#030 エスネルデザイン×Ag-工務店のコラボレーション。UA値=0.24の超高断熱住宅

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鈴木 亮平

新潟市在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。

2020年9月、竣工からちょうど1年が経過したK邸を訪れた。

K邸は新潟市中央区の住宅街にある南向きの54坪の敷地に立つ住まい。手前には車を4台止めることができる。

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敷地奥が少し高くなっており、のり面は石垣のように仕上げられている。その上には4本の落葉樹が9月の乾いた風に揺れていた。

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植栽の奥にシンプルな形状の住まいが立っているが、壁は全て杉板の下見板張り。1年経過しても、ほとんど色落ちすることなく新築時と同じような鮮やかさを保っていた。

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この住まいはエスネルデザインが設計し、株式会社Ag-工務店が施工を担当。

グラスウールとフェノールフォームのW断熱に、オールトリプルガラス窓で、UA値=0.24というHEAT20のG2グレードの基準値(UA値=0.34)を余裕で上回る高い断熱性能を誇る。

さらに、完成時のC値=0.2(1㎡あたりわずか0.2㎠の隙間しかない)という高い気密性能も特長だ。

どのようにしてKさん家族がこの超高断熱仕様の家を建てるに至ったのかを伺った。

 

 エスネルデザイン×Ag-工務店。新しいコラボレーション

「転勤がある仕事で、以前は金沢や富山に住んでいたこともありました。長男は富山に住んでいた時に生まれたんですが、新潟に戻ったら家を建てようと考えていたんです」とご主人。

家づくりについてネットで調べていくうちに、性能がとても重要であると考えるようになったという。新潟市内の工務店の社長がブログでお薦めしていた本も読み知識を増やしていったが、そもそも住宅にどれくらいのお金を掛けられるのか、適正な金額が分からないことに不安を感じたと話す。

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そんな時にKさんご夫婦は、住宅購入時の資金相談に特化したファイナンシャルプランナーに出会い、訪ねることにした。

ライフプランをつくってお金に関するアドバイスをしてくれたのはもちろんのこと、二人の希望から、超高断熱住宅に特化した設計事務所で経験を積んだエスネルデザインの村松悠一さんを紹介してくれたという。

また、2016年の春から土地探しをしていたが、ようやく2018年の春に希望するエリアの土地を購入。

同時にエスネルデザイン村松さんとも打ち合わせを進め、2018年秋に設計監理契約を結んだ。

その後、村松さんから株式会社Ag-工務店の渡部栄次さんに施工を依頼。「栄次さんのことは、加藤淳一級建築士事務所さんのブログ記事を見て仕事ぶりを知るようになりました。それで、県内の工務店や設計事務所が集まる『住学』で会った時にお願いしたんです」と村松さん。

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エスネルデザイン 村松悠一さん

渡部さんは「村松さんは断熱にものすごく力を入れている建築士。断る理由はありません。ぜひやってみたいと思いましたね。特別な断熱や気密施工はもちろん、外壁を下見板張りで仕上げるなど、木をふんだんに使った家づくりは大きなやりがいがありました」と施工時のことを思い出す。

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株式会社Ag-工務店 代表・渡部栄次さん

「外壁工事をしている時、毎朝出勤途中に見ていました。透湿防水シート『タイベック』が少しずつ板で覆われていくのを見るのが楽しみでしたね」とご主人。

 

大きな軒に守られたポーチとアプローチ

高基礎が特徴的なK邸の玄関は、ポーチの階段を8段上がったところにある。

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アプローチやポーチは長い庇に覆われているので、雨の日でも楽に行き来できる。

ポーチの下は車のタイヤなどを置く外部収納として活用できるのもポイントだ。

ルーバーで目隠しされたポーチは、ちょっとした物を置いておけるゆとりある空間。

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コーナーには傘を掛けるバーが付けられているが、お子さんの虫取り網を立てておくのにもちょうどいい。

玄関ドアを開ければ、そこは左右に幅のある玄関で、右の棚には靴を、左のハンガー掛けにはコートやジャケットを掛けられる。

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ロールスクリーンを下ろしてすっきりと目隠しすることも可能。

土間を広く取っているため、ベビーカーなどのかさばる物も置いておける。

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真南に開いた、明るい吹き抜けのリビング

下足して足触りのいい檜(ヒノキ)の床に上がり、正面を右に進むと吹き抜けの開放的な空間が広がった。

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南側からたっぷりと光が差し込むLDKはこの家の中心で、7.5畳の大きな吹き抜けが1階と2階の境界をなくし大空間をつくり出している。

この家は3.5間×4間の長方形の平面で、吹き抜けを除いた延床面積は25坪。数字だけを聞くと小さく感じるが、仕切りが少ない大空間があることでゆとりが生まれている。

窓側には小上がりが設けられているが、そこで寝転がることができるし、階段を行き来する際の通路にもなる。

小さな床面積を有効活用するために、複数の役割を持たせているのが特徴だ。今は今春に生まれたばかりの赤ちゃんの昼寝スペースにもなっている。

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「小上がりの高さがちょうどいいのか、小さい子が集まるとみんなベンチみたいにして座るんですよ」と奥様。

階段と逆サイドには造り付けのソファが設けられている。

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こちらは馬の革を使ったソファで、肘掛けの下にはスマホやタブレット、ティッシュなどを置けるスペースも設けられている。

小上がりの横は大きなFIX窓で、外の景色がよく見えるが、日中は光が反射するため外からは中の様子がほとんど分からない。また、2階にも窓が設けられているため、空がよく見える。

