【インタビュー】グッドデザイン賞2018受賞モデルハウスを設計。K.DESIGN HOUSE・桐生和典さん

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鈴木 亮平

新潟市在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。

モノトーンを基調とし、装飾を削ぎ落したシンプルなデザインの住宅を手掛けるK.DESIGN HOUSE(新潟市中央区美咲町)。株式会社桐生建設(本社:胎内市)の住宅ブランドで、常務取締役の桐生和典さんが2006年に起ち上げました。

札幌の設計事務所で修業を積んだ桐生さんが、それまで和風住宅を中心に手掛けていた家業の桐生建設に入り、新しいコンセプトを打ち出して家づくりをスタート。

2017年に完成したモデルハウス(新潟市中央区親松)は、木造住宅でありながら鉄筋コンクリート造のようなモダンさを感じさせるデザインが評価され、2018年にグッドデザイン賞を受賞しました。

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K.DESIGN HOUSEモデルハウス(新潟市中央区親松)(画像提供:K.DESIGN HOUSE)

独自性の高いモダンデザイン住宅に共感するファンが増え、施主さんの紹介を中心に途切れることなく受注が続いています。

今回、モデルハウスで桐生和典さんに家づくりの考え方を伺いました。

 

K.DESIGN HOUSE 株式会社 桐生建設
常務取締役 一級建築士 桐生和典さん

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1976年生まれ。胎内市出身。大学を卒業後、札幌市内の設計事務所、デザイン事務所を経て、株式会社桐生建設に入社。2006年にK.DESIGN HOUSEを起ち上げる。

 

桐生さんがシンプルさにこだわる理由

鈴木:では最初に桐生さんが家づくりにおいて大事にしている考え方を教えていただけますか?

桐生:元々桐生建設は和風住宅を多く手掛ける工務店でした。最近になり、耐震性能や断熱性能が注目されるようになってきましたが、そのあたりの性能が高いのは当たり前で、じゃあ何が特徴になるんだろう?と考えていました。

その中で、木造住宅でありながらも設計の仕方で新しい表現ができるのではないかと考えるようになりました。

それで、13年前にK.DESIGN HOUSEを起ち上げた時に、「シンプルに設計やコーディネートをしていこう」と決めて、それをずっと続けています。素材の種類を少なくすればコストを抑えられるし、吟味していい素材を選べば時を経ても古さを感じさせないものになると考えています。

住宅は30年、40年と住んでいくものですので、建築時の流行に合わせてつくるとどうしても時代遅れになってしまいますから、ずっと愛着を持って頂くためにもシンプルであることがいいと考えています。

それに、長く住んでいく中で家族構成やライフスタイルは変わっていきます。造り込み過ぎると、柔軟に使えなくなってしまうので、そういう点でもシンプルな設計がいいなと。そして、シンプルな形は耐震性や断熱性を高めやすいという利点もあります。

あとは、デザインを大事にしながらも、使いやすさや家事動線をおろそかにしないようにしていますね。そこに住むご家族に優しい家を提供したいと考えています。

 

外を眺めながら、季節感を味わえる家を

桐生:外との関わり方を重視しているのもうちの特徴です。

「風通しが良くて明るい家」をみなさん希望されますが、日当たりがいい南向きの土地を買って家を建てたのに、道路から家の中が丸見えになるのでカーテンを閉め切った生活になったり、せっかくウッドデッキをつくったのにそこでバーベキューができなかったり…ということが実際にあります。

そうならないように、住宅街でもプライバシーが守られて、積極的に使いたくなるような庭を提案しています。それに、小さな家の場合でも、外との関係を上手につくれれば開放的で気持ちのいい空間にできますので。

鈴木:このモデルハウスも、掃き出し窓の外をコンクリートの壁で囲っているので、外の目を全く気にしなくていいですね。

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桐生:お客さんが求めることによって提案は少しずつ違ってきますが、共通して言えるのは、人が気持ちいいと感じられる家をつくりたいということですね。その一つに、外を眺めながら季節感を味わってほしいというのがあります。このモデルハウスの場合は、ダイニングでごはんを食べていても、外で食事をしているような感覚が味わえるんですよ。

