鈴木 亮平
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新潟市西区山田に本社を構えるオーガニックスタジオ新潟株式会社。2009年に設立し今年で10年という節目を迎えます。
創業時より「自然素材」「庭と一体の設計」「エコハウス」をテーマに独自の思想を強く打ち出した家づくりを行い、現在では全国の工務店がベンチマークする地域工務店になっています。
温熱性と意匠性の高さが評価され、2018年には日本エコハウス大賞(建築知識ビルダーズ主催)を受賞するなどの実績も上げています。
今回はそんなオーガニックスタジオ新潟の代表・相模稔さんにお話をうかがいました。
オーガニックスタジオ新潟株式会社
代表取締役社長 相模稔さん
1964年生まれ、新潟市西蒲区出身。大学卒業後、ドイツで塾講師をしながら2年生活をする。その後、大手住宅FCの本部・加盟店・木造系ハウスメーカーでマーケティングや住宅営業マンとして15年間住宅と向き合い、40歳の時に独立。オーガニックスタジオ新潟を設立する。
<インタビュアー>
Daily Lives(デイリー・ライブズ)
鈴木亮平
1983年生まれ。美術系の大学で建築デザインを学び、旅行情報誌、地域情報誌、住宅情報誌の編集を経て2018年にフリーランスの編集者に。住まいや建築士・工務店を紹介するWEBマガジン「Daily Lives Niigata」を運営。
生き残るために、背水の陣で創業を選ぶ
鈴木:40歳でオーガニックスタジオ新潟を創業されていますが、その経緯について教えて頂けますか?
相模:はい、それまでハウスメーカーに勤務していたのですが、起業を決めたのはその会社の業績が悪くなり傾いていた時期でした。40歳で住宅業界で転職をするならば、起業をした方がこれから生き残りやすいだろうと考えたんです。半年程、事業計画をつくったり準備をして背水の陣で臨みました。
追い込まれて起業を選んだので、元々起業を考えていたわけではないんですよ。
鈴木:そうだったんですね!私はずっと相模社長が起業家精神を持っていて、満を持して創業されたのだと思っていたので意外でした。
創業時から現在のコンセプトで家づくりをスタートしたのですか?
相模:私が尊敬する建築家で、叔父でもある天野一博氏の建築の考え方に共感していました。それは、庭と住宅を一体に設計をするという方法です。
また、会社員時代から断熱性能について研究をしていたのですが、今では多くの工務店が採り入れている「床下エアコン」を新潟で最初に採用しました。全国的に見ても早かったと思います。
庭と一体の設計は創業時から続けていて、それが当社の特長になり、いいスパイラルが生まれました。床下エアコンは累計で150棟くらいの実績があるので、そのノウハウは日本トップクラスだと思います。
普通の人が普通に暮らせるスタンダードハウス
鈴木:創業当初からぶれないコンセプトを持って歩んできたのですね。ところで、御社のWEBサイトに書いてある「まっとうな家づくり」についてお話を聞かせて頂けますか?
相模:スタンダードハウスを体現することですね。私が尊敬する建築家アントニン・レーモンドは日本の伝統建築と西洋の合理性を融合させたことで知られています。その建築の考え方は吉村順三や前川國男に引き継がれ、ジャパニーズモダン建築が確立されていきました。その時代の建築が一つの答えだったように思います。私は木造住宅が目指すベクトルがそこにあると思っています。
そこに、温熱性能や耐震性能といった現代の技術を組み合わせることで、流行に左右されることなく、資産価値を維持できる住宅ができると考えています。それは普通の人が普通に暮らせる家。それが私が考えるスタンダードハウスであり、まっとうな家づくりです。
鈴木:確かに戦後のモダニズム建築家の住宅は数十年経っても陳腐化することがないですよね。古臭さを感じさせない普遍性があるように思います。
1階と2階の間から家全体を快適温度にする「階間エアコン」に成功
鈴木:次に御社の強みである省エネ性能について聞かせてください。2015年と2017年に日本エコハウス大賞で優秀賞を獲得するという実績を上げて来られましたが、とうとう2018年は大賞を受賞されましたね!それと、個人的に興味深かったのは昨年「中之島の家」で導入された階間エアコンです。初めて聞く言葉でしたが、どのような仕組みなのでしょうか?
