鈴木 亮平
最新記事 by 鈴木 亮平 (全て見る)
- アンダーイーヴス・アーキテクツ・渡辺宣一さん×新潟家守舎・小林紘大さん。互いの自邸を訪ね、家づくりについて考える。(前編) - 2026年6月4日
- 街を見渡すルーフテラス付き!モルタル仕上げの70年代ヴィンテージマンション - 2026年4月21日
- 創業9年目、無垢フローリング専門店・アンドウッド。定番から異端まで、新たな4種のフローリング。 - 2026年2月4日
2026年4月に建築設計事務所として独立したアンダーイーヴス・アーキテクツ・渡辺宣一(わたなべ のぶかず)さんは、ちょうど同じタイミングで新潟の建築コミュニティ「住学(すがく)」の5代目校長に就任しました。
渡辺さんからの依頼に応じ、5代目教頭を務めることになったのは株式会社新潟家守舎の代表・小林紘大(こばやし こうだい)さん。

2018年に始まった住学は新潟県内の工務店・設計事務所を中心に、建材メーカー、建材卸、各分野の職人、建築学生などが集い、情報交換や交流をする場になっています。
ここで関係性が築かれ仕事の協働が始まることも多いのですが、当日の参加費(会場使用料と飲食代で6,000~7,000円程度)以外の費用が発生せず、発足から8年が経過した今もどことなく自然発生的に行われているような独特の緩さがある場になっているのが特徴です。

校長・教頭は2カ月に1回開催される会合の内容を企画したり、対外的な広報を行う役割を担っており、おおよそ2年おきに交代する仕組みになっています。

本記事は渡辺さんと小林さんがそれぞれの自邸(渡辺邸は2023年竣工、小林邸は2025年竣工)を訪ね、互いの家づくりの考え方に触れながら住宅について深掘りをする対談記事になります。
前編・後編の2部構成で、前編では渡辺さんの家での対談の様子をまとめています。ではさっそく渡辺さんの自邸にお邪魔してみましょう。

コロナ禍の中で、庭が欲しくて家づくりを考え始める。
小林さん 渡辺さんが家を建てようと思った経緯を教えてもらえますか?
渡辺さん この家を建てる前は、祖父が残した築60年の家を受け継いで自分で手を加えながら住んでいて、新築にはあまり積極的ではなかったんですよ。その気持ちが変わったのは、2020年に始まった新型コロナウイルスの流行がきっかけでした。外出が制限され公園で遊ぶことさえできない時期がありましたよね。
当時は長男が小学校1年生で、次男は0歳児。幼い子どもたちと庭がない狭い家で窮屈に暮らすのが非常に過酷だったんです。そんな時に気持ちを支えてくれたのがキャンプでした。いろいろなキャンプ場に出かけることで、改めて自然の中で過ごすことの気持ちよさを実感し、そのうちに「庭がある暮らしがしたい」と思うようになり、家づくりを考え始めました。

その後、何十年も空き家になっていた隣家を購入し、その家を解体しました。そこにこの家を新築し、元々住んでいた家は解体して庭にしたんです。
家のコンセプトは「庭と最大限につながる家」。幅5.2mの大開口を設けて、庭との境目がなくなるような家を設計しました。

あと、郊外に立つ山荘のような家を、新潟駅から徒歩25分くらいで行けるこの場所で実現しようと考えていました。ある程度の都市の中でもこのような暮らしができることを示したかったんです。

僕は独立してアンダーイーブス・アーキテクツ(_EAVES ARCHITECTS)という、直訳すると「軒下建築家」という名前で始めており、軒下からおうちを考えることを念頭に設計しています。
この家も軒をぐっと出していて、さらに内部も勾配天井にして登り梁を現しにしているので、室内までもが軒下空間に感じられるのが特徴です。また、今いるタープ下の空間も軒下と言えますし、日射や雨を遮りながら外で過ごす暮らしを提案していきたいと考えています。

小林さん 渡辺さんの「庭が欲しくて家を建てた」というのがいいなあと思いました。我々は家を提案する立場ですけど、お客さんが家を建てたい理由は「アパートから脱出したい」というのがほとんどで、それ以外の目的があまりないケースが多いと感じています。
やはり目的がある家づくりの方が設計もしやすいですし、完成した時の満足度も高いんですよね。だから「なぜ家を建てるのか?」というのは改めて問う必要があると思うんですけど、どうですか?

