鈴木 亮平
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グレーを基調としたシンプルでミニマルなデザインの木造住宅を手掛けるK.DESIGN HOUSE(新潟市中央区美咲町)。
株式会社桐生建設(本社:胎内市)のデザインブランドで、和風住宅で培った確かな技術と、先進的なデザイン・設計力を生かし、新潟市を中心に注文住宅を手掛けています。
K.DESIGN HOUSEは2006年に常務の桐生和典さんが立ち上げ、今年で18年。近年は海外のデザイン賞を数多く受賞しています。
2017年に新潟市中央区親松に完成したモデルハウス(既に販売を終えて公開終了)は、木造住宅でありながら鉄筋コンクリート造のようなモダンさを感じさせるデザインが評価され、2018年にグッドデザイン賞を受賞しました。
新潟市西区坂井の新しい分譲地「みちまち坂井つばさ」に2023年に完成したモデルハウス『スキップテラスのある家』は2024年にドイツのiF Design Award 2024を受賞。
今回は、この『スキップテラスのある家』でK.DESIGN HOUSEの桐生和典さんに、家づくりの考え方やモデルハウスの特徴について詳しく伺いました。
――まずはじめに桐生さんが家づくりで大事にしている考え方を教えて頂けますか?
一貫して、シンプルで飽きがこず、長期的に住めるデザインを大事にしてきました。現在は、全棟で耐震等級3、長期優良住宅を取得するなどして高い品質を担保しています。
それから、“外部とのつながり”をずっとテーマにしていて、住宅がどのように街とつながるか、逆にどう距離を置くべきかということを考えてきました。
その中で、住宅が密集する街なかでも、プライバシーを確保しながら開放感をつくり出せるコートハウス(壁や塀で囲まれた中庭を設けた住宅)をよく提案してきました。
――では、それを踏まえて、2023年に完成したこのモデルハウス『スキップテラスのある家』はどのようなコンセプトを持っているのでしょうか?
このモデルハウスが立つ「みちまち坂井つばさ」は110区画の大分譲地で、モデルハウスの南側が遊歩道になっています。デザインルームアマノの天野一博さんがランドスケープデザインをしたメインストリートです。
そのメインストリートに対してどう設計するか?というのが一番のポイントになっています。通り沿いの植栽の緑は採り込みたいけど、歩いている人や車からは距離を置きたい。それを両立させたいと思いました。
今までは都市型住宅を提案することが多かったので、以前中央区の親松に建てたモデルハウスはコートハウスにしていました。でも、そのやり方だとプライバシーを確保した上で開放感をつくれるんですが、街に対しては閉鎖的になってしまいます。
今回は植栽が多い遊歩道に面した土地なので、コートハウスよりも街に対して距離を近づけられるようにしたいと思いました。プライバシーや安心感を確保しながらも街に対して開く。「閉じつつ、開く」というのがコンセプトで、それをスキップテラスで表現しました。
同時に、街に対してどのような佇まいであるべきか?というのも今回よく考えたことでした。
ところで、モデルハウスでは、現代の問題に対しての解決方法を提示することが大事だと思っています。今回このモデルハウスで提案したスキップテラスの考え方は、都市部や分譲地で使えるものなので、これから注文住宅を建てられる方のヒントになればいいなと思っています。
それに、実際にモデルハウスで体験してみると、「これでいいじゃん」とか「違う方がいいね」と判断しやすくなります。
インテリアに関しても、床をチャコールグレーにしたり、壁にライトグレーの壁紙を使ったりしていますが、実際に見て「いいね」と言ってくださる方が多いです。
自分の家で新しいことに挑戦するのは、お客様としては不安が大きいと思いますので、モデルハウスでは新しい取り組みをして見せることが大事だと考えています。
――桐生さんは近年積極的に海外のデザイン賞に応募されていますよね。このモデルハウスは、今年ドイツの「iF Design Award 2024」を受賞されました。どんなところが評価されたのでしょうか?
2018年に初めて日本のグッドデザイン賞を受賞して、それ以降累計で23の国内外のデザイン賞を受賞してきました。
海外のデザイン賞には2~3年前からチャレンジしていて、中でも今回取ったiF Design Awardは世界3大デザイン賞と言われている賞です。今回の受賞は新潟県の建築会社の受賞としては初となるものでした。
iF Design Awardでは、差別化・造形・機能・アイデア・インパクトの5つの評価軸があり、そのすべてで高得点を出すことが受賞の条件になります。その中で特に点数が高かったのが、造形とインパクトでした。
ヨーロッパでは木造住宅の評価がそもそも高いですが、木造住宅でありながらモダンなデザインであるという点が特に評価されたのかなと想像しています。
そもそも桐生建設は昔から大工がいる会社なので、国産の杉を使うことを得意としています。木を使いながらも新しいデザインを採り入れてモダンな家をつくっていくのがK.DESIGN HOUSEの特徴なんですけど、この「木造住宅における新しい表現」が評価されたのではないかと思います。
別の韓国のデザイン賞に応募した際には、「一辺倒になりがちな分譲地において、新しい提案によってより快適な住空間を提供している」と評価を頂きました。
――ところで、桐生さんが海外のデザイン賞に積極的に応募をしている理由を教えて頂けますか?