相模:これまで基礎部分から家全体を暖める床下エアコンを使って全館暖房を提案してきましたが、階間エアコンは、1階と2階の間の隙間にエアコンの温風・冷風を流し込み、全館冷暖房を実現する仕組みで、中之島の家が全国初の搭載です。
先日、エコハウスの研究をされている東京大学大学院の前真之准教授にも見て頂きましたが、家の中での温度差がないことを高く評価頂きました。お施主さんもとても喜んでいますね。この仕組みが成功したことで、今全国的にも広がり始めているところです。
快適な家をつくるには建物の外皮性能を上げることが最も重要ですが、階間エアコン1台で、高い省エネ性能を維持しながら快適な住空間を実現できることも分かりました。
ただ、基礎から温める床下エアコンと比べると1階の床の温度は少し下がりますので、硬い広葉樹ではなく柔らかくて温かい針葉樹の床にする必要があります。
階間エアコンはとても簡単な空調の仕組みで、コストを抑えながら全館冷暖房ができますので、今実績を増やしているところです。ただ、これまでの床下エアコンに代わる仕組みというわけではなく、ご希望の空間や床材に合わせて選んで頂けるようにと考えています。
鈴木:高額な設備機器を必要としない画期的な仕組みのようですね。相模社長のブログの説明もエビデンスがあってとても分かりやすかったです。
エネルギー問題などの社会全体のことを考えると、今後エコハウスがアフォーダブル(手軽に入手できる価格)になることが重要ですが、そういう点でも興味深いです。
全館空調、全国の工務店ネットワーク、会員制WEBサイト、設計事務所との連携
鈴木:次に、今特に注力していることについて教えて頂けますか?
相模:まず一つは、先ほど話した全館空調を推進していくことですね。「よりシンプルに、より経済的に」を意識しています。既にノウハウが蓄積しているので、数式で表現できるまでになっています。
それから、私はYKKAPや新建ハウジングなどのセミナー講師として各地で話すことも多いのですが、それにより全国の工務店仲間とのネットワークがつくられています。そこでノウハウを共有し、高め合うことを行っています。そこでは、私からは温熱に関する技術を提供しています。
あとは、今自社WEBサイト内の情報を全て公開していますが、部分的に登録会員だけが見られる仕組みに変える準備をしています。営業マンを持たないというやり方でこれまでやってきましたが、その施策の一環です。
鈴木:たしかに御社のWEBサイトのコンテンツの質は非常に高いので、会員登録という判断は納得です。ここ数年、情報はスマホで無料で見られるものというのが常識でしたが、最近になり有料課金するモデルや会員登録が必要というモデルが増えてきています。私も記事コンテンツを作る仕事をしているので、それはすごく健全な流れだと思います。
相模:そして、数年前からi+i設計事務所(東京都新宿区)の飯塚豊さんと顧問契約をしており、当社の設計のスキルアップに繋がっています。特に本質的な意味でのコーディネートという概念を学ばせて頂いています。
2020年から始まる新築需要の激減の中でどう生き残るのか
鈴木:では、最後の質問とさせて頂きますが、相模社長がこれから目指していることについて教えて頂けますでしょうか?
相模:意外に思われるかもしれませんが、「生き残る」ということです。日本の急速な人口減少に伴い、新築の需要も今後急速に減少すると言われており、工務店・ハウスメーカーの淘汰が進んでいきます。
今年2019年に消費税増税がありますが、その翌年の2020年からジェットコースターが落ちるように需要が減っていくのです。
エコハウスも今後は一般的になっていきますので、温熱性能を売りにする時代は終わっていくと思っています。もちろん、それは社会全体の最大幸福につながるので大事なことです。
その中で生き残るために、さらに進化していく必要があると考えています。
それから、まだ具体的な構想があるわけではありませんが、新潟県内での工務店ネットワークの構築も重要になると考えています。地場の工務店の技術の底上げに繋がりますし、つくり手がまとまることで美しいまちづくりが実現できると思います。
創業して10年。独自の住宅思想を体現しながら、企業価値を高めてきたオーガニックスタジオ新潟の相模さん。
特徴的なのは、家づくりを通して施主の暮らしはもちろんのこと、社会全体を良くしていこうという思いを持ち、そのためにたゆまぬ努力を続けていることです。
それが、普遍的な美しさを持つ意匠や、高い省エネ性・快適性に現れています。
そんな相模さんが危機感を持っているという、これから住宅業界が直面するという課題。どのような住宅がこれから本当に求められていくのか、そして、その中でオーガニックスタジオ新潟がどのような提案をしていくのか、今後の同社の動向にも注目です。
取材協力:オーガニックスタジオ新潟株式会社 代表・相模稔さん
写真・文/鈴木亮平
鈴木 亮平
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