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「最初に2階リビングの案も頂きましたが、私たち夫婦は無難な選択を好むタイプ。4案頂いた中で、最もベーシックなプランを選んで詰めていきました。2階リビングにすればもっと眺望が得られたなあ…と思いながらも、このダイニングから見上げる空と雲だけの景色が気に入っています」(ご主人)。

 

使い勝手を考え、大工の技で造り込まれた造作家具

テレビボードやデスク、収納棚など、造作家具が多いのもK邸の特徴で、これらはAg-工務店による大工工事でつくられている。

リビングに設けられた片持ち梁の階段も大工の技が光るポイント。

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「階段は片側だけが壁の中で固定されていますが、強度を保ちながら気密も高めることが難しかったです。大変だった分、完成した時はうれしかったですね」と渡部さん。

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キッチン前は三層パネルでつくられた棚。こまごまとした小物はカゴに入れてすっきりと収納。

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キッチンのカップボードもカゴや収納ボックスを活用してすっきりと。

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キッチン奥にはガラス窓がついているが、こちらは冬場に野菜などを保管するパントリー。高気密高断熱住宅は家中が暖かくなる。そんな室内に野菜や果物を置いておくと劣化が進むため、家の中に断熱窓で区切った非断熱ゾーンを設けている。

キッチンと同一直線上には、洗面脱衣室兼物干しスペース兼クローゼットが。

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ここで洗濯・物干し・収納を完結させられる上に、キッチンのすぐそばにあるため、慌ただしい朝も短い移動で家事をこなすことができる。

ちなみにその空間を区切るのは建具ではなく、軽やかなリネンのカーテンだ。

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冬は床下エアコン1台で、夏は2階のエアコン1台で全館冷暖房を行うため、なるべく空気が循環しやすいつくりにしておく必要がある。

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そのため、K邸の建具は開け放した時にすっきりと収まる引き戸が用いられているが、個室化する必要がない洗面脱衣室はカーテンが採用された。

 

吹き抜けに面した開放的な2階

2階は約1/4が吹き抜けで、あとは将来2室に仕切れる子ども部屋と主寝室、トイレがある。

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大きな窓が南側に設けられている上に、勾配天井で上へも空間が広がっているため、広々としていて気持ちいい。

吹き抜け上に設けられたスノコの先には大きなクッションが置かれているが、ご主人はここに身を沈めながら昼寝をしたり読書をしたりして過ごすという。

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子ども部屋は10.5畳。今は使っていない脚付きマットレスだけが置かれている。

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間仕切り壁をつくり、兄弟で半分に分けて使ってもいいし、仕切らずに広い空間を共有するのも良さそうだ。

 

床下に広がる巨大な収納スペース

「4人家族なら延床面積32坪くらいが一般的ですし、私もそれくらいの広さが必要かなと思っていました。でも、最初に村松さんから提案をされたのが、この3.5間×4間の総2階に吹き抜けがある25坪の家だったんです。正直、狭いんじゃないかな?と思って戸惑いましたが、信じて進めて行きました。結果、住んでみたらすごくちょうどいい広さでした。高基礎で広い床下収納があるんですが、そのゆとりがそう感じる理由の一つだと思います」とご主人。

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1mという高い基礎があるため、床下には巨大な収納スペースが広がっている。程度の差はあれど、誰しもが捨てるかどうか判断に迷う物や、たまにしか使わない物を押入や納戸に溜め込みがちだ。

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しかし、それらの物を入れるためのスペースに生活空間を奪われるのは悔しいもの。

K邸においては、まだ使っていない2階の子ども部屋をすっきりとした状態に保てているが、この床下収納があれば、今後も部屋をゆったり広々と使うことができそうだ。

 

旅行から帰ってくるたびに、家の魅力を再確認

1年暮らしながら、ご主人は冷暖房費にどれくらいの電気代が掛かったかをデータにまとめているが、村松さんが試算した電気代よりも安く抑えられているという。

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「この家に暮らし始めていいなと思うことは、快適さはもちろんですが、地域に根を生やしたという実感を持てるようになったことです。持ち家になり、地域の人と一緒に仲良く生きていきたい。これは賃貸暮らしの時にはなかった感覚です。コロナの時にいろいろな不安が募りましたが、そんな時も家が拠り所になりました。あと、家族旅行からの帰り道、家が近づいてくると、とても安心するんですよね。旅行に行くたびに自分の棲み家の良さを実感できます」とご主人。

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奥様は「みんなで同じ空間でくつろげるサイズ感が気に入っています。食事の支度をしていて、家族が2階にいても声が届きますしね。春先はコロナの影響で外出ができなかったですが、庭に出て過ごしたりしていました。家の小ささをネガティブに感じることはなかったです」と話す。

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家づくり検討中に、信頼できるファイナンシャルプランナーとの出会いがあり、そこからエスネルデザインの紹介を受け、そして施工者の株式会社Ag-工務店へとつながっていった。

2016年の春に新潟に戻り、家を建てようと動き始めてから完成するまで3年半の月日が掛かったが、Kさんご夫婦は人との縁に恵まれて理想の住まいを建てることができた。

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奇をてらうことなく、シンプルに実直に住まう人のことを想い建てられたベーシックな家は、自然素材がふんだんに使われ、高い気密断熱性能に耐震等級3の耐震性能も備えられている。

20年後30年後も陳腐化することなく、味わいを深めながら凛と佇んでいる姿が目に浮かんでくる。

 

K邸
新潟市中央区
延床面積 78.31㎡(25坪)
竣工年月 2019年9月
設計 住宅設計エスネルデザイン
施工 株式会社 Ag-工務店
(写真・文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平

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鈴木 亮平

新潟市在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。