鈴木 亮平
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三浦直史(なおし)さん・華林(かりん)さんご夫婦が暮らすのは、新潟市中央区万代エリアにある築38年のマンション。地上11階建ての最上階で、ラブラや新潟伊勢丹、ビルボードプレイスなどの商業施設が徒歩圏内という新潟市の一等地だ。
その一方で、信濃川も目と鼻の先。信濃川に面した河川敷・やすらぎ堤にすぐに出ることができ、都市部でありながら広大な緑地にも恵まれている。
夏になればやすらぎ堤には仮設の飲食店が並び、川から吹く夜風を浴びながらビールを飲んで過ごすという乙な過ごし方も日常となる。
直史さんのお仕事は西堀前通にあるセレクトショップMAPS(マップス)のバイヤー。これまでは夫婦で古町エリアの賃貸マンションで暮らしていたという。
「引っ越しは何度もしていたんですが、20年近く古町に住んでいたんですよ。近所になじみのお店もいっぱいあったから、古町ロスになるんじゃないかと心配していました」と笑う。
「でも、万代に来たらこっちにもいいお店がたくさんあって。意外とすぐに万代になじめましたね(笑)」と華林さん。
リノベーションで自分たち好みの空間を手に入れる
バイヤーとしてさまざまな商品を目利きしてきた直史さんは、新品よりも中古のものが好きだという。
そのため、築数十年を経た中古マンションを購入するのは自然な選択であったし、賃貸では難しいリノベーションをして、自分たちが本当に好きな空間を造り上げたいと思うようになったのがマンション購入のきっかけだった。
「いくつか他の物件も見てきたんですが、ピンとこなかったんです。でもこの物件を見たら『これはすぐに決めよう』となって。仕入れの仕事でも、いい物は悩まずにすぐに決まるんですが、この部屋を見た時に同じような感覚になりましたね」。
そんな11階の部屋からは、バスセンターやビルボードプレイス、新潟伊勢丹といった商業ビル群がすぐそばに望める。
オールドキリムにモロッコタイル。素材一つ一つにもこだわりが
ご夫婦が目指した空間のテーマは「モロッコ」。オールドキリムと呼ばれるヴィンテージラグを使ったクッションが並ぶ造作ソファが三浦邸の特徴的な空間だ。
床にはこれまで二人が集めてきたラグが敷かれている。さまざまな柄が見られるが、テイストが統一されているので意外にも雑多な感じはしない。
「スクエア型のオールドキリムのプフを並べるのが夢だったんですが、日本ではあまり流通していなくて。それで、モロッコの道具や雑貨の買い付けをしている方(モロッコの暮らしと手しごとさん)に依頼して集めていただいたんです。その方がマラケシュに滞在している時にもリアルタイムでメッセージのやり取りをしていましたね」(直史さん)。
プフのソファの向かい側には、食器を飾りながら収納できるガラス戸棚とキッチンカウンター。カウンターには鮮やかな幾何学模様のモロッコタイルが張られており、その上にはモロッコのアンティーク照明が吊り下げられている。
しかし、徹底的にモロッコテイストで統一しているかと言うとそうでもない。ソファの前に置いているのはちゃぶ台だ。
「ちゃぶ台はオークションで探し、福島県に住むおじいちゃんから売ってもらったものなんです。モロッコをテーマとしていながらも、落ち着ける和の要素も入れたいと思っていました」と直史さん。
ちゃぶ台は低めに抑えられたソファとの相性がよく、違和感なくラグとも調和していた。
「朝食を食べるときは窓側のダイニングテーブルで、夜はソファに座ってちゃぶ台でゆっくりと。友人や親兄弟が来ると、みんなそれぞれ好きな場所に座ってくつろいでいますね。あえて座らずにカウンターで立って過ごす友人もいます」(華林さん)。
ご夫婦の好みを理解し、建築士が整えて空間を具現化
タイルやプフ、照明などのほかに、建具も自ら取り寄せたという。クローゼットや寝室のドアにはイギリスのヴィンテージドアが使われている。「ドアに付いている『5』っていう数字は、そのドアがあった家の番地なのかな?とか、いろいろ想像を巡らせるのも楽しいですね」と直史さん。
