家と庭、一体の設計。住宅街の中で木々に包まれる暮らし

Ohouse-23
The following two tabs change content below.

鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。

紅葉を楽しめるカフェテラスのようなデッキ

3年前にOさん夫婦が家を建てたのは、新潟市中央区の住宅街の土地。面積は78坪で、間口約10m、奥行約25mの細長い長方形の敷地だ。

Ohouse-02-EDIT

道路側には2台分のカーポートと砕石敷きのゲスト用駐車スペースがあり、その間の中央部分にはコンクリート平板のアプローチが奥へと伸びている。

Ohouse-03

アプローチはポーチまで一直線に伸びるのではなく、庭の手前でクランク状に折れ曲がっている。それに合わせてウッドフェンスがずれながら配されているため、通りや駐車スペースから建物全体を見ることはできない。

ジグザグの角を曲がった時に、初めてフェンスの内側にある庭と総2階の建物全貌が目に飛び込んでくる。

Ohouse-05

袖壁と庇がしっかりと迫り出しており、それらが隣家からの視線や夏の強い日差しを遮る役割を果たしている。ゆったりとしたウッドデッキはカフェのテラス席のような、なんともリラックスムードに満ちた空間だ。

取材に訪れたのは11月中旬。生い茂る庭木の半分ほどは既に落葉していたが、イロハモミジがちょうど真っ赤に紅葉していた。

Ohouse-59

 

長く使える本物の素材使いに共感

「以前は2Kの木造アパートに住んでいたんですが、長男が3歳くらいになると周りの部屋の方に気を使いながら生活するのがしんどくなってきて…。それで家を建てることを考え始めました。僕は家に対してのこだわりがあまりなくて、はじめのうちは妻が展示場を回っていました」とご主人。

Ohouse-71

「とりあえずいろいろなハウスメーカーさんの展示場を見て回ったんですが、どこもいいんですよね。それぞれの会社が強みを持っているのが分かったのですが、自分に知識がないために、そこからどう選んでいいのかが分かりませんでした。そんな時に、以前からよく知っている石田伸一建築事務所の石田伸一さんに相談することにしたんです」(奥様)。

Ohouse-58

「僕たちは二人とも仕事と子育てで忙しくしている上に、明確なこだわりがない…。だから、例えば要望を細かく聞かれると打ち合わせが進まないと思っていました。一度でも家を建てたことがあるならいいですが、初めての経験ですし。そんな不安がありましたが、石田さんから最初に受けたプレゼンには明確な提案があり、安心してついていけそうだと感じましたね。

僕は洋服の販売の仕事をしていて、長く使えるものに惹かれるのですが、建物の仕上げに木材などの本物の素材を選んで使っていることにも共感しました。あと、石田さんのインスタに載っている施工事例を見て、純粋にデザインがかっこいいな…!と」(ご主人)。

Ohouse-80

そうして、株式会社石田伸一建築事務所(以下、SIA)への依頼を決め、打ち合わせを進めていったという。

家と庭を一体に設計するのがSIAの設計の特徴の一つだが、農家の家で生まれ育ったご主人も庭を重視していた。

「実家に広い庭があって、そこで子どもの頃によく親と遊んだ思い出があり、自分も子どもたちにそんな経験をさせてあげたかったんです。もちろん自分も緑に囲まれて暮らしたいと思っていましたし、四季を感じられるように紅葉する樹種を多めにしたいという希望だけ伝えて、あとはお任せしました」とご主人。

Ohouse-09

そうして雑木林のように様々な落葉樹が茂る庭が完成した。両隣には隣家が立っているが、ウッドフェンスに囲まれた庭はプライバシーが確保されており、ゆっくりとくつろぐことができる。

Ohouse-75

 

地材地建の考え方が表れた、重厚な魚沼杉の壁

O邸の玄関は建物右手。ウッドデッキまで続く斜めの庇と袖壁が雨風を遮ってくれるので、悪天候時でも慌てずに玄関前で一呼吸置くことができる。

Ohouse-10

正面の壁は魚沼杉の鎧張り。“地材地建(地元の木を使って建築すること)”を掲げるSIAが推奨している外壁材だ。芯に近い赤身部分を使い、木材防護保持剤ウッドロングエコに浸すことで腐朽菌の繁殖を抑え、板材が長持ちするようにしている。

