鈴木 亮平
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2017年6月に沼垂テラス商店街(新潟市中央区沼垂東)で創業した無垢フローリング専門店・アンドウッド。2021年3月に本馬越へ移転し、2023年に創業7年目を迎えました。
2021年の6月に「創業5年目、新たなショールームでスタートしたアンドウッドのすべて」というタイトルで、代表・遠藤大樹(えんどうひろき)さんの取り組みをインタビュー形式で紹介しました。
2022年の12月に「創業6年目、無垢フローリング専門店・アンドウッドが薦める床材とは」というタイトルで、資材価格高騰&円安が進んだ2022年を総括。
そして本記事(2024年1月に取材)では、2023年のアンドウッドの事業を振り返ります。
その前に、2023年の住宅市場の市況はどうだったのでしょうか?
分かりやすい指標として新設住宅着工戸数がありますが、2023年度上半期(4~9月)の新設住宅着工戸数(全国)は前年比6.2%減の41万5307戸。その中でも「持ち家」は10.2%減の11万8975戸と厳しい状態が続いています。
資材価格の上昇等によって住宅価格が上がったことで、戸建注文住宅の買い控えが続いており、一戸当たりの床面積も縮小傾向にあるといわれています。
そんな厳しい2023年。無垢フローリングを扱うアンドウッド遠藤さんにとっては、一体どんな1年であったのでしょうか?
西日本エリアの取引先が増加傾向
鈴木 2023年は新潟県内を見ても全国的に見ても、住宅着工戸数が昨年比で減少しています。遠藤さんにとっても厳しい年だったのでしょうか…?
遠藤さん うちの2023年の売上ですが、実はあまり着工戸数減少の影響を受けていないんです。むしろ売上は微増しました。
鈴木 そうなんですね。外部環境としては住宅が建ちにくくなっていますから、取引先が以前よりも増えているのですか?
遠藤さん エリア的には首都圏や関西圏の取引先が増え、継続的に購入を頂けているというのが肌感覚で感じている変化です。九州や四国、中国地方の取引先も増えてきていますね。これまでの取引先からも引き続き購入を頂いています。
鈴木 遠藤さんは一人で会社をやっていて、積極的に営業をするわけでもない。どのようにして取引先が広がっているのか気になります。
遠藤さん 新規の方はホームページを見て知る方が多いようです。検索に色々ヒットするようになってきたことが要因かと思います。あと、言い方が少し難しいのですが、資材価格が上がっていく中でうちの床は「品質に対して購入しやすい価格である」と評価されているように思います。
それは、僕が一人で会社をやっていて、商品の開発や仕入れ、販売から補修までを一人でできる仕組みをつくったことで、固定費をかなり抑えられているからです。
丸太をシェアして、仕入れの効率化をはかる
鈴木 ところで、以前から遠藤さんは世界の森林資源の枯渇を憂慮し、丸太を歩留まりよく使うことを意識して床材をつくっていますよね。やはり森林資源の枯渇は進んでいるのでしょうか?
遠藤さん 最近の話を聞いていると、全ての木が枯渇するのではなく、樹齢200年300年の木が少なくなっているのを感じます。テーブルの天板に使うような大きな木ですね。
一方で、全体としては消費量よりも生産量が上回っているというデータもあるようです。ただ、樹齢の高い木は減っているので品質は今後下がっていく可能性はあります。
鈴木 フローリングにする場合は樹齢何年くらいがいいんですか?
遠藤さん 例えばチークであれば70~80年くらいがベストじゃないでしょうか。インドネシアではそのくらいの樹齢のチークを植林で育てています。
鈴木 じゃあ、ここの床のチークもそれくらいですか?
遠藤さん これはもっと若くて40年くらいですね。70~80年待つとその分コストが掛かってしまうので、30~40年くらいで切るのが最近のインドネシアの動きです。
鈴木 2023年は前年と比べて床材の仕入れ価格に大きな変化はありましたか?
遠藤さん あまり変わっていないです。ただ、2022年と同様に円安の影響はかなりありますね。それで、以前と買い方を変えました。前はうちで丸太1本を保有して、その中での歩留まりを見ていたんですけど、今は各国の人と一緒に1本の丸太の歩留まりを考えて買うようにしています。
鈴木 それは、1つの丸太を他国の会社と一緒にシェアするイメージですか?
