鈴木 亮平
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南魚沼市浦佐にある株式会社島田組は1920年創業の建設会社。
上越新幹線が停車する浦佐駅西口から100m程の場所に社屋があり、土木部・建築部・軌道部(線路等の鉄道施設の保守営繕)・住宅事業部の4つの事業部で構成されています。
創業100年を超える同社は、2024年4月1日に代表が世代交代し、専務だった島田奏大(かなた)さんが代表に就任。それに合わせて、会社ロゴやWEBサイトもリニューアルしました。
さらに、会社の顔でもある本社1階のリノベーションも3月に完了。これまで十分に活用がなされていなかった1階スペースは、社内外の人が集い交流できる場に生まれ変わりました。
このリノベーションの企画・設計を手掛けたのは、株式会社新潟家守舎の代表・小林紘大さんと同社スタッフの長谷川達也さん。
どのような経緯でリノベーションを行うことにしたのか?そしてどんな場所を目指したのか?
島田奏大さん、小林紘大さん、長谷川達也さんの3人にインタビューをしました。
株式会社島田組 代表 島田奏大(しまだかなた)さん
1988年生まれ、南魚沼市出身。南魚沼市に拠点を置く建設会社、株式会社島田組の代表を務める。創業から100年、地域とともに歩んできた信頼と実績を大切にし、地域の元気をつくる建設プロジェクトを展開。新卒採用や次期リーダーの育成に力を入れており、CIに「上を向いて、挑む。」を掲げ常に未来を見据えた経営を心がける。
株式会社新潟家守舎 代表 小林紘大(こばやしこうだい)さん
1987年新潟市生まれ、新潟大学工学部建設学科卒。 新潟市の工務店にて住宅設計の仕事をしながらグリーンホームズ新潟への入居を機にコミュニティーマネージャー活動を開始。2019年より「コウダイ企画室」としてフリーランスに。2020年に株式会社新潟家守舎を設立。「じぶんのまちを、じぶんのことに」をモットーに、場づくりの建築というハードと、暮らしのコンテンツというソフト、両面から手がけている。
株式会社新潟家守舎 設計スタッフ 長谷川達也(はせがわたつや)さん
1991年生まれ、富山市出身。新潟大学工学部建設学科卒。一級建築士。新潟市内の工務店で設計・営業を経験し、2023年に新潟家守舎に入社。手描きスケッチから空間作りを大切にしている。住宅や店舗等の設計・建築、工務店のフォローを行っている。
人材不足を解決するために、変化を生み出す場をつくる
――今回のリノベーションで変化が起こることを期待していると思いますが、そもそもどのような課題があったのでしょうか?
島田奏大さん(以下島田さん) 近年、採用活動で苦労するようになっていて、募集をしてもなかなか人が集まらないことが課題になっていました。
では、どうしたら島田組で働きたい人が増えるのかを考えた時、会社が魅力的であることはもちろんですが、その前提として、この会社で働く私たちが魅力的に見えることが大事なのではないかと思いました。
そのために、社員同士のつながりがあり、みんなで協力してチームワークを持ってはつらつと仕事をしているところを見せられるような会社になりたいと思いました。
現状の社内を見た時に、社員同士の横のつながりが十分かというとそうではない。それから、そもそもうちの会社が地域の人にあまり知られていないというのも、人材を集める上での課題でした。
――人材の獲得がいろいろな地域・業界で課題になっています。その課題を建築で解決するために、今回のリノベーションではどのような空間を目指しましたか?
島田さん うちのCI(コーポレートアイデンティティ)が「上を向いて、挑む。」なんですけど、変化すること、挑戦することが大事だと思っています。
そういうコンセプトの場所をつくることで、社員が前向きに変化していくといいなと思いました。また、新しい場をつくることで地域がより良い雰囲気に変わればいいな…と考えています。
うちの会社だけでなく、地域全体が「変化しよう、挑戦しよう」という空気になれば、この会社はそういういい空気をつくったいい会社だなと思って頂けるのではないかと。そんな空間を目指してリノベーションをすることにしました。
――ちなみにリノベーション前は、本社1階はどのようなスペースだったのでしょうか?
島田さん 正直持て余していたんですよ。打ち合わせスペースにはしていましたが、ただそれだけ。半分は物置になっていました。
それから、玄関ドアを開けるとすぐ目の前にまたドアがあり、お客さんが入りにくいつくりでした。
――会社の1階が十分に活用されていないもったいなさがあったんですね。新潟家守舎の小林紘大さんは以前からつながりがあったのですか?
