便利な回遊動線で家事をラクに。暮らしやすさを追求したまちなか山荘

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。

新潟市西区の、バス路線がある大通りから一本入った住宅街。平屋の賃貸住宅が並ぶ一角の土地を譲り受け、Fさん家族は家を建てた。

敷地は、南東・南西方向に道路、北東・北西方向に隣家が立つ41坪の角地。

正午以降強い日差しが照り付ける南西側は最小限の窓に抑えられ、落ち着いた風景をつくり出している。

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植栽はユーカリとオリーブ。爽やかな緑が建物に彩りを添える。

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外壁は杉板張りの押し縁仕上げ。

杉板は雨や日に当たる部分からグレーに変色していくが、はじめにグレー塗装にしておくことで、時間の経過と共に現れる色ムラを抑えることができる。

新築特有のピカピカ感のない佇まい。そこには、「まちなか山荘」をコンセプトに掲げる山川建築事務所・山川潤さんの感性が現れている。

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ガレージと家に挟まれた、路地のようなアプローチ

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南東側がこの住まいの顔で、手前には2台の車と自転車を止められるオープンなガレージ。その奥に切妻屋根の家が立っているが、高さを抑えた建物は威圧感がなく優しい。

ガレージの軒は右側のアプローチを覆うように伸びており、雨に濡れることなく行き来できる。

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ガレージの横から回り込むように歩を進めると、ようやく玄関ドアにたどり着くが、この長めにとったアプローチが41坪の敷地とは思えない広がりを感じさせてくれる。

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ガレージから玄関前へとショートカットできる開口もあるので、買い物帰りに荷物を短い距離で家に運ぶこともできる。

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細い路地のようなアプローチの先には、木塀で目隠しされた4.5畳のウッドデッキ。

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ガレージ、家、木塀に守られた坪庭のような場所は、コーヒーを淹れて椅子に腰掛けながらゆっくり過ごしたくなる屋外空間だ。

 

キッチンはコンパクトな動線で使いやすく

「以前は9年程、同じ西区内でアパート暮らしをしていました。数年前から家を建てたいと考えていたんですが、住宅展示場に行ってもピンと来なくて…」と、家づくりを検討し始めた頃を振り返る奥様。

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キッチン周りにはカゴがいくつも置かれているが、このような味わいのある生活雑貨を好む奥様は、自然素材をうまく取り入れた家を建てたいと考えていた。

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「左官職人の父に相談したところ、山川さんを教えてもらったんです。それで後日、山川さんのご自宅を見せて頂いたんですが、木をふんだんに使った空間や、造作のキッチン、洗面台などがドンピシャでした」と、山川建築事務所の家づくりへ共感し依頼を決めた。

F邸の延床面積は30坪。玄関ドアを開けると下屋部分が玄関になっており、正面の引き戸を開けると、そこはもうダイニング・キッチンだ。

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柔らかい杉の無垢フローリングが張られた8畳の空間には、L字型の造作キッチンが配され、中央には丸テーブルが置かれている。最近はあまり見られないタイプのダイニング・キッチンだが、これは奥様の希望を形にしたもの。

ご主人が仕事で帰宅が遅い日が多く、普段は小学生と幼稚園児の2人のお子さんを奥様が一人でみているという。そのため、新しい住まいにおいては家事や子育てのしやすさを重視した。

「アパートは対面キッチンだったんですが、ダイニングからキッチンへと回り込むのが面倒で…。この形だと、食事を出すのも片付けるのも楽にできてすごく便利ですね」。

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L字型のキッチンはワークスペースが広い上に、短い移動で作業ができる。キッチンの右側には造作の食器棚があり、食器やカトラリー、保存容器などはこちらにまとめて格納。

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オーブンレンジやゴミ箱はキッチン下、鍋やフライパンは出しやすいようにガスコンロの下…と、無駄のない所作を導くように設計がなされている。

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コンロやシンクの正面はタイル仕上げ。シンプルな白いタイルは時代の変化に左右されることなく、さり気ないアクセントとして空間の質を高めてくれる。

ダイニングテーブルは丸型を選んでいるが、角型と異なり、空間を狭めずテーブルの周りをスムーズに歩くことができる。

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壁掛けテレビの左側に戸があるが、その先はちょっとした書き物ができるデスク付きの納戸で、そちらに学校関係の書類や食品ストックを保管。

玄関とつながっているので、外から荷物をスムーズに運びこめるし、半分は土間なので濡れた上着などを掛けるのにも都合がいい。

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自然素材に包まれた、落ち着ける和室

ダイニング・キッチンの隣は、リビングではなく6畳の和室。

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波打つように仕上げられた塗り壁は、左官職人である奥様のお父様が塗ったもので、スポンジの凹凸を利用して柔らかい表情をつくり出している。

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建具はシナ合板、天井はメラピーの突板仕上げ。窓辺には枠の幅が統一された吉村障子が配されるなど、どこを見ても自然素材が使われている。

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窓辺は腰かけにもなり、その奥にはウッドデッキが。

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木塀とガレージの壁によってプライバシーが守られ、さらに長い庇が直射日光を程よく遮ってくれる。

「今年の夏はここにプールを出して子どもたちを遊ばせました」と奥様。和室に隣接するウッドデッキにプール。それは旅館の露天風呂付き客室のような贅沢なプライベート空間だ。