玄関ドアを開けると、幅1間の空間が奥へと伸びる玄関ホールが現れた。

Ohouse-12

床はチークの端材を6ピース並べた300mm角のパーケットフローリング。無塗装の無骨な表情が特徴だ。左手の壁や右手の下足入れはラワン合板で仕上げられており、視界の大部分を木が占める。

玄関ホールの奥から左に曲がった場所は1坪の洗面スペース。

Ohouse-33

帰宅後スムーズに手洗いができるレイアウトで、奥にはカーテンで仕切られたサンルーム、脱衣室、浴室が一直線に並ぶ。

幅広の造作洗面台はゆとりがあり、2人で横並びで使うこともできる。

Ohouse-32

 

お気に入りの家具と庭を愉しむリビング

洗面スペースで後ろを振り返ると、そこには20畳のLDKが広がっていた。

Ohouse-25

チークのパーケットフローリングにラワンの壁と天井。窓側の壁はグレージュ色の壁紙で仕上げられており、全体的に落ち着いた色味で統一されている。

広松木工のRIPOSOソファに、アクメファニチャーのBROOKS HEXAGON TABLE、CueroのBKFチェアなど、濃い色味の家具はチークのフローリングとの相性がいい。

Ohouse-81

2.5間(4,550mm)と広めのスパンが取られているので、奥行のあるカウチソファが置かれていても窮屈な感じはしない。

「家を建てる前から置きたい家具が決まっていて、それらの家具が合う空間をご提案頂きました。内装の仕上げについては、カタログに載っている膨大な種類から選ぶのではなく、『木の割合がどれくらいがいいか?』や、『白とグレーのどちらが好みか?』という質問に答えるだけ。チークのパーケットフローリングもSIAさんのおすすめでした」(奥様)。

Ohouse-30

「仕上がりのイメージは鮮明なCGパースと動画で共有して頂きました。とても解像度が高くて、完成してみるとほとんどパースの通りでしたね。

天井には間接照明が仕込まれていますが、これは後からSIAさんが提案をしてくれた部分。進めながら、よりよいものを追求していく姿勢もうれしかったです」(ご主人)。

Ohouse-15

ダイニングテーブルはキッチンと合わせて造作されたもので、合板と金属が織り成す無骨な雰囲気に、GalvanitasのS16chairが似合っている。

Ohouse-23

部屋の中央には2連の掃き出し窓。

Ohouse-26

正面には床と同じ高さで連続するウッドデッキと落葉樹の庭が広がる。部屋の入隅部分が少し暗くなることでメリハリがつき、ソファに座れば外で眺める以上に木々の鮮やかさが際立って感じられる。

「テレビではなく庭がよく見えるようにソファを配置しました。冬が近づいてだいぶ葉っぱが落ちてしまいましたが、夏はもっと緑が茂っていて向かい側の建物もほとんど気にならないんですよ。庭木は日差しも遮ってくれるので、夏でも庭で過ごしやすいですね。ウッドデッキでごはんを食べることも多いですが、虫がいなくなる秋が特にいいですよ。ベランピングを楽しんでいます(笑)」(ご主人)。

Ohouse-66

LDKの最も奥は壁付けのキッチンとキャビネット。こちらもラワン合板が使われており、空間にしっくりと溶け込んでいる。

「Ⅱ型のキッチンは作業スペースが広く、いろいろものを置けるのがいいですね」(奥様)。

Ohouse-31

 

可変性を大事にした2階

再び玄関ホールに戻り、2階へと向かった。

Ohouse-35

鉄骨のフレームに杉の幅はぎ材を組み合わせた階段は、手摺のデザインもすっきりとして美しい。

Ohouse-38

階段を上り切った場所はトイレで、その隣には6畳の子ども部屋がある。

Ohouse-41

床は魚沼杉の無垢フローリングで、やわらかい足触りが気持ちいい。ラグやソファが置かれた子ども部屋は、セカンドリビングのような空間だ。少し高めに配された窓からの光が壁を印象的に照らしている。

