【宮﨑建築×高橋良彰建築研究所】築50年の実家をUA値0.26の高断熱住宅にリノベーション

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。

友人から紹介を受けた宮﨑建築に調査を依頼

新潟市東区の住宅地に立つM邸は1972年に建てられた家で、今年2024年で築52年になる。元々夫のMさんが育った実家だが、数年前にこの家で暮らしていたご両親が亡くなり、しばらく空き家になっていたという。

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リノベーション工事後、約1年が経過したM邸。

「私と妻は二人とも新潟市出身なのですが、私の仕事の都合で2011年から神奈川県で暮らしていました。2020年頃、そろそろ新潟に戻ろうと考え始めた時は、新潟駅近くのマンションを購入することも検討していたんです。

その時の私たちに、実家を直して住みたいという強い希望があったわけではなく、『住めるなら住んでほしい』という妹や、『直して住めばいいじゃん』という友人に背中を押されるような形でリノベーションを考え始めました」とMさんは話す。

築50年が経過した古い家は、夏暑く冬寒い家。実際に直して住むことができるのか、まずは詳しく調べてもらう必要があった。

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リノベーション前の茶の間と床の間。奥に見える畳敷きの広縁はリノベーションで減築した部分。

相談にのってくれた友人は阿賀野市の出湯温泉にある喫茶店のオーナー。開業時に店舗の改修を依頼した宮﨑建築株式会社の代表・宮﨑直也さんを紹介してくれたという。

「宮﨑さんに連絡をしてみると、新潟市が行っている木造住宅耐震診断士派遣事業を活用して調査ができるということで、5,500円お支払いして建物を見て頂くことにしました」(Mさん)。

調査を行った宮﨑さんは「建物の劣化の程度は外観からもある程度分かります。例えば、基礎が折れていれば地盤の問題が疑われますので、その場合は建て替えた方が良いケースがあります。M様の家を調べてみると、基礎のひび割れもなかったですし、しっかりとした造りでした。構造を意識した間取りでしたし、平屋で荷重も少ない。問題なくリノベーションできる家だと思いました」と話す。

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宮﨑直也さん。宮﨑建築株式会社 代表。1978年1月生まれ。阿賀野市(旧笹神村)出身。高校卒業後、新潟市の工務店に弟子入り。4年間の修行を終え、家業の宮﨑建築へ。2012年に先代より事業承継し、4代目代表となる。設計・施工・管理を担当。設計は外部の設計事務所と連携しながらも、構造計算および構造設計は自ら行う。また、温熱計算ソフトQ-PEXを用いた、断熱計算及び冷暖房コストのシミュレーションも自ら行う。2級建築士、1級技能士、省エネ建築診断士、住宅医。技能五輪新潟県予選1位、技能五輪全国大会出場経験を持つ。

 

徹底した断熱&耐震改修を実施

Mさん夫婦は調査をしてくれた宮﨑さんに、そのままリノベーション工事を依頼することにした。

「宮﨑建築さんのホームページを見ると高気密高断熱リノベーションの実績もあり、安心できそうだと思いました。リノベーション後の快適さを実感する施主さんの記事も見て、こうなったらいいなと希望が膨らみました」(Mさん)。

「数年前に義父がなくなり義母が一人になった時、お盆や正月にこの家に来て泊まると、とにかく夏は暑くて冬は寒い。夏は建具を閉め切って一部屋だけ冷房で涼しくするんですが、そこから出るととても暑くて、特に日当たりがいい縁側はサウナ状態。冬は台所や茶の間にストーブやファンヒーターを置いて過ごしていましたが、暖かいのは暖房をしている部屋だけでした」(妻のIさん)。

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リノベーション前の台所。現在と位置は同じだが、廊下によって茶の間と分断されていた。

リノベーションの設計は、既存の主要な構造のラインを変えないことを要件とし、宮﨑さんから高橋良彰建築研究所の高橋良彰さんに依頼。一部、屋根の架かり方に無理があった増築部分の減築もしながら、既存の構造区画を順守する形で無理のないリノベーションを行うことにした。

