リノベーションでリニューアル、肴町に帰還した櫻田鮮魚の過去と未来

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鈴木 亮平

新潟市在住のフリーランスの編集者・ライター(屋号:Daily Lives)。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。紙・WEB問わずコンテンツ制作を行う。

創業100年を超える魚屋が本町11番町に移転オープン

2019年9月、新潟市中央区本町11番町にて櫻田鮮魚がリニューアルオープンした。

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↑リノベーション前

現在は商店や駐車場、マンションが入り交じるエリアだが、ここにはかつて魚屋が集まっており「肴町」と言われていた時代があるという。

櫻田鮮魚の歴史は古く、創業は100年以上前に遡るが、今回リニューアルオープンする直前の8月31日までは、本町6番町にあった「本町食品センター」で40年間営業をしていた。現在の建物ができる以前も含めると、この本町6番町で69年間営業していたという。

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櫻田鮮魚は代表の櫻田裕之さんと奥様、義姉様が切り盛りをする家族経営の魚屋で、櫻田さんたちは毎朝3時に起き、4時に万代島の新潟(漁協)地方卸売市場、5時に茗荷谷の中央卸売市場の競りへと出向いている。

毎日価格が変動する天然の魚を競りで仕入れるが、その一瞬一瞬が勝負だという。「そうして自分たちが選んだ魚をお客さんに買ってもらえることがやりがい」と櫻田さんは話す。

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競りが終わるとすぐに店に戻り開店の準備を始めるが、午前中は卸売りの時間だ。この時間には、新潟市内の料亭や寿司屋、料理屋の料理人が買い付けに来る。会話を楽しみながら選ぶ人もいれば、黙々と選ぶ人もいるが、飲食店にとってはその日に出す魚を決める重要な仕事だ。

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↑リノベーション前

料理人たちの仕入れが終わる昼からが一般客向けの小売りの時間になる。スーパーの魚では物足りないと感じるお客さんがよく訪れるという。

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本町食品センターが閉鎖。一つの時代が終わる

本町食品センターがあった本町6番町は、新潟の台所として賑わってきた町だ。「若い人は分からないと思いますが、昔は露店が今よりもたくさん並んでいて、すごく活気があったんですよ」と奥様。

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その中心的な場所だった本町食品センターの閉鎖は、お店を営む人にとっても、よく買い物に訪れていた人にとっても、拠り所を失うような寂しい出来事となった。

センターの閉鎖を機に廃業する魚屋もあったという。

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そんな中、櫻田鮮魚は本町食品センターに移る以前に店を開いていた本町11番町の3階建ての自宅(※この建物は約38年前に建築)のガレージ部分を店に造り変えて再スタートを切ることにした。リノベーションを依頼したのは、店舗や住宅の設計施工で多くの実績を持つ株式会社モリタ装芸。

同社は櫻田さん夫婦の娘・佳子さんの勤務先でもあり、安心して任せることができたという。

リノベーションを担当したのは、同社のリノベーション部門「classicaL(クラシカル)」の建築士・小倉直之さんだ。

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櫻田さんの義姉様(左)、小倉直之さん(中央)、櫻田佳子さん(右)。

 

魚を売るだけでなく、人が集える魚屋を目指す

「櫻田さんは『本物の味を届けたい』という想いを持ち、食のプロを相手に鮮魚店を営んで来られました。最近はコンビニなどでも気軽に食べ物が買える時代で、本当の味を知らない人が増えていることを危惧されていて、その意識を変えられるようなお店にしたいと希望されていました」と小倉さん。

櫻田さんと打ち合わせを重ね、魚を売るだけでなく、人が集ったり、簡単な食事ができるような場もつくることにした。「大人だけでなく、子どもたちにも美味しい魚を食べて成長して欲しい」。そんな願いもあった。

櫻田鮮魚がどのような仕事をしているのかを知るために、小倉さんは現場で手伝いをさせてもらったという。「そこには常連のお客さんと櫻田さんたちの強い信頼関係が見られました」と小倉さん。

その信頼関係の原点であるコミュニケーションに重きを置くため、櫻田さんたちが立つ作業場を外からよく見える位置にした。

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通りを歩けば店の奥で作業をする櫻田さんたちの顔が見える。それも含めて店の佇まいとなることを考えた。

 

空間だけでなく、新たに暖簾もつくり出す

建築的なアプローチだけでなく、リニューアルオープンするにあたって新たに店のロゴやシンボルマークの制作も行った。担当したのは、株式会社デジタル・アド・サービスのクリエイティブチーム。

