【徹底解剖】加藤淳一級建築士事務所×Ag-工務店の家づくり(前編)

title-前編
The following two tabs change content below.

鈴木 亮平

新潟市在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。

2015年からコラボレーションして家づくりを行っている加藤淳一級建築士事務所の加藤淳さんと株式会社Ag-工務店の渡部栄次さん。

Daily Lives Niigataでは2年前にお二人にインタビューを行いました。

【インタビュー】加藤淳一級建築士事務所×Ag-工務店、設計&施工それぞれのプロが連携する家づくり

今回はより具体的に、住宅の要素ごとにどんなこだわりが詰め込まれているか、設計・施工それぞれの立場から詳しくお話を伺うことにしました。

取材では7カ所についてお話を伺いましたが、文章量の都合から前編・後編の2部構成とし、今回の前編では次の3カ所の解説をしていきます。

①外観
②玄関・ポーチ
③キッチン

では、さっそく「外観」から見ていきましょう。

 

①外観

1-1 白ガルバ&木

DSC_6319-Edit

上の写真のような白ガルバ&木を使った外観。これはお二人が手掛ける家でよく見られる特徴的なデザインです。どんな意図があるのでしょうか?

DSC09122

加藤さん:本体となる母体を白、そこに木を加えて温かみを出す外観デザインは自分自身が好きでよく提案しています。コストバランスが取れたデザインでもありますね。もちろん色はお客様の好みを聞いた上で提案しますので、毎回このパターンを提案するわけではありませんが。

DSC09136

渡部さん:写真の外観は一見シンプルに見えますが、ポーチの三角形の下屋部分はなかなか難しく、納まりで悩んだところでした。でも完成してみると、ただの四角ではないデザインによって外観の印象が随分と変わってきます。こういう難しい施工の積み重ねが実はとても重要だと思います。

DSC_6321-Edit

加藤さん:この三角形の下屋は、自転車置き場を確保しながら駐車スペースも確保するために柱の数を最小限にする必要があったからなんです。使い方から導き出された形ですね。

なるほど…。施工の苦労というのはパッと見では分からないものですが、たしかに三角の下屋が強い個性になっています。

では、次に「シンプル三角屋根」を見ていきましょう。

 

1-2 シンプル三角屋根

DSC_0994-Edit2

三角屋根の家は世の中にたくさんありますが、シンプルさが際立っているところが特徴的ですよね。

加藤さん:外観はできるだけスッキリさせるのにこだわっています。要素を増やさずに、飽きの来ないデザインにするにはどうすればいいかな?というのをいつも考えています。すっきりさせながらも、ベランダやポーチなどは雨が当たらないように設計をしていますね。庇はできるだけ出したいところではありますが、コストバランスを考えて省略することもあります。

渡部さん:このようなシンプルな家はすっきりしていて施工がやりやすいですね。ただ、庇がないことで雨漏りのリスクは高まりますので、納まりをよく考えて雨漏りが起こらないように施工をするようにしています。

すっきりとさせつつ、雨除けをしたい場所はしっかりと屋根を架けるというバランスが考えられているのもポイントだったんですね。

次に「伸びやかファサード」を見ていきましょう。

 

1-3 伸びやかファサード

DSC_0012-Edit

間口方向に長いゆったりとしたファサードもよく見られます。屋根勾配がゆったりとしているのが特徴ですね。

加藤さん:平面を考える時、同時に立面も考えて設計をするんですけど、その時にプロポーションをかなり意識しています。ある程度間口が広い敷地条件の時、土地を有効に使うために写真のような間口が長い家になることが多いですね。あとは、耐震性を高めるために階高を抑えていますので、より横に長いプロポーションになります。

同じ延床面積でも間口方向に長いと大らかな印象を感じさせます。

次に「斜め配置」を見ていきましょう。

 

1-4 斜め配置

DSC_1223-Edit-Edit-bluesky

敷地に対して建物を斜めに配置するという建て方。この設計は稀だと思いますので、ここぞ!という時に使う秘技でしょうか?

加藤さん:この敷地で普通に建てると東側に開く建物になるんですが、そうすると土地も余り過ぎちゃうし、しっくりこなかったんです。そこで、建物を敷地に対して斜めに配置し、リビングが真南向きになるようにしました。隣地に対して正対しないのでプライバシーが保ちやすく、施主さんはカーテンを開けたまま暮らしているそうですよ。

渡部さん:この施工で難しかったのが配置出しですね。隣地境界線からの距離が少ないので、そこは難しい所でした。

土地の角に三角形の庭ができるのも面白いですよね。

次に「カーポート隠し」を見てみましょう。

 