島田さん 紘大さんとは、2020年に湯沢町で行われたスタートアップウィークエンドで出会いました。3日間でビジネスアイデアを考えるイベントで、僕は見学に行ったんですよ。
小林紘大さん(以下小林さん) 私は主催者側にいて、そのイベントで島田さんと面識ができました。その後、島田さんが自社のブランディングに力を入れ始め、CIやVI(ビジュアルアイデンティティ)、コンセプトや人事制度の見直しをしていると聞きました。
島田さん 2年前から外部の人事のプロの方に入って頂いて組織変革を進めていて、「変化を生み出すきっかけや、社内の横のつながり、社外とのつながりが必要」という話になったんです。それで、オフィスの改装はそういうコンセプトで進めることにしまいた。
その人事のプロの方と紘大さんがつながりがあり、「オフィスの改装は、紘大さんに相談してみては?」と提案を頂き、紘大さんとの打ち合わせが始まったんです。
「つなぐ、つむぐ。」をテーマに、18歳に刺さる空間を。
――今回1階の大部分をリノベーションされています。その理由や意図について教えて頂けますか?
島田さん 元々は1階のもう少し狭い範囲での改装を考えていたんです。「でも、せっかくやるなら、ちゃんとやらないともったいない」という話になり、施工範囲は当初の予定よりも広くなりました。
小林さん 最初は1階の奥の方が希望されていた施工範囲だったんですが、奥はそのままにして、手前側に全振りをする提案をしたんです。そうすることで入口から入って来た時のイメージが大きく変わりますし、その方が今回のコンセプトに合っていると思いました。
――なるほど…。小林さんは最初の要件自体を見直しながら、より最適化する提案をしたんですね。具体的な設計意図を教えてもらえますか?
小林さん まず今回のリノベーションを「つなぐ、つむぐ。」というコンセプトで進める提案をしました。
会社の100年の歴史を未来へつなぐ。社内の人間をつなぐ。会社に変化をもたらす、新たな人材を迎える。そして、この地域を形作ってきた歩みを未来にまでつなぎ、つむいでいく…という想いを込めています。
その中で「これから会社に変化をもたらす環境、変化をもたらす人材を迎える環境」というのを空間づくりのテーマにしました。
具体的には、「18歳に刺さるオフィス」ですね。18歳の人が「地元にこんな会社があったんだ!」と感動するような場所をつくろうと思いました。そしてそれが採用につながり、地域におけるブランディングになるのではないかと。
プランニングとしては、まず入ったところに会社の歴史を伝える本棚を設けています。
会社の歴史を伝えるヒストリーボードというものがありますが、これはヒストリーブックスタンドですね。今後この本棚一つ一つに会社の歴史や事業を伝えるものが展示される予定です。
そして、その先がミーティングスペースです。メインの目的は打ち合わせで、中心に大きな机がありますので、大きな図面を広げての打ち合わせもやりやすいと思います。
現場に出ることが多く固定デスクを持たない社員の方が軽作業をしやすいように、壁際にはカウンターもつくりました。
また、家具のレイアウトを変えて、パブリックスペースのように使うことも想定しています。プロジェクターを使って新商品発表会をしたり、全体ミーティングをしたりというイメージですね。
段差があるので、話す人がステージに立って使うのがいいと思います。
元々の空間はコンセントが少ないことも課題でした。段差をつけたのは、フロアコンセントの配線を通すためでもあったんですよ。
ちなみに今回のプロジェクトは僕がPM(プロジェクトマネージャー)を務め、設計の実務は長谷川くんが担当しました。
長谷川達也さん(以下、長谷川さん) 実施設計や施工監理は島田組さんの方で行うということでしたが、現場には月1回ペースで訪問し、週2回くらいは現場監督さんと電話でやり取りをして進めていきました。
――ビフォー写真と比べると、雰囲気ががらりと変わったことがよく分かります。社内外の人が自然とここに集まってくる様子が思い浮かびます。窓の格子も特徴的ですね!
