#002 暮らしながら作り込む。終わりなき住まいづくり。

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。

フリーランスの大工が作った、こだわりの自邸

艶を抑えた水色の壁が爽やかなリビングには、北側の窓から入った風が室内を横断し、南へと通り抜けて行く。その風通しの良さから、蒸し暑い梅雨時の午後にも関わらず、エアコンなしでも家の中は思いのほか涼しい。カリフォルニアの時計ブランドNIXONのポータブルスピーカーからは心地よいBGMが流れ、まるで静かなビーチにひっそりと立つカフェかゲストハウスのような穏やかな時間が流れていた。

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デニム生地がラフな雰囲気を醸し出すソファ。先にこのソファを選んで、それに合わせて空間づくりを進めたそう。

この家に暮らすのは、個人事業主として大工業を営んでいる山崎洋一さん(CHOCOLATE LIFE)と妻の代美子さん。2級建築士資格を持つ洋一さんは、設計から施工までを一人で一貫して行えるのが強みだ。山崎邸はそんな洋一さんが自ら設計・施工をした家。2015年の2月に上棟し、その後内部の大工工事は独力で進めていった。

塗装は塗装工の友人の力を借りながらも、できるところは夫婦でDIYで行ったそうで、キッチンのタイルに至っては、専門の職人の力を借りずに夫婦で行ったという。じっくりと時間を掛けながら作り込み、同年12月にこの家での暮らしがスタートした。

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ロフトから見渡すリビングは、勾配天井で広がりが感じられる。北側と東側から穏やかな光が注ぐ。
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そのままお店を営業できそうなキッチン&ダイニング。写真左上の窓は、風通しを良くするために設けている。

完成後もカスタマイズを続ける

暮らし始めて7カ月が経過するが、「まだ完成していないところがたくさんあります。今も1階の事務所を作り込んでいるところですし、きっとこの家づくりに終わりはないと思いますよ」と笑う洋一さん。山崎邸の1階は作業場と事務所になっていて、階段を上がった2階が居住スペースになっている。

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建物左のシャッターの中が作業場、中央の白い扉の中が事務所、右の扉を開くと2階へと続く階段が伸びる。
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ゆったりとしたテラスは縁側のような空間。取材時にも近所のおばあちゃんが立ち寄ったりと、和やかなコミュニケーションが育まれていた。
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きれいに整頓された作業場内。この時は、端材を使ってポスターフレームを制作しているところだった。
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白やグレーのペンキを塗り重ねてサンダーを掛けることで、ビンテージ感のあるポスターフレームが出来上がる。

事務所が完成したら、リビングのロフト部分に置いている事務機器を動かしてロフトを別の用途に使ったり、薪ストーブの薪を保管するための小屋を作ったり、寝室の収納スペースを造作したり…と、今後のカスタマイズの予定が山積みになっている。

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同規格の収納ケースを並べたシンプルな寝室。収納ケースがある場所には今後カウンターを造作する予定なのだそう。
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南側に位置する洗面室は物干しスペースも兼ねている。リビングからの風が抜けるように上部には小窓を設けた。棚や鏡は住んでから取り付けたもの。

そして、大工である洋一さんにとって自宅は実験場でもある。なかなかお客さんの家では試せないことも、自宅のカスタムでできるので、好きなことと実益とを両得できている。例えば、キッチンの前と後ろのカウンターの無垢材はビンテージ加工が施されているが、それぞれ加工の仕方を変えていたりする。また、事務所の壁面には、厚みも長さも不規則な板を張っているが、こちらも実験の一つなのだとか。「材木店さんに板を注文する時に、独特の加工を依頼することが多いんですが、空間が完成するまで理解されないので、戸惑われることがよくあります」と洋一さんは笑う。

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1階の事務所は完成形へと近づきつつある。
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事務所の壁面に張られた無垢の端材。

