鈴木 亮平
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アンダーイーヴス・アーキテクツ・渡辺宣一さんと株式会社新潟家守舎の代表・小林紘大さんの対談記事。
後編では小林さんの自邸を訪ね、家づくりについて深掘りをしていきます。
(前編はこちら)

46坪の土地に立つ三角屋根の家。
渡辺さん さっそく質問ですが、紘大くんが家を建てようと思ったきっかけは何でしたか?

小林さん 家を建てる前はグリーンホームズという素敵なアパートで暮らしていたんですが、やはり住宅をつくる仕事にずっと携わってきたので、いずれ新築をしたいと思っていました。

本当はもう少し早く建てたかったんですけど、独立してすぐだとローンが組めなくて。法人にして3期分の決算書がそろってから家づくりを進め、2025年春に完成しました。
土地は僕の実家の2軒隣で、昔ひいじいちゃんが住んでいた場所を譲り受けて新築をしました。46坪くらいの土地にバルコニーを入れて32坪の家が立っています。

自邸建築にあたって考えた2つのコンセプト。
渡辺さん 自邸でこだわったことや大事にしていたコンセプトはどんなことですか?
小林さん 大きく2つのコンセプトがあり、1つ目は「エコハウスのコスパの追究と実験」でした。どのようにつくると最もコスパがいいエコハウスができるのかを自邸で実験してみたかったんです。
太陽光発電や付加断熱、大型パネル工法を使ったり、階間(かいかん)エアコンを使ったり、平面をシンプルな矩形(長方形)にしたり。そして、そうやってつくった家をみんなに見てもらおうと思い、現場見学会や完成見学会を何度も行い通算130名の方に見てもらいました。

2つ目は「自邸だからといって特別なものにしない」ということです。なるべく自分の個性や作風みたいなものは出さないようにしてシンプルにつくりました。仮にお客さんがこの土地を選んだとしたら、こういう提案をするだろうなあという気持ちで設計をしています。
渡辺さん じゃあ、あまりこだわらないことがこだわりになるんですね。
小林さん そうですね。造作の棚とかバルコニーのウッドデッキとか、天井に羽目板を張るとか、一応いろいろな絵は描いていたんですけど、だいぶ削ぎ落していきました。ただ、太陽光発電、付加断熱、第1種換気、海外食洗機などは削っていないです。機能的・合理的なものは残しました。
そういう意味では障子も削ぎ落してしまいそうになりますが、サンプルとしてお客さんに見てもらうのにいいかなと思って残しています。

あと外壁もサンプルとしてジョリパットと杉板と、白いガルバリウム鋼板、黒いガルバリウム鋼板といろいろ使っています。自邸に説明できるサンプルがいろいろあると便利ですから。

渡辺さん そうですよね。僕の家の内装の仕上げはほとんど合板ですが、お客さんに白っぽい壁を説明するために1カ所だけモイスを張りました。
2階リビングの床を暖める階間エアコンを採用。
渡辺さん 紘大くんの家は階間エアコンを使っているのも特徴ですよね。
小林さん この家は2階リビングですが、その場合の空調がなかなか難しく、僕は階間エアコンが一番いい方法じゃないかなと思っているんです。1階と2階の間の空間にエアコンで冷暖房した空気を流す仕組みで、冬は2階の足元が暖まりますので。それは自分の家で体感しなければいけないと思い、階間エアコンを採用しました。


また、換気は熱交換型の第1種換気で、ローヤル電機のSE200RSを使っています。階間がメインの空調ゾーンになるので、そこに外から給気した空気を入れています。
僕は合理的につくることが好きなので、空調はこのような計画にしました。
2階リビングでもアウトドアを楽しめる場所を。
渡辺さん バルコニーをかなり広く取っていますが、これほどの大きさにした理由は何ですか?