この家のリノベーション計画を担当した株式会社モリタ装芸の建築士・小倉直之さんは、「お二人のセンスがすごく良かったですし、やりたいことも明確でした。その中で私からデザインの提案をする必要はほとんどなかったので、さまざまな要望をうかがいながらバランスよく整えていくことに徹しました」と話す。
「例えば、玄関部分は壁を抜くことで広く明るい空間にして、物干しスペースにしています」(小倉さん)。
マンションの限られた空間で見落としがちなのが物干しスペースだが、これが確保されていないとせっかくこだわって造り上げたリビングにいつも洗濯物が干されるという残念な状態になってしまう。
玄関ではあるが、ポールに掛けられた布を広げれば目隠しすることも可能だ。
また、ダイニングの横に設けたクローゼットは完全に閉じるのではなく、天井付近を開けて湿気が籠もらないようにしている。さらに、見切り部分には味のある板材を使うなど、プロならではの細やかな提案も織り込まれた。
「最近では、新築でもリノベーションでも自分の作品をつくろうというのではなく、施主さんの目指すことをしっかりと理解した上で、それをうまく整えるような仕事をしたいと思うようになりました」と小倉さん。
それは、住まい手が迷子にならないように、同伴し道を指し示してくれる頼れる山岳ガイドのような存在だ。
好きなものに囲まれた心地よい暮らし
ガラス戸棚の中には、ご夫婦がこれまで集めてきたさまざまな食器が並べられている。
「モロッコのデザインも好きですが、北欧や和も好き。あまりガチガチになるのではなく好きなものを集めていったらこうなりました。二人で器の好みが似ていますが、違う趣味の器が入り混じるのもまた面白いですね」と直史さん。
長年セレクトショップの仕事で培ってきた物に対する感覚や寛容さがこの部屋に自然と表現されており、一見バラバラに見えるものがうまく融合している。それは、多様な人や物が集まる海外の市場のような趣きをも感じさせる。
「いい物っていうのは値段が高いっていうことではないと思っています。旅先で買った名もないものでも気に入ってずっと飾っていたりもします。自分が本当に好きだと思えるものに囲まれていると、自然と丁寧に暮らしたくなりますね」とほほ笑むお二人は、家でのリラックスした時間を心から愉しんでいる。
車から解放されることで、街をより深く味わえる
ずっと新潟市の街中に住み、街中で働いてきたお二人は車を持っていないという。「免許は持っていますが、たまにしか乗らないのでペーパードライバーになっています(笑)」。
移動は徒歩や自転車、遠くへ行くときは公共交通機関を利用するが、特に不便さは感じていない。
「地方では車がないと不便」という概念があるが、新車を買えば200万~300万円は当たり前。さらに車に掛かる税金や保険、車検や消耗品などの固定費も積み上げていくと大きな金額になる。
都市生活をベースとする車から解放された暮らし。それもまた三浦さんご夫婦流のライフスタイル。
長距離バスのターミナルであるバスセンターがすぐ目の前なので、遠方へ旅するのにも便利な場所だ。
徒歩のスピードで街を散策すれば、車からでは気づかなかった小さくて面白いお店がたくさんあることに気づく。
やすらぎ堤を歩けば、街中に豊かな自然があることにはっとさせられる。
三浦さんご夫婦は、街の魅力を存分に体感できる暮らし方をごく自然に行っている。
築数十年を経たマンションリノベーションは、都市の中に自分たちがくつろげる空間をつくり出す行為。この部屋を訪れて感じたのは、旅先で賑やかな繁華街にあるゲストハウスにチェックインした時のようなワクワク感に似ていた。
住宅街の一戸建てにはない、都市部のマンションリノベーションだからこそ実現できるライフスタイルがここにあった。
三浦邸
新潟市中央区
延床面積 74.36㎡(22.49坪)
構造 SRC造
築年数 38年
工事完了年月 2019年1月
設計施工 株式会社モリタ装芸
(写真・文/鈴木亮平)
鈴木 亮平
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