そして、SPF(ツーバイフォー材などに使われる針葉樹の木材)などの安価な材料でも、味わい深く愛着の湧くものへと加工するのは洋一さんの得意技だ。

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SPF材で作ったカウンター。独特のダメージ加工とビンテージ感ある塗装がいい雰囲気を演出。

土地選びから薪ストーブまで、豊かな暮らしを追求

リラックスした雰囲気で満たされている山崎邸だが、それを実現するのに実に丁寧な作業を繰り返している。例えば土地選び。「土地が何よりも重要」と話す洋一さんは、隣家が迫っていないゆとりある土地をいくつか検討していた。それを代美子さんに見てもらっていたが、少し雰囲気が暗く感じたりと、代美子さんが嫌がる土地も多かったという。土地選びでは代美子さんの直感も大事にされていた。唯一、代美子さんが違和感を感じなかった土地を選び、購入を決めたのだという。

新潟市西区の利便性の高い場所でありながら、西川のそばにある土地は、車の往来が少ない上に、正面には消防署の訓練場が広がっている。2階のリビングから、目線は遠くまで伸びるので、住宅密集地のように隣家に対して気を遣う必要がない。二人のお気に入りの場所はキッチン前のカウンター席だ。そこに腰かけると、そよ風を感じながら眺めのいい景色を楽しめる。

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カウンターに合わせて高めのスツールを配置。足元の腰壁には外壁に使ったガルバリウム鋼板を張ってラフな雰囲気に。

また、住み始めてから薪ストーブを導入した。購入したのはベルギーのDovre(ドブレ)社のヴィンテージ50。正面の大きなガラス窓が特徴だ。機能を追求するなら、ガラス部分は小さいほうがマイルドな温かさになって良いそうだが、炎がよく見えるのが気に入っているそう。「ただ、ガラスに近づくとものすごく熱いです」と代美子さんは笑う。

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薪ストーブのおかげで、冬は暑すぎるくらいに暖まるそう。薪ストーブの後ろの壁は塗装工の友人につくってもらったという、ALC(軽量コンクリート)をベースにモルタル造形を施したもの。

家づくりで大事にしていることをうかがうと、「最近はゼロエネルギー住宅など性能の話が第一に上がってくることが多くなってきました。もちろんそれも大切なことですけど、それだけでなく、家で朝起きたとき気持ちがいいとか、そういう感覚的なことも大事にしたいと思っています」(洋一さん)。

それ故に、風がうまく抜けるような計画や、プライバシーを保ちながら開放感を得られる窓の配置などがきめ細かく考えられている。また、一般的にリビングは南向きがいいとされているが、山崎邸は北向きでも十分な明るさと眺望、そして快適さを獲得できている。むしろ北向きだから、窓から見える景色が順光で鮮やかに見えるし、夏は涼しく過ごすことができる。それに、冬場は薪ストーブで空間全体を暖められるので日射取得にこだわる必要もない。

「そういえば、休日に家でゆっくり過ごすことが多くなりました」と洋一さん。代美子さんも家で過ごす時間が大好きだという。たしかに、カウンターに腰を掛けていると、なんとなく過ぎて行く時間に身を任せたくなる、そんな気持ちにさせてくれる家だ。

最近はあまり行けていないそうだが、洋一さんは長いことサーフィンを楽しんできた。代美子さんもかつてサーフショップで働いていたことがあるという。自然の中で緩やかな時間を楽しむ感覚は、自ずと土地選びや家づくりにも作用している。そんな、価値観がごく自然に暮らし方に現れているのを山崎夫婦と住まいから感じることができた。

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住居部分がある2階から階段を見下ろす。
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玄関扉の色味やドアノブなどの細部にまでこだわった。午後になるとブラインドがきれいな陰影をつくり出す。
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トイレのドアは、海外のおしゃれなゲストハウスにありそうなサインが付いている。
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洋一さん自作のポスターフレームがリビングに溶け込んでいる。

山崎邸
所在地 新潟市西区
竣工 2015年12月
設計・施工 CHOCOLATE LIFE(チョコレートライフ) 

(写真・文/鈴木亮平

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。