遠藤さん 実際に1本ずつ丸太をシェアするというよりは、仮想的な丸太を考えるイメージです。ヨーロッパでは比較的きれいな材料が引き続き人気ですが、日本では多少節があるものも好まれます。それを分けるということですね。
あとは、長さや幅です。「定尺がいい」という人もいますが、僕のお客さんでは「乱尺でもいい」という人もたくさんいるので。グレードと形状で分けています。アンドウッドだけで1本の丸太から材料を取るやり方よりもコストを抑えることができます。
鈴木 より効率化できてるんですね。
遠藤さん そうです。円安になったからこそ気付けたやり方です。運が良ければグレードが高い材料もコストを抑えて仕入れられるんですよ。
2023年のヒット商品は、ミズナラのプライウッド
鈴木 床材も時代によって流行りがあると思いますが、2023年は何か感じるような変化はありましたか?
遠藤さん あまり変わらないですね。服の流行と比べると床は急激な変化がありません。引き続きオークのフローリングがよく出ています。
ただ、オークの中でも2023年はミズナラがヒットしました。一般的なオークよりも木目がきれいなのが特徴です。
鈴木 オークは節があるラフなものが人気というイメージでしたが、そこがちょっと変わってきているんでしょうかね?
遠藤さん 僕がミズナラを積極的に提案していたというのもあるかもしれませんが、見比べてからミズナラを選ぶ人が多かったです。あと、丸太を海外の人と買い分けする仕入れ方を始めてから、高価なミズナラを以前よりも価格を抑えて販売できるようになったのも要因だと思います。
鈴木 円安なのに、むしろ価格が下がっている。企業努力ですね…!
他にはどんな床が人気ですか?
遠藤さん チークのヘリンボーンやパーケットもよく出ますし、バーチやメープルなどの明るい色の床も根強い人気があります。あとは、“幅広で節無し”が最近は興味を持たれることが多いです。
ちなみにうちの幅広のメープルのプライウッドは、挽き板ではなく、これまで禁忌にしていた「ピーリングカット(=かつら剥き)」にしたんです。
メープルであればいけるだろうという仮説を立て、いろいろ実験をして出せるようになりました。この方法は挽き板よりも歩留まりがいい。
これまで高かったメープルの幅広がコストを抑えて作れるようになったため、手が届きやすい価格になり引き合いが増えています。
端材を生かす“幅細フローリング”はニーズとコストを重視
鈴木 最近人気の床材を教えて頂きましたが、逆に作るのをやめた床材はありますか?
遠藤さん 9Pのパーケットなど、幅が細すぎるパーケットフローリングはやめました。ちょっとコストが掛かりすぎますし、ニーズも少なかったんです。
鈴木 端材を大切に使おうという意図でつくっていたフローリングですよね。
遠藤さん はい。それで今は別の形で幅細のフローリングを作っています。コストを抑えて、かつ意匠的にも間口の広い商品にしたいなと。
以前はマニアックなものを作るのがいいことだと思っていたんですが、そうじゃないんですよね。使いやすいデザインにしてあげることが大切です。
コストに関しては、以前作っていた幅が細いパーケットは、定尺にしていたことや、手作業になる工程が多いことが課題でした。
そこをもっとシンプルに、集成材のようなフローリングにしようと思って作ったものが、昨年末に完成した新潟市秋葉区の店舗の壁と天井に使われています。
鈴木 新津駅前にできた「村の里」さんですね。ここは年末に竣工写真を撮影しましたが、チークのパッサージュがすごく迫力がありました。
遠藤さん この壁と天井の仕上げは僕から提案したものですが、製造コストをうまく抑えているのでそれ程単価は高くないんですよ。チーク材ですが、このような贅沢な使い方がしやすくなっています。
9Pのパーケットを作っていた時は「価値のない端材に、価値をつくろう」という理念でやっていましたが、それはニーズを飛び越えた考え方だったんです。そうではなく、普段使いしやすいものに昇華させてあげたいと思ってつくったのがこの集成材のようなフローリングです。
鈴木 不規則な長さの細い材料が集まった新しい端材フローリング。チークならではの重厚感が素敵ですね。これは店舗の内装にもいいですが、住宅でも個性的な空間がつくれそうです。たしかに、先程の9Pパーケットと比べるとかなりリーズナブルですね。
ちなみに、幅細の材料というのは、このような商品にしなければ処分されるものなのでしょうか?
遠藤さん 捨てはしないですが、日の目を見ず、ずっと倉庫に眠ることになってしまいます。燃料にもなるべくしたくないですから…。
合理的なシステムとアウトソーシングで従業員を雇わない経営
鈴木 ところで、遠藤さんは創業から一貫して一人で会社をやっていますよね。それによって固定費を抑えられ、外部環境の影響を受けにくい経営になっていると思います。床材商社という事業を一人でできるのがすごいなと思っているんですが、その仕組みや秘訣について教えて頂けますか?