はじめに基礎と骨組み、床の間を残してすべてを解体し、防湿コンクリートの打設や基礎の増設を実施。

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解体後、骨組みと基礎だけになったM邸。
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防湿コンクリート施工の様子。

以前は耐震性能を示す上部構造評点がわずか0.13(※上部構造評点が1.0あれば耐震性を確保しているとされ、耐震改修では1.0以上が目標とされる)だったが、耐力面材を入れて耐震補強を行い、上部構造評点を1.26に向上させた。

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耐力面材を施工した壁面。

また、元々の建物は無断熱だったが、宮﨑建築が普段新築で行っているのと同様の断熱工事を行うことで、UA値0.26まで断熱性能を向上させた。

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床下に高性能グラスウールを二重に充填している様子。

さらに、熱交換型の第1種換気システムを導入し、換気時の熱損失を抑えたり、徹底した気密施工を行ったりするなど、可能な限りの不安要素を取り除く工事が施された。

そのようにして、築50年の家は高い性能を持つ頑強な住まいに再生を遂げた。

 

杉板張りの外観に刷新。屋根形状もシンプルに

では、リノベーションを経て建物がどのように変わったのだろうか?

屋根に注目してみると、以前は瓦屋根だったが、改築後は板金に葺き替えられている。

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耐力面材を施工するだけでなく、屋根を軽量化することでも耐震性能が向上している。ポーチ部分に架かっていた下屋をなくし、屋根の架け方をシンプルにすることで雨仕舞も改善された。

老朽化していた外壁材は杉板に刷新。無塗装の杉板は時間の経過と共にグレーに変色していくもので、今はその変化が始まっているところだ。

玄関ドアは、以前は気密性能が低い引き戸が使われていたが、高い断熱性能と気密性能を持つ木製ドアに交換された。

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玄関ドアを開けると、以前は1坪の土間の先にホールがあり、廊下が右手に伸びていた。

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改築後は土間を奥まで伸ばし、以前外部収納があった部分までを一体にし、室内の収納スペースを増やしている。壁や天井は漆喰が塗られているが、Mさん夫婦が親戚や友人たちの力も借りながら自分たちで仕上げたものだという。

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ホールには新たに展示スペースもつくられた。

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この日飾られていたのはブドウの絵。大学で美術史を学び、美術に関わる仕事をしてきたIさんは、季節によってこの展示スペースに飾る絵を入れ替えているのだそう。

 

床の間や建具を残しつつ、杉の床の空間に

玄関ホールからまっすぐ廊下が伸びており、右手には和室が連なっていた。

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ちょうど廊下と和室の間の壁が主要な耐力壁だったことから、この壁のラインに大きな変更は加えず、さらに既存の建具も再活用している。

右手に見える部屋は元々6畳の和室で、その左手にも6畳の和室、奥には畳敷きの広縁が隣接していた。

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畳はすべて無節の杉に張り替え、広縁だった場所は減築。窓の大きさは変えているが、設計をした高橋良彰さんの提案で、元々あった雪見障子をそのまま残し、かつての家の記憶を今に伝えるようにした。

グランドピアノはジャズが好きなMさんが自分へのご褒美として、今回のリノベーションを機に購入したものだという。

雪見障子の他にも、欄間の障子や、床の間も残している。

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「親戚に家のどこを残してほしいかを聞いたところ、『床の間』という回答があり残すことにしました」とMさん。その場所は今は仏間として使われている。

広縁には大きな掃き出し窓があり、この開口部が耐震面・断熱面の両方の弱点になっていた。

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開口部はコンパクトになり、そこに付く窓はエクセルシャノン社の樹脂サッシ&トリプルガラス窓にグレードアップ。引き違い窓ではなくテラスドアにすることで気密性能も高めている。

 

