#025 野菜を育て、薪を割る。持続可能なちょうどいい田舎暮らし

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。

新潟県北部に位置する胎内市は人口約3万人の町。JR羽越本線が走る旧中条町と、胎内高原がある旧黒川村が合併し、2005年に現在の胎内市となった。

今回取材に訪れたのはJR中条駅から徒歩10分圏内の住宅地に新築をしたTさん家族の家。

胎内市の中心部ではあるが、周辺に高い建物はなく、ゆったりとした家並みが続く。

大きな空を仰ぎ見られる住宅街の中には果樹園も点在。思わず深呼吸をしたくなる程の大らかさがある。

 

公園そばの土地を購入し、プランニングをスタート

「家を建てる前は7年くらい中条駅近くのアパートで暮らしていましたが、3人の子どもたちも成長し手狭になっていました。上の子は小学校に上がっていたので、同じ学校区で土地を探し始めたら、この場所が見つかったんです」とご主人。

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「敷地の北側に公園があり広々としていて、直感的に『ここしかない!』って思いました」と奥様。

Tさんご夫婦は新築をして始めたいことが明確にあった。

1つ目は薪ストーブ、2つ目は畑、3つ目は人が集まる場にしたいということ。

宮﨑建築の宮﨑直也さんとは、資金計画の相談をしていたファイナンシャルプランナーの紹介で出会ったが、技術や実績があるのはもちろん、いろいろな相談を真摯に受け止めてくれる人柄も決め手になったという。「打ち合わせがいつも楽しくて。わがままもたくさん聞いて頂きました」と奥様はほほ笑む。

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「毎回打ち合わせする内容のリストを用意して臨んでましたが、いつも話が脱線ばかりしていましたね。私も楽しかったです(笑)」と宮﨑さん。

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冬に向けて薪を準備することがライフワークに

120坪弱の広い土地に立つのは、ゆったりとした下屋付きのシンプルなフォルムの家。外壁の大部分は高い耐候性を持つガルバリウム鋼板で覆われており、下屋部分だけは白い塗り壁で優しい表情に仕上げている。

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家の前には薪がきれいに積み上げられているが、森林組合から購入したナラの丸太をご主人がチェーンソーで切り、手斧で割ったものだ。

冬に備え、夏の間に薪を作るのがご主人のルーティンとなっている。単管パイプで作った薪棚もご主人のお手製。「ネットで作り方を調べて、ホームセンターで材料を買い、息子に手伝ってもらいながら組み立てました。ネットで何でも調べられるいい時代ですね」と笑う。

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玄関ドアを開けると、L字型の土間が広がる

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重量感のあるガデリウス社製の玄関ドアを開けると、正面と右方向に向かってL字型に土間が伸びていた。

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入ってすぐの場所はご夫婦のロードバイクを置くスペースで、その奥の目立たない場所は下駄箱やクロークになっている。そこを通り抜けてキッチン側から上がることができる。

右を見るとリビングと薪ストーブが置かれた土間が広がっているが、下屋側の窓や高窓から光がたっぷり注いでおり、外観から想像したよりも明るい。

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一方で、夏場の強い日差しが室内の奥まで入らないように、深い軒による日射遮蔽も考えられている。

 

採れ立ての野菜を調理して食卓へ

1階の大部分は大きなワンルームで、トーヨーキッチンのステンレスキッチンが据えられている。

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「会話を楽しみながら料理ができるキッチンを希望しました」と奥様。キッチンという独立した空間があるのではなく、家族が集まる場所に作業スペースをポンと置いたようなキッチンだから、食事を作るという行為がごく自然に暮らしの中心になっている。

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料理にはお子さんたちが家庭菜園で育てた採れ立ての野菜を使い、庭に自生するミントやレモングラス、ホーリーバジルはハーブティーにする。

DSC_3187 DSC_3190 畑では野菜だけでなく麦も育てているが、それは茎をストローとして使うため。最近ではプラスチックのストローを廃止する動きがあるが、Tさん家族は既にストローを自給自足している。

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キッチンの広いワークトップだけでなく、隣のダイニングテーブルも作業台になるので、この家に住んでからお子さんたちと一緒に料理をすることが増えたという。

