直角三角形が散りばめられた、2階リビング・コートハウス

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鈴木 亮平

新潟市在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。

クセのある不整形地を購入し、工務店&設計事務所と家づくり

新潟市中央区の閑静な住宅街。

2022年9月に完成したM邸は、三叉路に面した不整形地に立っている。

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敷地の幅は間口が最も広く、奥に行くほどすぼまる直角三角形に似た形状だ。その個性的な形を有効活用するように、建物形状も直角三角形に似た台形になっている。

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「この土地を見た時、角地で日当たりが良くていいなと思いました。不整形地ということで、柔軟な設計をしてもらえる工務店・設計事務所に依頼をすることにしたんです。信頼できる方からAg-工務店さんを紹介して頂き、設計はAg-工務店さんが一緒に家づくりをしているいくつかの設計事務所の中から、僕たちが理想とするイメージの家を手掛けている早川徹建築設計室さんに依頼することにしました」とご主人。

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ご主人の希望は、性能とデザインの両方が優れていること。奥様の希望は、生活感がないホテルライクなインテリア。

二人の理想を重ね合わせながら、1年程かけてじっくり打ち合わせを進めていったという。

 

シンプルさを追求した外観デザイン

そうしてでき上がったのが、通り側からは窓がほとんど見えない住まい。

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白いガルバリウム鋼板で覆われた外壁に、すっきりとした屋根のライン。カーポートを隠すようにコンクリートの壁を建てたり、既製品のサイクルポートにルーバーを取り付けて小屋のようにカスタマイズするなど、外観全体が整うように細やかな工夫が施されている。

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コンクリート壁とサイクルポートの間につくられたアプローチの先が玄関で、飛び石のように配されたステップが目を引く。

3段目は地面から浮遊しているようなデザインで、エッジが際立ち軽やかに見える。

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外壁と基礎の間に取り付けられる「水切り」を見えないように納め、目に見える建築パーツの数を減らすなど、洗練された外観デザインはディテールと真剣に向き合うことで生まれている。

アプローチから玄関ドアまでのわずか数メートルを歩くだけで、早川徹さんの細やかな感性と、それを実現するAg-工務店の施工力を感じることができる。

 

あちこちから漏れ広がる幻想的な光

期待感を高めながら玄関ドアを開けると、想像のさらに上を行く空間が広がっていた。

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ポーチから続くタイル土間の隣には壁一面のFIX窓。その外には直角三角形の坪庭があり、吹き抜けから光が注いでいる。

敷地をそのまま縮小したような形の坪庭は、余ってしまったデッドスペースではなく、敷地の個性を暗示するような、なんとも象徴的で哲学的な空間に思えてくる。

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坪庭の隅に行き、頭上を見上げれば、そこには坪庭よりもさらに小さな直角三角形が現れ、空が切り取られている。

夜になれば天井と上がり框(かまち)に仕込まれた間接照明が存在感を強め、日中とは異なる雰囲気に一変。

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床と天井のチーク材は昼間よりも重厚さを増し、より艶めかしく感じられる。

その先の廊下は一度光が絞り込まれるが、突き当たりの壁には自然光が注いでおり、奥に明るい空間が続いていることを予感させる。

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合理性を重視する考え方で近年は省略されることが多い廊下だが、このトンネルのような廊下が外界とプライベートゾーンを隔てる上で心地いい距離感をつくり出しているようだ。

廊下の左手は手洗いスペースとトイレ。

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右手には寝室が配されている。

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寝室の奥の掃き出し窓から光が注いでいるが、そこはライトコートと呼ばれる採光のための中庭。このライトコートがあることで寝室のカーテンを開けていても外から見られる心配がない。防犯性も高い設計だ。

 

遊び心も隠された子ども部屋

午後、太陽の位置が西へ傾いていくと、廊下の突き当たりの壁に格子状の影が現れた。

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この影は2階の廊下部分の床に使われたFRPグレーチングによるもので、緑がかった光も印象的だ。

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1階の奥にはウォークインクローゼットと、最大3部屋に分けられる子ども部屋が広がっている。

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壁を設けると廊下になる部分の床はチーク材、一段下がった場所にある子ども部屋の床はアッシュ材。

床の樹種を変えることで、ひとつながりの空間でも、直感的に違う性質の空間であると認識できる。

壁にはハシゴが造り付けられており、

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ロフトへ上がれるのはもちろん、

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そこからさらに2階まで上がることもできる。

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「早川さんはデザインが魅力的なだけでなく、遊び心も持っている方だと思いました。そこが早川さんにお願いしたいと思った理由の一つですね」とご主人。

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ちなみに先程寝室から見えたライトコートは、子ども部屋側にも面している。

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「ここは子どもが遊ぶ場所としてもちょうど良くて、娘がよく縄跳びをしています」(ご主人)。

上を見上げれば、やはりそこには直角三角形の空が切り取られていた。

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曼荼羅(まんだら)のように繰り返し現れるパターンは、この土地らしさを表現する無作為なデザインだ。

 

チークとモノトーンが織り成す上質さ

階段を上がって2階へ行くと、FIX窓とガラス戸の向こう側にLDKが現れた。

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空間全体を見渡せる場所には、アイランド型のLIXIL・リシェルSI。

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背面のカップボードは黒い扉で隠されており、冷蔵庫まですっきりと納められている。

