築7年のカネタ建設“kinoieモデルハウス”。上越地域の風土になじむ普遍的な住まいを目指して

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鈴木 亮平

新潟市在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。

今回取材に訪れたのは、上越市塩屋新田にある株式会社カネタ建設のkinoie(キノイエ)モデルハウスです。

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「kinoieモデルハウス」。間口方向にゆったり伸びる「下屋(ゲヤ)」と総2階の「母屋(ベース)」の2つのボリュームで構成されている。延床面積は35.5坪。

カネタ建設は1933年にカネタ猪又製材所という名前で糸魚川市に創業。その後家づくりをはじめとする建築事業や土木事業へと領域を広げてきた会社です。

こちらのモデルハウスが完成したのは2016年6月。それから7年の年月を経た建物がどのように変化しているのか?カネタ建設が提唱する住まい“kinoie”が生まれた背景や、そこに込められた想いとは?

同社代表の猪又直登(いのまたなおと)さん、取締役 住宅事業部統括部長の伊藤正之(いとうまさゆき)さん、設計・施工管理課係長の榮妙(さかえたえ)さんのお三方に伺いました。

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左から伊藤正之さん、猪又直登さん、榮妙さん。

 

戦前に製材所として創業

鈴木 では、まずはカネタ建設さんの歴史を教えて頂けますでしょうか?

猪又さん 創業者は僕の祖父なんですが、糸魚川の中学を卒業した後に大阪の製材所に丁稚奉公に行っていたそうです。その後1932年の12月に糸魚川で300軒以上の建物が丸焼けになるという大火が起こったのを機に、故郷の糸魚川に帰省。1933年に兄弟で「カネタ猪又製材所」を立ち上げました。今年でちょうど90周年になります。

その後「カネタ猪又材木店」に名前を変え、住み込みの大工さんと共に家づくりを始めます。昭和40年代に入ると公共工事の請負を始め総合建設業となり、小さいながらも建築・土木をオールラウンドで行う会社になりました。

カネタ建設の成り立ち
カネタ猪又材木店時代の写真(写真提供:株式会社カネタ建設)

現在の売上構成比は建築事業の割合が大きく、全体の70%を占めています。住宅だけでなく、糸魚川市内のお寺や小学校の建築などに携わってきましたし、糸魚川の飲み屋の建築を手掛けた数はカネタ建設がダントツだと言われています。

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猪又直登さん/株式会社カネタ建設 代表。1971年生まれ。大学卒業後、大手玩具メーカーの営業、キャラクター版権担当を経て1999年にカネタ建設入社。2001年より同社代表取締役。糸魚川杉を利用促進する官民連携団体を立ち上げ、まちづくり活動を行っている。映像編集が趣味で同社のYouTubeルームツアー動画の撮影・編集も自ら行う。

鈴木 2016年の糸魚川の大規模火災がまだ記憶に新しいですが、1932年にも大火があったのですね。その復興のために創業者が帰省して製材所を立ち上げたのがカネタ建設さんの始まりということですね。上越店はいつオープンしましたか?

猪又さん 上越店は2006年のスタートで、ここでは住宅事業のみを行っています。それまで糸魚川という小さな市場で住宅事業をやってきましたが、地元の少子高齢化もあり、力を保つためにはもっと広いマーケットで戦う必要があると思ったことが、上越に出店を決めた理由です。それから17年が経ちました。

 

オンリーワンの家づくりから、普遍的なスタンダードへ

鈴木 それでは、ここからkinoieの話を伺えたらと思います。まずはkinoieが生まれた経緯や背景を教えて頂けますか?

