【加藤淳設計事務所×Ag-工務店】籠もれるダイニングと開くリビングの融合

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。

風通しのいい、砂丘の稜線上に立つ住まい

T邸が立っているのは、新潟市西区の中でも海抜が高い砂丘上の土地。

袋小路の突き当たりにあるこの土地は、砂丘の稜線上という立地から、敷地の北側は日本海へ向かってなだらかに下るように傾斜が付いている。

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そのため、T邸の手前に立つと、建物の後ろにある2階建ての家は低い位置に見え、住宅密集地でありながら背後には大きな青空が広がっている。車の往来がない、安全で静かな土地でもあり、心地いい海風が流れているのも魅力だ。

取材に訪れたのは10月下旬。この日は穏やかな秋晴れで、からりとした風が家じゅうを通り抜けるように、開閉できる窓がすべて開け放たれていた。

上越市出身のご主人と埼玉県出身の奥様、そして2人の子どもたちの4人家族が2023年の春に完成したこの家で暮らしている。

「私は転勤がある仕事をしているのですが、長男が小学校に上がる前には家を建てたいと考えていました。アパートでの子育てはお隣に気を遣いますし、手狭に感じるようにもなっていましたので。

家を建てようと本格的に動き始めたのはコロナ禍の時で、はじめは総合住宅展示場を見ていました。その後、ご紹介を頂いた加藤淳設計事務所さんのオープンハウスを訪ねたんです。無垢の床を使った家の雰囲気がいいなと思いましたし、設計者の加藤さんと専門的な話をしながら進められるのが楽しそうだと思いました。それから、施工をしてくださるAg-工務店さんのことも以前から知っていたので安心感がありました」とご主人。

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そうしてTさん家族と、加藤淳設計事務所×Ag-工務店の家づくりが始まった。

 

芝の手入れが新たな楽しみに

外壁は白い金属系サイディングをベースに杉板を組み合わせた、加藤淳設計事務所×Ag-工務店の定番のデザイン。ポーチやウッドデッキを覆うように手前には軒が一直線に伸びている。

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リビングの掃き出し窓の手前には芝生の庭が広がっており、間に設けられたウッドデッキが家の中と外をやわらかくつないでいる。

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「芝生の手入れにはまっていて、土壌改良をしたり、定期的に芝刈りをしたりするのが楽しみになっています。上の子も草むしりを手伝ってくれますね。庭に飛んでくる鳥を眺めたり、ウッドデッキで焼き肉をしたり、夏は庭にプールを出して遊んだり。アパートで過ごしていた時は少し鬱屈した気持ちになっていましたが、今は家や庭で過ごす時間が楽しいです」(ご主人)。

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ポーチは駐車スペースからスムーズに入れる位置に配されており、杉板の壁や木製ドアが優しく迎えてくれる。

玄関ドアを開けると、土間部分とホールを合わせた3畳の玄関が現れる。

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床は個性的なチークのパーケットフローリングで、右手にはシューズクロークがある。引き戸で目隠しでき、玄関の中をすっきりと保てるこのシューズクロークも加藤淳さんが設計する家でよく見られる仕様だ。

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乾いた洗濯物をスムーズに収納できる家事動線

玄関ホールの先に洗面コーナーを兼ねたホールがあり、その隣にトイレや脱衣室兼ランドリールーム、浴室が配されている。

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3畳の脱衣室兼ランドリールームは2面に窓がある明るい空間で、奥には2本の物干しとアイロン掛け用のカウンター、収納棚が備えられており、中央にはTさん夫婦が以前から使ってきた電気式の衣類乾燥機が置かれている。

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乾燥機が使えない衣類はここで室内干しをし、サーキュレーターを使って効率よく乾かしているという。

