サトウ工務店×ネイティブディメンションズ。設計と設計のコラボでつくる、これからの住まい

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鈴木 亮平

新潟市在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。

三条市に拠点を構える株式会社サトウ工務店と、新潟市に事務所を構えるネイティブディメンションズ一級建築士事務所。

前者は代表の佐藤高志さんが設計業務を行う工務店で、洗練されたデザインと高い性能を両立し、施工までを担います。2019年9月には著書『サトウ工務店の標準仕様書 デザイナーズ工務店の木造住宅納まり図鑑』(エクスナレッジ)を発刊。

後者は一級建築士の鈴木淳さんが営む設計事務所で、2009年より小さい家のメリットを突き詰めた「ミニストック」という住宅を提唱。高性能な狭小住宅の設計を行っています。

かつては互いに競合することもあった2者は、2019年より協働で住宅の設計をスタート。2020年3月現在はまだ竣工した住宅はありませんが、5つのプロジェクトが進行中とのことです。

どのような過程を経て佐藤高志さんと鈴木淳さんがコラボで家づくりをするようになったのか?それによって、施主側にどんなメリットがもたらされるのか?詳しく話を伺いました。

(会場協力/nine

 

株式会社サトウ工務店 代表 佐藤高志

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1968年三条市生まれ。家業である工務店に入社し、設計から現場監理までを一貫して担当。2010年同社代表に。ウッドステーション株式会社が生産・供給を行う大型パネルのユーザー会「みんなの会」会長。

 

ネイティブディメンションズ一級建築士事務所 代表 鈴木淳

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1973年新潟市生まれ。工務店、ゼネコン住宅部門などを経て2009年に独立。延床面積15坪のミニストック01をはじめ、延床面積25坪以下の狭小住宅に特化した設計を行っている。

 

――設計事務所が設計を担い、工務店が施工を担うという2社のコラボは一般的に行われていることですが、お二人の場合はそうではなく、設計業務を2社で分担しているんですね。どのようにしてそのようなコラボをすることになったのでしょうか?

佐藤:そもそも私にとって鈴木さんは建築士として憧れの存在だったんです。それで近づきたいと思っていました(笑)。2018年に新潟県内の住宅業界が集まる「住学(すがく)」というコミュニティを、私と鈴木さんを中心としたメンバーで起ち上げて、鈴木さんと会う機会が増えていったんですが、仕事でも繋がれたらと考えていました。

ただ、同じ設計同士ですし、つくる家のカラーも違う。なかなか、繋がり方が見えなかったんです。

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ところで、私は普段やっている設計業務の中でも、プランを作るのにすごく時間が掛かるという悩みがありました。実を言うと、私にとってプランづくりは苦痛なんです(笑)。

ある時、鈴木さんにそんなことを話して「鈴木さんは?」と聞いたら、「僕プラン好きですよ」という答えが返ってきました。であれば、一緒にやればお互いにプラスになるんじゃないかなと考えて、コラボの提案をしたんです。

ちょうどその時期に、お客様のプランをかなり待たせてしまっていました。そのお客様に「鈴木さんとコラボしていいですか?」と尋ねたところご快諾を頂けてコラボが始まったんです。

鈴木:佐藤さんから声を掛けて頂いて、「それ、すごく面白そうだな」と思いました。佐藤さんの空間づくりってマネができないくらいレベルが高いものだと思っているんですけど、それを自分のプランで実現できるというのは、すごく面白いなと思ったんです。今ワクワクしながらプランづくりをしているところですね。

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私は設計の中でもプランを書くのが一番好きで、そのために他の仕事をすべて片付けて集中することも多いですし、寝ても覚めてもプランのことを考えていたりします(笑)。

ネイティブディメンションズとして単体で受けるのとは違うチャンネルに切り替えて設計をしていますが、「佐藤さんとのコラボだったらこういうプランがいいだろうか?」とか考えながらやることも面白いですね。

 

――コラボをすることで、お二人にどんなメリットが生まれているのでしょうか?

佐藤:先ほども話しましたが、時間が掛かるプランを鈴木さんに依頼できるので、「辛い部分が減った」というのが一つ私にとってのメリットですね。

あと、これまでは大工の人数から年間6~7棟の新築が限度だと思っていたんですが、よくよく考えたらそれは、プランが私のところで滞ることでの限度だったんです。まだ始まったばかりですが、鈴木さんとコラボすることで、年間で建てられる棟数をもう少し増やせると思います。

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それから、鈴木さんがさっき話していたように、今までとは違うチャンネルで家づくりができることもメリットですね。鈴木さんだったら、狭小住宅から外れたことができますし、当社も例えばキッチンだったらモイスとステンレスを使った造作キッチンが特徴なんですが、木のキッチンやフレームキッチンなど、今までとは違ったカラーでやりやすくなります。

