#001 延床面積15坪。小さな住まいに流れる、心地いい時間。

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。

狭小住宅を手掛ける建築士を探して

新潟市中央区の住宅街に立つY邸は、簡素な小屋のようにも見える小さな佇まいが特徴だ。建築面積はわずか9坪で、1階と2階の床面積の合計である延床面積はたったの15坪しかないという。

「実家が昔の農家の家でとても広かったんです。でも、学生時代に一人暮らしを始めてから、小さな空間の方が使い勝手がいいことに気付きました。小さい空間は掃除も簡単ですし、自分でコントロールしやすいのがいいなと思って。なので、家を建てるなら小さい方がいいと決めていました」とご主人。

一方奥様は、「掃除が下手で部屋がいつも散らかっていた時期がありました。それが嫌でものを少しずつ減らしていったんです。家を建てるとき、ものが少ないのにスペースが広いとバランスが悪くなりますし、広ければその分光熱費も高くなると思って」。

それぞれ理由は異なるが、家は小さくて機能的であるべきという考えで一致していた。そうして住宅会社を探していったが、二人が望む狭小住宅の考え方にしっくりとくる対応をしてくれる会社が見つからずにいたという。

そんな中、「狭小住宅 新潟」というキーワード検索で上位に表示されたネイティブディメンションズ一級建築士事務所にたどり着いた。ホームページには狭小住宅についての独自の考え方がつづられ、具体的な平面図や模型写真が掲載されていたという。興味を持った二人は、ネイティブディメンションズの代表・鈴木淳氏に連絡を取り、さっそく訪問をすることに決めた。

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Y邸の平面は、間口・奥行ともに5.4mの正方形。基礎は1mもの高さがあり、内部は広い床下収納になっている。
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約2畳分の広さの玄関の土間部分は、コンクリートではなく、オークの無垢の床張り。左の障子戸を開くと居室へと繋がる。
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シューズボックスの飾り棚では、オーストリアの作家ウォルター・ボッセの熊の置き物が迎えてくれる。
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玄関のシューズボックスの前に置かれているのはキャンドルジュン氏の照明。
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玄関より居室を眺める。左がネイティブディメンションズの鈴木淳氏、右がY夫妻。

建築士の自邸計画を具現化

ホームページに載っていた図面と模型を見せてもらいながら鈴木氏から説明を受けたY夫婦は、ほぼ即決で依頼を決めたという。それに対して慌てたのは、建築士の鈴木氏の方だった。「もう少し考えてから判断してみた方が…」と促し、次の打ち合わせの際に正式に依頼を受けた。

Y夫婦が鈴木氏に望んだ設計は、ホームページに掲載されていたプランそのものだった。実はそれは鈴木氏が温めていた自邸のプランであり、試行錯誤を重ねて磨き上げたものだったという。

このプランには、「リビング●畳+ダイニング●畳+寝室●畳+子ども部屋●畳…」というような概念はない。例えば、Y邸の1階の吹き抜けを見上げるスペースには3mもの長さのテーブルが置かれているが、そこが食事をする場所であり、音楽やテレビを楽しむ場所であり、本を読む場所であり、アイロンをかける場所にもなっている。

空間の用途を場所で分けると家はどんどん大きくなっていくが、同じ場所に複数の役割を持たせれば、そもそもそれほど大きな空間が必要ない、というのが鈴木氏の考えであり、Y夫婦もその考え方に共感をしたという。

また、建築面積9坪のこの家は、建築家の故・増沢洵氏が1950年代に建てた自邸「最小限住居」へのオマージュでもある。時を経ても陳腐化しない「最小限住居」のコンセプトを引き継ぎ、鈴木氏ならではの価値観を加えたのがこのY邸のプランだ。ちなみに、先にY邸が完成したが、鈴木邸の着工も数年以内に行う予定なのだそう。

