市街地でプライバシーと開放感を両立する、魚沼杉に包まれたコートハウス

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。

洗練されたデザインと設計思想に共感

新潟市中央区の中でも、マンションやビル、戸建て住宅が入り交じるエリアに新築をしたKさん家族。30代の夫婦と4歳の息子さんの3人で暮らしている。

三叉路に面した不整形地に立つ家は、塀も外壁も全て魚沼地域で採れた杉、通称・魚沼杉が使われているのが特徴だ。

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敷地南側は高さ2mの木塀が連続しており、通りからの視線をシャットアウト。その塀の隙間からポーチへと続くアプローチが伸びている。

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「以前はアパートに住んでいたのですが、4年前に子どもが生まれてから家づくりを考えるようになりました。縁があって土地を譲り受けることになったので、その敷地の特性にあった家を、細かい部分までオーダーメードでつくり上げてくれる設計事務所に依頼してみたいと思ったんです。

石田伸一建築事務所さん(以下、SIA)を知ったのは、建築業界の方から『WEBサイトを持っていないのに集客力の高い設計事務所がある』という話を聞いたことがきっかけでした。インスタグラムを拝見すると洗練された住宅の写真が並んでいる。意匠的なことだけでなく『100年前の住宅に学び100年後のスタンダードをつくる。』『家と庭で家庭。』といった設計思想にも共感しました。

ただ、本当にWEBサイトがなくて、自分が気軽にメッセージを送っていいかも分からない。連絡するのには勇気が必要でした(笑)」とご主人は話す。

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ヒアリングでは、思い描いている暮らしのイメージや、どうしても実現したいこと、できれば実現したいこと、新築をする理由や不安に感じていることなどをシートに記入しながら話していったという。

「四季を感じられる庭や、プライバシーが確保できること、自宅で仕事をするための書斎などを希望しました。あとは、アパートでは寒さや結露、カビなどに悩まされていましたので、冬暖かく快適に暮らせる家にしたいなと考えていました」(ご主人)。

それに対して株式会社石田伸一建築事務所の代表・石田伸一さんはこう話す。

「僕たちが大事にしているのは、日常の暮らしをデザインすること。そのため、ヒアリングではまず日々の暮らしを伺い、5年後、10年後、30年後のご家族の環境の変化を考えて、可変性のある提案を行います。

打ち合わせでは『吹き抜け』のご要望もありましたが、望まれているのは開放感であると考え、今回は吹き抜けではなく庭に向かって開くことで開放感をつくり出しています。

元々立っていた古家を解体する時に僕を含む設計メンバー3人で敷地を見ながら、開く方向はそこで決めていました。プレゼンテーションをする前に推しのプランも決まっていたのですが、計5つの案をお見せして、そこから選んで頂きました」。

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石田伸一さん

「見せて頂いた提案から3つのプランに絞り込み、その中から自分たちが求めているものがすべて入っていて、広い庭が取れるコの字型のプランを選びました。選ばなかったプラン『露地の家』もとても素敵だったのでとても悩みましたが…」(ご主人)

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採用されなかったプラン『露地の家』。

 

外からの視線を気にせず過ごせるコートハウス

では、完成した家を見てみよう。

道路側からは建物の全貌が見えなかったが、木塀の内側に入ると中央の庭を囲むように建物がコの字型に建てられているのがよく分かる。

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建物が密集するエリアだが、庭にいても周囲からの視線はほとんど気にならない。現在育成中のグランドカバーのディコンドラが成長すると、庭全体が緑で覆われそうだ。

建物は中央部分が2階建てで、両サイドは1階部分のみ。

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3つの箱の組み合わせでコの字型の建物がつくられている。

屋根が架かったアプローチは、向かって右側の箱の一部を利用した外廊下。

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リズミカルに柱が連なる細長い空間の幅は1,365mmで、自転車を引いてスムーズに入ることができる。

玄関ドアはSIAが推奨するトリプルガラス入りのテラスドア。

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乳白色のフロストガラスで中は見えないが、暗くなりがちな玄関に光を採り込めるのが特長だ。網戸付きなので、春や秋などの気候がいい時期に風を取り込むのにも都合がいい。

 

キャンプ道具もたっぷりしまえるシューズクローク

玄関はホール部分を含めて1.5畳とコンパクト。しかし、ホールとリビングを仕切る引き戸を開けると、リビングの奥にある10m先の壁まで一直線に視線が抜ける。

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玄関のすぐ右手は、カーテンで仕切られた2.5畳のシューズクローク。