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鈴木:冬に暖かい家の中に居ながら外にいるような気持ちよさを味わえるのは贅沢ですね。

桐生:先日お引き渡しをしたお客さんの家も中庭があるんですけど、この前雪が降って真っ白になった中庭の景色をリビングから眺められて、それが幻想的ですごく素敵でしたとおっしゃっていました。

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リビングから中庭を望める新潟市I邸。(画像提供:K.DESIGN HOUSE)

鈴木:素敵ですね。プライバシーが守られている庭だからこそ、自分たちだけの世界が楽しめるんでしょうね。ここのタイル張りの庭は、以前夏に来たときは風に揺れる樹影がきれいでしたが、冬は枯山水のような趣があって、季節ごとの違いが楽しめますね。

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桐生:せっかく建てる家なので、施主さんが楽しく暮らせる仕掛けがあるといいなとも思っていて。中庭があると、「バーベキューしようかな」「テント張ってみようかな」とか、どんどんお客さんの方でも楽しいイメージを広げてくれるんですよね。

耐震性能や断熱性能は数値化できますが、中庭には数値化できない魅力があります

 

モノトーンの色使いの原点は、桐生さんの故郷・胎内市の雪景色

鈴木:ところで、桐生さんが手掛ける住宅はモノトーンが多いですが、そのこだわりについて教えていただけますか?

桐生:自分が「白」が好きなんですが、それは光の反射がきれいだったり、広く感じたりするからです。そして、優しい空気感をつくりたいというのがあるんですが、コントラストが強いと優しい感じにならないなと思っています。

そうすると、白をベースにした時に相性がいいのがグレーになります。それで自然とモノトーンの空間ができ上がっていきますね。

「斜壁の家」(新潟市)(画像提供:K.DESIGN HOUSE)
「斜壁の家」(新潟市)(画像提供:K.DESIGN HOUSE)

実家が胎内市なので、子どもの頃、冬に田んぼ道を歩いていると白一色の世界が広がっていて、子どもながらにその風景がすごくきれいだなあと思っていました。夏には土や稲が見えていた場所が、雪が積もることで白一色の世界になるのが幻想的で。意識はしていないですが、子どもの頃のそういう感覚が影響しているかもしれないですね。

鈴木:たしかに、冬に胎内市に行くと羽越線より西のエリアはどこまでも雪原が広がる景色が眺められますよね。桐生さんは車も服もモノトーンで統一されているので、その感覚がどこから来ているのか気になっていたんですが、謎が解けた気がします(笑)。

桐生:あとは、ソファやラグなどの家具を選んでいくと色が入っていきますので、家自体には装飾や色がない方が合わせやすいと考えています。

このモデルハウスでは外壁にシルバーグレーに着色した木を張っていますが、年月を経て木は古いお寺のようにシルバーグレーに変わっていきますので、だったら最初からその色にしておけば色の変化が気にならないんじゃないかと思っていて。

設計やデザインにはもちろん気を遣いますが、自分たちは設計事務所ではなく工務店なんです。完成して終わりではなく、ずっとお施主さんと関わっていくので、耐久性を高めることやメンテナンスコストを抑えることにも配慮しています。

 

木造住宅のイメージを変えるデザインでグッドデザイン賞を受賞

鈴木:こちらのモデルハウスは2018年にグッドデザイン賞を受賞されました。どのような意図で設計し、評価されたのでしょうか?

