#026 築38年の木造アパートの壁を壊し、若者たちが集うシェアハウスに再生

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鈴木 亮平

新潟市在住のフリーランスの編集者・ライター(屋号:Daily Lives)。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。紙・WEB問わずコンテンツ制作を行う。

JR内野駅南口から徒歩5分の場所にある「コーポ堀井」は、1981年に建てられた2階建ての木造アパート。

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単身者向けの1Kの部屋が1階と2階にそれぞれ6部屋、計12部屋ある。

外からは普通のアパートに見えるが、実はこの建物の1階は2019年の3月からシェアハウスとして活用されているという。

一体どのような経緯で単身者用アパートがシェアハウスになり、そこでどんな人が暮らしているのか?どんなオーナーが運用しているのか?その秘密を探るべくアパートを訪れてみた。

取材を受けてくださったのは、物件オーナーの堀井賢司さん、シェアハウスを立ち上げた住人の新潟大学4年星菜々美さんと新潟大学3年の仲島光希さんの3名。

まず、こちらのアパートの1階がどのようなつくりになっているかというと、6部屋ある内の真ん中の4部屋の壁が抜かれ、各部屋を行き来できるようになっている。

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3部屋は個室にしており、1部屋はシェアハウスの住人やゲストがくつろぐリビングで、キッチンもそこに隣接して配置されている。

トイレは端の部屋に配され、浴室はその逆サイドにある。

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――まずはじめに堀井さんに質問です。シェアハウスとして活用することになった経緯を教えて頂けますか?

堀井さん:このアパートは10年ちょっと前に親から継いで自分が大家になったんですが、その時12部屋中3部屋しか入居していなくて、残りの9部屋が空き部屋だったんです。そこで、人を入れるためには、何か新しい仕掛けが必要だと考えるようになりました。

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私自身がDIYが好きなのもあって、「自由にリフォームして住んでいいですよ」というチラシをまいたんです。でも全然リアクションがなくて…。おそらく大家が自分でそういうことをやると、あやしいと思われるんでしょうね。

他にも、1部屋をコンセプトルームにしようとアジア風の部屋をつくったり、芸術系の人を呼んだりと、いろいろ試したんですが、なかなかうまくいかなくて。

そんな時、2018年の年末に星さんたちが訪ねて来て、「シェアハウスをつくりたい」と相談を受けたんです。面白い使い方をしてくれる人が来ないかな…とずっと思っていたので、断る理由はありませんでした。

――なるほど、なかなか空き部屋が埋まらない問題を解決するために、いろいろな策を打ってきたんですね。星さんはなぜシェアハウスを始めようと思ったんですか?

星さん:私は大学で建築を学んでいて、前は大学近くの寮に住んでいたんですが、2018年に入ってから休学をして鳥取に行っていたんです。そこではパーリー建築というグループの人たちが、ゲストハウスやカフェをつくっていて、私もそこに住みながら一緒にお店をつくっていました。

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9月に新潟に戻って復学したんですが、鳥取での経験が面白くて、新潟でもそういう場所をつくって住みたいと思ったんです。それがシェアハウスをつくろうと思ったきっかけです。

あと、寮に住めるのが翌年の3月までという期限もあったので、それまでに次に住む場所を見つけなければいけないという理由もありました(笑)。

内野は大学から少し離れていて歩くと30分くらい掛かるんですが、幅広い年齢層の人が住んでいるところが好きで、内野に住みたいと思っていました。

そう考えていた時に、同じようにDIYでシェアハウスをつくって住みたいと考えていたナカジ(仲島さん)と出会って、その後に、あと2人のメンバーと出会い、4人で集まってどうやって実現しようか話し合ったんです。そこで、堀井さんっていうちょっと変わった大家さんがアパートを持っているらしいから聞いてみよう、ということになったんです。

――休学して鳥取で得た経験がシェアハウスづくりにつながっていたんですね。仲島さんは、どうしてシェアハウスをつくりたいと思ったんですか?

仲島さん:僕は経済学部なんですが、春休みに1カ月間、長岡の「ジーエス」というシェアハウスで過ごしたんです。その空間や人の雰囲気がすごく良くて、そういう場が大学の近くに欲しいなと思って。

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あと、僕は「にいがたイナカレッジ」という団体に所属して町づくりにも関わっているんですが、それもシェアハウスに興味を持った理由ですね。

――そして、年が明けた2019年の1月に工事がスタートしたんですね。どんな風にしてシェアハウスにしていったんですか?

星さん:まずは4部屋をつなげるために壁を壊すことから始めました。協力してくれる人たちもいて、みんなでタイルをはつったりして解体していったんです。抜いていいかどうか判断に迷う柱については、設計事務所で働いている先輩に見てもらったりもしました。

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画像引用元:「うちのシェアハウスFacebookページ」

その後には、壁の漆喰塗りをするワークショップを開いたりもしました。自分たちではできない工事はプロの方に依頼しましたが、大部分がDIYです。

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画像引用元:「うちのシェアハウスFacebookページ」
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画像引用元:「うちのシェアハウスFacebookページ」

工事は完了していなかったですが、私は寮を出なければならなかったので、3月下旬に引っ越してきました。その時はトイレのドアが付いていなかったので、2階の空き部屋のトイレを使わせて頂いていましたね。

ナカジは春からイナカレッジの活動のために大学を休学して長岡市の川口に行ってしまったので、女子2人と男の子1人の3人での生活が始まりました。

――シェアハウスって楽しそうですけど、僕なんかはプライバシーがないことに抵抗があるんですが、そういうのはあまり気にならないものですか?

