県内でも阿賀町や阿賀野市、長岡市の栃尾地区で採れたものですね。内装の仕上げの一部に石田さんが代表を務めるUC FACTORYのブナ合板を使っていて、それは基材が魚沼杉で、表面は魚沼のブナが使われています。
――リブ状の天井など珍しい建材が見られますが、これらも坂詰製材所さんでつくっているものですか?
桐生さん はい。天井に張っているリブ加工した杉は、石田さんから相談を受け今回の素木(SIRAKI)モデルハウスのためにつくりました。
無節の杉の床や、杉の羽目板、杉の階段、杉の手すり、どんとパネルなども新しくつくった県産杉の建材です。
――「どんとパネル」という建材は初めて聞く名前です。どこに使われていますか?
桐生さん 「どんとパネル」は長野県の会社が開発したパネルで、合板のように接着剤を使うのではなく、羽柄材をステップル(ホッチキスの針のようなU字型の釘)で留めています。厚さ15mmの羽柄材が2層に重なり30mmの厚さになっていて、これを2階の天井に使うことで構造用合板のように水平構面を取ることができます。
強度は同じ厚さの合板の方が強いですが、透湿性に優れていることや、A材の端材を使っていることなどが特長です。
ビニルクロスは使わず、塗り壁で仕上げる
――羽目板のように美しく、角度がついていてヘリンボーンのようになっているのも意匠性があって面白いですね。最初に話されていた「手が届く自然素材の家」というコンセプト。それを実現する工夫や秘訣について教えて頂けますか?
石田さん 「自然素材の家は高い」というイメージがあると思いますが、僕たちSIAと坂詰製材所さんは川上から川下まで一気通貫で建築できるのでコストパフォーマンスを高めやすいんです。
「大工と左官」というのも素木(SIRAKI)の重要なコンセプトで、内装の仕上げには左官職人による塗り壁も使っています。木材の調達に掛かるコストを抑えられているので、塗り壁にしても全体としてはコストを抑えられるんですよ。
――内装の仕上げに木だけでなく塗り壁も使っているのが本格的ですね。
石田さん 塗り壁にしているのは、職人の左官技術を次世代に継承していきたいからです。それから、僕たちは家を長持ちさせたいと思っていて、そのためにはハードだけでなくソフトも重要になります。そのソフトというのが、家に対しての愛着だと思っていますが、左官のような手仕事が入ることで、愛着が一層深まっていくのではないかと考えています。
新建材をたくさん使った家は新築時が一番きれいで、その後劣化していきますが、自然素材を使った家はだんだんと味わいを増していき、それが愛着につながっていくと僕たちは考えています。
そんな理由から素木(SIRAKI)ではビニルクロスは使わず、木や塗り壁で仕上げるようにしているんです。塗り壁は「天然スタイル土壁」という左官材料を使っていて、調湿効果もあります。
それから、内装のほとんどを大工工事でつくっています。素木(SIRAKI)を担当する長岡の大工さんがすごい人たちで、塗装や建具制作までできるんですよ。このモデルハウスには家具屋さんや建具屋さんが入っていなくて、大工さんが全部やっています。
HEAT20G2グレード×全熱交換型の第1種換気システム
――どこか懐かしい雰囲気を感じさせるのは、塗り壁の質感によるものが大きそうですね。断熱や耐震などの性能については基準を設けていますか?
石田さん 断熱性能はHEAT20G2グレードとしていますので、新潟県内の大部分が含まれる5地域ではUA値0.34以下が素木(SIRAKI)の基準です。このモデルハウスのUA値は0.33となっています。
窓はすべてトリプルガラスを使い、壁は高性能グラスウールの外側にフェノールフォーム25mmの付加断熱をすることで、このような数値を実現しています。
暖房は床下エアコンを、換気は全熱交換型の第1種換気システムを採用しています。部屋ごとに暖めたり冷やしたりするのではなく、全館空調ですので、家じゅう温度ムラが少なく心地いい温熱環境を実現できます。
耐震性能は許容応力度計算を行った上で、耐震等級2をクリアする性能としています。このモデルハウスは積雪1.5mを加味した上での耐震等級2ですね。
――HEAT20G2基準をクリアする高い外皮性能に、熱損失を抑えられる全熱交換型の第1種換気。そして、吹き抜けで空気が行き渡りやすい設計。快適性が実によく考えられていますね。デザインのバリエーションはありますか?