猪又さん 当時「オンリーワンの住まいづくり」というタグラインを掲げ、お客様の理想の家を実現するという一般的な注文住宅のスタイルをとっていたんですよ。設計担当者もそれぞれ個性があり、お客さんとの化学反応でさまざまな家が生まれていて、それがカネタ建設の家づくりの特徴になっていました。

でも、お客さんがつくりたい家をつくって上げることが本当に正解なのか?という疑問が徐々に湧いてきて。自信を持って「カネタ建設の家はこういうものです!」と提案できるスタンダードが欲しくなってきたんです。

オンリーワンとうたいながらスタンダードのラインをつくることには葛藤がありましたが、それでもやることに決めて、ここにいる伊藤をはじめ、当時の建築のスタッフと一緒にいろいろな会社に話を聞きに行きました。

伊藤さん 2014年に大勢でオーガニックスタジオ新潟さんを訪ねました。その翌年には兵庫県のヤマヒロさんを訪問したり、各地の工務店さんに足を運びながら「カネタ建設らしさ」をどうしていくかを考えていました。

元々当社の設計はみんな個性が強い。それがいいところでもあるんですが、みんながバラバラにやっているとカネタ建設のイメージは薄くなってしまいます。設計者によってテイストが違うので、当時は「カネタ建設は個人商店の集まりだ」と揶揄されたりもしていました。

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伊藤正之さん/株式会社カネタ建設 取締役 住宅事業部統括部長。1972年生まれ。二級建築士。専門学校を卒業後、地元建設会社にUターン。2006年にカネタ建設に入社し、設計営業、現場管理を担当。現在は、統括部長として、各ブランドのマネジメントを行っている。

鈴木 以前の「オンリーワンの住まいづくり」に危機感を持ち始めたきっかけはありますか?

伊藤さん オーガニックスタジオ新潟の代表の相模さんから「これから住宅業界は二極化していくだろう。お客さんの好きな家を建てるやり方ではレッドオーシャンに入ってしまう」と聞いたのが一つのきっかけです。

たしかに上越地域の確認申請を見ると半分以上がローコストメーカーだったんですよね。しっかりと自分たちの個性を打ち出していかなければ、そっちに引っ張られて苦しい戦いになることが想像できました。

猪又さん 先程「お客さんがつくりたい家をつくることが正解か分からない」と話しましたが、その一方でこれといったこだわりを持たないお客さんもいらっしゃいました。当時の僕たちは自信を持って「うちはこういう家づくりです!」と提案できなかったので、そういうお客さんにとっては、満足度の高い家になりにくいという課題もあったんです。

伊藤さん 本当はこだわりがあるんだけど、家づくりの段階では気づいていないことも多いですね。例えば、本当は暖かい家に住みたいと思っているのに、打ち合わせ段階では「暖かい家に住みたい」とは口に出さなかったり。

だからこそ僕たちがプロとして、家づくりにおける優先順位や費用の掛け方なども含めて提案していく必要があると思うようになりました。

鈴木 「オンリーワンの家づくり」という言葉には、注文住宅の醍醐味や楽しさがありますが、そういう課題もあったんですね。お客さん主導の完全自由設計から、コンセプトに基づいた提案型へ。これは大きな変革ですね。

猪又さん たくさんの工務店さんから学びながら僕らが出した結論が、「20年30年後に見ても『この家はいつ建てたんだろう?』と思えるくらいの普遍的な家」でした。そうして2016年に生まれたのがこの「kinoie(キノイエ)」なんです。

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長く愛されてきた町家がモチーフ

鈴木 では、ここからkinoieのコンセプトについて教えて頂けますか?

伊藤さん kinoieのコンセプトは3つあります。1つ目は、飽きがこないデザイン。2つ目は、健康・安心・安全。3つ目は、全てにちょうどいいこと。それぞれについて詳しく解説させて頂きます。

1つ目の「飽きがこないデザイン」ですが、昔から愛されている家の一つが町家だと考えたんです。町家は上越にも糸魚川にも京都にもあります。そして、調べていく中で「現代町家」を提唱している建築家・趙海光(ちょううみひこ)先生に辿り着きました。

町家というと、間口が狭く奥に長い「ウナギの寝床」のイメージがありますが、よくよく話を聞くと、今のパッシブデザイン(太陽光や風などの自然エネルギーを活用し、快適な室内環境をつくり出す設計手法)のはしりのようでもあるんです。

