【SIA×フラワーホーム】豪雪地帯をポジティブに生きる“魚沼な暮らし。”とは?

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。

河岸段丘に立つ、夕日を望む家

信濃川の中流域に位置する十日町市。信濃川が南北に縦断しており、東側の魚沼丘陵と西側の東頚城丘陵の間に盆地が広がっている。

Nさん夫婦が暮らす家は信濃川の東側に広がる傾斜地に立っており、そこから盆地の中央部を見下ろせる。

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共に十日町市で生まれ育ったNさん夫婦は結婚してアパート暮らしをしていたが、息子さんが生まれると手狭に感じるようになり、真剣に家づくり計画をスタート。そして、SIA(株式会社石田伸一建築事務所、本社:新潟市中央区女池神明)を頼り、延床面積26坪の家をつくり上げた。

「SIAさんを知ったのは、十日町市が主催していた雪国居住空間コンテストがきっかけでした。コンテストに参加していたSIAさんのプレゼンを見て興味を持ち、その後に、SIAさんが設計し、地元のフラワーホームさんが施工した住宅のオープンハウスを訪れました」と奥様。

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地元の木をふんだんに使った家のデザインに一目惚れし、他社と見比べることなく依頼を決めたという。そして、四季を感じられる暮らしをしたいと考えていたNさん夫婦は、高台の120坪の土地を購入。「土地はいくつかの候補がありましたが、夕日を見たくて、西に開けた土地を選びました」(奥様)。

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魚沼杉で覆われた、風景になじむ家

ゆとりある土地に立つN邸は、地元で採れる“魚沼杉”の外壁で仕上げられている。1階部分は縦張りの押し縁仕上げ、2階部分は鎧張りと、2種類の張り方で変化を付けているのが特徴だ。

南北に延びる道路に対して、平行ではなく斜めに配しているのは、日射取得・日射遮蔽・眺望の3つのバランスを取ったから。

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一般的なセオリー通りに南向きに建ててしまっては、真南に立つ倉庫が視界の中心に入ってしまう。かといって景色のいい真西に向けてしまえば、西日を受ける時間が長くなり快適性は損なわれてしまう。その中道を行く答えが、南北軸から30°ほど反時計回りに振り、建物を敷地北側に寄せたレイアウトだった。

家の手前には車2台分のアルミカーポートがあるが、魚沼杉を張った建物と調和するように側面には魚沼杉のルーバーが取り付けられている。

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そのカーポートを通り抜けると、河岸段丘につくられた田畑や住宅、そして西側の丘陵を眺めることができる。

 

フラワーホームが掲げるコンセプト『魚沼な暮らし。』

ところで、N邸の施工を担った株式会社フラワーホーム(本社:十日町市中条)が2020年から掲げている「魚沼な暮らし。」というコンセプトがある。そのコンセプト設計に、同市(旧松代町)出身の石田伸一さん(SIA代表)が参画し、魚沼地域に適した設計・施工・暮らし方を一緒にまとめていった。

フラワーホームの代表・藤田満(ふじたみつる)さんはこう話す。

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「十日町は、かつては冬になると雪がものすごく積もって大変な地域でした。そこから高床式の住宅が生まれたのですが、根底には雪は邪魔者だという考え方がありました。『こんな大変な土地に住まなくてもいい』と子どもに話す親も多く、そういうマインドが少なからず人口減少につながっていたと思います。

でも僕はこの十日町や魚沼地域が大好きなので、雪がたくさん降ることも前向きに受け止めたい。石田さんも『高床式ではなく、地に足の着いた気持ちいい暮らしを提案したい。高さを抑えた美しいプロポーションの住まいをつくりたい』と話していて、その考え方に共感しました。そうして、高床式ではない形で、四季を楽しみながら快適に暮らせる家『魚沼な暮らし。』を始めました」。

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ちなみに「魚沼な暮らし。」は抽象的なスローガンではなく、実際にこの地域にふさわしい暮らしができるように、独自の基本仕様が設計されている。

例えば、断熱性能を高めるために窓はトリプルガラス×樹脂サッシが基本仕様。エアコンの室外機は雪に埋もれない高い位置に配し、給湯器は下屋で守る。外壁材には地元で採れる魚沼杉を推奨する。スノーダンプやスコップ等を収納する外部収納を設ける。ポーチや玄関は悪天候時でも出入りしやすい余裕を確保する…等々。実に多くのことが具体的に明文化されている。

 

