鈴木 亮平
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目指したのは、家事ラクで家族が仲良く過ごせる住まい
2022年の春、新潟市北区に完成したI邸は白い金属サイディングに覆われた住まい。3間×3.5間の総二階部分がベースで、そこに2つの下屋が取りつくことで複雑味のある外観に仕上がっている。
下屋によってポーチやウッドデッキに心地いい軒下空間がつくられており、人を招き入れるような優しい表情が現れている。
この家に暮らすのはIさんご夫婦と3人の子どもたち。延床面積24.5坪の家は、70坪の土地のコーナーに立っており、手前にはゆったりとした庭が広がっている。
「以前は東区のアパートに住んでいましたが、妻の実家が近い北区で土地を購入し、家を建てることにしました。はじめの頃は住宅情報誌を読み漁って、いろいろな住宅会社さんの完成見学会に足を運んでいたんですが、何が正解なのかが分からずにいました」(ご主人)。
「そもそも自分たちの理想が定まっていなかったので、まずは家を建てるにあたって自分たちがどんなことを優先したいのかをしっかりと考えることにしました。そんな時に、加藤淳さんとAg-工務店さんに出会い、見学会に訪れるようになりました。
それまで見てきた他のハウスメーカーさんがつくる家もきれいでしたが、玄関に入るとなんとなく間取りが想像できる家が多い印象でした。一方、加藤さんとAgさんがつくった家はどの家も違うので行くたびにワクワクしましたね。説明を聞くのも楽しくて、どんどん惹かれていき、加藤さんとAgさんを頼れば、自分たちだけの家ができそうだと思ったんです」(奥様)。
「木の使い方や雰囲気がいいなあと思っていましたし、設計をする加藤さん、施工するAg-工務店の代表の(渡部)栄次さんと直接やり取りをしながら進められるのも魅力に感じましたね」(ご主人)。
そうして、加藤淳設計事務所とAg-工務店に依頼を決めたIさん夫婦は、「家事ラクでストレスフリー」「家族仲良く明るく過ごせる家」を目指して打ち合わせを進めていった。
Iさん夫婦の要望を元に加藤さんが出したプランは2パターン。採用されたのは回遊できるキッチンを中心に据え、その目の前にダイニングを、コーナーの少し籠り感がある場所に3畳のリビングを配したプランだった。
キッチンからダイニングやリビングを見渡せるのはもちろんのこと、家のどこに行くにもキッチンを起点に短い距離で移動できる点もこのプランの特徴だ。
また、2階には個室や収納、トイレがあるのみで、生活のほとんどを1階だけで完結できる。
「廊下を少なくするなど、なるべく無駄を省きながらも、ゆったりとした家族共用の空間や、家事スペースを充実させました。階段下や小屋裏など、省スペースで収納を確保することも心掛けています」と加藤淳さんは設計意図を説明する。
施工を手掛けたAg-工務店の渡部栄次さんは「コンパクトな空間に造作家具などが凝縮しているため、色々な職人さんが同時に作業ができないというのが施工上の難しさでした。そんな中でそれぞれの職人さんがスムーズに作業ができるように、工程管理に気を付けながら進めていきましたね」と話す。
アール天井が目を引く、小さな吹き抜けのあるリビング
そんなI邸のアプローチを進んでいくと、はじめに下屋に守られた横長のポーチに至る。
傍らにある袖壁が海風や視線を遮る役割を果たしており、ちょっと荷物を置いておくのに便利なベンチも備え付けられている。
木製ドアを開けたところはシューズクローク付きの玄関。
3畳の玄関の中央には吊り戸が設けられており、靴以外にも釣り道具やスケートボードなどを収納できる土間スペースが確保されている。
靴を脱いで玄関ホールに上がり、すぐ右手に進むとそこがリビング・ダイニング。
右手に見えるリビングは3畳のコンパクトな空間ながら、上部は高天井になっており、高窓やコーナー窓からの光がたっぷりと注いでいる。
天井と壁の取り合いに曲げベニヤを使い、やわらかいカーブをつくり出しているのは加藤淳さんが2019年頃から度々取り入れてきたデザインだ。
「見学会に訪れるたびにこのアールがついた天井がいいなあと思っていました」(ご主人)。
小さな空間ではあるが、天井は隣のダイニングよりも高く、コーナー窓に目を向ければ視線は外へと抜けていく。その相反する要素が組み合わせられた空間に入ると、平面図からは想像できない広がりを感じることができる。
また、テレビの画面がLDKのどこからでも見えるのではなく、ソファに腰掛けないと見えづらいのも特徴。テレビはこの家では脇役だが、映画などをじっくり鑑賞したい時には没入しやすいレイアウトでもある。
細やかな収納が充実したキッチン
リビングの壁を背にダイニング側に目を向けると、長手方向に張られた幅広のオークの挽き板のフローリングが空間の奥へと伸びている。