渡辺さん その通りだと思います。家づくりの目的やコンセプトを見つけるサポートをすることも、僕たちに求められている根幹の能力かもしれないですね。
小林さん 住宅の提案はライフスタイルの提案でもあります。例えばサウナがある暮らしとか、ペットとの暮らしとか、いろんなキーワードがあると思うんですけど、僕たちはいろんな引き出しを持つ必要があると考えています。
だから、渡辺さんのように設計者自身が目的のある家づくりをして、家での体験を語れるのはすごくいいことですよね。

渡辺さん そうですね。実際にこの家に住んで感じているのは、ストレスが減ったことです。自分もそうだし家族もそうです。みんなが大らかな性格に変わっていきました。庭があるので鳥や虫がいるんですけど、それは子どもたちにとっていい勉強にもなっています。
それから、この5月6月の新潟の気候の良さが以前よりも強く感じられるようになりましたね。こんなに素晴らしい季節が新潟にはあるんだ!って。だからこの時期は朝から晩まで窓は開け放しです。

質感・機能を重視しつつ、イニシャルコストを抑える工夫。
小林さん 家づくりで意識したことは他にどんなことがありますか?
渡辺さん なるべくコストをかけないことですね。家って贅沢をすればいいというものでもないし、高い材料を使えばいいというものでもありません。昨今住宅の材料の価格が上がっているというのもありますけど、新しい生活を始める上でなるべく初期コストは低い方がいいと思っています。
それは単に安ければ良いということではなく、十分な性能や雰囲気を得ながらも、必要以上のコストを掛けないという意味です。例えば壁や天井を合板で仕上げているところなどがそうですね。

小林さん 床・壁・天井を合板で仕上げると、下手をするとモクモクしてしまいがちですが、そうではなく上品に仕上がっていますよね。
渡辺さん ありがとうございます。そこはすごく注意したところですね。魚沼杉の基材にマホガニーを張ったUCマホガニー合板のような、節が少ない合板を選んでいたり、フレキシブルボードを張った土間のような空間を設けたりすることでバランスを整えています。UCマホガニー合板の木目が抽象的で、個性が出過ぎないというのもありますね。

あと、厚さ9mmの合板を張っている理由の一つにDIYで家を可変できるようにしたかったというのがあります。すべて下地なので家のどこでもビスが打てるんですね。それは僕が推し進めていきたい家づくりのコンセプトの一つでもあります。

僕が考えた造語なんですけど「居住力」を復活させたいと思っていて。「居住力」とは、施主の住まう力のことです。今は家を自分でメンテナンスしたり、心地よく巣作りをしたりする能力が失われていると思っているので、お客さんたちの「居住力」を高めてあげたいと思っています。
ゆくゆくは居住塾みたいなこともやっていきたいですね。

リビングと寝室を一体にしたホテルのような空間。
小林さん 家の広さや間取りを教えてもらえますか?

渡辺さん 1階が19.5坪、ロフトのようになっている半2階が7坪で、全部で26.5坪です。間取りの工夫としては廊下のない家にしたくて、うちのなかで廊下と呼べる部分は1畳分くらいしかないかなと思います。玄関ホールみたいな場所もなく、すぐにダイニングにつながる構成です。
ダイニング、リビング、キッチンはプライベートな空間に行くに連れて段々と床が高くなるようにしました。そうすることで小さな家でも奥行感が生まれ、視覚的に広がりを感じられるからです。

それから、主寝室がリビングに隣接していて、建具も何もない状態にしています。ホテルってちょっと贅沢なつくりでも、リビングに面してベッドがそのまま置いてあるのが一般的なので、家でもそういうスタイルが成立するんじゃないかなと考えました。
そうしているもう一つの理由として、小さな家にソファを置きたくなかったというのがあります。寝室をリビングに隣接させておけば、ベッドがソファの代わりにもなります。あとは、寝室を小上がりにすることで奥行1間分の引き出し収納を4つ設けることができました。

