#013 延床面積23坪。Wさん夫婦が小さな家を建てた3つの理由

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。

「4人家族で延床面積30~34坪」。新築を考え始めて色々な住宅会社の間取りを見ているうちに、「なんとなくこれくらいの広さが必要」と思うようになる人が多いかもしれない。

18畳のLDKに和室が隣接していて、6畳の子ども部屋が2つあって、8畳の主寝室の隣には3畳分のウォークインクローゼット…。

そこに洗面脱衣室、浴室、トイレ、玄関、シューズクローク、納戸、書斎、家事室…と足していくと、「やはり30~34坪は必要だ」という話になってしまう。

でも本当にLDKは18畳も必要なのか?そもそも「LDK」が必要なのか?子ども部屋は6畳も必要なのか…?

今回取材に訪れたWさん家族の家は、3人家族で延床面積23坪というコンパクトな住まいだ。

ちなみに子ども部屋は2部屋とってあり、4人家族の想定でつくられている。

どのようにしてこのようなコンパクトな家ができあがったのか?その背景から詳しく見ていこう。

 

小さな家を建てた1つ目の理由「広いことがデメリットになる」

家を建てようという話になった時、奥様ははじめから狭小住宅がいいと考えていた。

「私の実家は店舗兼住宅なんですが、100坪くらいの広さがありました。それだけの広さがあると掃除も大変でしたし、夏暑くて冬寒い家だったから、結局家族みんな冷房や暖房が利いている8畳弱の部屋に集まって過ごしていたんです(笑)」。

広いと持て余してしまうし、意外と家の中で家族が過ごす場所は限定的なもの。だったら最初から小さい家を建てよう、というのが奥様が経験から導き出した答えだった。

 

小さな家を建てた2つ目の理由「狭いと家族の距離が縮まる」

ご主人ははじめから狭小住宅に興味を持っていたわけではないが、子ども時代にずっとお姉さんと同じ部屋で過ごしていた経験があった。

「中学生くらいの時に別々の部屋を用意してもらったんですが、それでも姉と同じ部屋で過ごすことが多かったですね。大人になった今でも姉と仲良くしているんですが、その理由として、子ども時代に一緒の部屋で過ごす時間が長かったというのがあると思います」(ご主人)。

そのような実体験から、ご主人は個室がしっかり広くある必要はないと考えていた。

 

小さな家を建てた3つ目の理由「食事の場を中心にしたい」

ご主人は両親が商売をやっていた関係で、子どもの頃に両親と一緒に夕食を食べることが少なかったという。

夕方になるとお姉さんと一緒におばあちゃんの家に行き、そこで食事をするのが日常だった。

「一方、妻の実家では家族全員が集まって夕食をとり、食べた後もみんながずっとその場で過ごすんです。それぞれが個室にいるのではなく、同じ場所で過ごす感じがいいなと思いました」(ご主人)。

そして、食べることが好きなWさん夫婦は食事の時間をとても大切にしているという。

「旅行に出掛けると、お昼を食べながら夜は何を食べようか?なんて話をいつもしていますね(笑)」。

だから、2人が家を建てる計画をした時には、家の中心は食事をする場であり、リビング・ダイニングという発想自体がなかった。

そうして、必然的に家づくりは「小さな家」をテーマに進んでいくことになった。

 

狭小住宅を手掛ける建築士との出会い

新潟で小さな家を建てる建築士を探していたところ、「狭小住宅 新潟」というキーワードで辿り着いたのが、ネイティブディメンションズ一級建築士事務所だったという。

(ネイティブディメンションズ一級建築士事務所の手掛けた事例はこちらでも掲載→「#001 延床面積15坪。小さな住まいに流れる、心地いい時間。」)

