美しい西日を採り込む、開放的な高台の家

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鈴木 亮平

新潟市在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。

家族の時間を重視した住まいを計画

少し肌寒くなってきた10月下旬の週末にK邸を訪れた。

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約54坪の敷地手前は3台分の駐車スペース。その右手には1本の庭木が立ち、自然石乱張りのアプローチが玄関へと続いている。

紺色のガルバリウム鋼板に包まれた建物は、ところどころに天然木があしらわれていて、それが金属の堅い印象をやわらげているのか、どことなく優しい表情が感じられる。

Kさん夫婦はお二人とも佐渡島出身。Kさん夫婦と、9歳の長女、5歳の次女、4歳の長男の5人家族だ。

「家づくりを考え始めた時、私たちは佐渡に住んでいて、その時に雑誌で見つけた加藤淳設計事務所さんの記事が目に止まりました。掲載されていた家の外観の雰囲気が素敵だったんです。その後加藤さんを含めて3社にプランを描いて頂いたのですが、ダントツで加藤さんが良かったですね。提案内容だけでなく、話しやすい人柄や、親身になってくれる姿勢にも惹かれました」(奥様)。

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ご主人の希望は「家族が団らんの時間を過ごすリビングを広めにすること」。一方、奥様は「子どもたちも一緒に使える作業台付きのキッチン」という具体的なイメージを持っていた。

そんなお二人の話を元に加藤さんが提案したのは、1階には玄関・LDK・トイレだけを配し、水回りやファミリークローク、個室を2階に配したプランだった。

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ドライフラワーが似合う造作洗面台

K邸が完成したのは2021年4月。それから2年半が経過した住まいでどのように暮らしているのか見せてもらった。

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建物のコーナーにポーチがあり、壁はそこだけ天然木の羽目板仕上げ。壁に設置された船舶照明の金属が酸化し、古道具のような味わいが出始めていた。

引き戸を開けたところはコンパクトな玄関で、L字型の土間の死角になる場所に家族5人分の靴が収納されている。

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一方、よく見える場所には有孔ボードを2面に張っており、普段使いの上着やバッグなどを掛けて収納できる。

廊下の突き当たりは3尺(910mm)幅の空間にきれいに納まった造作洗面台。

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シンプルな木製の洗面台にモザイクタイルの壁。レトロなデザインのペンダントライトやタイルがあしらわれた鏡、ドライフラワーの壁飾りなどが調和したかわいらしいコーナーだ。

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照明を点けなくても、日中はサイドの窓から入った自然の光が顔を照らしてくれる。

 

眺望と広がりを楽しむ、西向きのリビング

玄関のそばにLDKの入口があり、そこから幅広のオークのフローリングが広がる空間全体が見渡せる。

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左手奥がリビング、手前がダイニング。正面には150mm上がった小上がりが設けられている。

「広いリビングをご要望されていましたので、リビング側の天井を上げて開放感をつくり出しています。ちょうどリビングの上の2階が子ども部屋なのですが、そこの床も少し上げています。

入った時に視線が外へと抜けていくように、あえて西側に窓を大きく取っているのも特徴ですね。この土地の南側には同じ高さですぐお隣の家が建っていますが、西側の土地は数メートル下がっているので、眺めがいいんですよ。

それから、家族が集まるLDKにいろいろなスケールの居場所をつくりたくて小上がりを設けました。小上がりの天井をラワンベニヤにしているのも、別な空間に感じられるようにするためですね」と、加藤淳設計事務所の代表・加藤淳さんは説明する。

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壁はドイツ漆喰「フェザーフィール」で仕上げられており、落ち着いた深みのある陰影が壁に現れている。

テレビは壁掛け式だが、壁掛けのために壁全面を厚くするのではなく、必要な大きさの壁をつくり、フロートタイプのTVボードと一体にしているのもユニークだ。

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壁の上はちょっとした小物置きにも使える。

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そして、その隣の窓辺に沿って伸びるのは約4mの長い造作ベンチ。

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「最初はオープンなベンチを予定していましたが、家全体の収納を増やしたいとお伝えしたところ、収納スペース付きのベンチをご提案頂きました。ティッシュなどの日用品のストックに重宝しています」(奥様)。

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ベンチの天板の右端にはふたが付いており、そこを開けるとゴミ箱になるという、ちょっとした遊び心も見逃せない。

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「ベンチは自然とみんなが腰を掛ける場所になっていますね。お客さんがいっぱい来た時も座る場所に困りません」(奥様)。

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夏場はこの窓から強い西日が射しこむため、窓の外の庇にアウターシェードを取り付けて、日射対策をしながら生活しているのだそう。

 

ダイニングテーブルが家族団らんの中心

こちらがリビングから見たダイニング。

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このダイニングテーブルを中心に、キッチン、小上がり、リビングが配されている。

お隣の小上がりは、今はお子様たちの遊び場として活用。

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「ここは子どもたちの成長に合わせて使い方を少しずつ変えていくことができます。将来的には大人が使うカフェスペースにしたいですね」と奥様。

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小上がりの床はウォールナットのすだれ張り。オークよりも濃い色味と珍しい張り方によって変化がつけられた小さな空間は、日常の中でちょっとした非日常を感じられる場所になっている。

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キッチン奥の小さな空間にも心地よさを

そして、奥様が強く希望した“作業台のあるキッチン”がこちら。

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ダイニングテーブルと同じ高さの作業台は700mmちょっとと少し低めの設計。それは、子どもたちがお手伝いをしやすい高さでもある。