雪国の暮らしやすさのカギは、玄関周りにあり

「魚沼な暮らし。」に基づいて建てられたN邸は、合理的な3間×5間の総2階。

建物のコーナー部分を掘り込んだ形のポーチは、幅1,365mm×奥行1,820mm。雨や雪をしのぐ上で十分な役割を果たす絶妙なサイズだ。

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その先には1畳分の外部収納があり、除雪道具など、雪国ならではのかさ張る道具を格納できる。玄関ドアはSIAが推奨しているテラスドア。フロストガラスで視線を遮りつつ、光を玄関内部に採り込めるのが特長だ。

そして、その先にあるのが2.5畳の玄関。

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ゆとりある土間スペースにはオープンな可動棚が設けられており、雨や雪で濡れたアウターをかけるハンガーバーも設けられている。

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大雪の日、広めの玄関が心の準備をするのに役立ち、帰宅時にはホッとした気持ちにさせてくれる。空間の広さは、物理的な広さだけでなく、精神的なゆとりをも生み出している。

 

玄関直結のⅡ型キッチン。目の前には芝庭が広がる

玄関のすぐ右手には幅の異なる2つの建具があり、土間から直接キッチン内へ入れる動線と、奥の窓側から入れる動線が用意されている。

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キッチンが玄関のそばに配されているのは、より景色がいい奥側にリビングをレイアウトするため。キッチンとリビングの位置を逆転させたプランと見比べた上で、Nさん夫婦はこのレイアウトを採用したという。

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「買い物帰りにすぐにキッチンに入れるのが便利ですね」と奥様。

もちろんこのキッチンからも、庭や目の前の田畑を望むことができる。

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キッチンはSIAが提案することが多いⅡ型を採用。油はねしやすいコンロは壁付けだが、シンクは対面型となり、シンク側で作業をしている時は庭で遊ぶお子さんの様子を眺められる。

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キッチン前の壁はモルタル仕上げ。造作キッチンの面材は、この家の壁や天井にも使われているUCマホガニー合板(SIAの関連会社、株式会社UC Factoryが製造している合板で、基材には魚沼杉を、表面にはガボンマホガニーを使っている)で、うっすらと木目が見える程度にグレー塗装されている。その程よい無機質さが、キッチンに並べられた植物たちを引き立てる。

 

吹き抜けが気持ちいい、チーク床のリビングへ

キッチンの隣は横並びのダイニングテーブルで、玄関ホールからそこまでの床はNさん夫婦が希望したグレーのフロアタイル仕上げ。

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そして、その先の約8畳の空間が、チークのパーケットフローリングで仕上げられたリビングだ。

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このリビングの前に立った瞬間、天井高2,250mmのダイニング・キッチンから、全く異なるスケールの空間に切り替わる。

目の前の大きな壁に張られているのは節の多い魚沼杉。2階の天井へと向かって伸びるその姿は、かつて杉板が森の中の立木であったという至極当たり前のことを思い起こさせる。

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ゆったりとした座り心地のソファに腰掛ければ、大きなピクチャーウインドウから見えるのは大らかな田園風景。自然素材に包まれて穏やかな景色を望むこの場所こそがN邸の特等席だ。

「この空間がどのような場所になるか、図面だけでなくCGも見せて頂いたんです。CGには窓から見える景色も入っていたので完成イメージが分かりやすかったですし、とてもワクワクしました」(ご主人)。

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一直線の水回りは、裏手に無駄なくレイアウト

ここまでがN邸の“表の空間”だとしたら、浴室・脱衣室・洗面室・トイレは“裏の空間”にまとめられている。

この水回りゾーンの入口となるのが1坪の洗面スペース。

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モルタルとグレー塗装したUCマホガニー合板でシックにまとめられた空間にウォーターヒヤシンスのカゴや花が色彩を添えている。

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右手の奥まった空間はトイレ。

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左手には1坪の脱衣室兼ランドリールームと浴室が続いている。

空間を仕切る建具は吊り戸で、壁の中に引き込める仕組みはSIAが推奨する仕様。床に戸車を受けるVレールが存在しないため、建具を開放した時には空間がシームレスに美しく連続する。

この水回りが並んでいるのは敷地の道路側。特に眺めるべき景色がないところに水回りを固めることで、メインの空間となるLDKの快適性を高めているのがポイントだ。

 

開放感と高い可変性を持つ2階

ここまでがN邸の1階で、約14坪の空間にLDKと水回りがまとめられていた。

一方、玄関ホールに設けられた階段の先にある2階は、寝室と収納、将来的に間仕切りができるフリースペースで構成されている。

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総2階の家の2階というと、個室が詰め込まれた少し窮屈な印象の空間を想像しがちだが、N邸はとても開放的だ。