小林さん 「つなぐ、つむぐ。」というコンセプトはデザインコードにもしていて、それを窓の木製格子で表現しています。土木をやっている会社なので、力強さが表現できるようにあえて太めの材料を使いました。
板と板が組まれている本棚も「つなぐ、つむぐ。」を現すデザインと言えますね。こちらの材料は十日町市にある製材所UC Factoryさんでつくっている魚沼杉の24mm厚の合板です。このように地域の材料でつくることも大事にしています。
天井も魚沼杉の合板で、こちらは厚さ5.5mmのものを幅72mmにカットして張ったものです。幅910mmの合板から12枚を歩留まりよくきれいに取れる寸法なんです。
元の天井はジプトーンが張られていて、THE・鉄筋コンクリート造みたいな雰囲気だったので、天井を変えることで印象を変えようと思いました。
ただ、そうすると当然費用は掛かってしまいますから、少しでもコストダウンをできるようにジプトーンを剥がさず、その上に張れる方法を考えました。
ジプトーンの天井に大きな合板を張るのは難しいですが、幅を細くすると重量が軽くなり張れるんですよ。
うまく運用できるように、ワークショップからスタート。
――このリノベーションを進めるプロセスで、大事にしたことはありますか?
小林さん まず「どんなオフィスにしたいか?」というのを、島田さんと、人事のスタッフの方と一緒にワークショップをやりながら考えました。
ハードだけでなくソフトも大事。スタッフの方と一緒にどう使っていくかを考える必要があります。KJ法(思い付いたことを付箋に書いていき、関連性のあるものをグルーピングする手法)を使ったワークショップを行い、そこで現状のオフィスの課題を整理していきました。
それから、昨年の秋には新潟市に来て頂いて、僕が住んでいるグリーンホームズという集合住宅や、僕たち新潟家守舎が入居しているWORK WITH 本町などを一緒に回りながら共通言語を増やしていきました。
島田さん いろいろご案内を頂いた中では、異人池建築図書館喫茶店の空間を参考にしている部分が多いですね。私たちはコンクリートを扱う会社なので、モルタルを採り入れたいと思いましたし、本棚を入れることで型枠に使う木のイメージを表現できそうだな…と。
それから、グリーンホームズは、今後の運用やコミュニティづくりというソフト部分の参考になりました。
――外観は入口まわりが改修されていますが、壁をモルタルにしているのはそういう理由からだったんですね。
長谷川さん 元々の入口まわりには看板がたくさんありましたので、それらをすっきりさせてシンプルにまとめています。それから、ポーチの軒天と室内の天井の仕上げを統一させたのも同じ意図からですね。
以前はすりガラスが使われていた入口を全て透明ガラスに変え、中の様子をよく見えるようにもしました。夜は特に本棚がよく見えますし、入りやすい入口になったと思います。
――島田組さんにとっては、普段つくっていないタイプの空間であったかもしれませんが、実施設計や施工で苦労したことはありますか?
島田さん 作って頂いたCGパースのようにつくるためには、どのような建材を選べばよいのか?というところで悩むことが多かったですね。サイン選びなどは特に私たちが普段やらない仕事でしたので、みんなで話し合いながら決めました。でも、担当している社員は「どんな空間ができ上がるのかな?」とワクワクしながら楽しそうに進めていましたよ。
まちの元気をつくる会社を目指す。
――リニューアルを終えた本社1階。これからこの場所をどう使っていきたいですか?
島田さん この場所の使い道は大きく3つ考えています。1つ目は、社員同士のつながりをつくる場にすること。仕事の打ち合わせはもちろんですが、仕事以外でもランチ会などをやってつながりを広げてもらいたいなと思っています。
2つ目は、新しい働き方ができる場にすること。今後フリーアドレス制なども採り入れていこうと思っていますが、その時々によってデスクの場所を柔軟に変えられるとか、社外の方と一緒に働くとか、そういう変化を生み出す場所にしたいですね。
3つ目は、地域の方との交流のきっかけになること。例えばですが、ボードゲーム大会や婚活パーティーなどのイベントをここで開くとか、地域の人が気軽に使える場所、集まれる場所にできたらと考えています。
――1つ目と2つ目は、社員の方の働き方の話ですが、3つ目はそうではなく地域を巻き込んでの話なのですね!
