【オーガニックスタジオ新潟】木のマンションリノベ第2弾は、音・質感・空調にこだわった上質空間

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。取材・撮影で訪れた住宅は累計900軒以上(2025年1月現在)。

自社で物件を購入し、マンションリノベのモデルルームに

自然素材を品よく使った家づくりを特徴とするオーガニックスタジオ新潟株式会社。2009年の創業以来、戸建て住宅の設計施工をメインの事業にしていますが、近年はリノベーション需要の高まりに合わせ、戸建て住宅の性能向上リノベーションにも力を入れています。

その流れの中で、2024年には初めてマンションリノベーションに挑戦。(詳しくはこちらの記事をご覧ください↓)

上品な旅館の客室を思わせる、オガスタのエッセンスが凝縮したマンションリノベーション

そして、今月新たに完成したのが、同社のマンションリノベーション第2弾となるモデルルームです。

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第1弾はオーナー様が購入したマンションのリノベーションでしたが、今回はオーガニックスタジオ新潟が購入した自社物件のリノベーション。

どんなコンセプトで、どんな提案が詰まった空間が広がっているのか見ていきましょう。

 

五感で心地よさを感じられる空間を目指して

今回モデルルームをご案内してくださったのは、オーガニックスタジオ新潟の代表・相模稔さんと、同社設計部部長・阿部誠治さん。

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左:阿部誠治さん、右:相模稔さん

まずは相模さんに今回のモデルルームをつくった経緯について聞いてみました。

相模さん 新潟において戸建て住宅の新築は30代の子育て世代が多いですが、マンションの場合は夫婦や一人暮らしのニーズが高いです。その中には子育てを終えたシニアも多く含まれます。

今回リノベーションしたマンションは新潟市の中でも特に立地がいい万代エリア。そして、マンションは部屋に入ってしまえば平屋というのも特徴です。だから、子育てを終えたシニア層が戸建てから住み替えるという需要があると思います。

ただ、世の中にあるマンションはある程度空間のパターンが決まっていて、こだわりたい人にとっては物足りない。そこで、我々が普段戸建て住宅でつくっている空間をマンションでもやってみようということで、このモデルルームをつくりました。

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相模稔さん。オーガニックスタジオ新潟株式会社 代表。1967年生まれ、新潟市西蒲区(旧巻町)出身。住宅FC本部、木造ハウスメーカーの営業マンを経て、2009年オーガニックスタジオ新潟を創業。建築系ユーチューバーとしても活動しており、自身のチャンネル「オガスタ新潟相模社長の家づくりの知識」は登録者数2.5万人超(2025年9月現在)

地方都市の新潟でも分譲マンションを選ぶ層が少なからずいるにも関わらず、自然素材を多用したマンションリノベはまだまだ少数派。「マンション住まいの新たな選択肢を提示したい」という相模さんの思いが背景にあったのですね。

では、今回設計を行った阿部さんにお話を聞いてみましょう。阿部さん、まずはリノベーションのコンセプトについて教えて頂けますか?

阿部さん 今回リノベーションをするにあたり「五感に訴えかけられるマンションリノベがしたい」と思っていました。

そのうちの一つが「音」です。例えばこのマンションは元々フローリングが躯体に直張りされていたんですね。そうすると音の反響がすさまじいんです。

巷で人気が高いマンションリノベでRCの壁や天井を剥き出しにする方法がありますが、それも音が強く反響します。

若いうちは気にならないかもしれませんが、シニアになってからそのような空間で快適に暮らせるのだろうか?という疑問がありましたし、音の心地よさという観点では不十分なマンションがほとんどなのではないか?と思ったことを発端に、どのような内装にするべきかを考えていきました。

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阿部誠治さん。オーガニックスタジオ新潟株式会社 設計部部長(管理建築士)。一級建築士、一級施工管理技士。1981年生まれ、新潟市西区(旧黒埼町)出身。新潟県内のゼネコンを経て、2010年にオーガニックスタジオ新潟入社。性能向上リノベ デザインアワード2022において、設計を担当した「松野尾の家」が最優秀賞を受賞。

 

カーペットを使ってホテルのような静けさをつくる

なるほど…。たしかに、この部屋に入った瞬間に、どことなく心が穏やかになるような感覚がありましたが、言われてみると「音」の要素が大きいように感じます。

音が吸収されていく環境では、敏感な人は特にリラックスできそうですね。

阿部さん ここでは廊下の床を毛足の長いウールのカーペットにしています。ホテルではよくカーペットが使われていますが、なぜホテルの居心地がいいかというと、本質的には音だと思うんですね。カーペットなどの吸音する素材が使われているために、耳がスン…とするような感じになります。