桐生:モデルハウスは注文住宅と違って特定の方に向けた家ではなく、多くの方に共感される必要があります。その中で、今どのようなニーズがあるんだろう?どんな悩みがあるんだろう?と社会情勢なども考えながら、住宅に求められていることを考えて設計しています。

このモデルハウスの床面積は31.5坪。新潟市中央区の住宅街で、家族4人でコンパクトに住むという設定でつくっています。その中でプライバシーを守りながら気持ちよく暮らせる家を考えました。

世の中のニーズや課題解決を考えるというアプローチが、グッドデザイン賞のコンセプトに合うと思って応募したんですよ。

鈴木:たしかに、グッドデザイン賞はただデザインがかっこいいだけでなく、社会的な課題をどう解決するものなのか?というところも評価対象になっていますよね。

桐生:グッドデザイン賞で評価された部分は、木造住宅でありながらRC造のようなモダンなデザインを追求していることでした。例えば、木造からイメージされるナチュラルなイメージの家が嫌でRC造を選んでいた人も、木造で希望していたイメージの家を実現できます。そのようにして、木造住宅のイメージを変えて、ファン層を広げることを意図しています。

その背景には大工が高齢化し、若い大工が不足しているという課題があります。木造住宅のイメージの幅が広がることで、大工を志す人が増えていってほしいですね。

鈴木:モダンデザインの木造住宅をつくりたいから大工を志す。そういう価値観が広がって、若い人材が育つとすごくいいですね。そういう問題意識は工務店だからこそ強く感じるんですね。

 

妹島和世さんの建築にファッション性を感じる

鈴木:ところで、桐生さんは好きな建築や、影響を受けた建築家はいますか?

桐生:大学で建築を学び始めて、最初に安藤忠雄さんや磯崎新さん、槇文彦さんといった日本を代表する建築家の作品を知ったんですが、その後、妹島和世さんの作品を知るようになって自分の中で建築の価値観が変わったのを感じました。

ガラスやアルミなどを使った軽やかな建築はファッション性があり、それ自体が現代アートのようで。使う素材を絞ったり、淡い色使いにしたりという表現も魅力でした。大学4年の頃に、トータルで3カ月くらい妹島さんの事務所で模型作りなどのアルバイトをしていて、徹夜で作業をする日もありましたが、いい経験になりました。

あとは、ヨーロッパの石やタイルを使った建築や街並みに魅力を感じていて、耐久性が高く味わいが深まっていくタイルを内装やテラスなどの外部に使うことが多いですね。

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家具や小物までトータルで提案をしていきたい

鈴木:では最後に、今後目指すことについて教えていただけますか?

桐生:家に関わることを広く提案していきたいと思っています。例えば、家具の提案がその一つですね。住宅の雰囲気と合うように、セレクトしたりコーディネート提案もしていますし、家具工房と一緒にオリジナルの家具の制作もしています

このモデルハウスにあるダイニングテーブルやソファ、リビングテーブルなどがオリジナルのものですね。

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それから、食器や植物、スリッパやタオルなどの小物類までトータルで提案をしていきたいと考えています。

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鈴木:たしかに、空間と家具がちぐはぐだったり、家具のサイズが空間に合っていないケースを見ることがあります。自分好みの家具を探すのは楽しいものですが、全体のバランスを考えてプロにアドバイスをしてもらったほうが満足度の高い空間になりますよね。

他に今目標としていることは何かありますか?

桐生:今よりももっとワクワクする建物をつくっていきたいですね。

家を建てるのは数年先のつもりでモデルハウスにいらした方から、「モデルハウスを体感してみたら、早く家を建てたいと思うように気持ちが変わった」と聞くことがあります。空間を体感して楽しいとかワクワクするとか、一層高揚感を感じてもらえるような家をつくっていきたいと思います。

 

シンプルモダンを突き詰める桐生さんの家づくり。そのデザインには数々の合理的な理由とストーリーが秘められていました。

新潟市中央区親松にあるモデルハウスは今年の春から購入受付を始めるとのこと。購入者が決まると、モデルハウスを見学できるのは2019年末までとなりそうです。

興味のある方は、モデルハウスの空間を体感しながら、K.DESIGN HOUSEの世界観を味わってみてはいかがでしょうか?

 

取材協力/K.DESIGN HOUSE 株式会社桐生建設 桐生和典さん

写真・文/鈴木亮平

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鈴木 亮平

新潟市在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。