仕事は玄関隣の書斎で。打ち合わせはタープの下で。
小林さん 職住一体であることも渡辺さんの家の特徴ですよね。
渡辺さん はい、僕は家で仕事をしていますが、書斎をリビングに隣接させず、間に玄関とシューズクロークを挟む間取りにしています。こうすることで、例えば子どもたちがリビングで映画を見ていても仕事に集中できます。コンパクトな家でも書斎はなるべくリビングから離すことが重要ですね。

ちなみに独立してからは、お客さんを招いてダイニングや外のタープの下で打ち合わせをしています。

小林さん 僕はリアルな場で集まって仕事をすることに価値を感じているのでシェアオフィスにいることが多いですが、家で仕事をするというのはどういう感じですか?

渡辺さん 僕は前職からノマドワーカーで、図面やコンセプトをつくり上げていく作業が一人一人に割り振られる事務所だったから家で仕事をすることが成立していたのかなと思います。独立して個人で働くようになったことで、職住一体の形がよりフィットしたと感じています。
小林さん なるほど。僕の場合は異業種の人と仕事をすることが多いので、自宅よりは人に来てもらいやすい場所にいた方が効率がいいんですよ。それに、シェアオフィスにいると建築以外の状況がよく分かります。社外の人とのコミュニケーションを取りたいからそこにいる、という感じですね。
渡辺さん たしかに家にいる時間が長いとどうしてもSNSやWEBの情報に頼りがちになってしまうので、外に出る時間は増やすようにしています。住学もそうですけど、県外の工務店さんの見学会や勉強会にも積極的に行くようにしています。建築ってアーティストのように自分から生み出すエネルギーも大事だけど、一方でプロダクトでもあるので情報を仕入れてアジャストしていく必要もありますね。そこが建築の面白さでもあります。

軒下空間の魅力を伝えていきたい。
小林さん ところで独立するにあたり「アンダーイーヴス(軒下)」っていうニッチなコンセプトにされたわけですけど、それは勇気が必要でしたか?

渡辺さん そうですね。勇気がいりました(笑)。それでも、「軒下の家」を広めたいという気持ちがあり、自邸をモデルハウスとして見て頂こうと思っていましたので。あと、素材に関することだったり高気密高断熱だったりというのは、あえて打ち出す必要がないくらい内包されているものと思っているので、あえてそのような言葉は使いませんでした。

戦略的な話になりますが、あまり大きな主語にすると逆に戦えなくなると思ったんです。僕は年間に2組から3組のお客様の家づくりをお手伝いさせて頂ければ生きていけるので、そもそもそれ以上の方に興味を持って頂くような打ち出し方をする必要がありません。
だから鉛筆の芯を尖らせるように、ニッチにニッチに行こうと決めたんです。

住んで感じた不便さは、自分で直してブラッシュアップ。
小林さん ちなみに自邸の家づくりで、こうすれば良かった…と後悔しているところってありますか?
渡辺さん いくつかあったんですけど、全部改善しているので今はないですね。その一つが、「最初に床下エアコンを入れておけばよかった」ということです。薪ストーブで暖かく過ごせる家ではあるんですが、床面の温度ってなかなかコントロールが難しかったんですね。

冬に薪ストーブを使っていない時間帯は、膝から下の冷えが気になり、後から床下エアコンを入れました。最初からその可能性を考えていたので、基礎断熱にして床下エアコンを後から入れられるようにしていました。
それから最初は第3種換気にしていましたが、僕は電気工事士の資格を持っているので後からDIYで第1種換気にしています。理由は書斎の換気のコントロールが難しかったからです。書斎でオンライン会議中に戸を閉めていると酸欠になるっていう。自然給気口もあえて付けていなかったのでそれはそうなんですけど(笑)。第1種換気にしたら解決しました。

あとは、大開口の木製窓の取り合いに隙間ができていたのでそれも改善しています。前職時代にこの家を建てたら、その後「この家をこのまま欲しい」とおっしゃるお客さんがいて、この家と同じようなつくりの家を2軒建てているんです。その2軒では最初から木製窓の気密性を改善したものにブラッシュアップしています。