デザインの価値を客観的に評価してもらいたいと考え始めたからです。例えば、耐震性能や断熱性能は分かりやすく数値化できるものですが、デザインの価値は数値化ができません。
だから、「うちはデザイン性が優れています」と言っても自称になってしまいますし、主観的で感覚的な売り込みになってしまいます。
ただ、耐震性能や断熱性能は今や多くの会社さんが力を入れて取り組んでいて、差別化が難しくなっている分野でもあります。そこで、これからはデザインでの差別化が重要になると考えるようになりました。
それでデザイン賞に応募することにしたんです。そこで受賞をすることで、第三者である審査員の方から「設計力やデザイン力が高い」という客観的な評価を受けることができるからです。
それによって私たちが力を入れているデザインをアピールしやすくなりますし、デザイン性の高い住宅を建てたいと考えているお客様にとっても選びやすくなると思います。
この数年の間に、日本、韓国、イタリア、フランス、ドイツ、イギリス、スイス、フィンランド、アメリカと9カ国のデザイン賞を受賞してきました。
ヨーロッパが多いですが、ドイツやイギリスは教育においてもデザインや技術を重視していて、専門の大学も充実しています。それだけデザインに対して熱心な地域だから、デザイン賞も昔から多いんですよね。
アメリカもアップルのような世界で最もデザイン戦略に力を入れている企業がある国ですから、デザインに対しての意識が高いです。
これから物を選んでいただく上で、デザインが経営戦略としてますます重要になってくると感じていますし、その点で日本は欧米よりも少し遅れているようにも思います。
――「デザイン戦略」という言葉がありましたが、K.DESIGN HOUSEさんはデザインに統一感があるのが特徴です。その統一感も意識しているところでしょうか?
そうですね。私たちのような小規模な工務店が大手さんに対抗するためには、ブランドイメージに統一感を持たせることが大事だと思っていて、自動車メーカーのマツダさんのデザイン戦略を参考にしています。
外観をパッと見ただけでK.DESIGN HOUSEらしさが伝わることが重要で、そうすると宣伝広告費が抑えられるという効果もあります。数が極端に増えているわけではないのに「K.DESIGN HOUSE、最近よく見るよね」という印象になりますので。
それで外観はこのモデルハウスのようにグレーを基調としたデザインにすることが多いですね。
実際に「いつも通勤途中で見ている家のデザインが気になっていて…」という問い合わせが最近増えています。
――ブランドイメージがはっきりしていると、お客さんとのミスマッチも少なそうですね。
すごく少なくなりましたね。K.DESIGN HOUSEのキャラクターがはっきりしてきたことで、お客様の方が当社を選びやすくなったのだと思います。私たちは「なんでもやります」という姿勢ではないですし、自ずと好みが似ているお客様が多くなりますね。
あと、これは最近の家を建てる方の行動の特徴だと思いますが、かつてはいろいろな住宅会社さんの見学会を数多く回るという人が多かったのに対して、最近は事前にインターネットやSNSで調べた上で2社くらいに絞ってからモデルハウスや見学会に訪れるというのが主流になっているように思います。
ですので、このモデルハウスの見学を希望される方は、既にある程度K.DESIGN HOUSEのことを知っている方が多いです。
――iF Design Awardをはじめ、数多くのデザイン賞を受賞してきたことで変わってきたことはありますか?
インスタグラムのフォロワーが2年前500人だったのが10倍になり、最近5,000人を超えました。
それから、就職希望者が増えており、人材不足の解消にもつながっています。建築を学んでいる学生さんや若い求職者の方が、学校からの紹介ではなく、当社のことを自分で調べて「こういう家の建築に携わりたい」と言ってきてくださるんです。大工さんから「K.DESIGN HOUSEさんの家に興味があって仕事をしてみたい」とオファーを受けることも出てきました。
あと、デザイン賞の受賞を重ねてから、OBのお客様からの紹介が増えてきましたね。これまでのお客様は30代が中心でしたが、最近は20代のお客様が増えてきているのもデザイン賞を受賞するようになって変化してきたことです。
――このモデルハウスの見学に訪れる人に共通する特徴はありますか?
新築を検討しているメインの層が20~40代なので、もちろんその世代の方が多いです。それから、利便性のいい街なかで建てたいと考えていて、かつ資産価値が高い家を求めている方が多い印象がありますね。
私たちに依頼されるお客様にわりと共通しているのが、「掃除や手入れが楽な家にしたい」ということです。そういう方は、シンプルで無駄を削ぎ落した機能的な家を求めていますし、そこがK.DESIGN HOUSEの家の特徴でもあると思います。
「ユニットバスに窓や棚はいらないです」「見える収納が苦手なので、収納には扉を付けてください」「凹凸があると掃除がしにくいので、すっきりさせてください」「派手な装飾はいらないです」などが、よく頂く希望です。また、質感のいい素材を好まれる方が多いのも特徴ですね。
――では改めて、このモデルハウス『スキップテラスのある家』のプランの解説をお願いできますでしょうか?