例えば、夏の熱い空気を町家の土間で冷やしながら室内に入れたり、採光のための中庭に植栽を施して、植物に反射したやわらかい光を室内に採り込んだり、中庭に池をつくることで温度差によって起こる風を採り入れたり。快適に過ごすための工夫がいろいろ考えられているんですよ。柱と柱の間の距離が規格化されていて、コスパよく建てられるようになっているのも特長ですね。

伝統的な町家の合理的な考え方と、現代の高性能な窓や空調の仕組みを組み合わせたのが現代町家です。また、自然素材を使うことで、上越や糸魚川という地方の風景に似合う飽きのこない家ができ上がると考えました。

僕らは、建てた家が30年で空き家になって壊されるのではなく、ずっと住み続けてほしいと思っています。そして、住まい手がそういう気持ちになる家というのは「飽きがこない家」だと思うんです。

それを形にしたのがkinoieモデルハウスで、この建物は趙先生に企画・設計・監修をして頂きました。その後も趙先生にはポイントポイントでアドバイスを頂いています。

猪又さん あと、「飽きがこないこと」に加えて「地域の特性」も重視しました。分かりやすくいうと、玄関先に大根を並べた時に似合うかどうかですね。あとは、冬に除雪用のスノーダンプが立て掛けられた時に違和感がないとか。この地域で見られる生活が似合う家にしたいと思っていました。

このモデルハウスの中の広い土間スペースもまさにそういう場所です。

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大谷石で仕上げられた土間スペースは、半分外のような空間。

例えば近所のおばあちゃんが「大根持ってきたでね」といって入ってきた時に「ありがとね、ここで待っとって」といって椅子に座ってもらい、いただき物のホタルイカをおすそ分けするとか。

靴を脱いで床までは上がらないけれども、半ソトのような場所で会話ができる。それがこの地域らしい暮らしであり、それができる家をつくりたいなと。あとは軒先に柿を干した時に似合うとかですね。

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深い軒は昔ながらの日本の家を彷彿させる。軒下に柿や大根を吊っても絵になる外観。

伊藤さん 他にも夏休みに子どもさんがデッキで寝転がって絵日記を書いているとか、スイカを食べてるとか、そういうシーンを妄想しながらkinoieを考えていったんです。

気候のいい時季、ウッドデッキはリビングのように使える。(写真提供:株式会社カネタ建設)

あと、お客さんが建てたkinoieの定期点検に行った時に感じるのは、散らかっている様子も絵になるということ。

積み木が転がっていたり、プラレールが広げられていたりする様子は、ホテルライクな家では雑然として見えるかもしれませんが、kinoieでは気にならない。日々の暮らしでストレスを感じてほしくないと思っていますが、kinoieはまさにそれができる家です。

 

コンパクトでハイクオリティを目指す

鈴木 上越地域の風土になじむ現代町家。温故知新のロングライフデザインですね。コンセプト2つ目の「健康・安心・安全」についてはいかがでしょうか?

伊藤さん 室内の温熱環境や耐震性能をしっかり高めるということですね。断熱については、今現在は断熱等級6以上(上越地域が含まれる地域区分5においてはUA値0.46以下)を標準仕様としていますが、今建築中のものからはUA値0.34以下(HEAT20 G2)を標準仕様にしていきます。

猪又さん 耐震性能については耐震等級2が標準仕様です。さらに、軸組と床・壁パネルを組み合わせた「プレウォール工法」を採用していますので、従来の木造軸組工法と比べるとかなり揺れに強い工法となっています。

伊藤さん それから、壁・柱の直下率も設計で意識していることですね。

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モデルハウスの2階の柱の位置は1階と一致している。

気密については全棟気密測定を実施しており、社内基準はC値0.5以下としていますが、最近のアベレージは0.2くらいまできています。換気扇は熱交換型の第1種換気を使用しています。

鈴木 性能もどんどん上がってきているのですね!コンセプト3つ目の「全てにちょうどいいこと」。こちらはどんなことでしょうか?