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3mもの長さを持つ特注のオーク材のテーブル。左の開口部からたっぷりと光が降り注ぎ拡散するので、曇りの日でも家中に程よく光が回る。
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部屋の隅にはドウダンツツジが生けられている。ウォールナットの床や、障子との相性もいい。
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ご主人が6年前に購入したというスイスのオーディオメーカー「PIEGA」のスピーカーが収まるようにニッチを設えた。配線は壁内に隠している。
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窓側がご主人の、その反対側が奥様の定位置。イスとベンチはカリモクで選んだもので、ダークトーンの紫色の布地が上品。
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かわいらしいウォルター・ボッセのハリネズミの小物は奥様のセレクト。
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延床面積は15坪だが、垂直方向に目線が抜けるため、ベンチに腰掛けると奥行き感が実感できる。

小さいからこそ、暮らしやすい

2014年5月に竣工し、住み始めてから2年以上が経過するが、Y夫婦は狭小住宅ならではの生活のしやすさを実感し、楽しみながら暮らしている。「キッチンのスペースがいい狭さなんです。普通の広さのキッチンでは、作業中に後ろを振り返ると少し動かなければならないですが、ここではその場から動かずに後ろの棚に手を伸ばすことができます」(奥様)。また、洗濯物は2階の寝室に面した吹き抜け部分のワイヤーで干すことができたり、スペースを無駄なく活用できる。

そして、注目すべきは広い床下収納の存在だ。この家は基礎コンクリートの高さを1mもとっているため、床下にたっぷりと荷物を収納することができる。そのため、生活空間内には極力ものを出さずに、ミニマルな空間で暮らすことができている。

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通常よりも狭いキッチンだが、それ故に作業がしやすい。
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階段から眺める1階の景色。障子戸が柔らかい光を屋内に届けてくれる。掃き出し窓の外にはウッドデッキが連続。左上に見えるワイヤーが物干しになっている。
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ドイツのガラスメーカーWECKのキャニスターはY夫婦のお気に入り。
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2階より階下を見下ろす。家全体が一つのワンルームのような設計だ。

ずっと家にいたくなるような、心地よさ

ベンジャミンムーア社のベージュカラーの塗装で仕上げられた壁や天井は、柔らかな光を放ち、穏やかな雰囲気をつくり出す。「日本人はかつては砂壁の家に住んでいました。白いビニルクロスが定番のようになっていますが、反射率を抑えた壁の方が日本人の感覚になじむのではないかと思います」(鈴木氏)。

シンプルな家の中には、エアプランツや観葉植物、雑貨などがバランスよく配されている。雑貨は奥様が選ぶことが多いそうだが、お互いにプレゼンをして承諾を得てから購入をするルールなのだとか。空間の余白を生かすことで、お気に入りの緑や小物が映え、それがまた夫婦のものへの愛着の現れでもある。

この家に住み始めて変わったことは?という質問に対して、「以前賃貸で暮らしていた時は、泊まりで温泉に行ったりもしていたんですが、出かけたいと思うことが前よりも少なくなりましたね。休みの日も、家で掃除をしたり録画していたテレビを見たり、特別なことをするわけではないのですが、そんな過ごし方が好きになりました」(ご夫婦)。

家で過ごす何気ない時間が夫婦にとって大切な時間となる。家は広い方がいいと思いがちだが、重要なのは自分たちの暮らし方にフィットしているかどうか。Y夫婦の住まいと暮らしは、家に求められるサイズを考え直すきっかけを与えてくれる。

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グリーンがあちこちに分散して配置されている。
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2階の半分はオープンスペース。ロフトへと上がる固定階段も設けられている。将来的に間仕切りを付けることもできる。
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ゆとりあるロフト。右の開口部は吹き抜けと繋がり、空気が循環できるようにしている。
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4.5畳の寝室は天井高を抑えたこもれる空間。寝室だけは床材にカーペットを選んだ。
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大きな障子戸を開くと、吹き抜けへと繋がる。南側からの日差しが差し込む場所は、洗濯物がよく乾く物干しスペース。
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寝室は小さくても、障子を開ければ広々とした空間と繋がる。
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ネイティブディメンションズ一級建築士事務所の鈴木淳氏。小さくても高い性能を備え、ゆとりを感じられる住まい「ミニストック」を提唱する。

Y邸
所在地 新潟市中央区
延床面積 52.17㎡(15.78坪)
竣工 2014年5月
設計 ネイティブディメンションズ一級建築士事務所
ネイティブディメンションズ一級建築士事務所Facebookページ

(写真・文/鈴木亮平

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。