使い勝手のいいキッチンをオーダーメイド

以前の住まいでは、6畳の茶の間と台所が廊下によって分断されていたが、柱を抜き、垂れ壁を解体して、南北につながる空間をつくり出した。

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台所の位置はそのままに、2人で料理をすることが多いというMさん夫婦に最適なキッチンを造作。奥の壁付のキッチンは幅2,720mmと一般的な2,550mmタイプよりも広い。手前には1,500mm×800mmのアイランドキッチンも置かれており、こちらにもシンクが備えられている。

壁付とアイランドのそれぞれにシンクが付いているので、2人で同時に作業がしやすいのだそう。

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ゆとりある脱衣室&サニタリー

キッチンの横にある古いガラス戸を開けると、その先に脱衣室と浴室がある。

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以前は1畳の脱衣室に洗濯機が置かれ、非常に窮屈だったことから、新しい脱衣室は2畳とし、洗濯機は別に設けたサニタリーに配置。造作の収納棚も備えたゆとりある脱衣室に生まれ変わった。

再び居間に戻ると、奥に6畳の和室が隣接しているのが見える。

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以前は和室が5室もあったが、改築後はこの1室だけを和室とし、Mさん夫婦の寝室として使っているという。そのために、布団が楽に収納できる押入も設けている。

この和室は行き止まりではなく回遊動線になっていて、キッチンと隣接するサニタリーへ通り抜けられるのが特徴だ。

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サニタリーは、収納と板の間を合わせて6畳あった個室を丸ごと活用しており、洗濯機にガス衣類乾燥機、洗面台や物干しスペース、クローゼットが集約されている。

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心安らぐ離れのような一室も

かつて増築によってつくられた広縁は今回のリノベーションで減築をしたが、同じ増築部分でも屋根の架かり方が自然だった南東の個室は残すことにした。

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リビングから少し距離を置いたこの部屋は、普段は文通を趣味としているIさんが、国内外の友人に手紙をしたためる場所として使っているという。

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庭に面した西側の窓から注ぐ光は漆喰の壁によって柔らかく拡散され、穏やかな雰囲気があふれている。

 

エアコン1台で夏も冬も快適な暮らしを実現

リノベーションを終えた住まいに住んで1年数カ月。Mさん夫婦が特に満足しているのは、断熱性能の高さと空気の気持ちよさだという。

「寒くない、暑くないというのがこれほど快適なのか…と驚きました。以前住んでいたマンションでは、室温はちょうどよくてもドアや窓から冷気や熱気を感じていましたが、この家ではそういう不快感がありません。夏や冬に外から帰ってくるとホッとしますね。あと、空気がいつもきれいな状態に保たれるので窓を開けることがなくなりました」(Iさん)。

夏も冬も10畳用エアコン1台を使用していて、夏は設定温度27℃の冷房を連続運転。真夏ほど気温が上がらない6月や9月は25℃設定の再熱除湿を使用。冬は22℃設定の暖房を連続運転するという。

冷気や暖気が家の隅々に行き渡りやすくなるように、サーキュレーターも併用している。

また、この家に住んでから、庭につくった家庭菜園で野菜を育てるようになったという。

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「スナップエンドウやソラマメ、トウモロコシや枝豆などを育ててきました。今はプランターでかきのもとを栽培していて、これから春菊を始めます。うまくいかないことも多いですが、それもまた面白いですね」とMさん。

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Mさんは週に何度かピアノを演奏し、ネルドリップで淹れたコーヒーを飲み、夜は夫婦で食事をしながらワインや日本酒をたしなむ。

十数年ぶりに神奈川から故郷の新潟にUターンしたMさん夫婦。生まれ変わった快適な住まいで、心地いい時間の流れを楽しんでいる。

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M邸
新潟市東区
延床面積 99.37㎡(30.06坪)
築年数 52年(1972年建築)
工事期間 2022年11月~2023年5月
UA値0.26(HEAT20G2)
上部構造評点 0.13→1.26
施工 宮﨑建築株式会社
設計 高橋良彰建築研究所

(取材/Daily Lives Niigata 鈴木亮平

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。