新潟市内のカフェで代表の鈴木淳さんに初めて会って話をし、その後、完成見学会に夫婦で足を運んだのだそう。

「その家は二世帯住宅で25~26坪でした。冬に見に行ったんですが、家の中の全ての戸が開放されていて、どの部屋にいても暖かかったのが印象的でした」(奥様)。

「それから、基礎が100cmもあって床下に広い収納スペースがあるのも魅力でした。空間の一つ一つにこだわりがあり、限られた空間で家全体を上手に使っているように感じられました」(ご主人)。

実際に完成した家を体感することでイメージが具体化され、Wさんご夫婦は新築の依頼を決めた。

 

フロア全体に目が届く2階リビング

Wさん夫婦が購入した土地は、三条市中心部の住宅街の中。

「整い過ぎている新しい分譲地よりも、昔から人が住んでいる場所の方が自分たちには合っていると思って土地を選びました。不動産屋さんがこの地域のことをよく知っていて色々と教えてもらえたので安心感もありましたね」。

住宅が密集する地域ということで、光を採り入れやすい2階にリビングを配し、1階には寝室と収納・水廻りを配した。

2階の床面積は約37㎡(約11坪)。その中にキッチン・リビング兼ダイニング・子ども部屋2室が並ぶ。

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階段を登りきると、リビング兼ダイニングの小上がりスペースが。生まれてもうすぐ2カ月になる赤ちゃんの寝顔を眺めるご主人。
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2階の中央にあるリビング兼ダイニング。

面積の小ささを補うように高天井にして開放感を生み出している2階。

壁はアースカラーの塗料で仕上げられており、光を優しく穏やかに反射する。

中央には鉄脚とタモの天板を組み合わせた長さ2.4mのダイニングテーブルがあり、ここがW邸の中心だ。

リビングとダイニングが別々にあるのではなく、両方の機能がここに集約されているので、自ずと家のサイズが抑えられる。コンパクトだが、小上がりでごろりと横になることもできる。

小上がりの後ろには仏壇と神棚のスペースがとられている。また、キッチンとの間には作業台が設けられ、程よくキッチンを隔てるなど、細部までよく考えられた合理的な設計になっている。

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小上がりに面した南側の窓を開けると4畳もの広さがあるベランダに繋がる。

「私たちはバーベキューと言えば七輪なんですが、ここで肉やサンマを焼きたいと思っています(笑)。アヒージョや燻製もできますし、七輪はけっこう便利なんですよ」(ご主人)。

 

キッチンは長さ4.4m。空間と一体化した造作キッチン

次にお隣のキッチンへと足を運んでみると、そこには空間の端から端まで余すことなく使った大きな壁付けキッチンが。

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天板はベルギー製の左官材料「モールテックス」で仕上げられ、収納やパネルには床と同じオーク材が使われている。

壁のタイルはモールテックスと同様にグレーで統一され、シックさを感じさせる。

「私たちは2人とも食べることが好きですし、妻は料理が好きなので、キッチンは作業をしやすいように広めにしてもらいました」とご主人。

冷蔵庫やオーブンなどの家電をリビング側からは見えない位置にレイアウトするなど、見た目の美しさにも配慮されている。

また、キッチンの一角はデスクを兼ねており、パソコンを使う作業を集中して行うのにも重宝する。

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実家が刃物の卸売業をしているという奥様。本格的な菜切り包丁が。
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2人で並ぶのはもちろん、数人が集まっても作業がしやすいキッチン。手前の作業台は配膳などに活躍する。

 

3畳×2間の子ども部屋が隣接

リビングの隣には将来的に2間に仕切って使える子ども部屋がある。

子ども部屋を小さくしているのは、家族がダイニングテーブルに集まっていろいろな時間を過ごせるようにしたいという考えからだ。

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2つの部屋の間には秋田杉が使われているが、お子さんの身長をここに記せるようにと柔らかい杉材が選ばれた。

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例えば、ダイニングテーブルを勉強デスクとして使えば、子ども部屋は広くする必要がなくなる。

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子ども部屋から眺める2階全景。

 