小林さん 同じ家を繰り返しつくることは、設計者側にとってもお施主さんにとってもメリットがありますよね。繰り返しつくることでブラッシュアップされて品質が高まっていくからです。手間も大きく減るので数十万円くらいのコスト削減になるんじゃないですかね。

渡辺さん まさに同じ家を繰り返しつくることは、ものづくりをバージョンアップさせるのにとてもいい方法だと思います。
小林さん 一つネックになるのは敷地でしょうか。敷地の方位・形状・周辺環境によっては同じにしづらいケースはありますよね。
渡辺さん そこでキーワードになるのが「小さい家」だと思うんですよ。小さい家って十分な広さの庭を確保しやすくなるので、大きい家と比べると成立しやすくなります。特にこの家は大開口がある東側以外はほとんど閉じているので、東か南に向けられればだいたいこのまま建てられます。

工務店感覚を持った設計事務所として、持続可能なコストダウンも重視。
小林さん ところで先ほどもお話し頂きましたけど、渡辺さんのコスト意識が高いところがいいなと思っています。比較的安価な合板で良く見せる工夫をしているとか、そういう意識を持っている設計事務所は意外と少ないと思うんですよ。そのあたりの考え方を教えて頂けますか?

渡辺さん そうですね。その意識は、僕が北京の設計事務所を退職し、新潟に戻って最初に入ったのが設計施工でやっているアーキテクトビルダーだったということに起因しています。
そこでは、自分で設計して自分で現場監督もやっていたからです。自分が描いた線がどういう材料の発注になって、どういうふうに職人さんに伝わるかというのを目の当たりにできたのはとてもいい経験でした。
納め方一つとっても手間の掛かるやり方もあれば、コストを抑えられるやり方もあるというのを学べました。あと僕は元々なるべくコストを抑えながら最大の質が得られるようにしたいというマインドがあります。貧乏性なんでしょうね(笑)。

小林さん それはコスパとはまた違う考え方ですよね。建築家のコストダウンって、施工者の相見積もりをして安い方を選ぶというのが一般的なように思いますが、そうではない工夫が大事ですよね。
渡辺さん そうそう。職人さんに対して値段交渉はしたくなくて、仮にするとしても「どう工夫したら安くなるか?」を相談するようにしています。それが持続可能なコストダウンだと思うので。
小林さん 原価がどんどん上がっていく中でコスト意識は特に設計者に求められることだと思います。ざっくりとした見積もりをすぐに出せるとか、設計事務所だけど工務店並みの感覚を持っていることは大事ですよね。

渡辺さん ちなみに僕がなぜ工務店になるのではなく設計事務所としてやっているかというと、工務店レベルの施工に関する知識と管理能力がある設計事務所であった方が、希少な存在として世の中の役に立てると思ったからです。
あと僕は構造計画に基づいた設計をしているところも自分の強みだと思っています。そのような設計をすることで、基礎や軸組に掛かるコストを下げることができ、場合によっては標準的な大きさの戸建て住宅で60~100万円は変わってきます。
そのあたりの住宅業界の課題を解決できるように、設計者向けの構造セミナーの講師も始めています。

前編はここまでです。次回の後編では小林さんの自邸を訪ね、小林さんの家づくりについて深掘りをする対談を行います。
アンダーイーヴスアーキテクツ 主宰 渡辺宣一さん、株式会社新潟家守舎 代表 小林紘大さん
写真・構成/鈴木亮平
鈴木 亮平
最新記事 by 鈴木 亮平 (全て見る)
- アンダーイーヴス・アーキテクツ・渡辺宣一さん×新潟家守舎・小林紘大さん。互いの自邸を訪ね、家づくりについて考える。(前編) - 2026年6月4日
- 街を見渡すルーフテラス付き!モルタル仕上げの70年代ヴィンテージマンション - 2026年4月21日
- 創業9年目、無垢フローリング専門店・アンドウッド。定番から異端まで、新たな4種のフローリング。 - 2026年2月4日