「このデッキを楽しく使ってほしいと思っていたので、うれしいですね」と山川さんは微笑んだ。

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山川建築事務所・山川潤さん(自邸のリビングにて)。

ちなみにこちらの6畳間、昼間は居間だが、夜は押入から布団を出して寝室として使っているという。

それは、できるだけ1階だけで生活を完結させたいという奥様の希望によるものだが、居間としても寝室としても使えるのは、畳の部屋にするメリットだ。

障子を閉じれば、和室は一層落ち着いた雰囲気に変化する。

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洗濯、物干し、収納を楽にする便利な回遊動線

ダイニング・キッチンを通り過ぎると左に階段、右にトイレが配されている。

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トイレも他と同様に杉の無垢フローリング。左官仕上げの壁や、シナ合板の造作家具など、自然素材が用いられている。

突き当たりにあるのは、物干しスペースを兼ねた洗面脱衣室。

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4畳というゆとりある空間の半分は物干しスペースになっており、洗濯が終わったらすぐにこちらで物干しができる。

もう半分は洗面脱衣スペース。水で濡れてもいいように床にはタイルを採用している。

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実験用シンクがはめられた造作の洗面台は、タオルやドライヤー、歯ブラシにティッシュなどこまごまとした物をすっきりと片付けられる収納付き。

また、洗面脱衣室の隣には4畳の納戸が設けられており、乾いた洗濯物を短い移動ですぐに収納できる合理的な動線となっている。

この納戸にお子さんたちのおもちゃもすっきり片付けられるため、和室やダイニングをきれいな状態に保ちやすい。

こちらの納戸は行き止まりではなく、先程の和室へと通り抜けられるのもポイントだ。

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階段を中心に配し、ダイニング・キッチン→洗面脱衣室→納戸→和室とぐるりと一周できるようになっており、部屋と部屋の距離が近く動きやすい。

「納戸があるおかげで服を一カ所にまとめておけますし、奥にいても子どもたちの気配が感じられるので安心ですね」と、満足そうに奥様は話す。

部屋がバラバラに配されたアパートで感じた不便さを解消したいという希望を、山川さんは階段を中心にしたスマートな回遊動線で叶えた。

建物をコンパクトに抑えるために、廊下をつくらず、部屋と部屋を引き戸によって分けたり繋いだりしているのも特徴。

引き戸と窓を開ければ、家の隅々まで風が通り抜ける。

 

2階は用途を定めず大らかに

階段を上がった先は、仕切りの少ない2階。

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4間×3.5間の長方形の2階はフレキシブルに使うことができ、三層パネルでつくられた間仕切り壁は将来取り払える設計だ。

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勾配天井で開放感を出しており、棟木が伸びる中央は高く、端に行くほど低くなる。現しになった登り梁や針葉樹合板は、荒々しくも美しい。

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2階の北西側は1間(約180cm)幅の細長いスペースだが、そのコンパクトさを生かしてハンモックでくつろげる空間に。

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反対側はテレビゲームコーナーにするなど、籠もり感のある空間がうまく活用されている。

階段前のホールはがらんとしているが、南北に風が抜けるこの場所にカウチソファを置けば、ついついまどろんでしまいそうな心地いい昼寝スペースができ上がりそうだ。

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子ども部屋として6.5畳の個室が2つ左右対称に設けられており、それぞれ南東側の窓から光が注ぐ。

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小学生の息子さんの部屋には、ご主人がスノコベッドをリメイクした学習机が置かれており、工作が好きな息子さんの作業スペースになっている。

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機能性を突き詰め、緻密に間取りや造作家具を造り込んだ1階とは対照的に、がらんとした空間が広がる2階。

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そこは、フロア全体が自由に伸び伸びと遊べる贅沢な子ども部屋のようでもある。

 

UA値=0.37、耐震等級3という高い性能

設計はもちろんのこと、性能にも山川さんのこだわりが現れている。

山川建築事務所は「FPの家」に加盟しており、断熱材には同じ厚さのグラスウールよりも高い断熱性能を誇る硬質ウレタンパネルを採用している。

床・壁・天井を硬質ウレタンパネルで魔法瓶のようにくるみ、窓にはYKKAP社の樹脂窓APW330(ペアガラス)やAPW430(トリプルガラス)を使用。

その結果、断熱性能を示すUA値は0.37という高い性能値となっている(※UA値=外皮平均熱貫流率。数値が低いほど断熱性能が高い)。

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「本当はHEAT20のG2グレード(UA値=0.34)をクリアしたかったんですが、北側斜線の関係で屋根断熱の厚みが取れず断念しました」と山川さんは少し悔しそうに話すが、G1グレードの基準値であるUA値=0.48を軽々と上回る。

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「去年の年末に完成して冬を越しましたが、とても暖かく快適に過ごすことができました」と奥様。

さらに、夏の強い日射を抑える庇や、窓の配置も丁寧に考えられており、夏の冷房効率も高い。

また、耐震性能においては最高等級の3をクリア。度重なる強い地震が起きても命を守れるのは当然のことで、その後も安全に住み続けられ、住宅資産を維持できるのが耐震等級を高めることの本質だ。その点も山川さんは考慮している。

奥様が求めた暮らしやすい動線を叶え、心地よい自然素材を使い、デッキやアプローチといった外部空間も丁寧に計画。そして、断熱や耐震といった重要なポイントもしっかりと高められている。

住んでから気づくことが多い「かっこいいけど冬寒い」「明るいけど夏暑い」という家ではなく、想定されるストレスをあらかじめ取り除くことで愛着を持って数十年後も住み続けられるように設計がなされた。

そんな住まいづくりへの深い想いがF邸からじわりと伝わってくる。

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F邸
新潟市西区
延床面積 98.95㎡(29.93坪)
竣工年月 2019年12月
設計・施工 株式会社山川建築事務所

写真・文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。