あとは、気持ちに余裕ができるというのも大きいですね。私が苦手で鈴木さんが得意なことはさっとパスできるので、一人で抱え込まなくて済みます(笑)。

鈴木:私にとってのメリットも、今佐藤さんが話してくれたこととほぼ同じですね。これまでは私1人のキャパ内の仕事しかできなかったですが、設計が2人になったことでキャパが増えて仕事をこなせるようになりました。「これは絶対に佐藤さんの分野だ」というものを佐藤さんに渡せるので気が楽ですし(笑)。

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あと、いろいろな経験をして私は「小さい家」に辿り着いたんですけど、この10年やってきた小さい家の知識を生かして、他の住宅の設計ができると感じるようになりました。例えば、家づくりでは動線が重要ですが、小さい家で動線がぶつかり合わないように設計をするのはすごく難しいことなんですよ。そこでたくさん考えた経験があるから、少し広い家のプランが楽にできるようになりました。これはコラボを始めて気づいたことです。

佐藤:たしかに、動きながら気づくことが多いですね。最初はコラボが本当にできるかどうかも分からない状態でしたから。

鈴木:互いにぶつかり合うこともなく、スーっとはまりながら進んでいっているというのが、今いくつかの設計を進めていて感じることですね。

 

――お二人がコラボをすることで、施主さん側にはどんなメリットがもたらされるのでしょうか?

佐藤:一つは、お客さんが「イイトコ取り」できることだと思います。うちを選んでくださる方も、他に何社か見て来ているので「100%サトウ工務店がいい」っていうのはあり得ないと思っています。「サトウ工務店はある部分ではいいけど、別のある部分ではイマイチだな…」と思う方もいらっしゃるでしょうし。それを補えるのがコラボだと思っています。

あと、鈴木さんは純粋な設計事務所なので、第3者目線で見て頂けるのは、お施主さんにとって安心感につながると思います。

鈴木:1人では思いつかないことを考えたり、拾いきれないことを拾えたりするのも、お施主さんにとってメリットになっていると思います。例えば、打ち合わせ中にお施主さんが質問に答えるときに、「何か正解を言わなきゃ」と思い本心ではないことを言ってしまうことがあります。私たち設計が2人居ることで、そうやって言葉にされたこととは違う本心に気づきやすくなります。

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佐藤:そうですね。打ち合わせが終わった後で、2人で話しながら「本当はこういうことなんじゃない?」なんて話はよくしますね。

鈴木:私か佐藤さんどちらかが図面を見て話している時は、もう一人が場を俯瞰的に見ていられますから、これはコラボをするメリットですね。

 

――では逆に、コラボをすることで感じている難しさや苦労などはありますか?

佐藤:まだ始まったばかりなので、苦労はこれから出てくると思います。今心配なのは、鈴木さんの仕事量がこれまでよりもかなり増えていることですね。早くコラボでつくった住宅の完成を迎えたくて、少し私が急いでるところがありますので。

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鈴木:図面をつくる上で、佐藤さんの納まりを覚えていかなければいけないので、それはこれからの課題だと思っています。ただ、コラボをすることで、がっつり詳細図面をつくる必要はなくなるので、私の方は普段の1/2~1/3程度の仕事になると思います。

佐藤:ディテールは私の方で担当をしますので、現場が動き出したら仕事量のバランスは私が8割で鈴木さんが2割くらいになると思います。ただ、コラボすることで新しく生み出したいディテールもあります。

鈴木:プランと構造は私が中心で、ディテールや納まりは佐藤さんが中心。部分的に重なるような役割分担になる予定ですね。

 

――今回お二人が設計×設計でコラボをされていますが、このようなコラボの方法は他の建築士の方でもやれるものなのでしょうか?

佐藤:私たちもそうですけど、住宅業界には小さな会社がたくさんあります。小さいことのメリットもたくさんあるんですけど、デメリットも当然あります。それは「何でもはできない」ということです。大きい会社だと色々な強みを持った人を集められますが、小さい会社はそれができません。

でも小さい会社を集合体として見ると、そこには色々な特技を持った人がいるので、そこでつながればデメリットを克服できると考えています。

設計と設計は通常だとバッティングし合う関係ですが、うまくコラボすることでより強くなれるのかなと思います。もしもうまくいかなくて解散したとしても、お互いにそこで学んだことを生かせると思いますしね。

鈴木:工事であればJV(ジョイント・ベンチャー)という言葉がありますから、設計の世界でそういうことがあってもおかしくないと思います。手探りな部分もありますが、まずは自分たちが設計と設計のコラボをやりながら、それがうまくいくことを発信していきたいと思っています。

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――設計×設計でうまくやるには、価値観が似ているとか、共通点があった方がいいのでしょうか?

