#012 通り土間がつくり出す“ゆとり”のある住まい

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。

雁木のような軒が美しい外観

今回訪問したのは、柏崎市柳橋町の設計事務所“まんなみ設計室”の代表・堀井博さんの自宅兼事務所。こちらの建物はかつて堀井さん家族が住んでいた旧居を解体して、2016年12月に建て替えを終えたのだという。

「実は数年前に古い家を解体して、しばらく空き地にしていたんですが、ようやく2016年の年末に新しい家が完成しました(笑)。前の家は築50年ほどの古い家で、断熱材が入っていない上に、家の中に風が吹き込んでくる寒い家でした。結婚してからしばらく住んでいましたが、耐えられなくなり、衝動的に解体をしたんです。その後3年程は隣の実家に家族で住まわせてもらっていました(笑)」と堀井さん。

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堀井邸の東側ファサード。左に見える水色の建物は堀井さんのご実家。

角地に立つ堀井邸は、北側と東側が通りに面しており、南側には実家、西側には隣家が立っている。東側から見るファサードは水平方向に伸びる安定感のあるフォルムが特徴的だ。建物と通りの間には以前から植えられていた庭木が建物を目隠ししている。

通りに向かって雁木のように軒が伸び、その先には木のフレームだけが突き出している。それはパーゴラのように庭木と融合して、建物の印象を柔らかくし、優しい景観をつくり出すのにも役立っている。

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土地のコーナー部分は、車を頭から入れて駐車し、出るときはそのままドライブスルーのようにまっすぐ出られる設計だ。

ざっと外観を見渡しただけで、細やかな計画がされていることが分かるが、その佇まいは余計な要素を削ぎ落としたシンプルなデザインとなっている。

アプローチに足を踏み込むと、板張りの壁には「Yanagihashi 8-15 HORII まんなみarc」の文字が浮き出ている。この板張りの壁が入口へと誘う役割を果たしている。

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“通り土間”という中間領域がある住まい

最初に現れる引き戸を開けた先は風除室。海風が強い柏崎では、風除室が重要な役割を担う。さらに奥の引き戸を開くと玄関に辿り着く。

しかし、そこは一般的な住宅からイメージされる玄関とは全く異なり、奥へと伸びていくタイル張りの広い土間の空間が広がっていた。

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土間にはたくさんの植物が並べられ、ペレットストーブやソファーが置かれており、リビングのような居心地のいい場所になっている。

天井の一部が天窓になっているので、そこからたっぷりと光が注ぎ、外観から想像した以上に明るい。

「私が生まれたのは農家の家で、そこには大きな土間がありました。その土間は冬場の作業スペースになったり、家の中でありながらいろんなことができる空間でした。新潟では天候が悪い冬は家に籠もりがちになりますが、土足で使える土間があれば過ごし方のバリエーションが広がると思うんです。家は楽しく暮らすための仕掛けがあることが重要だと考えていますが、この家においては、中間領域である“土間”という外のような内のような曖昧な空間がその『仕掛け』となっています。今は冬なので母が育てている植物であふれていますが、温かい時期は趣味の自転車を置いたりしています」と堀井さん。

土間の奥は仏間になっているが、実は竣工時はそこも土間続きで、玄関から入って土足のまま土間を通り、奥の掃き出し窓からそのまま外へと出られるつくりになっていた。

「仏間の床は仮のものなので、将来的にはまた土間に戻すことも考えています」と堀井さん。

この家が完成し、今は堀井さん・奥様・息子さん・お母様の家族4人で暮らしているが、南側には実家の建物が残っている。いずれはその実家を解体し、通り土間と実家の敷地をうまく繋げる予定なのだそうだ。

 

LDKという概念はなし。ダイニングテーブルが住まいの中心

土間の隣には大きな吹き抜けのあるダイニング。大きな窓からたっぷりと光が注ぐ明るい空間だ。

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このダイニングが堀井邸の中心になっているが、いわゆるリビングスペースはない。

「『LDK』という考え方がしっくりとこなくて、私の家ではダイニングテーブルがリビングテーブルを兼ねているんです」(堀井さん)。

たしかにリビングとダイニングを分けることによって家具などの数は倍に増えてしまうし、家によってはリビング用とダイニング用にテレビを2つ設けるケースもある。空間が細切れになってしまう点に注目するとLDKという考え方のデメリットが見えてくる。

堀井邸の場合は食事をするダイニングが住まいの中心であり、その隣には土間が配されている。

土間にいる時、ダイニングの床はちょうどいい腰掛けになるし、土間のソファーでくつろぐこともできる。あえて固定概念化した「リビング」をつくる必要がないとも言える。

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床は地元産の杉材。壁や天井は漆喰塗りで、どこに触れても素材の質感が心地よい。

そう考えると、堀井邸に限らず、必ずしもリビングというスペースは必要ではないし、逆に過ごし方の自由度を狭めてしまう可能性もある。

大きなダイニングテーブルは家族4人でゆったりと使える広さがあり、食事時以外にもさまざまな用途の作業台として使える。

「ダイニングテーブル=食事をする場所」と考えてしまうと、その機能は限定的になってしまうが、一度その考えから離れるとダイニングという空間は家族がさまざまな活動を行う場所に変わる。