猪又さん 価格や性能、快適さなどのバランスを考えながら、お客さんにとってちょうどいいところを見つけるということですね。その中で、“コンパクトでハイクオリティ”を目指すことが多いです。僕たちはよく「間取りの足し算はしません。引き算をする設計です」といっていますが、例えば、このリビングとダイニングを合わせた空間は11畳くらいしかないんですよ。

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天井の梁が現わしになっている部分が約11畳の空間。

そこで窮屈に感じないように、玄関をリビング側に取り込んで3.6畳程の土間スペースをつくっています。

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コンパクトにすることで冷暖房効率も良くなりますし、使う建材の量も工数も抑えられます。上質な仕上げの家を大きくつくるとコストが掛かりますが、うまくコンパクトにまとめれば、ちょうどいい予算でハイクオリティな住まいを実現できます。

 

ベース+下屋で構成する設計原則に基づいた建築

鈴木 では実際にkinoieを設計に落とし込む上で大事にしているのはどんなことでしょうか?

榮さん コンセプトの中でも特に私が大事にしているのは、街並みに溶け込み、風景を整える佇まいにすることです。そのために、土地を読むことを重視しています。

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榮妙さん/株式会社カネタ建設 設計・施工管理課係長。1977年生まれ、上越市出身。二級建築士。1996年にカネタ建設に入社し、設計と現場管理の両方を行う。2004年にNYへ渡り2007年に帰国。二男一女の母。現在は設計担当者として、永く住み続けられる居心地の良い住まいを提案している。

建物はデザインコードや設計原則がありますが、土地は全て違うんですね。土地が1区画隣になるだけで環境は変わります。目の前に田んぼが広がる眺望のいい土地もあれば、街なかでお隣同士がくっついている土地もあります。でも、どんな土地でもいいところは必ずありますので、それを見つけて引き出していくようにしています。

これはkinoieに限らずですが、「寝室は8畳で、LDKは18畳で…」という考え方ではなく、「この土地でこの住まい手には、この家がベストです」という提案をしたいと思っていて。畳数は数字にしかすぎませんので、畳数の話というのはあまりしません。

鈴木 たしかに空間同士のつながりや窓の配置などでも印象は変わってきますよね。ところで、kinoieの設計原則とはどういうものですか?

榮さん 「ベースと下屋で構成する」という考え方ですね。ベースは総2階部分の建物のことで、3mスパン(柱と柱の距離)の6m×6mの正方形や6m×8mの長方形の平面としています。そこに下屋(母屋から突き出した片流れ屋根がある平屋部分)を組み合わせるという設計手法です。

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kinoieモデルハウスは6m×8mのベースに、下屋を組み合わせた構成。

スケルトン(構造躯体)とインフィル(間取りや内部の仕上げ)の概念でもあるので、ボリュームを検討しながら中をどうしつらえていくかを考えていきます。

また、ベースの中はなるべくワンルームのように使いたいという想いがあり、このモデルハウスもそうですが、外周部分に耐力壁をしっかり取るようにしています。

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モデルハウスの1階は間仕切りが少なく、中心部に柱が2本あるだけの開放的なプラン。

そこで大事なのが、窓と耐力壁のちょうどいい塩梅ですね。壁ばかりにすれば真っ暗になりますし、窓ばかりにしては耐震性が不足します。そして、その土地における最適な採光や視線の抜け、風の抜けを同時に計算しながら、設計をしていきます。

伊藤さん 総2階のベースに下屋が付くことでおうちに表情がつくられるんですよ。間取りの考え方も、必要な部屋を足していくのではなく、決められたベースの中に居場所をレイアウトをしていくという考え方です。設計=間取りではない。それがkinoieの設計の特徴です。あと、このモデルハウスもそうですが、基本的には尺モジュールではなくメーターモジュールを採用しています。

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モデルハウスには下屋部分を利用した離れも設けられている。