1-5 カーポート隠し

DSC_8757-Edit

カーポートに木塀を取り付けることで、アルミカーポートの存在感をやわらげるという技。これもよく見られます。

加藤さん:敷地の間口に余裕がある場合、車を正面から入れず、道路と平行に停めるようにカーポートを計画しています。そうすると道路側がカーポートの側面になりますが、そこを木塀にすることで街並みを良くすることができますし、プライバシーを守ることもできます。敷地条件によりますので、条件が合う時に使っていますね。

渡部さん:これは施工も簡単ですし、すごくいいなと思います。カーポートの柱を利用できるので、普通に木塀をつくるよりも工事費を抑えることができますしね。

アルミカーポートの印象をやわらげつつ、プライバシーも守れる。さらには塀を建てる時のコストも抑えられるという、一石二鳥、三鳥のデザインだったんですね。

次に「2階リビング」を見てみましょう。

 

1-6 2階リビング

DSC_7424-Edit - コピー

2階リビングも一定数つくられています。外から見られないようにプライバシーに配慮した窓の配置が特徴的ですよね。

加藤さん:2階リビングのメリットはプライバシーを確保しながら採光をしっかり採れるところですね。リビングのカーテンを閉めずに暮らしている方も多いです。施主さんのライフスタイルや敷地条件によって2階リビングを提案しています。

渡部さん:住宅密集地では特に2階リビングの良さが出ますよね。

以上で外観の解説は終わりますが、シンプルな美しさ、敷地の特性や施主さんの嗜好やライフスタイルを読み解くこと、コストバランス…というところから導き出されたデザインであることが分かります。

次に玄関・ポーチについて解説を頂きます。

 

②玄関・ポーチ

2-1 深い庇

005

深い庇が架かったポーチは雨や雪の日の出入りを楽にしてくれる空間。ポーチの広さが、心のゆとりをつくり出してくれそうです。

加藤さん:やはりポーチは広いと使い勝手がいいですよね。自転車を置いたり、生協の箱を置いたりするのにも便利ですし、近所の人と立ち話をしたり、色々な使い道があります。写真のように1間くらいの奥行きを取ることもあります。

渡部さん:ポーチは施工中も雨除けになってすごく便利なんですよ。材料を置いておくのにもいいですしね。構造と屋根が出てくる分、コストは掛かりますが、ポーチがあると何かと工事がしやすくなります。

施主さんが暮らしやすいのはもちろん、施工時の作業性も向上する。これも実はとても大事なことだと思います。職人さんに気持ちよくつくってもらえた家に住める方が気分もいいですよね。

次に「自然素材」を見てみましょう。

 

2-2 自然素材

DSC_8743-Edit-Edit-Edit

外壁にガルバリウム鋼板を使っている場合でも、ポーチ周りだけは天然木で仕上げることが多いですよね。

DSC09140

加藤さん:ポーチの壁を板張りにすることで温かみが出ますので、帰って来た時に安心できますよね。ポーチは雨に濡れにくく足場も不要なので、施主さんが自分で塗り直しなどのメンテナンスをすることもできます。それから、玄関ドアは断熱性能の高い木製ドアを標準で使っていますので、ドアとの相性も考えて木を選ぶことが多いですね。

渡部さん:施工では、大工だけでなく板金職人や左官職人、塗装職人などいろいろな職人が作業をする場であり、取り合い(部材同士が接合する部分の納め方)に気を遣う部分です。

形状によっては木に包まれる感覚が味わえる板張りのポーチ。家族はもちろんゲストの心も和ませてくれそうです。

次に「シューズクローク」を見てみましょう。

 

2-3 シューズクローク

DSC_1006-Edit-Edit

シューズクロークも必ず登場しますよね。機能的な造作棚が設けられているのが特徴でしょうか?

加藤さん:そうですね。ヒアリングの時に家族全員分の靴の数を聞いて、それプラスアルファで収納できるように計画しています。さらに靴以外のものも置けるゆとりも考えるようにしていますね。

渡部さん:細かい造作が多い箇所ですので、工事の最後の方で1週間くらいかけて造り込みます。

上の写真では傘を掛けるスペースがつくり込まれているのも見えますし、見えない場所にはコートを掛けられるハンガーバーもあります。

シューズクロークではありませんが、下の写真のような遊び心ある小技が玄関で使われることもあります。

DSC_4594-Edit

加藤さん:上の写真の下の方に見える扉は、隣のキッチンから玄関土間へゴミ袋を出すためのドアなんです。これは打ち合わせ中にこういうのあったら便利ですよね!と盛り上がってノリで付けたものですね(笑)。でも、こういうのあったらいいなという自分の経験から考えたものでもあります。

ガチガチにつくり込むだけなく、ちょっとした抜けも大事にしているということですね(笑)。

では、次にキッチンを見ていきましょう。

 

③キッチン

3-1 インテリア調和型キッチン

DSC_9976

DSC_1134-Edit

キッチン前のダイニングやリビング側をしっかり仕上げることで、キッチンを空間に溶け込ませる手法です。

加藤さん:常々キッチンの無機質な質感がどうかな…と思っていて。なるべくその無機質さをリビング側からは感じられないようにしたいと思っています。アイランド型であっても壁と同素材の建材を張ったりしてなじませていきます。