遠藤さん できるだけ普段の業務を簡素化させるようにしています。例えば見積もりをつくるにしても、商品名と数字を入れるだけで自動的に計算されるとか、ボタン一つ押せば印刷されるとかですね。出荷指示も含めてかなり簡略化した仕組みにしています。「極力手打ちを少なくする」というのが僕の理念の一つです。
鈴木 日常的な事務作業を効率化しているんですね。そのシステムは自分でつくったんですか?
遠藤さん 創業時に自分でつくりました。ITの経験があったからというのもありますが、必死だった創業時の“火事場のクソ力”ですね。今だったらつくれないかもしれません(笑)。
鈴木 創業時に築いたシステムが資産になっているんですね。他にはどんな効率化をしていますか?
遠藤さん あとはアウトソーシング。外注の秘書サービスを活用していて、朝9時から夕方6時までは、僕が電話に出れない時に代わりに対応をしてもらっています。用件を聞いてもらい、メールで連絡してもらうんですよ。電話に出られないことによる失注を防げますし、配送関連の緊急の連絡にも対応しやすくなっています。
そのような仕組みをつくっているので僕一人でも仕事が回るんです。
ただ、もし僕が事故に遭ったり病気に罹ったりすると会社が機能しなくなります。そこが最大の弱点ですね。
鈴木 その対策は考えていますか?
遠藤さん 単純に人を入れるしかないでしょうね。逆に業務における改善点としては、それ以外ないと言えるくらい効率化できていると思います。
床材の可能性を広げるために、竣工写真を撮影する。
鈴木 あと、遠藤さんは自社の床材が使われた建物の竣工写真を自ら撮影することを続けていますが、やはりそこも一貫して大事にしていることですよね。今現在で累計350軒くらい撮影されているとか。
遠藤さん 僕は生産者であり、商社でもあり、営業でもあり、補修屋でもあるんです。全部一貫して床材に携わっています。
日頃から建築を見ていないと生産者としての感性が鈍りますから、竣工写真を撮影に行くことは非常に重要なんですよ。勉強になりますし、写真は貴重なデータにもなります。
鈴木 and woodのWEBサイトの「本日のand wood」に「光をとても気にして撮影している」と書かれていました。
遠藤さん 建築って形よりも床よりも光が一番大事だと思っています。光によって空間の見え方が全然変わるので。
…あ、ちょうど今もすごくいい光が入ってきていますね。
床の色も光が当たるところは白っぽく飛んでいるのに、影になる場所は濃く見えたりとか。突き詰めれば、その建築の光の入り方を知らないと、床の提案はできないと思っています。なので、床選びの打ち合わせの時には、光の入り方を聞くようにしています。
鈴木 他に撮影時に注意していることはありますか?
遠藤さん 床が主役にならないようにすることです。床は主役級かもしれないですが、あくまでも建築の一部なので。壁や天井、建具や家具とのバランスが大事だと思っていて、そのために、床を扉や造作家具と一緒に撮るようにしています。
鈴木 撮影条件によって光は変わってきますから、事例が増えていくと、同じ床材でもいろいろな表情や見え方があることを伝えやすくなりますね。
遠藤さん そうなんですよ。いろんな場所、いろんな使い方を見ることで、その床材が持つ可能性も広がっていきます。
材料の新たな使い方が見えてくれば、それまで埋もれていた材料を積極的に買えるようにもなります。だから、たくさんの竣工写真を撮りながら知識を増やしていくことが大事なんです。
鈴木 最近、何か新しい発見はありましたか?
遠藤さん ダストオークです。オークを白く塗った商品なんですけど、これは黒い壁に黒いサッシ、ステンレスキッチンなど、パキパキの空間に使うイメージだったんです。僕はミラノスタイルって呼んでるんですけど。
鈴木 モノトーンで無機質な空間に使われるイメージがありますね。インテリアのジャンルで言うとホテルライクに代表されるような。
遠藤さん そういう感じで使うのかな?と思っていたら、下の写真のように、一切黒を入れない、北欧テイストの空間に使う人がいて、これは驚きました。
パキパキではなく、優しい雰囲気なんですよね。完成した現場に行って、こういう使い方ができるんだ…と。これは新しい発見でした。
コロナ禍が終わり、生産地への出張も再開
鈴木 2023年は新型コロナウイルス感染症が「5類感染症」に変更され、移動がしやすくなりました。遠藤さんは11月に久しぶりにインドネシアに出張に行ったんですよね。どんな収穫がありましたか?