まず1階についてですが、最初に説明したように「スキップテラス」を中心に展開するプランになっています。
南側に遊歩道があるので、そこに面して1階に大きな掃き出し窓を設けると、どうしてもカーテンを閉めて生活することになりがちだと思うんですよね。
そうすると、外から見た時に家が閉鎖的な印象になってしまいます。そこで、スキップテラスの大開口を設けることで、プライバシーが保てるのはもちろん、外からも開放的な建物に見えるようにしています。
リビング、ダイニング、キッチンは、このスキップテラスを囲うように配しています。
また、水回りは玄関から一直線になる場所にまとめました。
それから、2階の子ども部屋と寝室は南側に配置し、遊歩道が見えるようにしています。
2階の北側に小さなバルコニーを設けているのは、裏の道路側にも温かみをつくりたいという思いからですね。ミニマルで無機質なデザインの外壁の中に植物が入ることで、街に対していい効果が出せるのかなと思います。あとは、北側がどうしても暗くなるので、バルコニーにして大きな窓を付けることで室内への明かり取りにもなっています。
間崩れがないシンプルなプランなんですけど、建ち上がった時には豊かな空間になることを意識して設計しました。
――素材についてはどんな特徴がありますか?
まず、メインの外壁は私たちがお薦めしているオリジナルのグレー塗装した国産杉を使用しています。グレー塗装しているのは、経年変化が目立ちにくいからですね。結果的にメンテナンスも楽になります。
木なのにコンクリートのような雰囲気が出て、パッと見るだけでK.DESIGN HOUSEの家だと分かる特徴になっているかなと思います。
もちろん用途によってはガルバリウム鋼板や塗り壁、タイルも使いますし、組み合わせて使うことも多いです。この建物も側面にはガルバリウム鋼板を使っていますし、北側には部分的に塗り壁を使っています。基本的には塗り直しが要らない素材を選んでいますね。
内部の床はチャコールグレーに塗装したアッシュ材です。床材はオークやウォールナットが人気ですが、モデルハウスということもあり、新しい選択肢を提案したいと思ってこのような床材を選びました。
キッチン前の壁はウォールナット調のメラミン化粧板を使っています。キッチン周りで濡れやすい場所ですから、極力お手入れが楽な素材を選んでいます。また、カップボードの後ろの壁にはアクセントとしてタイルを張っています。
それから、スキップテラスの床は油分が多い南米産のハードウッドを使用しています。この木は腐りにくいだけでなく、ささくれも出にくいので素足でも安心して歩けるんですよ。
――照明についてはどんなことに注意をして計画をしていますか?
今回のモデルハウスでは照明の数をかなり減らしています。リビング、ダイニング、キッチンの天井の照明は、それぞれ小さいダウンライトを2つずつにしていますね。あとは、壁際に間接照明を入れています。
昼間は照明の光が弱く見えますが、夜は十分明るいんです。照明って不安に思って多く配置しがちですけど、そうすると空間がすっきりとした印象になりません。
幅木をミニ幅木にして高さを抑えたり、笠木を薄くしたりしていますが、そういうパーツ一つ一つが空間の印象をつくるものなので、照明も同じような考え方で計画しています。
このモデルハウスでは、照明の数や明るさも参考にして頂きたいなと思っています。
――では最後に、桐生さんの今後の展望について教えて頂けますでしょうか?
提案力を大事にしいるので、これからも提案の幅を広げて新しい価値を提供していきたいと思いますし、前提として性能とデザインの両立は欠かせないことだと考えています。
あとは、家って敷地の中だけで考えがちですが、ずっとそこに立ち続けるものなので、立っているだけで街に対していい影響を与えられる家、貢献できる家をつくっていきたいですね。その気持ちは以前より強くなっている部分です。
それから、近年海外のデザイン賞を受賞するようになり、自分たちがやってきたデザインが、日本でだけ、新潟でだけ受け入れられるものではなく、もっと普遍的な価値があることを認めてもらえたのはとてもうれしいことです。
特に今年ドイツのiF Design Awardを受賞できたのは、デザインや革新性だけでなく機能的であることも評価されていますので、そのバランスも大切にしてこれからも家づくりをしていきたいと思います。
デザインを戦略的に捉え、独自のブランドイメージを構築し、高い性能や機能性、メンテナンス性を考慮した住宅を提案するK.DESIGN HOUSEの桐生和典さん。
『スキップテラスのある家』は、桐生さんの最新の家づくりの考え方が凝縮したモデルハウス。ぜひ見学に訪れてみてはいかがでしょうか?
みちまち坂井つばさモデルハウス『スキップテラスのある家』
取材協力/K.DESIGN HOUSE 株式会社桐生建設 桐生和典さん
写真・文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平
鈴木 亮平
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