星さん:自分も他人と暮らすことが大好きなわけではないんですよ。一人で過ごす時間も大事ですし。でも他人とアクセスしやすい暮らしって、私にとってはすごく心地いいんです。

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星さんの部屋は共有リビングの隣。ふすまを黒板ボードにリメイクしている。

あと、シェアハウスの住人だけで過ごすのではなくて、住人以外の人ともつながれるのが理想です。漆喰塗りのワークショップを開いたのは、その後気軽に外の人が来られる場所にしたいという意図もありました。

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壁には持ち寄った本がぎっしり詰まったシェア本棚がある。

内野にいると本当にいろいろな人との出会いがあるんですが、ここでボードゲームをして遊びながらいろんな人と関わる暮らしが、自分にいい影響を与えてくれていると思います。

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大量に置かれたボードゲームはコミュニケーションツール。

――再びアパート経営の話に戻るんですが、シェアハウスを始めたことで入居率に変化はありましたか?

堀井さん:シェアハウスにする前は12部屋中3部屋しか埋まっていなかったんですが、今は11部屋が埋まりました。それは、「ここで何か面白いことが起こっている」というのが伝わっているからだと思います。

僕は近くで又蔵ベースというシェアアトリエをやっていて、そこを多様な人たちに使ってもらったりしているんですが、そこからも人が行くようにしていて、相乗効果になっています。

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もちろんシェアハウスにするのにイニシャルコストは掛かっていますし、人の出入りが不安定というのはあります。でも、その時その時で面白いことが起こる場であって欲しいと思っています。

だから、ここに住む人にはどんどん思いついたことをやっていってほしいし、そのための手助けもしていくつもりです。面白いことをする住人というソフトウエアが大事で、逆に一番怖いのは誰もいなくなってしまうことですね。

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――アパートの空室率の高さに悩む大家さんってたくさんいると思うんですが、シェアハウスにして別の価値を持たせるってすごく画期的だと思います。

堀井さん:でも、このやり方は一般的にはならないと思いますよ。変わったことをしているから、変わった人たちが集まってくるんです。もしこれを、大手業者さんがやるようになると、たぶん面白い人は来ないんです。だから商業的なラインには乗らない方法なんだと思います。

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――2019年の春に3人で住み始めたということでしたが、その後の人の入れ替わりはありますか?

星さん:男の子は学業に専念するために一人暮らしをするということで12月に出ました。もう一人の女の子は大学を中退して今は茨城県のカフェで働いています。その後新しい人が入ったんですが、今は長野のゲストハウスに働きに行っていますね。あと、ナカジがこれから空いてる部屋に住むことになっています。私は3月で大学を卒業して岡山で就職をするので、ここにいるのはあと少しですね。

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取材時には、空き部屋を仲島さんが仮住まいとして活用していた。

仲島さん:僕が関わっているイナカレッジでは、都会の学生に新潟を体験してもらうこともしているんですが、実は今後このシェアハウスに滞在してもらうことも考えているんです。

そのためにもう1部屋をつなげて、共有リビングを現在の6畳から14畳に広げるリフォームをさせて頂けることになりました。

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次のリフォームの計画図。

堀井さん:立ち上げの時期が第1期で、最初のメンバーが抜けてナカジが来た今が第2期。菜々美ちゃんが抜ける4月からが第3期という感じで、常に変わっていっています。僕もそれを楽しんでいるんですよ。

最近は、このシェアハウスを面白がって声を掛けてくれる人が増えてきました。建築系の人や、福祉系の人が多いですね。福祉系の人は、高齢者向けのシェアハウスの参考にされているのだと思います。

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賃貸物件の供給過剰もあり、競争力が落ちた築古アパートはただ家賃を下げただけでは空室が埋まらないのが実情です。

それでもどうにか入居をしてもらうためには、お金を掛けて水回りを更新するのがセオリーですが、その費用を回収する見込みが立たずに放置するケースが多いのではないでしょうか。

そこで、アパートの既成概念を取り払い、工事費を抑えながら新しい価値のある場につくり変えたのが今回のシェアハウス化でした。

単身者が集い住むだけでなく、外部の人も招いて時間を共有する。それは常に人の出入りや交流が繰り返されるゲストハウスのようでもあります。人生の一時期をそこで過ごす経験というのは、特に若い世代には刺激的で価値のあるものになるはずです。

空室の部屋が何年も放置されるアパート。それは日本中で見られる風景ではないでしょうか?

その解決策は、実はちょっとした発想の転換で見つかるものだということを証明する事例でした。シェアハウスに限らず、シェアオフィスやレンタルスペースなど、非住宅への転換でも新たな需要を掘り起こせるかもしれませんね。

 

取材協力/堀井賢司さん、星菜々美さん、仲島光希さん

写真・文/鈴木亮平

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