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廊下の床に採用しているのは、大阪でウィルトンカーペットを製造する堀田カーペット社の「WOOLFLOORING」。

それから、ところどころ天井に格子を使い、壁をヒダヒダにすることでも音の反響を抑えています。

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素材感豊かな浴室・脱衣・洗面スペース

リズミカルな壁や天井の仕上げは意匠的にも美しいものですが、より良い音の環境をつくるためでもあったのですね。「五感に訴えかける」というコンセプト。音以外ではどんなことに着目しましたか?

阿部さん 水回りですね。元の洗面室やお風呂は真っ暗で、機能しかないように感じました。それを気持ちいい空間に改善するために、浴室の壁や天井に檜を使い、それを隣接する玄関や寝室まで連続するように仕上げました。香りも良くなり、嗅覚でも心地よさを感じられます。

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マンションの中とは思えないとても贅沢なお風呂ですね。しかも、玄関側と寝室側とつながるように2つの室内窓が付いているというのも驚きです。

玄関、浴室、寝室、そして窓の外がつながり、お風呂に自然光が差し込んでいるので窮屈な感じがしません。

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阿部さん それから脱衣所の床にはサイザル麻を使いました。これは足触りが気持ちいいですし水分も吸ってくれます。こういう気持ちいい素材は吸音性にも優れています。

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たしかに、サイザル麻独特の程よい堅さと感触は靴下を履いていても気持ちいいですね。傍らにはオークの面材で上品に仕上げられた造作のキャビネットがあり、ミーレ社のドラム式洗濯機が設置されています。

そして、建具で仕切れる洗面スペースも素敵な一角。

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木製天板の造作洗面台にすっきりとしたデザインの洗面ボウル、壁付け水栓やタイルの壁に至るまでオーダーメイドで仕上げられています。鏡を正面ではなくあえて端に寄せているところにもこだわりが感じられます。しかも、この鏡、後で改めて説明して頂きますが、面白いギミックが仕込まれているんです。

トイレは洗面スペースのすぐ後ろにあり、アールが付いた漆喰壁を光源が見えにくいグレアレスダウンライトが照らしています。

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阿部さん トイレの床は明るく木目がエレガントなタモの無垢フローリングにしています。大人だけが暮らす想定でつくられているため、メンテナンス性が高いクッションフロアや長尺シートではなく、材木の特長を総合的に考慮して選びました。

 

寝室は光のコントロールにこだわりが

次に、水回りゾーンの奥にある寝室に行ってみましょう。

この部屋には掃き出し窓がありますが、手前にはルーバー付きの建具があり、阿部さんはこの建具を閉じて使うことを推奨しています。

(↑左右にスライドをすると建具の開閉による違いを比較できます。)

阿部さん 寝室は明るすぎない方がいいと考えてこの建具を製作しました。ルーバーは手動で角度を変えられるので、完全に閉じて暗くすることもできるんですよ。

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壁は隣の浴室と同じ檜を張っていて、天井の格子にも檜を使っています。

それからクローゼットの建具は杉でつくっていて、こちらも音の反響を抑えられるようにスリットにしています。廊下とは違う種類ですが、床はカーペットで仕上げました。

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廊下との間に水回りを挟むことで独立性が高められた寝室は落ち着いた雰囲気があり、睡眠の質が高まりそうです。

室内窓を開ければ浴室とつながるので、冬は加湿器を使わずに加湿もできそうですね。

寝室は照明を少なめにすることでもリラックスムードを生み出しています。部屋のレイアウトや素材選定、音や光のコントロールに至るまで、五感で心地よさを感じられる工夫が詰め込まれています。

 

チークの板土間が広がる玄関まわり

ここまで廊下や水回り、寝室を見てきましたが、一度BEFORE・AFTERの図面を見てみましょう。

BEFORE

AFTER

元々の間取りは複雑なパズルのように入り組んでいて、主要な窓がある南西側のLDKは明るいですが、玄関・廊下・洗面脱衣室・浴室などには光が入らなかったであろうことが想像できます。

それをシンプルにゾーニングし直したのがAFTERの図面。

最も明るい2面から光が採れるLDKを広げてより開放感をつくり出し、水回りは中央に固めて光や風が通るように配置。

玄関脇にあった北東角の部屋は玄関とつなげて、靴のまま利用できる空間にしています。

どのような意図でこの玄関+αの空間をつくったのでしょうか?

