【加藤淳設計事務所×Ag-工務店】リラックスした空気が流れる“斜め配置”の家

Whouse-01
The following two tabs change content below.

鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。取材・撮影で訪れた住宅は累計900軒以上(2025年1月現在)。

健康に暮らせる住環境を求めて、家づくりを検討

6年前に新築をしたWさん家族の家があるのは、新発田市の住宅街の袋小路。細い道路の突き当たりに、低めのプロポーションの家が立っている。

Whouse-02

ユニークなのは、この家が敷地に対して斜めに配置されていることだ。接する道路は南東⇔北西方向に伸びているが、この家の正面は真東を向いている。

「家づくりをしようと思ったのは、子どものアレルギーや喘息がきっかけでした。以前住んでいたアパートは湿気が多くカビが生えていて、他の賃貸に引っ越すことも考えたのですが、なかなかいい物件を見つけられずにいて…。自分もアトピーがあり、健康面を考えて新築をすることにしたんです」とご主人。

Whouse-66

「土地は2つの候補の中からこの場所を選びました。奥まった場所にあって、家の前の車通りがなく、落ち着いて暮らせそうだなと思ったからです」と奥様。

Wさん夫婦はいろいろな住宅会社を訪ね、最終的に依頼を決めたのは、信頼できる人から紹介をしてもらった加藤淳設計事務所だった。

「デザインや素材の良さに惹かれましたし、換気システムに第1種換気を使っているところも魅力でした。それから『木崎の家』や『江南の家』、『関屋下大川原の家』を見て、こういう雰囲気の家いいよねと夫婦で話していたんです」(ご主人)。

「あとは、加藤さんと話していて安心感がありましたね。他でもいいなと思う会社があったんですが、本音を伝えにくい雰囲気のところもありました。長く打ち合わせをしていく中で、加藤さんとなら自分たちの家づくりをしていけると思ったんです」(奥様)。

Whouse-56

そうして、加藤淳設計事務所との家づくりがスタートした。

 

建物を45°振って、庭を分割

敷地の広さは78坪。その敷地条件とWさん夫婦の要望から、加藤さんは敷地に対して約45°振った建物配置を提案した。

「はじめにWさんご夫婦から『庭がだだっ広いのは嫌』というのを聞いていました。敷地に対して普通に配置すると、自ずと広い庭ができてしまいますし、室内に採り入れるメインの光が東南方向からになり、しっくりこないと思ったんです。そこで、太陽に素直に配置をして真南から光を採り入れられるリビングをつくることにしました。

default
空撮:布施貴彦さん(https://fusephoto.net)

斜めに配置することで庭が分割され、南は庭、東は駐車場、西は雪置き場となり、隣家と程よい距離感をつくることもできました。南向きのリビングは隣家と正対しないため、植栽や塀も相まってプライバシー性が確保され、庭との繋がりが強くできたと思います。

0513-19-EDIT-22
空撮:布施貴彦さん(https://fusephoto.net)

また、将来的に1階だけで生活したいというご要望がありましたので、子ども部屋だけを2階にして、1階だけで生活が完結できるプランにしています」と設計をした加藤淳さんは説明する。

Whouse-60
株式会社 加藤淳設計事務所 代表 加藤淳さん。1972年、埼玉県鴻巣市生まれ。南会津の設計事務所に12年間務める。2007年、青年海外協力隊に2年間参加。モンゴル国立科学技術大学建築学科で講師をしながら、ゲル地区のゲルとセルフビルト住宅の住環境調査を行う。2010年、新潟市へ転居。2015年、加藤淳一級建築士事務所を開設。2022年に法人化し、株式会社 加藤淳設計事務所に。

 

2階のボリュームを抑えた平屋のような住まい

改めて袋小路の手前から近づいていくと、突き当たり左手に一見すると平屋のようにも見えるW邸が現れる。

Whouse-01

敷地に対して斜めに配置されているため、訪れる人をちょうど正面から迎えてくれる格好だ。ポーチの手前には庇が伸びていて、家族4人分の自転車を雨から守ってくれる。

Whouse-04

外壁の大部分は白いガルバリウム鋼板で覆われており、建物を少しくぼませたポーチ部分だけは板張り。新築から6年の年月を経て、スニッカルペール社の木製玄関ドアと壁が一層なじんでいる。

Whouse-08-EDIT

 

