ローコスト&ハイクオリティ。SIAの設計思想に基づいてつくられた企画住宅「casaUC」誕生

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。

正面から見ると、壁の大部分が杉板で覆われたキューブ型の外観。

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サイドは黒いガルバリウム鋼板で覆われており、窓がほとんどない端正でシンプルなフォルム。

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こちらは、2018年に創業した株式会社石田伸一建築事務所(以降、SIA)が提案する企画住宅「casaUC(カーサユーシー)」の第1号。

ちなみに「UC」とは、SIAが外壁や内装材に使う魚沼産の杉(通称魚沼杉、Uonuma Cedar)を意味しており、もちろんcasaUCの外壁にも使われています。

施主の要望を元に最適な住宅をフルオーダーでつくり上げるのが自由設計の注文住宅ですが、企画住宅はそれとは異なり、ビルダー側が合理性や意匠性を考えた上で、ある程度の普遍性を持たせた非注文住宅です。

「規格住宅」と呼ばれることもありますが、SIAでは自信を持って提案をする住宅ということで「企画住宅」と呼んでいます。

ポーチに近づいて見ると、コンクリート土間と庇が横にゆったりと伸びており、玄関ドアの右には大きなガラス窓が連なっています。

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一体どんな特徴を持った住宅なのか、代表の石田伸一さんに伺いました。

 

株式会社石田伸一建築事務所
代表・石田伸一さん

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1979年生まれ、十日町市出身。2000年に新潟市に拠点を置くビルダーに新卒で入社し、役員を経て2018年に退社。同年、株式会社石田伸一建築事務所を立ち上げる。新潟県内の注文住宅の設計の他、企画住宅の提案、県外のビルダーのコンサルティング、出身地である魚沼地域産の杉「魚沼杉」のブランディングや流通促進、海外での住宅設計など幅広いプロジェクトを手掛ける。社屋は持たず、3名の社員も全員リモートワークで働くなど「ノマドアーキテクト」という働き方も実践。

 

――これまで県内では地場の工務店と連携し、注文住宅の設計を行ってきたと思いますが、企画住宅「casaUC」はどのような経緯で始めたのでしょうか?

casaUCを始めたのは、「ローコスト・ハイクオリティ」なものをつくりたいなと思ったことがきっかけです。前職の時にも企画住宅の設計施工を行って、2017年にグッドデザイン賞も受賞したんですが、その後に考え始めました。

その時に、よりオーソドックスで、DIYをしながら愛着を持って住んでいけるような家をつくりたいと思ったんです。

今は「ローコスト・ロークオリティ」な家が多いなと思っていて。ローコスト=短命で、ファストファッションのように「劣化したら捨てればいいや」という考えがあって、とてももったいないと思っています。

そういうローコスト住宅のイメージを打開したいというのが根本にあります。

 

――ハイコスト・ハイクオリティは当たり前のことですが、「ローコスト」というのがポイントですね?

はい、弊社では「一人でも多くの人の暮らしを整えたい」というコンセプトがあります。家は高価なものですが、全体の1割の人にしか手が届かないというのは避けたいと思っています。

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casaUCで大事にしているのが、「本物しか使わない」ということと、耐震や断熱などのスペックを上げ、快適性を高めることです。

そして、細かなディテールや、愛着を持って頂けるようにお施主さんのDIYを取り入れることも大事にしています。僕らはお施主さんにも参加してもらって、餅まきをしたりDIYをして頂くことを「バーベキュー型の家づくり」と呼んでいます。

そのような家づくりにしたことで、忙しい共働き世帯の地域との疎遠化を上棟時の餅まきを利用した挨拶により解消し、コミュニケーションを図ることができました。

また、永く愛着を持って暮らして頂くために、地元の木を使って建てる「地材地建」と経年優化される材料を利用し、DIYできる余白を残したことで、一般的な「新築時が一番いい家」ではない、経年優化と余白を残した住宅となりました。

 

――規格住宅って、決まった形のものをポンと建てて「はいどうぞ!」っていうイメージだったんですが、それとはだいぶ違いますね。

僕らは「規格住宅」ではなくて「企画住宅」と呼んでいるんです。「提案住宅」という方が近いかもしれないですね。

これは僕のブログにも書いているんですが、思想を重要視していて、この4つの設計思想を掲げています。

※SIAのブログ記事より

そして、「HOME SHIFT DESIGN」という、今までの自由設計・注文住宅とは異なる提案をしていきたいなと思っています。

例えば、「うちのレストランはフルオーダーレストランです。あなたの食べたいもの何でも作ります!食材はどうされますか?味付けも決めてください!」というレストランがあったらどう思いますか?なんでも作れるのはすごいけど、でも味は無難かな…?って思いませんか?