機能と素材を重視した1階

食事をする場所を中心とした暮らしのイメージを具現化した2階。

一方の1階は寝室や収納・水廻りなど、機能的な役割の空間が詰め込まれている。

まず玄関の引き戸を開けると土間が現れるが、そこから階段が伸びているのがW邸の特徴の一つ。それは一般的な住宅よりもかなり高い100cmの基礎によるものだ。

基礎を高くすることで、床下に収納スペースをしっかり確保できたり、白アリ対策になったりというメリットがある。

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玄関内の収納スペースは簾戸(すど)で仕切られている。
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階段を上った先にはダミーの小さな小窓が。建築士の鈴木淳さんの遊び心が現れている。
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小窓の前で迎えてくれる狸の置き物。W邸にはいろいろなところに動物の置き物が配されている。

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階段を上がるとドアが現れるが、ドアの内側が断熱されたゾーン。

玄関は断熱されていないので、冬場に野菜を保存しておくという使い方もできる。高い断熱性能を持つこの家において、温熱という視点で見るとここは外のような空間だ。

家の中に入ると最初に現れるのが洗面スペース。こちらもキッチンと同様にモールテックス仕上げとなっている。

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その隣にあるトイレは、フロートタイプですっきりとしたデザイン。

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奥へと伸びる廊下は畳廊下。以前Wさん夫婦が泊まった新潟県南魚沼市の旅館「里山十帖」を参考にしたのだそう。

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左が寝室、右が階段、奥には浴室と洗濯室がある。

寝室は4.5畳で必要以上に広くもなく狭くもない、ちょうどいい大きさ。建具は障子が使われ、旅館のような趣を感じさせる。

DSC_9511DSC_9515 奥にある浴室の手前は、洗濯室兼クローゼット。

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ここで洗濯・物干し・収納の全てが完結する合理的な設計だ。床下エアコンによる全館空調が採用されているため、濡れた洗濯物を干しても湿気が籠もることがない。

階段下には床下へと降りる入口がある。床下は100cmという高さを生かして、たくさんの物を収納できるスペースだ。

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さらに、階段にも細やかな工夫が施されている。

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蹴込みの一部が正方形に切り欠かれているが、これは空気の循環をよくするためのもの。夜になると裏側に設けられた照明の光が漏れ、フットライトの役割も果たす。

小さいながらも細部まで考え抜かれた設計がなされているが、これがネイティブディメンションズの鈴木淳さんの設計の特徴だ。

「Wさんの好きなこと・実現したいことがしっかりあり、私が提案したいことがあり、ちょうど5:5の割合でミックスして完成しました」と鈴木淳さん。

 

「小さな家」で繋がる緩やかな交流

「実はこれまで鈴木さんに依頼して家を建てた施主OBさんたちと繋がりができて、実際に家を見せていただき参考にさせてもらった部分も多いんですよ」とご夫婦。

同じ狭小住宅に関心がある施主同士だから、家に対する考え方が似ている。そのため、施主同士が自発的に緩やかな交流をするようになったという。

「家を建てた後もネイティブディメンションズさんのブログを見ている人が多くて、私たちは『NDブログ』と呼んでいるんですが、ブログの話で盛り上がりますね(笑)」(ご主人)。

狭小住宅はニッチなジャンルではあるが、そこにはそれを選ぶ合理的な理由がある。Wさん夫婦をはじめ小さな家を建てた施主さんたちは、決してストイックになって小さな家を建てた訳ではない。それが家族にとってのジャストなサイズだったからだ。

誰にとっても小さな家が合っているわけではないが、小さな家で満足に暮らすリアルな話は、家の固定概念を心地よく崩してくれそうだ。

W邸
所在地 三条市
延床面積 76.26㎡(23.07坪)
1階 39.00㎡(11.80坪) 2階37.26㎡(11.27坪)
竣工 2018年8月
設計 ネイティブディメンションズ一級建築士事務所
ネイティブディメンションズブログ

(写真・文/鈴木亮平

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鈴木 亮平

新潟県聖籠町在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。