玄関と一体になる、桐の床のリビング

玄関ドアを開けたところがこちら。

Whouse-11

玄関に踏み込むと、左手のLDKまでが一体になった開放的な空間が広がっていた。3枚の建具で仕切ることもできるが、基本は開け放し。

Whouse-28

ゆとりある土間スペースは、スノーボードのメンテナンスをするのに重宝しているという。土間の一部は壁で仕切られたシューズクローク。手前は有孔ボードにして、普段使いするエコバッグなどを掛けられるようにしている。

1階の床はやわらかく足触りがいい桐の無垢フローリングで仕上げられており、6年の間に傷も増えているが、色は深みを増し、新築時よりも艶やかになっている。

Whouse-14

「桐の床は温かくて、絨毯を敷かなくてもくつろげるのがいいですね」と話す奥様のかたわらでは、息子さんが畳や絨毯の上で過ごすように、桐の床の上に寝そべりながらタブレットを操作していた。

Whouse-17

ダイニングがある南側は勾配天井。西側(写真右手)に行くほど天井が高くなり、一層の広がりを感じさせる。

南側の2連の大きな窓の外には、程よい深さの軒が架かっているため、夏の不快な直射日光は遮断される。それによって室内はやわらかい光に包まれていた。また、東側に設けられた高窓も室内の明度を上げる補助的な役割を担っている。

庭をすぐ目の前に感じられる窓辺は特に居心地のいいスペースで、造作ベンチは自然と家族が集まる居場所になっているようだ。

Whouse-50

「子どもの友達がよくうちに遊びに来てくれるんですが、床でゴロゴロしたり、伸び伸びと楽しそうに過ごしているのを見ると嬉しい気持ちになりますね」とご主人。

軽やかな桐の床に、優しい自然光で満たされるリビング。袋小路の突き当たりという立地も相まって、W邸には落ち着いた空気が満ちている。

 

キッチンを住まいの中心に

W邸のキッチンがあるのは家の中心部。

Whouse-22

ここを起点にリビング・ダイニングはもちろん、脱衣室や洗面室、寝室など家の中のあらゆる場所に短い距離で行けるのもW邸の特徴だ。

ただ、窓から離れた中央部は暗くなりやすい。その欠点を補うように、加藤さんはキッチン上部を吹き抜けにして、2階の高窓から光を落とすことにした。

Whouse-29

壁に反射しながら降り注ぐ光は穏やかで、神秘的な雰囲気をも感じさせる。周囲の天井高と合わせるように木製ルーバーがはめ込まれており、唐突にここだけ天井が抜ける印象を抑えているのもポイントだ。

また、ルーバーは吹き抜けに設けられたエアコンの存在を目立たなくするのにも一役買っている。

Whouse-47

キッチンの背後には造作のカップボードがあり、その壁面の仕上げは玄関と同じ有効ボード。引き出しにしまっておくと出番が減りそうなホットサンドメーカーが、いつでも使えるように壁でスタンバイしている。

Whouse-26

動線がよく考えられたキッチンは使いやすく、ホームベーカリーでパンを作ったり、以前よりも料理をたくさんするようになったと奥様は話す。

「ダイニングテーブルをキッチンの隣に置いて作業台にすると、さらに料理がしやすくなるんです」(奥様)。

ご主人も、子どもたちのために、アレルギーに配慮したお菓子をよく作るようになったという。

 

仕事の生産性を高める、こだわりの書斎

一度玄関に戻り、LDKとは逆の右手にある主寝室に入ってみた。

DSC_1325-Edit
※写真は竣工時

こちらのグレーの壁はモイスNT。けい酸カルシウム板をベースに天然鉱物のバーミキュライト、珪藻土などを配合した調湿性のある仕上げ材だ。

その奥にはご主人がこだわった書斎が配されている。

DSC_0411-Edit
※写真は竣工時

4畳程の空間にデスクや吊り棚が無駄なく造作されており、たくさんの機器や本を置くことができる。

DSC_0385-Edit
※写真は竣工時
DSC_0386-Edit
※写真は竣工時

数年前からご主人の働き方は在宅ワークが中心になっており、機能的に造り込まれたこの書斎で仕事に取り組んでいるのだそう。リビングから離れたレイアウトも、集中して仕事をするのに都合が良さそうだ。

 