実はこれが住宅建築で言う自由設計・注文住宅なんです。全てをお客様に委ねて、住宅会社で決めることができない。それを「お客様の要望に応えた」というのはプロとしてどうなのかな?と思っていて。

それで、自由設計・注文住宅という言葉はあまり使いたくないなと思うようになったんです。そこで僕たちがプロとして提案をするという意味で「HOME SHIFT DESIGN」という言葉を考えて、これを使うようにしています。

※SIAのブログ記事より

「HOME SHIFT DESIGN」や先程の4つの設計思想は全部、僕が広めていきたい言葉なんです。

今の日本の住宅の問題として、住宅自体の耐用年数の低下だったり、新築至上主義だったりということが挙げられますが、そういう状況を打開していきたいと思っています。

そのために、「100年前の住宅に学び、100年後のスタンダードをつくる。」というのを掲げているんですが、そこから生まれたのが弊社の設計思想です。

俗に言う「注文住宅・自由設計」という顧客が建築時の趣味嗜好で建築する一般的な注文住宅・自由設計ではなく、敷地を読み取り、家族構成や環境の変化に対応できるように住まい手の暮らしのルーティーンをヒアリングし、提案住宅として企画した住宅の提案。それがこのcasaUCなんです。 

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――なるほど…。ここまで住宅に対する考えが深くて、分かりやすく伝えられる設計事務所さんや住宅会社さんは、なかなかいないように思います。

今の話は全てのお客様に最初にお伝えしていることなんです。

この話の後に、Long Loved Designの考え方で「〇〇調」などの本物ではない素材を使わないとか、地材地建の理由とかを具体的に説明しています。

 

――では、casaUCの特徴を具体的に教えて頂けますでしょうか?

はい、無垢材などの本物の素材を使うことや、積雪時で耐震等級2をクリアしていること、樹脂サッシを使用して断熱性能を高めていることなどが特徴ですね。長期優良住宅の認定も取得しています。

価格は本体付帯工事費で1,720万円(税別)~としています。そこに含まれないのは、地盤改良・外構工事・空調・カーテンです。

この家の場合は、1階の床をチークのパーケットフローリングにしたり、マーベックスの第一種換気扇を使った床下冷暖の仕組みを入れたり、ミーレの食洗器を入れたり、一部の建具をチークの突板にしたりとオプションを加えているので、それよりも260万円高くなっています。

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チークのパーケットフローリング

床は標準だと魚沼杉で、浮造り(針葉樹の柔らかい部分を磨いてへこませ、堅い部分を浮き上がらせる仕上げ)を選ぶこともできます。この家の2階は魚沼杉の浮造りを使っていますが、足触りが良くて傷が付きにくいのが特長ですね。

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浮造りの魚沼杉が使われた2階の子ども部屋

 

――そんなにオプションを加えても1,980万円(税別)なんですね!間取りについて教えて頂けますか?

casaUCは全方位型のプランにしていますが、特長は「抜け」と「広がり」です。視線や風が抜けるように南北に窓をとっています。

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14畳のリビング・ダイニング。北側から南側を望む。
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南側から北側を望む。

南北に開いている一方、両脇には極力窓を設けないようにしています。

 

――1階部分は東西の両サイドに一切窓がないですもんね。でも、すごく明るいですね。光を補うために高窓が設けられることが多いですけど、その必要がありませんね。

あとは、南側に910mmの庇を出すことで夏の日射を遮るパッシブなデザイン(※自然が持っているエネルギーを上手に利用し、省エネで快適な住まいをつくる設計手法)にもなっています。

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それから、階段を真ん中近くに持ってくることで回遊型の動線もできています。

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観葉植物が置いてありますが、土間から直接リビングに入ることもできるんです。

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土間を広くすることによって抜けをつくり出していますが、土間とリビングの間には、オプションで扉を付けることもできますよ。

 

――3.5間×4間の平面ですが、それがプランを考える上でバランスが良かったのでしょうか?

リビングダイニングが2間(約3.6m)幅で、残り半分も2間幅にしていますが、幅2間で計画すると構造的にも都合がいいんです。

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この家は延床面積27坪ですが、今後バリエーションを増やしていく予定で、26坪~34坪くらいから選べるようにしたいと思っています。

この27坪タイプは大きさやコストのバランスがいいので、最初に出しました。

図面
casaUCのプラン(提案資料)

ちなみに今僕は愛知県の住宅会社さんとも一緒に企画住宅プロジェクトをやっているんですけど、やっていて思うのは、例え100プランあっても「推しの間取り」は1つということなんです。

26~34坪の間でそれぞれの坪数に1プランずつあれば十分だなあと。

ただし、普通のよくある「規格住宅」にしたくなかったので、「抜け」と「全方位型」を考えました。

 

――このcasaUCを見て、南北の抜け感がすごく気持ちいいなと思ったんですが、なぜこれまでの規格住宅でこのような大胆なプランがなかったのでしょうか?

規格住宅は価格を下げることに専念するケースが多いので、コスト的に高い掃き出し窓の多用を避ける傾向があったと思います。

あとは対面型のキッチンが好まれるからですね。

実はそこがポイントなんですけど、対面キッチンじゃないからこのプランができるんです。

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あとは、東側のトイレが無窓(むそう)なんですけど、トイレに窓を設けないことでもプランの幅が広がるんですよ。

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左奥に見える建具がトイレの引き戸

 

――なるほど…。たしかにトイレの窓ってあるのが当たり前みたいになっていますが、なくても困らないですよね。ちなみに頂いていたcasaUCの提案資料の図面とこの家は少し違う部分がありますが、間取りのカスタマイズが可能なのでしょうか?