階段を上がったところは間仕切りのない10畳のフリースペースで、屋根なりの勾配天井は最も高い場所で3.3mもある。

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床は足触りが柔らかい魚沼杉で、1階リビングのチークとは異なる感触が味わえる。

右手奥には6畳の寝室。その左側は同じ広さの吹き抜けがあり、下にはリビングが見える。

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この吹き抜けと階段は建物の両端に位置しているため、空気が家じゅうを循環する。冬場の暖房はリビングのテレビボード下にある床置きエアコン1台だけ、夏場は2階の壁掛けエアコン1台だけを使用するという。

断熱性能を示すUA値は0.33とHEAT20G2基準をクリア。気密性能を示すC値は0.1と、こちらも非常に高い性能で、快適な温熱環境をつくり出す。

「真冬でも家じゅうが暖かくて快適です。夜寝る時のかけ布団は1枚で済むようになりました」と奥様。

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また、2階の間取りにおける奥様のこだわりは、ウォークインクローゼットを大人用と子ども用で分けたことだという。

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フリースペースに面した2つのウォークインクローゼットは、向かって左側が大人用の3畳。右手は子ども用の2畳。「子どもには、自分のものを自分で片づけられるようになってほしくて、分けることにしました」(奥様)。

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天井が低くなる寝室は、最も低いところで約2m。屋根裏部屋のような落ち着いた空間に、北側の窓からの光が穏やかに注ぐ。少し色が入った壁紙に、優しい風合いのコットンの寝具。見上げればガボンマホガニーの木目が広がっている。

備え付けの照明がない寝室にはシンプルなテーブルランプだけが置かれ、夜になったら暗い部屋で眠るという、自然なことが自然に行われる。

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眺望のいい家で、豊かな自然と四季を感じる

この家で暮らし始めて丸1年。どんなことに満足しているかを聞いてみた。

「以前住んでいたアパートは日当たりが悪く窮屈でしたし、家の外に出て子どもを遊ばせる環境でもありませんでした。この家に住んでからは、子どもがデッキや庭で遊べるようになりましたし、家の中でも走り回って遊んでいます。

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それから、私は朝早く起きて2階のデスクで仕事をするんですが、窓からの眺めがよくて、朝焼けが出る日は特に気持ちいいですね。夕日を眺めるのも好きです」(奥様)。

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「僕もこの家の景色が好きで、すごくリラックスして過ごしています。照明が抑えられているので、夜になると自然に眠くなり、その分、朝早く起きるようになりました。それから、以前は休日になるとよく出掛けていましたが、ここに住んでからは家にいる時間が増えましたね。庭が整ってきたので、これから友達を呼んで過ごすのも楽しみです」(ご主人)。

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設計をした石田さんはこう話す。

「僕たちSIAが大事にしている『家と庭で家庭をつくる(家と庭を一体設計する)』『Long Loved Design(長く愛せるデザイン)』『地材地建(地域の建材、人材でその地域に建てる)』などの設計思想を『魚沼な暮らし。』にも入れていて、その考え方でNさん家族の住まいを設計しています。実際にここで暮らして庭を楽しんでいるというお話を聞くとうれしくなりますね。

魚沼地域はとてもいいロケーションがたくさんあり、『こっちに住みたい』という声も聞きます。他の地域とは異なる魚沼らしい暮らしを、この地域に根差してやってきたフラワーホームさんと一緒に届けていきたいですね」。

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新潟市に拠点を置きながら、県内外の工務店・住宅会社と協働し、コンセプト設計から家づくりに関わるSIA。雪が多い地域というとネガティブなイメージを持ってしまいそうだが、その自然環境を受け入れ、庭とつながる暮らしを提案する。

いうなれば『魚沼な暮らし。』は、世界有数の豪雪地帯という稀有な土地に誇りを持ち、楽しく生きていこうという姿勢だ。

そのポジティブな気持ちから生まれる住宅が、鉛色の空に封じ込められる冬でも、人々の気持ちを明るく軽やかにしてくれそうだ。

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N邸
十日町市
延床面積86.95㎡(26.30坪)、1階47.20㎡(14.28坪)、2階39.75㎡(12.02坪)
竣工年月 2023年4月
設計 株式会社 石田伸一建築事務所(SIA Inc.) Instagram:@sia_inc0717
施工 株式会社フラワーホーム Instagram:@flowerhome_10city

(写真・文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。