また、将来的にガス衣類乾燥機に交換ができるように、壁にはガス栓や排湿管を通すためのスリーブが設置されている。

玄関ホールから続く洗面コーナーにあるのは、木製天板と実験用シンクを組み合わせた造作洗面台。玄関からリビングへと向かう動線上にあるため、お子さんも自然とここで手を洗う習慣がついたという。

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1,365mm幅につくられた造作洗面台は広すぎず狭すぎないちょうどいい大きさで、天板の下はもちろん、ミラーキャビネットやニッチなど、収納スペースが充実している。

そして、その隣にあるウォークインクローゼットが、奥様が特に強く希望した空間だ。

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「以前住んでいたアパートはメゾネットタイプだったので、1階で洗濯をしてから濡れた洗濯物を2階に運んで干したり、その後に収納したりするのが大変でした。それで、脱衣室から近い場所にウォークインクローゼットを設けて頂いたんです。アパートの頃と比べて階段の上り下りが減り、生活しやすくなりましたね」(奥様)。

 

階段下を利用した“かまくらダイニング”

洗面スペースの横を通り過ぎると、床の素材はチークから桐に変化する。

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「温かい家にしたいという要望をお伝えしたところ、加藤さんから『床に桐を使えば、冬に足元がヒンヤリせず温かくなりますよ』とアドバイスを頂き、LDKには桐を採用しました。冬でも素足で過ごせますし、肌触りがいいですね」とご主人。

「やわらかい素材なので物を落とすとへこみやすいですが、へこんだ部分も同じ桐の色なのであまり気になりません」(奥様)。

このLDKで特徴的なのが、天井高が1,950mmに抑えられたR天井のダイニングだ。

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かまくらを彷彿させる籠り感がある空間で、会話に集中しやすいという。

実はこのダイニングの左上には階段が斜めに通っており、この階段をかわすために、天井を下げ、左上コーナーをRにするという手段が用いられている。さらに右側もR天井にして左右対称の空間にしたことで、独立性の高い親密な空間が完成した。

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通路を挟んですぐ向かい側にはキッチンが配されているため、ダイニングへ食事を運んだり片づけたりするのもスムーズだ。

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キッチンの足元の水はねがしやすい箇所はタイル仕上げ。オイル塗装や無塗装の無垢の床の場合は、水が付くと染みになりやすいが、水に強いタイルの床は慌てて拭き取る必要がない。

キッチンの後ろはシナ合板のカップボードが造作されている。

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調理家電はオーブンレンジと炊飯器のみに抑え、カウンターの空いている部分は料理中に物を置く場所として使っている。

「ガスコンロにデリシアを入れていて、ここでいろいろな調理ができるので調理家電が少なくても不便さはありません」とご主人。

冷蔵庫の奥の目立たない場所は、左手がパントリーで、右手の造作デスクがある場所は奥様の籠もりスペースとして活用している。

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ダイニングと対照的な、高天井のリビング

ダイニングとキッチンの間を通り抜けると、そこは階段や小上がりを含めて12畳あるリビングだ。このリビングは建物の下屋部分にあり、上に2階はない。

その天井の自由度を生かしてリビングの4.5畳分を高天井にし、さらにダイニングと同様にRを付けている。

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「Tさんから『開放感』と『籠もれる場所』の両方が欲しいというご要望があり、いくつかご提示したプランの中からこの案を採用頂きました。籠もれるダイニングと、開放的なリビングという2つの空間にRで共通点を持たせています。リビングは天井高を上げているだけでなく、庭とのつながりをつくることでも開放感をつくり出しています」と設計をした加藤淳さんは説明する。

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「R天井をつくるのは3回目くらいでしたし、R天井を得意としている方からアドバイスも頂き、スムーズに施工できました。ちょっと変わった天井や壁などの納まりを経験することでスキルが上がっていくのが楽しいですね。あと、今回は大型パネルを採用しているのも施工の特徴です」とAg-工務店の渡部栄次さん。

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高窓から入った自然光によって天井がやわらかく照らされているのもこのリビングの気持ちよさの秘密だ。