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「ここで料理の手伝いをしたり、宿題をしたり、おやつを食べたり。いろいろな使い方ができる作業台です」(奥様)。

キッチンは料理に集中しやすい壁付けだが、作業台が目隠しになっているため、キッチンのキャビネットがダイニング側から見えすぎることもない。

また、キッチンの奥には1坪ほどのスペースがあり、その目立たない空間には、食器棚や作業用デスクなどが備えられている

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大容量のミーレの食洗機もこちらにビルトイン。「食洗機は食器棚に近い位置に設置して頂いたので、洗い終わった食器をその場で片付けることができます。食洗機が入ったことで家事がすごく楽になりました」(奥様)。

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奥まった場所だが、突き当たりに景色を望む窓が設けられているので、行き止まりのような感じはない。椅子に腰かけてゆっくり景色を眺めたくなる心地いい空間だ。

 

家事がラクになる、洗面脱衣室&収納計画

次に2階を見せてもらった。

2階はホールを中心に寝室、水回り、ファミリークローク、子ども部屋、トイレがレイアウトされている。下の写真は、ホールから見た子ども部屋。ヒノキの無垢フローリングの香りは、子どもたちもお気に入りだという。

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子ども部屋は、天井を少し高めにしたリビングの真上にあるため、ホールよりも床が一段高くなっている。9畳弱の子ども部屋は、あとから2室に分けて使える設計だ。

2階の西側にある洗面脱衣室は4畳弱の広さで、入ってすぐ左手に洗濯機、その奥に浴室の入口が並ぶ。正面の窓の先はベランダで、右手にある引き戸の先にはファミリークロークがある。

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少し広めの洗面脱衣室は洗濯物を干す場所でもあり、乾いた洗濯物をすぐ隣のファミリークロークへと運べるレイアウトも合理的だ。

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下の写真がファミリークロークの内部空間。

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ファミリークローク。(写真は竣工時)

しっかりと奥行があるファミリークロークの広さは6畳弱。家族5人分の服や荷物をたっぷりと収納できるゆとりがある。

「ファミリークロークは打ち合わせの途中で広げて頂き、この大きさになりました。布団も入りますしとても使いやすいです。あと、ベランダは洗濯物を外干しするのに便利ですし、眺めがいいので夏は近くの漁港で上がる花火がよく見えます。それから、家が完成して私たちが生まれた佐渡が見えることが分かった時はテンションが上がりましたね」(奥様)。

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洗面脱衣室から続くベランダ。(写真は竣工時)

また、浴室はこのベランダに面しており、空を眺めながら開放感あふれるバスタイムを楽しむことができる。

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浴室からFIX窓越しに外を眺める。(写真は竣工時)

「最初にこの土地を見た時に景色がいい場所だなあと思いましたが、上棟の日に2階の足場に上がると、さらに遠くまで景色が眺められて、それがとても印象的でしたね。風が強い日だったので餅まきをする時はちょっと怖かったですけど(笑)」と話すのは施工監理を担当したAg-工務店の渡邊健太さん。

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1階と2階の役割を分け、生活リズムを整える

高台のロケーションを生かした、西側の景色を見渡すK邸。遊びにくる友人たちがリビングに入ると、視界に入る家が1階分低く見えることに驚くという。

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「『まるで2階にいるみたい!』という人が多いですね。外の視線が気にならないのでブラインドは日中開けたままで過ごしています。リビングの東側の高窓から入る朝日も気持ちいいですし、夕方の西日もきれいなんですよ。それから、2階にお風呂と寝室がある間取りが私たちの生活スタイルにとてもよく合っています。夜、お風呂に入るタイミングで1階は消灯し、お風呂の後はそのまま2階で寝る…というリズムです」と奥様。

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「リビングは子どもたちが伸び伸び動ける場所になっていて、ダイニングテーブルを使って卓球をしたり、部屋の中でバドミントンやサッカーをして遊んだりできることに満足しています。この広さを生かしたかったのでソファは買わず、その代わりすぐに動かせるヨギボーを置いています」とご主人。

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Kさん家族が求めていた暮らし方にフィットし、敷地の魅力も存分に感じられる住まい。

「西側の開口はなるべく小さく」というのが、家づくりでよく言われるセオリーだが、眺望と開放感を得るため、加藤さんが提案したのはあえて西側に開くリビングだった。もちろん庇やシェード用の金具を設置するなど、西日対策をしっかりと講じている。

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夕刻が近づく頃に雨が止み、にわかに日が差してきた。

秋の午後の弱々しい日差しは少し感傷的で、そんな季節の表情が内部空間に強く現れるのも西に開くリビングの特徴だ。

気まぐれな演出装置のような西日は、時に心を揺さぶるような美しい色で室内を染めるのだろう。

やがて太陽は海の向こうに見える佐渡島の山へと沈んでいく。太陽という普遍的な存在が、それとなく故郷とのつながりを感じさせる。

 

K邸
新潟市西区
延床面積 106.8㎡(32.2坪)
1F 54.1㎡(16.3坪) 2F 52.7㎡ (15.9坪)
竣工年月 2021年4月
設計 株式会社加藤淳設計事務所
施工 株式会社Ag-工務店
耐震等級 3(許容応力度計算)

(写真・文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平

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新潟市在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。