佐藤:それはあると思います。私たちは実際にやっていることはちょっと違いますけど、考え方や思想は近いですね。それに、私は元々鈴木さんが好きで尊敬や憧れもあったんですが、そういう気持ちがあればいけるんじゃないかなと思います。

鈴木:それこそ住学をやってきて、大げさな表現ですけど私と佐藤さんは「互いに知らないことがない」状態です。普通他社同士であれば知らないことが多いと思うんですけど、互いに隠し事をしながらコラボをしてもあまりうまくいかないと思います。

 

――似たような質問になってしまいますが、どんな建築士同士がコラボに向いていると思いますか?

佐藤:これは住学仲間の石田伸一さん(株式会社石田伸一建築事務所)から教えてもらったことですが、住宅業界には「入口(営業やプレゼンなど)」が得意な人と「出口(設計や施工など)」が得意な人がいます。

コラボする場合は、どっちも入口寄りとかどっちも出口寄りではなくて、それぞれが分かれているといいと思います。

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あと、競合する者同士で組めばお客さんにとってのメリットが大きくなると思います。競合するのは「似ているけど違う」っていうことなので。

それに、客観的に見た時に面白いですしね。「そこ敵同士じゃないの!?」って(笑)。

鈴木:今佐藤さんの話を聞いてなるほどな~って思ったんですが、似たもの同士でありながら得意分野が違うっていうのはコラボに向いていますよね。あまりない組み合わせなのかもしれませんけど、今自分たちがやっていることはすごく楽しいですね。

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佐藤:楽しいですよね。仕事のカテゴリーとしてもありですし、自分自身の仕事の楽しみや生きがいを増やせています。自社単独だけでなく、こういう違ったチャンネルを持つことをお薦めしていきたいですね。

実績をつくらないと偉そうなことは言えないですけれど(笑)。

 

――お二人の協働の関係は「住学」の考え方と共通する部分もあります。今年の2月までの2年間、佐藤さんは住学の校長を務め、鈴木さんは教頭を務めていました。住学のお話も少し聞かせて頂けますか?

※住学(すがく)とは…2018年2月に始まった、新潟県内の住宅業界を中心としたコミュニティ。2カ月おきのペースで開催され、授業の部では毎回メンバーから講師を選出しプレゼン発表を行う。これといった目標を定めていない点が特徴で、参加者は累計200名超、毎回50~60名が参加し、情報交換や交流を楽しんでいる。

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業界紙『新建ハウジング』(2019/12/20号)の1面で紹介された住学の取り組み。

※新建ハウジングの上記記事の立ち読みページはこちらから。

佐藤:住学はどこに向かうという目標もなく始めたものですが、たくさんの人が集まるようになりました。よく知らないライバルのことも、住学で出会って知り合うといい関係ができ上がります。

その中で、普段の仕事でもつながる人が増えてきましたが、ぜひもっとつながってほしいと思っています。今回の私たちの設計×設計のコラボも一つの事例として、「住学の使い方」的な感じで見てもらえたらうれしいですね。

鈴木:住学は最初「仲良しクラブ」みたいな感じで始まって、それがだんだんメンバーが増えていったという経緯があります。その時その時で誰かしらから「仕組みを作った方がいいんじゃない?」というアドバイスを受けたりもしていました。でも面倒くさくて作らなかったんです(笑)。

でも結果的に、仕組みを作らなかったことでいろいろな新しいことが生まれているように思います。今回のコラボもその一つですね。

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同じ住宅業界、同じ商圏でしのぎを削る工務店と建築事務所。

競合となることもあった企業同士の協働は、施主をはじめとした関係者がWIN-WIN-WIN…となる、そんな家づくりになりそうです。

より良い家を追求するために日々切磋琢磨することを楽しむプロたちとの家づくりは、打ち合わせなどのプロセスも特別に楽しい時間になることが目に浮かびます。

新しい家づくりの選択肢として考えてみたいですね。

 

今回は、長岡市福島町にある家具工房「nine」さんに協力頂き、店舗で取材をさせて頂きました。家具職人の九里裕之さんが作る美しい家具に、ぜひこちらの店舗で触れてみてください。

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また、今回のサトウ工務店さんとネイティブディメンションズ一級建築士事務所さんは、2020年4月25日発売予定の住宅実例集『今見るべき新潟の家100選』(株式会社ニューズ・ライン)で、実例記事やインタビュー記事が掲載予定です。

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※画像クリックでAmazonの購入ページにリンクします。

こちらの本は、住宅情報誌『ハウジングこまち』に掲載された住宅を集めた実例集で、これから新潟で家づくりを考える人は持っておくべき一冊と言えるでしょう。

ぜひチェックしてみてくださいね!

取材協力/佐藤高志さん(株式会社サトウ工務店)、鈴木淳さん(ネイティブディメンションズ一級建築士事務所)、コラボワークス

会場協力/nine

写真・文/鈴木亮平

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鈴木 亮平

新潟市在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。