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デジタルアドサービスのアートディレクター川田さん(左)と加藤さん(右)。

「櫻田鮮魚さんが市場で『サの字』という名前で呼ばれていたことから、カタカナの『サ』を図案化し、家紋のようにデザインしました。櫻田さんの名字から桜の花のモチーフを加えたり、この町の歴史を読み解き『越後肴町』という名前も入れています」と話すのはデザイナーの高野友希さん。

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デジタルアドサービスのデザイナー高野さん(右)。

桜の木の表札や暖簾にシンボルマークが入ることで、建築だけでは表現できなかった品のある外観ができ上がった。

菱形にデザインされたサの字は魚の形のようにも見え、そんなデザインに隠された意味を読み解くのもまた面白い。

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ゆとりある空間は、居酒屋のようにも使える

新しい店に移り最初の1週間の営業を終えた土曜の夜、リノベーション関係者が集まる宴会が店で開かれた。シンプルな土間の中央にテーブルを出せば、そこはもう居酒屋のような空間だ。

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櫻田鮮魚が取り引きをしている料理屋さんの寿司や、奥様が作った手料理、お店で扱っている新鮮な魚介の刺身がテーブルに並べられた。

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当然かもしれないが、プロが目利きをして仕入れた新鮮な刺身は驚くほどに美味しい。

土間には手作りの木のイスが並べられ、足りない分は日本酒のケースをイス代わりに設置。気取らないところがかえって乙に感じられた。

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↑リノベーション前
↑リノベーション前

「1週間前に引っ越してきて、まだ何がどこにあるか分からない状態でバタバタとやっています(笑)。以前よりもスペースが広くなったので、これから少しずつ新しいことにも取り組んでいきたいですね。例えば、以前は鮮度が落ち始めた魚を出すことができなかったですが、今後は煮たり揚げたりして無駄なく提供をしていきたいです」と奥様。

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店主の想いを建築で体現する

小倉さんは櫻田鮮魚のリノベーションプロジェクトを通して、商店街について改めて深く考えさせられたという。

全国どこへ行っても商店街の衰退が課題になっているが、高い専門性を持ち、プライドを持ってお店を続けている商店主は少なくない。

「それぞれのお店や店主が持っている力を建築的に表現し整えることが設計をする人間の役割だと思いました。櫻田鮮魚さんはまだオープンして1週間ですが『魚屋に見えない』と言うお客さんが多いそうです。従来の魚屋のイメージに縛られず、若い人たちにも美味しい魚を提供していくことが目的の一つでしたので、このギャップは成功だったと思います」と小倉さん。

櫻田さんは「たくさんの人の力で、立派なお店をつくり上げることができました。この建物に負けないように、気を引き締めてこれからも仕事をしていきたい」と決意を新たにした。

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商店街の魅力は、画一的なサービスが求められる大手チェーンにはない店主の個性や、独自の専門性をそれぞれの店が持っていることにある。リノベーションを経て完成した新店舗は、櫻田鮮魚の個性を品よく体現した空間だ。

 

古い街に新たな賑わいが誕生

商店街にありながら、何十年もガレージとして使われていた場所が再び店舗として活用され、人を呼び寄せる場になった。

夕方になれば天井から吊るされた電球の明かりが一層美しく目に飛び込んでくる。かつての賑わいを失った商店街に新しく登場した店。それは、一筋の狼煙(のろし)のように感じられた。

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店舗のリノベーションとは、単に古くなった空間を新しいものに取り変えることではないし、流行のデザインを取り入れておしゃれに見せるという表層的なものでもない。

店主の目指していることや大切にしていることに寄り添いながら、最適な表現を建築でつくり出すことにある。

どんなに強い想いを持って仕事に取り組んでいても、関わりのない人には意外と伝わらないものだ。しかし、建物は常にそこに佇み、目に見える。それは店主に代わってたくさんの想いを伝えてくれる手紙のようなものでもある。

新しい櫻田鮮魚の歩みは始まったばかり。これからの時代の魚屋とはどうあるものなのか。これから起こっていくであろう変化が楽しみだ。

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↑リノベーション前
↑リノベーション前

 

櫻田鮮魚
新潟市中央区本町通11番町1823
TEL 025-223-0396
公式インスタグラムページ @sakurada_sengyo

設計施工 株式会社 モリタ装芸

(写真・文/鈴木亮平

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鈴木 亮平

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