島田さん まちの元気をつくる会社でありたいと思っていますので。地域の人口減少も切実な課題ですが、その原因は若い人にとって魅力的な大人が少ないということなんじゃないかとも思います。
積極的に行動して輝いている大人が増えると、地元に若い人が残ったり、一度離れた人が戻ってきたり、外から移住してきたりということが増えるんじゃないでしょうか。
そのためにも、まずはうちが行動して背中を見せたいなと。
――「まちの元気をつくる会社」。素敵なスローガンですね。実際にリニューアルされた空間は、とても自由度が高く、本当にいろいろな用途に使える可能性が感じられます。
島田さん 実験をするようにこの場所を使っていきたいと思います。そして、ここに集まる人と一緒に新しい取り組みを始められたらいいですね。
既に何度かここでオードブルとお酒のケータリングを頼んで夜にお酒を飲みながら話をする交流会も行いました。雰囲気のいい空間なのでいい発想も出てきやすいですよ。
――リニューアルを終えて、社外の方はどんな感想を話されていますか?
島田さん 「すごくいい場所になりましたね!」「こういう場所、うちも欲しいです」と褒めてくださいますし、「まだ見てないので、行ってみたい!」という声も聞きます。
それを聞く社員が「変わるっていいことなんだ」と感じ、変化していくことに自信を持てたらいいなと。
――今後この地域で素敵なオフィスづくりに力を入れる会社が増えたら楽しそうですね。今起こり始めている変化というのは、小林さんが空間づくりを考えていた時のイメージ通りでしょうか?
小林さん そうですね。会社のイメージを刷新するために、社屋そのものを建て替えるのは難しいと思いますが、今回のように入口近くの応接スペースをリニューアルするというのは取り組みやすく効果的だと思います。
その際に、都会的なオフィスをつくるよりも、地元の建材を使い、この地域の会社らしさを表現することが合っているんじゃないかなと思いました。
――元々は採用活動が課題ということでしたね。この空間は直接的に採用活動に効果が出そうです。
島田さん これから島田組ではチャレンジすることに投資をしていきますが、採用活動でそういう話や会社の将来像の話をこの空間ですると真実味が増すと思うんです。理念を体現し伝搬できる場所ができたというのは非常に大きなことですね。
今回のリニューアル工事は、実は当初の予算よりもだいぶ大きくなってしまいました。でも、投資をして良かったと思っています。
それから、こういう地方で働く選択をする人は、都会にはない地方ならではの魅力があるから選んでいると思います。だからこそ、この地域らしさを表現する空間を会社の中につくることはとても重要ですし、地域を元気にすることにもつながると思います。
今後豊かさを感じられる場所として、地方がどんどん注目されてくるでしょう。その中で今私たちは地域を盛り上げる火種を作りましたので、今後炎をどんどん大きくしていきたいと思っています。そして、優秀な人材をいろいろな地域から広く集められるようにもなりたいですね。
既存事業だけでなく、新規事業にも積極的に挑戦して、多様な人に仕事を提供する、総合的なまちづくりをする会社になりたいと考えています。
浦佐の地で創業100年を超える建設会社・島田組。地方の建設業という保守的なイメージを払拭し、変化を恐れることなく、前向きに挑戦する社風を築き上げようとリブランディングを始めました。
今回のオフィスリニューアルは、そのコンセプトを具現化する拠点づくりであり、空間プロデュースを担ったのが、建築とコミュニティづくりを掛け合わせた提案を得意とする新潟家守舎の小林紘大さんでした。
小林さんは「ハードである建築にできることは限りがあります。重要なのはソフトにつなげていくこと」と話します。
だからこそ、設計者側の提案ベースで設計やデザインを行うのではなく、はじめにワークショップを行い、方向性を丁寧に確認しながらプロジェクトを進めていきました。
南魚沼という地域性を採り入れながら、変化と交流を生み出すパブリックスペース。今後この場所でどんなモノやコトが生まれるのか?そして、浦佐という地域にどんな変化をもたらすのか?今後の展開に注目したいですね。
また、今回のリノベーションプロジェクトについて、新潟家守舎の長谷川さんのnoteでも詳しく解説されていますので、併せてこちらもご覧ください!
https://note.com/wanwanhatch/n/na1b4a17fe390
【取材協力】
株式会社島田組
住所:新潟県南魚沼市浦佐470-6
インスタグラム:@shimada.urasa
株式会社新潟家守舎
住所:新潟市中央区本町通 7番町 1098-1 WorkWith 本町B-3
インスタグラム:@kodai_mac
写真・文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平
鈴木 亮平
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