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玄関から隣室を見る。左手に見える建具は、既存の鋼製玄関ドアを隠しながら断熱効果も発揮する木製断熱引き戸。

阿部さん 今回玄関土間は左官仕上げではなく、下地をつくった上にフローリングを張って「板土間」にしています。ヘリンボーン用のチーク材を使ったことで、レンガのような印象に仕上がりました。

隣の部屋は書斎や趣味室として、また、ゲストの宿泊にも対応できる+αの空間として使うことができます。

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この部屋は光が穏やかなので、内装をダークトーンにして落ち着きを重視しました。

それから、窓を開けると風がよく通って気持ちいいんですよ。でも外はマンションの共用廊下になっていて、障子を開けると部屋の中が丸見えになってしまうんです。

それで、障子の上の部分だけ下げて風を通せるようにしました。

(↑左右にスライドをすると障子の開閉による違いを比較できます。)

雪見障子や猫間障子の逆バージョンですね。外からの視線を遮りつつ風を通せる。これはとても画期的です。

阿部さん あと、ここの左官仕上げの壁を見てください。これはうちの左官職人と一緒に開発した壁で、雲母(うんも)を入れた漆喰を塗ってから濡れたウエスで拭き取る洗い出し仕上げにしています。

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よく見ると壁の中にキラキラと光る石が見えます。今回のリノベーションでは壁の大部分が漆喰で仕上げられていますが、すべて同じ塗り方にするのではなく、場所によってはさらに一手間をかけて仕上げているんですね。

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阿部さん 穏やかな間接光の板土間の空間だからこそ、このテクスチャーが映えると思いました。

それから、この部屋だけは梁の関係で冷房用のダクトを引き込めなかったので、建具に無双窓を付け、建具を閉めている時でも空気が流れるようにしました。

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あと、隣の玄関では壁に付いている扉を開けると姿見が出てくる工夫もしています。実はこの鏡は奥にある洗面スペースの鏡を兼ねているんですよ。

(↑左右にスライドをすると姿見の開閉を比較できます。)

さまざまなところに細やかな仕掛けも施されていて、非常に密度の高い設計がなされていることが分かります。

 

障子から優しい光が注ぐ広々としたLDK

ここまでで本記事の約7割を読み進めて頂きました。いよいよメインの空間であるLDKに行ってみましょう。

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カーペットの廊下を進んで行くとリビング側とキッチン側の2つの入口があります。左手のリビング側に進んでみましょう。

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漆喰の壁にタモ材の無垢の床。障子によって拡散されたやわらかい光が室内全体に広がっています。

キッチンはオーガニックスタジオ新潟が得意とする造作キッチンで、自然素材あふれる空間に見事に調和しています。

ここまではチークの板土間や濃紺のカーペットなど、床に濃い色の素材が使われていましたが、ここに来て面積も一気に広がりパッと明るい空間に変わりました。

阿部さん ダークトーンの無垢の床もかっこいいですけど、ここは明るくエレガントな雰囲気にしたいと思いタモ材を選びました。耐衝撃性があり、全体のコーディネートがしやすい点もタモに決めた理由です。張り方は施工性の良さと見た目の面白さから「朝鮮張り」にしています。

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窓周りを覆っている障子はすべて引き込み式のため、開放時にはすっきりと戸袋に隠すことができます。

(↑左右にスライドをすると障子の開閉による違いを比較できます。)

障子を開ければ高層階ならではの景色が眺められ、閉じればすっきりと上品な世界観を味わえる。それぞれ違う魅力を楽しめるのも障子の魅力です。

阿部さん 既存のサッシはアルミ製で断熱性能が低いんですが、マンションの共有部分のため交換ができません。この場合、樹脂サッシの内窓を付けるのが一般的ですけど、外に接する部分が少ないマンションはそもそも断熱性能が高いため、あえて内窓ではなく障子を付けることにしました。

ただ、将来マンションの大規模改修が行われる時に高性能なサッシに交換できるのが理想ではあります。

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タイルと天然木が美しいセパレートキッチン

次に造作キッチンに注目をしてみましょう。コンロは壁側、シンクはリビング側というセパレート型(Ⅱ型)のキッチンです。このタイプは対面型と壁付け型の両方の特長を兼ね備えたもの。