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壁という壁すべてに可動棚が設置されており、使い方は自由自在。ご主人の趣味のキャンプ道具もこの空間にすっきりと納められている。

そして、リビングに入ってすぐ左手にあるのが和室だ。

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6畳の空間はゲストの宿泊用にも使える個室で、現在は家族3人の寝室として使っているのだそう。空間に圧迫感を与えない吊押入は、布団が入る奥行がしっかり確保されている。

また、リビングとの間の建具は天井まで高さがある吊り戸を採用しており、開放すると建具の存在がきれいに消失する。「下にレールがなく、掃除がしやすいのもいいですね」(奥様)。

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里山と林業を守る、UCマホガニー合板

そして、こちらがK邸のメインの空間であるLDK全景。

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南面は大きな窓が3間(約5.4m)に渡って連続しており、庭へと向かって開く開放的なつくりになっている。

床はチークのパーケットフローリング、天井や壁の仕上げはUCマホガニー合板。

UCマホガニー合板とはSIAの関連会社である製材所・株式会社UC Factoryが手掛けている内装や下地用の合板だ。

表面には木目が美しいガボンマホガニーが張られており、内部には魚沼杉が使われている。見た目はマホガニーだが、この合板を使えば使う程、魚沼杉の活用が進む仕組みだ。

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今日本各地で里山の荒廃が大きな問題になっている。そもそも里山の植林木はその地域の建材として使われていて、植林・育成・伐採・利用のサイクルを回すことで里山は健全な状態が保たれていた。

しかし、近年は外材に押されて十分な活用がなされず林業が衰退。それが里山の荒廃につながっている。SIAではそんな課題を解決するソーシャルグッドな建材として、UCマホガニー合板を開発。積極的に活用を進めている。

もちろんUCマホガニー合板はSIAだけが使えるものではなく、ユーザーや住宅会社が希望すれば誰もが利用可能。みんなで地域材の活用を進めることを石田さんは望んでいる。

これらの内装仕上げは、精巧に作られたCGパースを確認しながら決めていったという。

下の画像は同じアングルのCGと写真を重ねたもの。「CGがとてもリアルで完成時のイメージがしやすかったですね」とご主人。

テレビの後ろの壁などに見られる灰色のボードは、天然素材由来のモイスNTという仕上げ材。

「内装の仕上げになるべくビニルクロスを使いたくなくて、UCマホガニー合板やモイス、塗り壁を提案しています。モイスは三条市のサトウ工務店さんがずい分前からよく使っている素材ですごく優秀。調湿消臭効果がありマットな質感もいい。汚れがついてもサンドペーパーで削ればきれいにできます。

僕らはそのような仕上げ材を使い、さらに巾木や枠をなくして建具の存在を消すようにしています。大工の高い施工技術が必要になる納まりで、この家はSIAのメンバーの大工・永井が担当しています」(石田さん)。

そしてLDKから見える庭がこちら。

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庭の両サイドが建物で囲まれており、プリーツスクリーンを開放していても外からの視線は全く気にならない。近くに背の高いマンションが立っているが、両翼の建物が見事に視線を遮ってくれている。

また、庇が1m程出ているため、太陽高度の高い夏の日差しは遮られ、中間期から冬にかけては日射が採り込めるパッシブなデザインでもある。

3つの大きな窓は左と中央がFIX窓。右の窓だけが引き違いで、そこからデッキへと出られる設計だ。この大きな窓には、高い断熱性能を誇るトリプルガラスを使用している。

K邸の暖房は床下エアコンで基礎内を暖める仕組みで、床の随所に設けられたガラリから暖かい空気が家じゅうに行き渡る。

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造作カウンターの下に床下エアコンが仕込まれている。

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リビング内のガラリを窓辺に配置しているのは、窓部分で起こりやすい“コールドドラフト”という冷たい気流を抑えるためだ。

ちなみに窓のスクリーンは蜂の巣構造のハニカムスクリーンで、内部の空気層が断熱効果を発揮。換気扇は熱交換型の第1種換気を採用しており、換気時の熱損失を抑えられるようにしている。

さまざまな設計上の工夫や設備機器の選定により、しっかり快適性を高めているのも特徴だ。

 

キッチンは掃除や作業がしやすいⅡ型

ダイニングテーブルは造作の金属脚とUCマホガニー合板を組み合わせたオリジナルで、その隣にはステンレス天板の作業台が並んでいる。こちらもCGで完成イメージを共有して製作された。

このキッチンの組み方はSIAが推奨するⅡ型の一種。作業台にシンクを付ける場合もあるが、K邸ではシンプルに作業台のみとしている。家族や友人が集う餃子パーティーやピザパーティー、お菓子作りなどにも最適だ。