鈴木 デコボコした不規則な形になるのではなく、きれいな矩形の総2階が基本にあるということですね。

伊藤さん あと、外に対してだけでなく、内部での視線の抜けも意識しています。間仕切り壁で完全に仕切るのではなく、天井近くを抜くようにしたり。

町家など昔の家には欄間が付いていますが、視線も抜けますし、空気も流れるんですよね。趙先生が考案した「箱パントリー」も同じ考え方です。

ちなみに僕らの場合は箱パントリーに床下エアコンを隠しています。

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基礎断熱によって床下空間を室内とみなし、床下をエアコンで暖め全館暖房をする仕組み。

この完全に仕切らない設計手法は、今ではkinoie以外の家づくりでもよく使っていますね。

鈴木 kinoieの設計の考え方は、他のシリーズの設計にも広がっているんですね。

榮さん そうですね。kinoieの考え方が他のシリーズにも影響を与えています。あとkinoieというブランドができたことで、お客様とイメージの共有がしやすくなりました。模型やパースでは伝わりにくい部分も、設計原則とデザインコードがあることで仕上がりを想像しやすくなっています。

箱パントリーが見られる「陀羅尼町の家」。(写真提供:株式会社カネタ建設)
「春日野の家」のLDK。「陀羅尼町の家」と同じ要素が見られる。(写真提供:株式会社カネタ建設)

鈴木 どの仕上げ材を使うかがデザインコードになると思いますが、どんな建材を使われていますか?

榮さん 床は基本的に杉です。壁はこのモデルハウスは漆喰で仕上げていますが、卵の殻を原料にしたエッグウォールが使われることが多いですね。

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やわらかく光を反射する漆喰壁と、経年変化で味わいを増していく杉の無垢フローリング。
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モデルハウス2階の「すのこ天井」もkinoieの特徴的なデザイン。杉板をすのこ状に張ることで表面積を増やし、調湿効果を高めている。
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造作家具には杉の幅はぎ材を使用。

 

コンパクトでもゆったり暮らせる工夫

鈴木 最近は建築費が上がってきて、家のサイズが小さくなる傾向にあります。そのあたりはどう捉えていますか?

榮さん 最近は小さい家が普通になってきていますが、だからといって誰も窮屈な暮らしはしたくないと思います。そこで、外とのつながりや明暗差、視線の抜けをつくることで、広がりをつくるようにしています。床面積などの数字では語れない広さがありますね。

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モデルハウスの和室から望む庭。明暗差によってメリハリが生まれ、視線は自ずと外へと向かっていく。

伊藤 それに、建物が小さくても、庭などの外部も自分たちの居場所に変えることができます。そのために敷地を上手に使うことを、kinoieを始める時に一層意識するようにしました。それはこの上越地域という地方ではやりやすいと思っています。山が見えて、夜は星空がよく見える。この地域の暮らしの魅力を伝えることで、ひいては上越地域にUIターンする人が増えたらいいなと思っています。

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下屋で通りからの視線を遮った庭では、外からの目を気にせずに過ごせる。

鈴木 「積極的に外を居場所にしよう」という意識がkinoieから強くなったのですね。

榮さん 上越地域は雪国ですから、元々「内に閉じる」という考え方が強かったように思います。でも、人は元来「外とつながりたい」という欲求を持っていますし、kinoieはそんな欲求に応える家になっています。

以前は「雪国だから外とつながる家はできない」という思い込みがありましたが、実はそうではなく、もっと自由でいいんだなと気付かされましたね。

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“地材地建”。地元の木で愛着が深まる住まいづくりを

鈴木 序盤でもたくさんお話を聞かせて頂きましたが、kinoieで伝えていきたい価値観とはどんなことでしょうか?