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油跳ねが気になるコンロは壁側に寄せつつも、リビング側を向いて作業もしたい。そんな希望をバランスよく採り入れたセパレート型は、オーガニックスタジオ新潟の造作キッチンで最もポピュラーな形なのだそうです。

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キャビネットはオークの面材で仕上げられており、コンロ側のワークトップは黒い人工大理石、シンク側は黒塗装した木製天板という構成です。

阿部さん 全体的に明るい空間なので、キッチンの天板は黒にして引き締めることにしました。

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あと僕の中では、「自由な大人が二拠点生活のために持つマンション」というイメージがあったので、仲間とお酒を楽しむような場にしたいと思いワインセラーを置くスペースを確保しています。

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他にもミーレ社の食洗機、オーブンレンジを置くスペース、タイル仕上げの壁、レンジフードの金属部を目立たなくする工夫など、機能性と美観が実に細やかに考えられています。

 

ダクトエアコンで全館冷暖房を実現

ここまでですべての部屋を紹介してきましたが、このリノベーションでもう一つ注目すべき点が高度な空調計画です。

この部屋には壁掛けエアコンが1台もなく、その代わりにキッチンの天井裏に設置された「ダクトエアコン」で全館冷暖房を実現しています。

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夏はリビングの上部に見られるルーバー内部から冷気が噴き出し、冬は左手奥に見える床の段差の部分から暖気が噴き出す。
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寝室はクローゼットの上の通気口から冷気を取り込み、脱衣室の床下から暖気を取り込む仕組み。

なお、換気に関しては、給気はリビングの可動式の壁の後ろに隠された自然給気口から外気を取り込む仕組みです。

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排気は、寝室・浴室・トイレの天井に設置された排気口がダクトでセントラル換気ユニットにつながっており、そこで1本化して外へと排出する第3種換気となっています。

阿部さん 構造躯体をかわしながら、既存のスリーブ(配管用にコンクリート躯体に設けられた筒状の貫通孔)も活用しながら空調計画を考えなければならず、そこは苦労をしたところでした。

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また、RC造のマンションは大きな柱や梁などの構造躯体がデコボコして見えるので、それらをいかに目立たなくしてきれいに見せられるかも今回のリノベーションで気を使ったことでしたね。

 

記号化できない独自の価値を追求する

今回のマンションのリノベーションの解説、そろそろ締めくくりに入ろうと思います。

相模さん、阿部さん、完成してみての感想を聞かせて頂けますか?

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相模さん マンションを購入される方の多くは、立地や築年数、面積などの記号化できる情報から価格を考えて購入を検討されます。

それに対して、我々が取り組んでいるこのようなマンションリノベは記号化できるものではありません。ニッチな取り組みだと思いますし、今後も大きく伸びていくものではないでしょう。

ただ、こういう暮らしに共感する方は一定数いらっしゃるので、我々だからできるマンションリノベをこれからしっかり提案していきたいですね。

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阿部さん 自分が住みたいマンションを目指してつくった空間なので、とても満足しています。一人で悠々自適に暮らせる立場だったらぜひ購入して住んでみたいですね。

あと、相模社長は子育てを終えたシニア層をメインターゲットに考えていますが、僕は首都圏在住で、首都圏と新潟の二拠点居住を考えている層にも受け入れられるのではないかと思っています。

 

2025年、年内は予約制で見学できる

とても長い記事になってしまいましたが、オーガニックスタジオ新潟が手掛けたマンションリノベーションの独自性や魅力が伝わりましたでしょうか?

無垢フローリングやウールカーペット、漆喰の壁や造作建具、造作キッチン、全館空調などなど、オーガニックスタジオ新潟のこだわりと美意識が凝縮した空間はマンションの一室であることを忘れてしまいそうになります。

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阿部さんが「五感に訴えかけるマンションリノベ」と説明するように、音や感触、空気感など、写真や文章では伝えきれないものがあります。

2025年中は予約制で見学ができるようですので、気になる方はぜひ訪ねてみてはいかがでしょうか?

個人的には廊下のウールカーペットがとても気持ち良かったので、次回お邪魔する機会があったらここで寝転がってみたいと思います。

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木のマンションリノベーション「万代のレジデンス」モデルルーム
マンション完成年 1995年
リノベーション完成年月 2025年8月
床面積 77.98㎡(23.54坪)
設計施工 オーガニックスタジオ新潟株式会社

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写真・文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。取材・撮影で訪れた住宅は累計900軒以上(2025年1月現在)。