渡部さん:仕上げ方によってはきれいに納めるのに苦労することもありますが、施工が終わると「やって良かったな…!」って思いますね。上の写真のヘリンボーンは床材屋さんにも褒めてもらいました(笑)。

DSC09130

キッチンを剝き出しにするのではなく、空間に調和させるキッチン。キッチンを含めた居室全体が居心地のいい場所になっているのが写真から感じられます。

次に「キッチンから景色を楽しむ」を見てみましょう。

 

3-2 キッチンから景色を楽しむ

DSC_4543-Edit キッチンから景色を眺められるようにレイアウトされた住まいもよくつくられています。

加藤さん:自分もよくキッチンに立って料理をするので、その時に窓から見える景色というのはすごく意識しますね。他にも、キッチンから吹き抜けを介して2階の子ども部屋が見えたりとか、見渡せるキッチンを意識して設計することが多いです。

リビングやダイニングにいる家族を眺め、さらに窓の外の景色も眺められるというのがポイントですね。

次に「抜け目なき造作カップボード」を見ていきましょう。

 

3-3 抜け目なき造作カップボード

DSC_5870-Edit - コピー

キッチンの後ろにあるカップボードは、メーカー既製品を置くのではなく、一つ一つオーダーメイドで造作しています。かなり細かくつくり込まれているのが特徴ですね。

加藤さん:既製品のカップボードやキャビネットが置かれるのに違和感があって、造作するようにしていますね。ヒアリングの時に持っている器具や普段使うものを入念に聞いて、それにあったものを提案しています。一度図面を描いてから、さらに施主さんとやり取りを繰り返してブラッシュアップしていきます。

渡部さん:キッチンのカップボードは、造作家具の中でもつくり甲斐を感じる部分ですね。定期点検に行った時に上手に使って頂いているのを見るとうれしい気持ちになります。上の写真は、施主さんの要望を聞きながら当初の図面から変えていったものですが、家電から小皿を置く棚まで使いこなされていましたね。

DSC09132

温かみあふれる機能的な造作カップボード。豊富な実績がありますので、施工事例を見ながら考えるのも楽しそうです。

次に「水回りへ瞬間移動」を見てみましょう。

 

3-4 水回りへ瞬間移動

022

キッチンの隣にランドリーを設けて、2つの空間を素早く行き来できる動線もよく見られますね。

加藤さん:自分も日頃から家事をこなしているので、朝の忙しい時に料理をして洗濯物を干して…というのが大変なのを感じています。それで、洗濯機とキッチンの距離をできるだけ近づけたいと思っています。

同時に回遊動線がつくられることも多く、それによって全体的な生活動線がスムーズになるのもポイントです。

最後に「技ありキッチン」を見ていきましょう。

 

3-5 技ありキッチン

DSC_6870

キッチンで見られる様々な工夫や技を見ていきましょう。上の写真は壁付けキッチンですが、手前に作業台兼テーブルが造作されていて、お店のような雰囲気ですね。

加藤さん:これは私のアイデアだけではたどり着けなかったですね。施主さんとのキャッチボールの中で生まれたものなんですよ。

渡部さん:これは自分もいいなと思いました。キッチンを壁付けにした時にキッチンが目立つ感じがないのがいいですよね。

下の写真の、キッチンを隠す造作のキャビネットも面白いですよね。

DSC_4980

DSC_4994

加藤さん:これも施主さんとかなり話し合いながらつくったものです。施主さんの方で寸法も具体的に考えられていたので、その希望を聞きながら設計しました。

渡部さん:籠もり感があり料理に集中しやすいのもいいですよね。

加藤さん:このようないろいろな造作は施主さんの希望を聞きながらつくっていきますが、ゼロから発想することが難しいこともあります。ある程度、理想とするものをこちらで提案して、そこからブラッシュアップをしていくようなイメージです。

DSC09146

取材ではさらに、④窓、⑤物干し、⑥書斎、⑦造作家具の話も聞いていきましたが、ひとまず前編はここで締めくくりたいと思います。

WEBサイトの施工事例を見て「素敵だな!面白いな!」と思った部分にどんな意図や苦労があるのか?そんなことをお伝えできたらと思い、今回加藤淳一級建築士事務所・加藤淳さん、株式会社Ag-工務店・渡部栄次さんにお話を伺いました。

施工事例を見る時には、設計者や施工者の考えを想像しながら見てみると、住宅建築の奥深さを感じられるのではないでしょうか?

※本記事の後編は10月中旬に公開予定ですので、しばしお待ちください。

 

取材協力/加藤淳一級建築士事務所株式会社Ag-工務店

写真・文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平

The following two tabs change content below.

鈴木 亮平

新潟市在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。