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「いろいろなショールームを見て回りましたが、このセラミックトップキッチンがいいなと思い選びました。インテリアはキッチンのグレーに合わせてなるべくシンプルにしています。内装にはあまり色を入れずに花や小物などで色を加えていくイメージですね」(奥様)。

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ウォルナット材のダイニングテーブルはシキファニチアのEuro Rd-table(Φ1,200mm)。ダイニングを照らすペンダントライトにはコイズミ照明のURBAN CHIC S-glassを採用。

「コイズミ照明のペンダントライトは『建築士夫婦の家づくり記録』というブログで紹介されていたもので、これは譲れないと思いました(笑)」と奥様。

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それ以外の照明は間接照明やダウンライト、ブラケットライトが使われており、どの照明を点けるかによって夜の室内の雰囲気は大きく変わる。

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リビングの一角の少し高い位置にはスタディーコーナーが。

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リビングよりも700mm床の高さを上げているため、デスクの上を散らかしていても目立たない。

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それでいて、キッチンやソファ、ダイニングにいる家族とコミュニケーションが取りやすい場所でもある。

「元々Mさん夫婦からは2階リビングを希望されていました。1階の寝室は小さくまとめていますが、2階のLDKはゆったりとしたつくりにしています。家族が一緒の空間にいながらも、それぞれが好きな場所で好きなことをしていられる。そんな場所になればと思い設計をしました」と早川さん。

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広いバルコニーで気軽に非日常感を味わう

リビングとつながる広いバルコニーも、M邸の魅力的な空間だ。

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幅2mの大きな窓はLIXILのLWスライディング。全開にすると窓の存在が消失し、たちまち中と外が一体になる。

「このバルコニーにカセットコンロを出して夕食を食べることも多いです。バーベキューもやりますが、餃子を焼いて食べたりもします。いつもの料理でも、外だと子どもたちがよく食べるんですよ。プロジェクターで壁に動画を投影したり、音楽を聴いて過ごしたりもします」とご主人。

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水道があるのでプール遊びもしやすく、壁に囲まれているので周囲の視線も気にならない。ここもやはり室内にするには扱いにくい直角三角形の空間だが、屋外空間にすることでそのデメリットはなくなり、かえってその不整形さが非日常感を盛り上げてくれる。

「この三角形の施工は難しく、特に外壁の角を合わせるのが大変で、現場で打ち合わせをしながら慎重に施工をして納めていきました」と話すのはAg-工務店の代表・渡部栄次さん。「難しいこともありましたが、早川さんのディテールの納め方は勉強になることが多く面白いですね」と続けた。

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バスコート付きの浴室で露天風呂気分に浸る

2階の奥は水回りが固められており、直角三角形のスペースにはトイレが配されている。

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不整形な空間を広く使えるように、便器は右側の斜めの壁と平行に設置。入ってすぐ左手のスペースには手洗い器も設け、なおかつ十分な余白も確保している。

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トイレの手前は洗面脱衣室。こちらには幅1.5mの造作洗面台と、洗濯機&ガス乾燥機、収納が約3.3畳の空間にまとめられている。

その奥の浴室との間はFIX窓とガラスドア。視線が奥に抜け、実際の面積以上の広がりが感じられる。

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その浴室の窓の外はバスコートで、露天風呂のような風情を味わえるのもポイントだ。「お風呂に入る時、子どもたちがここで涼んだりしています」(ご主人)。

 

チームになって実現した理想の住まい

巾木の高さや枠の厚さ、ダウンライトの光源が見えにくくなるような天井の処理など、ディテールにこだわりがあふれるM邸。

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外からのイメージとは対照的に、中に入ればあらゆるところから光が注ぎ、遠くへと視線が抜ける開放感も魅力だ。

そして、夜になれば緻密な照明計画により、一層落ち着いた雰囲気に変貌する。

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「家づくりの打ち合わせや工事の過程も楽しかったです。Ag-工務店さんの協力会社の方々もみんないい人たちで、現場で職人さんたちと話した時間もいい思い出です。それから、ファイナンシャルプランナーさんや新潟不動産ファクトリーの齋藤さんも含め、チームで進められた感じも良かったですね。完成してここに住んでからは、家にいる時間が楽しくなりました。子どもたちも休みの日に1日家で遊んで過ごすこともあります。全てに満足しています」とご主人。

「私はカタログをじっくり見させて頂いて、壁紙やタイルなどを一つ一つ選んでいくのが楽しかったですね。ショールームやインテリアショップも、新潟だけでなく東京や仙台などにも見に行きました。せっかくの注文住宅なのでしっかりこだわらないともったいないと思っていましたので(笑)。それによって後悔のない家ができ上がったと思います」(奥様)。

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Mさん夫婦の家づくりに対する前向きな気持ちと、設計事務所&工務店のスキルが重なり合って完成したM邸。

不整形地というデメリットをものともしない力強さと楽しさがあふれている。

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M邸
新潟市中央区
延床面積 113.22㎡(34.25坪)
1F 59.74㎡(18.07坪) 2F 53.48㎡ (16.18坪)
竣工年月 2022年9月
設計 早川徹建築設計室
施工 株式会社Ag-工務店
耐震等級 3、長期優良住宅

(写真・文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平

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新潟市在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。