伊藤さん 繰り返しになってしまいますが、僕らがつくる家を空き家にしたくないので、「ずっと住み続けたい」と思える家を増やしていきたいですね。そのために、快適に暮らせる性能の重要性も伝えていきたいと思っています。

猪又さん あと、近年僕らが大事にしている考え方に「地材地建」があります。この地域で生まれた材料を使って家を建てようという取り組みで、具体的には糸魚川産杉を積極的に使っていこうとしています。

伊藤さん このモデルハウスを建てた2016年当時はまだ糸魚川産杉の建材の流通が十分につくれていなかったので、このモデルハウスに使っているのは外壁材くらいですが、今は幅はぎ材などの内装で使えるものが増えてきています。

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モデルハウスの外壁に使われている糸魚川産杉。細めの板が気品を感じさせる。

猪又さん 最近は糸魚川で行っている3M(緑でつなぐ未来創造会議[Midori Mirai Meeting Itoigawa])という取り組みで、糸魚川の森林資源の活用を積極的に進めていて、糸魚川産杉の建材を使用する地元工務店が増えています。

つくり手だけでなく住まい手が「やっぱり地元いいな」と思えるような家づくりをしていきたいですね。

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そして、経年美化していく自然素材と住まい手が一緒に年をとっていく。そういう価値を感じてもらえたらうれしいですね。年をとってだんだん合わなくなるのではなく、むしろどんどん合っていく。kinoieは年を追うごとに愛着が増して「”思”産価値」が増えていく家だと思っています。

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故郷に帰ってきたくなる家をつくりたい

鈴木 kinoieのコンセプトや魅力を詳しく教えて頂きありがとうございました。モデルハウスを見学されたお客様はどんな反応をされますか?

伊藤さん 事前にホームページやYouTubeなどの情報を見てから訪問される方が多く、答え合わせをするような感じで見学をされる方が多いと営業担当から聞いています。明るさや広さのイメージを実際に確認されて、「思っていたよりも広く感じる」とおっしゃる方が多いようです。

猪又さん 映像や写真では伝えられない“香り”に反応する方も多いですよ。第一声が「あ、すごく木のいい香りがする…!」とかですね。

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鈴木 実際にkinoieを建てたお客さんはどんなところに満足をされていますか?

伊藤さん kinoieに限らずですが、うちではすべての家で高断熱・高気密・第1種換気をしていますので、快適さや新鮮な空気にご満足を頂いていますね。あと、ホコリが立たないことに感動される方もいらっしゃいます。第1種換気で湿度調整もしっかりされているので、ジメジメ感がなくカビやダニの発生も抑えられているからだと思います。

猪又さん たしかに性能面に満足される方が圧倒的に多いですね。「家が暖かいので冬用の布団がいらなくなった」とか。「空気が良くてよく眠れます」とか。

伊藤さん それから「飲みに行く回数が減り、家によく居るようになった」「庭をずっと眺めて過ごすようになった」といった感想も頂きますね。

猪又さん 「kinoieを建てる方はぜひ庭に木を植えた方がいい。テレビを見なくなった」という感想も聞きます。自然とつながる生き方が好きな人が選ぶ家だと思いますが、住んだ人がまたそんな生き方をさらに好きになる家だと思います。

1年後に点検で伺うと、コンポストを置いて本格的に野菜づくりをしていたり、庭木が増えていたり、そんなふうに暮らしを楽しんでいるのを見ると僕らもうれしくなります。

榮さん お子さんと一緒に庭やデッキで雪遊びをしている写真を送ってくださるお客さんもいらっしゃいます。kinoieに住むことで雪との向き合い方が変わった方もいらっしゃると思いますよ。四季を通しての自然との向き合い方が変わってくるのかな…と。

鈴木 それまでアパートで暮らしていた方も多いと思いますが、kinoieに住むことで人生が大きく変わったという方がたくさんいそうですね!