この子ども部屋を取り囲むように廊下とホールがあり、突き当たりには家族みんなの寝室がある。

Ohouse-43

Ohouse-45

ゆとりあるホールは、今後デスクを置いてスタディーコーナーにする予定なのだそう。フレキシブルに使える余白のような空間だ。

Ohouse-49

このホールに沿って各3畳の収納スペースが2つ並んでおり、それらは建具ではなくカーテンで仕切られている。

そして、こちらが将来的に2室に分けて使える部屋。

今は14畳のゆったりとした空間を広い寝室として使っており、柱がある位置に壁をつくれば、6畳と8畳の2室に分けて使うことができる。

Ohouse-54

寝室の一角はワークスペース。大量の本を収納できる吊り棚や、作業性の高い幅広のデスクが造作されている。「仕事を持ち帰って、ここですることもあります」(ご主人)。

 

快適な温熱環境も整えられた心地いい暮らし

O邸の設計メンバーの一人、SIAの一級建築士・石川聖也(まさや)さんはO邸の計画についてこう説明する。

Ohouse-93

「O様の敷地は、隣家との離れが少ない住宅密集地でした。そんな中で、街中にいることを忘れられるような、緑がたくさん感じられる住まいにしたいと考え、リビングの大きな開口からお庭の緑が楽しめる設計にしました。外からの視線をカットするように魚沼杉のルーバーフェンスを設けていますが、これも新潟の木を使った『自然の一部』と捉えています。

間取りについては、1階をリビングを中心とするみんなが集まれるスペースとし、プライベート空間は全て2階にまとめています。部屋の間仕切りも将来のライフスタイルに合わせて使い方を変化できるようにしています。2階の廊下部分を1間(約180cm)の幅にしているのも特徴ですね。あえて廊下にゆとりをつくり、共用のワークスペースにするなど、使い方が限定されない空間にしています。

外装・内装の仕上げには、魚沼杉や合板などのSIAらしい素材を選んでいます。1階のフローリングはアンドウッドの遠藤さんから当時すごくいいご提案をもらいチーク無塗装のパーケットにしました。『暮らしの中で自然を感じられるように』というコンセプトにしていましたので、無機質にならないように、仕上げ材にも積極的に木を取り入れています。

断熱に関しては、壁は充填断熱で高性能グラスウール105ミリ厚、屋根は210ミリ厚。換気システムは熱交換型の第1種で、床下エアコンと相性のいい澄家エコを採用しています。冬は床下エアコンで全館暖房、夏は2階にあるエアコンで家全体を涼しくできるように計画しました」。

Ohouse-83

約3年住んでみての感想をOさん夫婦に伺った。

「すべてに満足していますが、一番は外とのつながりですね。リビングにいながら、子どもたちが庭で遊んでいる様子を見られます。それから、冬が暖かくてとても快適!アパートでは毎日石油ストーブとエアコンの両方を使っていましたが、この家は床下エアコン1台だけで家全体を暖められます。空気だけでなく床も温まるのがいいですね。冬の暖房費が2Kのアパートと変わらないことにも驚きました」とご主人。

Ohouse-85
床には床下の暖気を室内に送り込むための通気口が設けられている。

「魚沼の杉を切り出すところを見学するツアーに参加させて頂いたり、一緒につくっていることを強く感じられたのも良かったですね。庇があるデッキで過ごす時間も好きですし、下の子は機嫌が悪くなっても外に出るといい子にしていられます(笑)。庭があって本当に良かったですし、家に居たいと思うようになりました」(奥様)。

Ohouse-86

SIAが大切にしている設計思想の一つ“家と庭、一体の設計”。その概念が具現化されたO邸から見えるのは、住宅街の中とは思えない、木々に囲まれた風景だ。

外や自然とつながる根源的な心地よさがここにある。

Ohouse-28

 

O邸
新潟市中央区
延床面積115.92㎡(35.06坪)、1階57.96㎡(17.53坪)、2階57.96㎡(17.53坪)
竣工年月 2020年12月
設計 株式会社 石田伸一建築事務所(SIA Inc.) Instagram:@sia_inc0717

(写真・文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平

The following two tabs change content below.

鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。