石田さん “白”と“墨”の2種類を用意しています。このモデルハウスは“白”で、無塗装の木と塗り壁を使ったナチュラルな仕上がりとなっています。
“墨”は木に墨汁を混ぜた自然塗料を塗ったり、墨汁を混ぜた左官材料を使うことで、明度の低い空間に仕上げます。
奇をてらわない4寸勾配の切妻屋根
――たくさんのバリエーションがあるのではなく、白と墨の2つというのがとても潔くて気持ちいいですね。では、改めてこのモデルハウス各部の解説をお願いできますでしょうか?
石田さん こちらは一定期間モデルハウスとして使用しますが、お客様の注文住宅として建てたものですので、お客様の要望や暮らしのルーティーンをしっかりとヒアリングした上で形にしています。
まず「敷地に素直に設計をする」という考え方で計画をしていて、この家は南ではなく東に開いています。その方がこの敷地では窓がたくさん取れるからです。
そして、その東側にウッドデッキと庭を配し、道路との境にはルーバーのフェンスを設けています。
桐生さん 地面には安田瓦を粉砕した瓦チップを敷いています。
安田瓦は当社の本社がある阿賀野市でつくられているもので、この瓦チップは解体した家から出た瓦を再活用しています。
石田さん 屋根はお客様が和の雰囲気がお好きということで、切妻屋根にして、新潟の屋根で一番多い4寸勾配にしました。
軒はできれば910mm出したかったのですが、隣家への落雪を考慮し600mmに抑えています。
――外壁の全てに杉板が使われていて、コンセプトを体現していますね。内部はどのようになっていますか?
石田さん 玄関に入るとそのすぐ先にリビングがあります。
リビングには3間分の開口があり、3つの窓の高さは1800mmにしているのでそれぞれの窓がほぼ正方形見えます。
リビングから外がよく見えるように、左側と中央の窓はFIX窓にして、右側だけを掃き出し窓にして出入りできるようにしています。
キッチンは対面型ですね。お施主様にはⅡ型と対面型の両方のプランをお見せして、対面型を選んで頂きました。
水回りは洗面と脱衣室を分けており、洗面とトイレは隣接させています。
洗面スペースの奥にある脱衣室は、物干しを兼ねた3畳の空間ですね。
2階は中央に6畳の吹き抜けがありますので、引き戸や“こんにちは窓”を開けると家じゅう丸ごと一つの空間になります。
その吹き抜けを挟んで、将来的に2室に分けられる子ども室と主寝室を配しています。
――詳しい解説をありがとうございました。「大工と左官」という言葉通りに内部・外部共に統一感が徹底されていますね。最後に今後の展望について一言お願い致します。
石田さん 最初にもお話しましたが、SIAと坂詰製材所さんの目標は、地元の木を使って地元の建築をする『地材地建』の家づくりを当たり前のものにしていくことです。
そのような思いから、県産材を使った新しい仕上げ材を坂詰製材所さんと一緒につくり、このモデルハウスで使っていますし、今後も新しい建材をつくっていく予定です。そして、県産材を使ったそれらの建材をぜひ多くの人に使って頂きたいと考えています。
素木(SIRAKI)モデルハウスは地材地建のコンセプトが詰まった住宅です。一般の方はもちろん、建築業界の皆さんにもぜひ見て頂けたらと思います。
地元の木を使って家を建てる地材地建。県産材の活用は地元の林業の活性化につながり、林業が活性化すると里山が適切に整備されるようになります。健全な状態の里山は、水源を蓄え、土砂災害を防止し、生物多様性を保全するなど、さまざまな役割を果たします。
また、地材地建は地域の中でお金が循環する仕組みでもあり、地域経済の活性化も期待できます。地材地建の家づくりは、地域や社会への貢献を実感できる家づくりと言えそうです。
そんな家づくりを体感できる素木(SIRAKI)モデルハウスは、2024年11月24日(日)までの公開です。
この秋にぜひ見学に訪れてみてはいかがでしょうか?
また、素木(SIRAKI)に込めた石田伸一さんの熱い思いが石田さんのnoteに綴られていますので、こちらも合わせてご覧ください。
【素木モデルハウスの見学予約・問合わせ】
取材協力:株式会社石田伸一建築事務所、株式会社坂詰製材所
取材・文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平
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