伊藤さん 僕は家も思い出をつくる場所であって欲しいなと思っていて。水族館や遊園地に行くのもいいですが、家の庭でみんなでプールで遊んだとか、雪で遊んだとか、そういう楽しい思い出をたくさんつくってもらいたいです。

それが家に愛着を持って長く住み続けることにもつながると思いますし、そういう思い出があることで、一度東京に出ていった人が、再び故郷の上越地域に戻ってきたいと思うかもしれません。

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これは糸魚川の独特の表現だと思いますが、故郷を離れた子どものことを人に話す時「うちの息子は東京に旅に行っとるんだわ」と言うんです。東京で結婚して、マンションを買って住んでいてもそういうんですよ。いつかは帰ってきてほしいと思う親の気持ちなのでしょうね。

上越も糸魚川も人口がどんどん減っています。自然豊かで景色もよく、すごくいい場所なのにもったいないなと思っていて。だからこそ、この地域の魅力を感じられる家づくりをしていきたいんですよね。

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猪又さん 「最高の地元ライフ」というキーワードも僕たちは掲げていて、地元を誇りに思って頂きたいですし、家がそのファクターになるといいなと思っています。

それはギラギラしたカッコいい家をつくるということではなく、玄関先に柿が干してあったりとか、長靴やスキー板が置いてあったりとか、この地域らしさが絵になるような暮らしをつくるということです。それが自然とかっこいいと思える家がいいなあと。

 

7年経っても古びれない落ち着いた住まい

鈴木 この地域に暮らすことの魅力を伝え、人口減少を食い止めたいという想いや願いもkinoieに込められていたのですね…!長く愛着を持てることをコンセプトにしているkinoieですから、築7年が経過したモデルハウスは、新築時よりも伝えられることが多くありそうですね。

伊藤さん そうですね。元々古風な雰囲気を持っている建物ですから、古びれず成長しているな…と。いつ見ても落ち着いた感じがします。

猪又さん このモデルハウスは俳優に例えるなら役所広司さんみたいだなって思っていて。ダンディーで憧れる年の取り方をしていると思います。その価値を感じて頂いているお客さんからは「早く次のモデルハウスを建てて、この家を売ってくれ!」といわれています(笑)。

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榮さん 7年が経過してその時間相応に木の色などは変化しているんですけど、素敵さは変わらないですね。劣化して嫌な感じになったな…というのがありません。それを「味が出た」という言葉で片付けるのはちょっと簡単すぎるんですけど、いい言葉を見つけるのが難しいですね。

あと、kinoieはとても寛容で自然体な家です。人が人らしくいられる建物というか。「こういう人にしか向いていない」という家ではないので、ぜひたくさんの人に興味を持ってもらえたらうれしいです。

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鈴木 では最後に、kinoieの今後の展開について教えて頂けますか?

猪又さん このkinoieのベーシックさなど基本的な方向性は今後も変わりません。ただ、いよいよ次のモデルハウスを来年2024年に建てたいなと思っています。性能は今の最先端の仕様とし、これまで磨いてきた設計力を使って、より普遍的なkinoieモデルハウスにしたいと思います。

あと、いつかやりたいのが“街並み”をつくること。3~4区画くらいのミニ分譲にして、kinoieのモデル街区をつくりたいですね。

榮さん kinoieには街並みを形成するという考え方が根本にありますが、1棟では街並みをつくれません。街並みの最小単位が3~4棟になりますが、そうすることで敷地の考え方も少し変わるかもしれません。お隣さん同士の関係性や、ちょうどいい境界の分け方なども考えながらつくれたら素敵だなあと思います。

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2016年に生まれたカネタ建設のスタンダードライン「kinoie」。長く愛着を持って暮らせるように…という願いが込められていますが、コンセプトはそれだけではありません。

地域の建材を使って建て、住まう人が地域性を楽しみ、さらには上越地域に住むことの魅力を伝えていく。人口減少に歯止めが掛からない地域の課題を見つめ、家づくりで解決していきたいという、地域工務店としての強い願いや使命感が感じられます。

そのコンセプトを体感できるのが、7年の歳月を経た上越市塩屋新田にあるkinoieモデルハウスです。kinoieの魅力や込められた想いを確かめに訪れてみてはいかがでしょうか?

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取材協力/株式会社カネタ建設 猪又直登さん、伊藤正之さん、榮妙さん

取材場所/kinoieモデルハウス(上越市塩屋新田)

写真・文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平

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鈴木 亮平

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