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また、味噌や梅干しは奥様による自家製。お米から作る味噌だけでなく、麦味噌の発酵もさせているところだ。発酵途中のものを見せてもらったが、もう少し時間が経つと麦の形が消えていくという。

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食に手間暇を掛けているが、一方で家事の時短に気を遣う。キッチンに組み込まれたガゲナウの食洗器もその一つ。幅60cmと大きめのタイプを選んだところ、食器洗いから解放され、時間を有効に使えるようになったそうだ。

 

寒い冬でも、薪ストーブで家じゅうが快適温度に

1階と2階は大きな吹き抜けで繋がっているが、夏はエアコンで、冬は薪ストーブで全館を快適温度に保つことができる。

「土間が広いので冬の寒さが心配でしたが、玄関ドアを開けた瞬間から暖かく快適です。冬に2~3日家を空けても、帰ってくると15℃くらいを保っているんですよ。それから、薪ストーブの暖かさを知ると、もうエアコンには戻れないです」とご主人。

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T邸は120mm厚の高性能グラスウールを壁いっぱいに充填し、窓は高い断熱性能を誇るYKKAP社の樹脂窓「APW330」を採用。それにより保温性の高い家ができ上がった。もちろん夏場のエアコンの効きもよく、最近では気温が40℃を超えることがある胎内市でも家の中は快適だ。

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薪ストーブは家を暖めるだけでなく、焼き芋や煮込み料理、ドライフルーツづくりにも活用していて、お子さんたちにも好評だという。

 

公園の風景を眺めるスタディースペース

1階のキッチンの横、北側の窓に面した場所はお子さんたちのスタディースペース。

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ランドセルを格納できる棚付きのデスクがあり、窓からは隣の公園の緑が眺められる。壁面は書類を貼れるコーナーにしているが、リビング側からは見えない位置にあるので、空間の雰囲気を損なうこともない。

 

20畳のフリースペースは子どもたちのプレールーム

リビング内の階段を上がった先は6畳程のホールで、セカンドリビングとしても使えるようにTV台を兼ねた棚が造作されている。

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その向こうは20畳のフリースペースでお子さんたちの遊び場だ。

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梁を利用したロープやブランコがあるので、天気の悪い日でも家の中で思い切り遊べる。

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もちろん、子どもたちの成長に合わせて間仕切りを作ることも可能。

ホールを挟んだ反対側は主寝室で、今は家族みんなでここで眠る。この部屋だけは漆喰塗りにしているが、ご夫婦がDIYで仕上げたという。

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自宅で健康教室を開くのが目標

ところで、現在奥様は鍼灸師を目指して今年から新潟市内の専門学校に通い始めたそうだ。「以前は林業関係の仕事をしていましたが、実家が鍼灸院をやっているというのもあり、私も鍼灸師を目指すことにしたんです」。

3人の子育てをしながら専門学校生になり、忙しい日々を送っているが、女性鍼灸師として実家の鍼灸院で働くだけでなく、自宅でお灸講座や健康教室を行うのが近い将来の目標だという。

「家を家族だけで使うのではなく、いろんな人が集まる場所にしたい」と奥様は話す。

広い土間がある家は靴のまま気軽に入ることができるし、開放的な1階は人が集まるのにもちょうどいい。

壁面を利用した造作家具が中心なので、床を広く使えるのもT邸の特徴だ。

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家をつくるというと、断熱性能や家事効率、居心地の良さなどが当然重視されるが、T邸ではそれだけでなく、Tさん家族が得たい「体験」が明確で、それをとても大事にされている。

それが、地元で採れる木を燃料とした薪ストーブであったり、野菜を自給するための畑であったり、みんなで調理を楽しめるキッチンであったり、仕切りの少ない間取りだったりする。

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環境負荷を減らし、健康的な食生活を送り、人との交流を愉しむ。

大量消費の時代が終わり、モノよりコトと言われて久しいが、まさにTさん家族が実践しているのはコトを大切にした暮らし方。

この土地、この家での暮らしが、家族に喜びと成長をもたらしている。

 

T邸
胎内市
延床面積 146.80㎡(44.32坪)
竣工年月 2017年10月
設計・施工 宮﨑建築株式会社

 

写真・文 鈴木亮平

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。

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