耐力壁(※耐力を持たせた構造上抜けない壁)の位置は変えないようにしていますが、それ以外は自由に変えられます。今後ご提案時にどの壁が耐力壁か分かるように、図面上で赤く塗っておこうと思っています。

ただ、1階は現在の状態でほぼ決まりだと思います。耐力壁が少ない2階はいろいろできると思いますよ。

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2階の東側は、オープンなファミリークローク、洗面・物干しスペース、脱衣所、浴室が連なる。
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ファミリークローク側から浴室を望む。階段上の空間も物干しスペースとして活用できる。

あと、このcasaUCは片流れ屋根ですが、切妻屋根のパターンもあり、その場合は2階が少し広くなります。

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切妻屋根タイプのcasaUCのCGパース

 

――このcasaUCを建てられたお施主様は、どのようにしてcasaUCを選ばれたのでしょうか?

実は元々はcasaUCではなく、ご要望を元に自由設計でプランニングをしていたんです。ですが、要望を入れていくと価格が予算と合わなくなってしまって。その中で、こちらからcasaUCのプレゼンテーションをしたんです。

お客様の要望とは違うものなんですけど…と話した上でcasaUCのメリットをお伝えしたところ、お客様に選んで頂けました。

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最初に話したDIYができるというところですが、1階のリビング・ダイニングのラーチ合板の壁は自由に棚を付けたり住んでからカスタマイズができますし、2階の寝室と子ども部屋もベッドヘッド側がラーチ合板になっています。

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2階寝室のラーチ合板の壁

そこの壁のブルーの塗装はお客様に塗って頂いたものなんですよ。

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――最初に話されていた「バーベキュー型の家づくり」ですね。ただお金を払って与えられるのではなくて、一緒にチームになって作っている感じがします。あとはcasaUCにはどんなこだわりがありますか?

廊下の上をスノコにして空気の循環が良くなるようにしてるのもポイントですね。

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あとは、建具の高さを1,800mmにしているんですが、そうするとサブロクバン(※910mm×1,820mmの規格化されたサイズの合板)が使えるのでコストを抑えられるんです。それによって、洗濯機がある脱衣所と洗面スペースの間の上部を開けて脱衣所に光を届けられたりもします。

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――これまで規格化された住宅というのは、価格最重視でクオリティ・機能・意匠の優先順位が低いイメージでしたが、casaUCはものすごく深く考えられていることが分かりました。casaUCのこれからの展開や展望について教えて頂けますか?

同じ間取りでも、多雪地域向けの落雪型住宅「casaUC-SNOW」や、より断熱性能を高めた「casaUC-ECO」がありますので、地域や要望に合わせた対応も可能です。あとは、「casaUC2」や「casaUC平屋」というバリエーションの準備も進めているところです。

「こういう暮らしの考え方もあるんだ。こういう企画住宅もあるんだ」というのを新潟県内に留まらず全国にも広げていければと考えています。

今他県の住宅会社さんとも一緒に仕事をしていますので、例えば長野県でやるのであれば根羽村の杉を使ったりとか、その地域の材料を使う地材地建の考え方でつくれたらと思います。

いいものは自分たちだけで抱え込むのではなく、みんなで作れるようにすれば、エンドユーザーメリットになります。ローコスト・ハイクオリティの住宅を広げていくことが僕たちの目標ですね。

今SIAのメンバーのCGやアニメーションなどのプレゼン技術が上がってきているので、エンドユーザーにcasaUCの魅力を分かりやすく伝えられるようになっています。

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casaUCのCGパース

エンドユーザーに寄り添うことが大事で、そのためには分かりやすくて、価格以上の価値を提示することが重要だと考えています。

 

――今後自由設計ではなくcasaUCや、同様のコンセプトを持った企画住宅を選ぶ人が増えていきそうな気がします。

そうですね。僕らとしては、必ずしも自由設計が一番いいとは思ってなくて、カスタマイズもできるこのような家で、いい暮らしを多くの人にお届けできればと思います。

casaUCは僕らが30年後50年後を見据えてつくったものです。どんどん広げていきたいと思います。

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自分たち家族のために最適化された家を目指す自由設計とは異なる、SIAの企画住宅「casaUC」。

それは、プロが培って来た経験から生み出した住宅で、あらゆる整合性が取れていることが特長です。レストランに例えるならば、シェフが長年かけて辿り着いたこだわりの一品と言えるのではないでしょうか?

また、それをリーズナブルな金額で提供できる理由は、打ち合わせ・設計期間の短縮化や、合理的な設計による材料費の省コスト化などが挙げられます。

ローコスト・ハイクオリティな企画住宅を、これからの住まいづくりの選択肢として考えてみてはいかがでしょうか?

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取材協力:株式会社石田伸一建築事務所(SIA inc.)

石田伸一さんのインスタグラムに投稿されたcasaUCのイメージムービー


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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。