日当たりのいい窓辺にダイニングテーブルが配されており、そのダイニングを眺める位置にキッチンがある。
キッチンの前には収納が造作されており、その上の広い天板はちょっと物を置いたり、料理を出すのにも重宝するスペースだ。ダイニングから眺めるキッチンは、温かみあるカフェのようでもある。
「アパートのキッチンは壁付けで作業スペースも狭く、料理をするのにいつもストレスを感じていました。それで新しい家では、対面型で両サイドから入れるキッチンにしたいと思っていたんです。キッチンの前のカウンターの高さは特に要望をしていなかったのですが、でき上がってみたら絶妙な高さでしたね。子どもたちも料理を運んでくれたり、食べ終わった食器を下げてくれたり、自然に手伝ってくれるようになりました」(奥様)。
コンパクトな空間を有効に使うために、収納計画にも工夫が凝らされている。
例えば、キッチンの後ろの空間には階段があるため天井の一部が斜めになっているが、それほど高さを必要としない調理家電を置くスペースにすることで有効活用している。
さらに、階段下のちょっとした空間に扉を付け、ストック品を収納するスペースにするなど、わずかな空間も余すことなく活用できるように細やかな設計がなされている。
リビング学習ができるスタディーコーナー
キッチンに立った時に見える景色がこちら。
正面にダイニングテーブルがあり、その奥の窓からたっぷりと光が入ってくる。
その隣はスタディーコーナーで、インターネットのモデムやルーター、ノートパソコンやプリンタなどの機器がまとめられている。最近は、小学校2年生になる息子さんが宿題をする場所としても活用しているそう。
一見飾り棚のようにも見えるデスクライトが壁に造り付けられており、デスクの上を広く使えるのも特長だ。
隣家が立つ建物東側に水回りを集約
スタディーコーナーのすぐ隣にある引き戸を開けた先は水回り。
中央にトイレが配されており、その右手は日差しがよく入る1坪のランドリールーム。
一方、左手には洗面スペース兼脱衣室と浴室が連続。脱衣スペースは建具ではなくカーテンで軽やかに仕切ることで圧迫感が出ないようにしている。
フレキシブルに使える2階
1階の床は重厚感のあるオークで仕上げられていたが、2階の床はそれよりも軽い印象のパインで仕上げられている。新築時は明るい色味だったが、2年の歳月を経て深みを増していた。
廊下の端には横長の高窓があり、そこから入った光が暗くなりがちな廊下を柔らかく照らしている。
高窓の下に見える扉は、下屋部分の小屋裏を活用した収納スペースで、子どもたちの秘密基地にもなっているのだそう。
2階には6畳の寝室と将来2室に分けられる8畳の子ども部屋があり、今は8畳の部屋にベッドを3台並べて、家族みんなの寝室として使っている。
自ら家に手を加える楽しさも満喫
この家に住んで2年数カ月。その住み心地についてご主人はこう話す。
「アパートではお隣の方に気を使いながら暮らしていましたが、今は子どもたちが伸び伸びとはしゃぎまわれます。コンパクトな家ですが、みんなが一つの空間で過ごせるのもいいですね。僕も家に居る時はだいたいダイニングで過ごしています。書斎など自分の部屋は最初からなくてもいいと思っていました。
あと、LDKの木部の塗装は、塗装屋さんにレクチャーをしてもらいながら自分で塗りました。『上手ですね』とほめてもらえてうれしかったです(笑)。それから、Ag-工務店さんに余っているヒノキ材を分けてもらい、ウッドデッキを自分でつくりました。住みながら手を加えていくのも楽しいですね。
ウッドデッキでごはんを食べたり、夏は芝の上にプールを出して遊んだり、軒先からシェードを張って日陰をつくって過ごしたり…。そういう時間に癒やされています」。
奥様は「コンパクトな家ですが、動線が良く、ストレスも窮屈感もありません。洗濯物を干すスペースも確保されていますし、小屋裏収納や階段下収納などもあって荷物もちゃんと納まります。インテリアは整えている途中なので、もう少しいろいろ増やしていきたいですね。例えば、キッチンの前にペンダントライトを入れたいです。あとは今後庭に花壇をつくって花を増やしたいですね」(奥様)。
24.5坪の中に暮らしやすい工夫が散りばめられたI邸。ダイニングを中心とした大らかな住まいは、家族5人で過ごす日常を明るく楽しく彩ってくれている。
I邸
新潟市北区
延床面積 81.15㎡(24.5坪)
1F 46.37㎡(14.0坪) 2F 34.78㎡ (10.5坪)
竣工年月 2022年4月
設計 株式会社加藤淳設計事務所
施工 株式会社Ag-工務店
耐震等級 3(許容応力度計算)
(写真・文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平)
鈴木 亮平
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