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窓の面積自体は決して大きくはないが、高い位置から入った光は、白い壁や天井に反射しながら空間全体に心地いい光を届けてくれる。

リビングに面した小上がりは3畳。高さは210mmと低めに抑えられており、リビングから滑らかに続いているような感覚を味わえる。

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「去年の冬はここにこたつを出して過ごしていました。下の子が今年生まれたばかりなので今はベビーベッドを置いていますが、今後小上がりの壁にプロジェクターで投影して映画を見たいです。いろいろな使い方ができるスペースなので、どう使うかを考えるのも楽しいですね。

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それから、テレビはコンセントを差せばどこでも使えるフリーレイアウトテレビを購入しました。簡単に移動ができるので、好きな場所で見られるのがいいですね。テレビの位置が固定されないことで、空間を自由に使うことができます」(ご主人)。

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日本海と佐渡島を眺める書斎

小上がりの一角に設けられた階段は、造作家具のように空間に溶け込んでいる。

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そして、階段のコーナー部分を曲がったところから見えるのがこちら。

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2階ホールの先に小さな階段が架けられており、その上には展望室のようなスペースが設けられている。

「この土地を購入した時に海が見える書斎をつくりたいと思ったんです。この高さまでカメラを上げて写真を撮り、海が見えることを確認してから設計をして頂きました」とご主人。

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隣家よりも海抜が高い土地に立つT邸の書斎には、北側と西側の2方向に窓が設けられており、そこから日本海や佐渡島を見渡すことができる。

「今は私が仕事をしたり写真データの整理をしたりするのに使っています。ここから夕日がすごくきれいに見えるので、子どもと一緒に夕日を眺めたり、海上を行き交う船を眺めたりもしています」(ご主人)。

杉の無垢フローリングで仕上げられた2階はフレキシブルに使えるホールがあり、その先に寝室と、将来的に2室に分けられる子ども部屋が配されている。

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子ども部屋は7.5畳。入口が2つあるので、中央に壁をつくり3.75畳ずつに分けることもできる。今は子どもたちがまだ小さいので、その向かいにある6畳の主寝室で、家族みんなで寝ているのだそう。

 

1年を通して快適に過ごせる家

この家に住んで1年半が経ち、新居のどんなことに満足しているか伺った。

「ほぼすべてのことに満足しています。アパートでは毎年冬に寒い思いをしていましたが、今はダイニングに設置した床置きエアコンを使い、サーキュレーターで空気を回すことで家の中が十分に暖まります。夏は2階のエアコンを使い、冷気を上から落とすようにしていますね。サーキュレーターをどう使って空気を行き渡らせるといいのか、試行錯誤するのも楽しいです。

風の抜けもいい家なので、今日もそうですが春や秋は窓を開けて自然の風を感じられるのもいいですね。あとは、自分で物置を組み立てたり、フェンスの板を自分で打ち付けて塗装をしたり、DIYも楽しんでいます」(ご主人)。

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「キッチンも使いやすいですし、やはり、乾いた洗濯物を短い距離で片づけられる動線が便利で気に入っています」(奥様)。

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快適に過ごせる温熱環境に、生活しやすい家事動線。そして、天井高の違いやRを採り入れることで生まれたバリエーション豊かな空間の数々。それらがバラバラにあるのではなく、有機的につながっているところがT邸の豊かさの秘密だ。

一見複雑そうに見える住まいだが、許容応力度計算に基づいた耐震等級は最高等級の3。しっかりとした地盤の上に立つT邸は、家族の安全と資産を守れる高い性能も備えられている。

 

T邸
新潟市西区
延床面積 100.20㎡(30.25坪)
1F 57.97㎡(17.50坪) 2F 42.23㎡(12.75坪)
竣工年月 2023年3月
設計 株式会社加藤淳設計事務所
施工 株式会社Ag-工務店
耐震等級 3(許容応力度計算)

(写真・文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。