回遊動線上に配したランドリールーム

寝室の前の廊下を玄関と逆方向に進むと、洗面スペースやトイレ、ランドリー兼脱衣室、浴室といった水回りが配されたゾーンへとつながる。

Whouse-30

廊下の一角に設けられた洗面台は、モールテックスという左官材料で仕上げられた造作の洗面台。ミラーボックスには間接照明が仕込まれており、上下から優しい光が漏れるように広がっている。

そして、その先は3畳のランドリー兼脱衣室。

Whouse-31

浴室の入口のそばには洗濯機とガス衣類乾燥機が置かれ、南からの日差しが入る窓辺には物干しが備えられている。壁を掘り込んだ収納スペースには、バスタオルを掛けるバー。壁には空気を掻きまわすための壁掛け式の扇風機も備えられている。そして、天井や壁の仕上げ材は、調湿性があるモイスNT。

Whouse-32

このランドリー兼脱衣室は回遊動線上にあり、廊下側とは別の引き戸を開けると、階段下を利用したクロークを通り抜けてキッチンに短い距離で回ることができる。

暮らしを楽にする設備機器やちょっとした収納スペース、素材や動線まで、さまざまな工夫がこのランドリー兼脱衣室には凝縮している。

 

子ども部屋は住みながら造り込む

1階だけで生活が完結するW邸。2階はどうなっているのだろうか?

廊下に面した階段を上がると、石膏ボード剥き出しの空間が広がっていた。天井高は2,100mmと低めに抑えられている。

最初にきれいに仕上げるのではなく、暮らしながら造り込む想定であったため、完成時はまるで工事途中のようにがらんとした空間が広がっていた。

DSC_1263-Edit

DSC_1261-Edit

DSC_1259-Edit
※写真は竣工時

竣工時の床は下地の合板が剥き出しで、将来的に2室に分割できる8畳の子ども部屋は建具もなし。そんな空間に床を張り、OSBの間仕切り壁を造り、建具を取り付け、ベッドやデスクを造り込んでいったという。

Whouse-33

Whouse-34-EDIT

Whouse-35-EDIT

「子どもたちそれぞれの希望を聞きながら、ベッドの高さやデスクの位置を考えて子どもたちと一緒に部屋を造り上げていきました」(ご主人)。

石膏ボードの壁は引き続き剥き出しのままだが、プライバシーに配慮し、間仕切り壁の間にはグラスウールを詰めるというこだわりも見られる。

自分で造ったという達成感もあり、子どもたちの自分の部屋への愛着はひと際深いものになっているようだ。

 

さまざまな経験と交流が生まれる住まい

2019年に完成したこの家に暮らし始め、6年の年月が過ぎた今もWさん家族の家への愛着は変わらない。

「自然光の中でリラックスできる家に住みたいと思っていましたが、その理想通りの暮らしができています。本当に居心地がいい家ですね。素足で生活できるところも気に入っています」と奥様。

Whouse-27

「僕は家が好き過ぎて、帰ってくると家から出たくなくなってしまいます。仕事も在宅がメインですし(笑)。6年の間にテレビは見なくなって、その代わりリビングにプロジェクターを置くようになりました。和紙の壁紙に投影すると、昭和っぽい雰囲気の映りになってそれもいいんですよ。

リビングは家具を置かない代わりに、トランポリンを置いて運動をしたり、ホワイトボードを使って子どもたちと勉強をしたりしています。あと、妻の承諾はもらえていませんが、いつか庭にサウナを置いてみたいですね」とご主人。

Whouse-54

光がたっぷりと入る開けっ広げな住まいは、住宅でありながら集会場のような大らかさがあり、子どもたちの友達がお泊まりをして過ごすこともあるのだそう。

さまざまな経験と交流が生まれるW邸。自然素材の経年変化と共に、これからも数多くの楽しい思い出が刻まれていく予感に満ちている。

Whouse-44

 

W邸
新発田市
延床面積 106.31㎡(32.16坪)
1F 80.30㎡(24.30坪) 2F 25.97㎡(7.86坪)
竣工年月 2019年7月
設計 株式会社加藤淳設計事務所
施工 株式会社Ag-工務店
耐震等級 3(許容応力度計算)

(写真・文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平

The following two tabs change content below.

鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。取材・撮影で訪れた住宅は累計900軒以上(2025年1月現在)。