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キッチンは壁付けの造作。面材はオイル塗装を施したUCマホガニー合板で、油跳ねする壁には掃除がしやすいステンレスの板を貼っている。

「拭き掃除がしやすいですし、キッチンペーパーホルダーなどをマグネットで付けられるのも便利ですね」とご主人。

キッチン背面に置かれた作業台には、電子レンジや炊飯器などの調理家電が隠れるように配されており、機能と美しさの両方が考えられていることが分かる。

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1階の奥にはリモートワークがはかどる書斎が

LDKを過ぎて左に曲がった場所には、水回りとご主人の書斎がある。

リビングから離れた廊下の突き当たりが1坪の書斎だ。

昇降デスクの天板も棚板もUCマホガニー合板。デスクの目の前には庭を眺められる窓があるため、コンパクトな空間でも圧迫感はない。

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「リモートで仕事をする時間が増えていますが、この書斎は窓から外が見えるのがいいですね。春先は特に気持ちいいですよ」(ご主人)。

書斎へ向かう途中にはトイレと洗面スペース。

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物干しを兼ねた脱衣所、浴室、ウォークインクローゼットもこちらにまとめられている。

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2階は可変性を重視したフリースペース

生活のすべてが1階で完結できるプランで、2階には4畳の個室と、必要に応じて仕切れる12畳のフリースペースが設けられている。

床材は1階とは異なり、柔らかい足触りの魚沼杉の無垢材を採用。壁は全てモイスNTで、天井はUCマホガニー合板で仕上げられている。

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12畳のフリースペース。
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4畳の個室。

予備的な空間である2階に造作家具などはなく、必要に応じて間仕切りをつくったり、置き家具で空間をつくったりする余白が用意されている。

 

山から設計を考える

この家に住み始めたのが今年の2月下旬。半年過ごしてみての感想を伺った。

「掃除がしやすくて、家事がラクになりましたね。時間にゆとりが生まれ、よくソファに座って庭を眺めて過ごしています。ウッドデッキにテーブルを出してごはんを食べるのも楽しいですね」と奥様。

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「冬は床下エアコン1台で快適に過ごすことができました。アパートで悩まされた結露もありません。夏は1階のエアコンをつけっ放しで過ごしていましたが、1カ月の電気代はオール電化で15,000円程度でした。庭ができて緑と触れ合う時間ができましたし、子どもを伸び伸びと遊ばせられることにも満足しています。今後は家庭菜園にも挑戦してみたいです」(ご主人)。

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ほとんど間崩れがなく、最大スパンが2間で安定感のあるプランもK邸の特徴だ。そして、そこには林業も営む石田さんならではの考え方がある。

「使っている登り梁は、全て梁せい(梁の下面から上面までの高さ)240mmにしています。それは魚沼地域で採れる杉の丸太が直径360mm程度のものが多いから。その丸太を製材すると240mmの材料が取れるんですよ。屋根断熱では厚さ120mmのグラスウールが2つ重ねてピッタリ入るので気密を取るのにも都合がいい。

3年前に林業と製材業をやるようになったことで、構造に対する考え方が変わりました。今は構造材ももちろん魚沼杉。山から設計を考えるようにしています。

一般的な住宅会社さんの県産材利用量は同規模の住宅で多くて6立米程度ですが、この家全体で魚沼杉を27.46立米使っています。構造、羽柄材、外壁、構造用合板、床、内装、棚、造作建具、造作キッチンなどあらゆるところに使っているので、一棟あたりの利用率は新潟のどの住宅会社よりも上だと思います」と石田さん。

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街なかでしっかりとプライバシーを確保し、庭を眺めながら四季を感じられる住まい。敷地条件に素直に、そして構造材となる丸太にも素直に計画されている。

注文住宅とは、オーナー家族のためのオーダーメイドの建物。当然、意匠性や機能性、快適性などが重視される。SIAでは、もちろんそのあたりの根幹を高い設計力でクリアした上で、さらに山や地域のこと、環境のことも考えて建築に落とし込んでいる。

そんなコンセプトに共感してつくり上げた住まいに、Kさん家族は深い愛着を感じながら暮らしを楽しんでいる。

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K邸
新潟市中央区
延床面積104.38㎡(31.57坪)、1階71.26㎡(21.55坪)、2階33.12㎡(10.02坪)
竣工年月 2023年2月
設計 株式会社 石田伸一建築事務所(SIA Inc.) Instagram:@sia_inc0717

(写真・文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。