遠藤さん 今回のインドネシア出張は、現地のパートナーへの表敬訪問が目的でした。生産している人、丸太を切っている人、出荷している人たちにリアルな場で会って状況を聞けたことが収穫になりましたね。
あとは現地の材料の在庫状況を実際に確認できたのも収穫です。他の国がどんどん買っているんじゃないかと思っていたんですが、予想以上に材料の在庫がありました。それは実際に現地に行かないと分からないことですし、急いで購入するべきかどうかの判断材料にもなります。
鈴木 なるほど…。やはり商売ですから、仕入れ価格に影響する需要と供給のバランスを知ることはとても重要ですよね。久しぶりに訪れたインドネシアは、街の様子も変わっていましたか?
遠藤さん インドネシアで2番目に大きいスラバヤという都市に行っていたんですが、以前よりも都会化していて経済が成長していることを実感できました。
学生や若い人がみんな元気ですし、教育もしっかりしている国だから今後も伸びていくでしょうね。現地で祭りをやっていたんですが、若者の参加率が高く賑やかで、昭和の日本のような雰囲気でしたね。
今回はスケジュールの都合で森には行きませんでしたが、次回はチークの植林地にも行ってみたいです。
接着剤を使わず、床材を将来の資産に
鈴木 では、そろそろまとめに入りたいと思います。前回のインタビュー取材では、「接着剤を使わず釘だけで床を施工する方法を広めたい」と話されていました。その後、実現は進められていますか?
遠藤さん 「木を大切に使おう」「次世代に残そう」という思いでそういう発言をしていたんですけれども、施工の現場では「接着剤を使わない方がラクで、床を早く張れる」と施工上のメリットを感じて頂くことが多く、この施工法は広がってきています。
鈴木 接着剤を使わないことで、ずれるとか床鳴りがするということはないですか?
遠藤さん プライウッドに関してはほぼないですね。寸法安定性が高いですし、うちのフローリングのサネは特殊なものを使っていて動きにくいんですよ。将来床を剥がして次世代に引き継げる資産にしようというのは、僕の思想であり希望であり、祈りのようなものです。
鈴木 釘を外してしまえば、床が全て元の床材に戻る…。そしてそれはヴィンテージの床材になる。そう話していましたよね。
遠藤さん 例えばリーバイスのデニムで初期につくられたものは、1,000万円以上の値で取引されているようです。and woodのフローリングがそのような価値を持つには相当な伝説を残す必要があり、難易度は高いですが、品質に自信を持ってつくっているので、いつかうちの床材が生きた伝説になればいいな…と。
特殊な寄せ木フローリングを自社工房でつくりたい
鈴木 最後に2024年に挑戦したいことを教えて頂けますか?
遠藤さん 一つは人を入れること。「一人で回せる仕組みをつくった」と話した後ですが、以前よりもやることが増えていて次の一手が打ちにくくなっています。効率化できているとはいえ、メール対応や見積書の作成などは役割分担できたらいいですね。遠隔でできる仕事なので、近くに住んでいる人でなくてもいいので、募集を始めるかもしれません。
あとは、100%アンドウッドによる特殊な寄せ木のフローリングをつくってみたいです。そのために、自社工場というか工房みたいなものを持ちたいですね。寄せ木工房。
鈴木 寄せ木工房!これは面白そうですね。特殊な床で空間をつくりたいという人に喜ばれそうですし、寝室や個室などの比較的小さな空間だけこだわってみるのも面白そうです。
遠藤さん あとは、国内のいろいろな建築を見に行きたいです。県外の竣工写真も今年は増やしていきたいと思います。
Daily Lives Niigataでは、アンドウッドの遠藤さんへのインタビューを定期的に行っていますが、創業7年目に入った遠藤さんは、コロナ禍やウッドショック、インフレや円安など近年のさまざまな局面を乗り越え、安定感を増しているように感じられました。
貴重な森林資源を未来に残したいという理念は創業時から変わりませんが、より合理的なプロセスで材料の調達やフローリングの製造を進めています。
床材の中でも遠藤さんが特に好きだという「寄せ木(パーケット)」の工房をつくるのが今の目標。そこでどんなフローリングが生まれるのでしょうか?今後の新たな展開にもご注目を…!
and wood(アンドウッド)
住所:新潟市中央区本馬越2-18-1
電話:025-385-6763
Instagram:@and_wood_japan
取材・文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平
鈴木 亮平
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