これだけの広さのテーブルなら、家族4人が全く別々のことをしていても、特に気兼ねをすることもなさそうだ。

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ダイニングテーブルに腰掛ける堀井さんと奥様。

 

温かみのある木製の造作キッチン

ダイニングの奥にキッチンがあるが、高めに造られた収納棚兼カウンターが程よく目隠しをしている。

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杉の無垢フローリングは水回りを除いて無塗装を基本としている。

さらに、カウンターの上に並べられたグリーンが潤いのある空間を演出。

DSC_8145造作のキッチンカウンターは、ヒバの無垢材が優しい雰囲気を醸し出している。

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ステンレスなどの水に強い素材と異なり、木製の天板は濡れたままにしておけないというデメリットがあるが、無垢材ならではの温かい風合いが自然素材をふんだんに使った空間に溶け込んでいる。

また、この家は洗面室などの一部の空間を除き、天井に照明を付けないことが徹底されているが、キッチンの照明も壁付けだ。真上からの光とは異なり、壁付けの照明は控えめに空間を照らす。照明器具のない天井はすっきりとしていて、漆喰の良さがより強く感じられる。

自然光に照らされた雰囲気もいいが、日が落ちてくると暖色の優しい光があちこちから漏れ出し、それによって作られる陰影がまた穏やかな雰囲気をつくり出す。

キッチンの奥は水回りになっており、洗面脱衣室には建具は付けずにカーテンを間仕切りとして使っている。

四角い実験用シンクを使って造作した洗面台があり、その隣には堀井さんが1×6材で作った棚が置かれている。ドライヤーを掛ける金具が取り付けられていたりと、使いやすいようにカスタマイズされている。

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仕事場と個室がある2階

次に階段を上がって2階へ行ってみた。7.5畳分の吹き抜けを囲むように廊下とホールがあり、廊下には手摺を兼ねたスチールパイプと杉板を組み合わせたオリジナルの家具が造り付けられている。

これは物干し用のハンガーパイプになり、板はたたんだ服を置いたり、床に座って吹き抜けに足を投げ出せば机にもなるという、空間と一体化したユニークな家具だ。

奥のホールは堀井さんの仕事場になっており、さらに奥には寝室がある。息子さんの部屋は寝室と逆サイドに設けられている。

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壁一面の本棚には堀井さんの仕事関係の資料や道具が詰め込まれている。

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デスクに向かうと、ちょうど吹き抜けが見下ろせる。天井にはモビールが吊り下げられており、1階と2階の間を空気が対流する様子がモビールの動きで確認できるのだそう。

DSC_8173奥の寝室は吹き抜けのある空間とは対照的な籠もり感のある部屋。壁と天井が漆喰塗りになっているため、洞窟の中にいるかのような安らいだ気持ちになれそうだ。

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これまで数多くの住宅設計を手掛けてきた堀井さんの感性と技術を用い、家族が目指す暮らし方を具現化した結果、既成概念に縛られないユニークな住まいが完成した。

そして、この家全体に漂っているのは程よく気の抜けた空気感だ。細やかな設計がされていながらも、神経質さは感じられない。

例えば、階段の踏み板は安定した強度が保証された集成材が使われることが一般的だが、その理由は床鳴りのリスクを抑えることにある。しかし、「木の階段なので、少しくらい床鳴りがしたって別にいいじゃないか」というのが堀井さんの考え方だ。だから極力新建材を使わず、無垢材や自然素材をふんだんに使う。

「経年変化して味わい深くなっていく材料を使い、家が自分たちと一緒に年をとっていくのが理想ですね」(堀井さん)。

 

設計だけでなく施工にも挑戦

現在52歳になる堀井さんが独立して設計事務所を始めたのは2016年のこと。

長く勤めていた住宅会社を辞めることにしたのは、2011年の東日本大震災がきっかけだったという。

「建築士という仕事柄、被災地の建物がどのようになっているのか興味があり何度か見て回ったんですが、そこで受けた衝撃がとても大きくて。人生はいつ何が起こるか分からないと感じました。と同時に、悔いのない人生を送らなければいけないと真剣に思うようになりました」(堀井さん)。

それまでは建築士として設計をすることが仕事だったが、自分でも施工ができるようになりたいと、セルフビルドのワークショップに参加するようになったという。

そして、自宅兼事務所の建築では堀井さん自身も積極的に施工に参加をした。基礎工事や土台敷き、外壁の板張りや内装の床張りなど、さまざまな工事の工程を棟梁の指導を受けながら、時にはワークショップ形式で参加者を集めて進めていったという。

自らも施工に関わり、家をつくり上げること。

それは、建築段階から家との関係を深めることに繋がる。

家はただ住むための箱でなければ、買い物かごに入れるような商品でもない。堀井さんは設計や素材選びはもちろんのこと、家をつくるプロセスの重要性も伝えていこうとしている。

 

まんなみ設計室 事務所兼自邸
柏崎市柳橋町
延床面積 136.35㎡(41.24坪)
竣工年月 2016年12月
設計 まんなみ設計室(Faceboookページ

(写真・文/鈴木亮平

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。