小林さん 2階リビングにすると外との接点が取りにくくなりますが、思い切って6畳取ることでちゃんとした中間領域がつくれると考えたからです。外と中の中間領域は大事にしたいので、今後2階リビングと合わせてこのような広いバルコニーを提案していきたいです。

渡辺さん 空調されていない自然の空気を感じられる場所が生活の中にあるのはすごくいいことだと思います。ここはどんな使い方をしていますか?
小林さん 敷物を敷いて焼肉をやったりプール遊びをしたり。冬は少し雪も積もるので雪遊びを楽しんでいます。いずれデッキを敷いてみるのもいいかなと思っています。
あと、バルコニーがあることで外から室内が見えにくくなっているため、そこの大きな窓にはカーテンを付けていないんですよ。

渡辺さん 2階リビングの空間を思い切って広くしているのも特徴的ですよね。

小林さん 2階をLDKとバルコニーだけにしてLDKは22畳の広さを確保しています。2階にはトイレも建具もありません。
渡辺さん 1階に個室と水回りをまとめ、2階はLDKのみにするのは僕も好きな間取りです。そうすると総二階のバランスがちょうどよくなるんですよね。
それを逆転して、1階をLDKのみにして、2階に水回りと個室を持ってくる方法もあります。総二階の場合は1つのフロアにLDKと水回りを混ぜないことでLDKの広さをしっかり確保できますね。
階間エアコンで快適な室温を実現。課題は夏の仕事部屋。
渡辺さん 去年の春に完成して、1年間住んでみて住み心地はどうですか?
小林さん 冬暖かく夏涼しく、しかも省エネルギー。やはり高性能化は正しいことだと実感しています。光熱費はだいたいシミュレーション通りでした。太陽光発電は想像していたよりも発電している印象ですね。
あとはLDKが広いので子どもたちが走り回れますし、天井が高いのでバレーボールもできます(笑)。
それから家の前にしっかり植栽もつくってもらったので帰ってくる時いい気持ちになりますね。

渡辺さん ちなみに階間エアコンにしていると冬に2階の床は暖まりますが、1階の床は暖まりにくいと思います。そのあたりの体感はどうですか?
小林さん 階間エアコンをベース暖房と考えていて、それプラス1階の寝室にもエアコンを付けています。なので、冬に階間エアコンだけ使っていると1階の室温は19℃くらいですが、寝る前に30分くらい寝室のエアコンをつけると何度か上がってちょうどいい温度になるんです。
難しいのは1階の仕事部屋の夏の温度調整ですね。パソコンが熱を出すので、階間エアコンの冷房だけでは十分に冷えません。オンライン会議中はドアを閉めているので特に厳しいですね(笑)。

渡辺さん 本当に夏の書斎の空調問題を解決するのがこれからの課題ですね。この家のエアコンの数は3台ですか?
小林さん はい、2階に冷房用が1台と、階間に1台、寝室に1台です。
渡辺さん エアコンの台数を無理やり1台にするっていう流れがありますけど、それは設計者のエゴでしかなくて、必要なところにきちんと空調された空気が届くようにイニシャルコストを掛けるのは大事なことだと思います。
高断熱住宅であればそれらを常にすべて稼働させるわけではないので、台数を増やしても電気代が多く掛かるわけではありませんし。
小林さん そうなんです。それに使うエアコンはすべて小さくて安いもので十分です。何台かあると1台が霜取り運転を始めても他のエアコンが使えるという安心感がありますね。
渡辺さん たしかにそうですよね。ちなみに床下エアコンの場合は暖房をそれ1台でまかなうという考え方が一般的なので、冬場の室外機の凍結を考慮すると、床下エアコンだけは凍結防止機能が付いた高価格なものを入れた方が良いのかなと考えています。
開放的でプライバシーを保ちやすい2階リビング。
渡辺さん ところで2階リビングでの暮らしというのは、1階リビングの家と比べてどういう違いが感じられますか?
小林さん まず、2階リビングというとなんとなくデメリットが多いイメージを持たれますけど、特にデメリットは感じていないですね。よく「インターホンが鳴った時に玄関に下りていくのが面倒そう」というのがありますが、ここは階段と玄関が近い位置にあるので特にストレスはありません。
渡辺さん 2階リビングを提案しようとすると「ゴミ捨てが面倒そう…」「買い物帰りの動線が長くなりそう…」と心配されることがありますが、そのあたりはどうですか?
小林さん ゴミは下に降りる時に持っていくだけなので、2階リビングだから面倒というのはないですね。買い物帰りの動線も、1階の奥にキッチンがあるケースとそれ程変わらないと思います。
それよりも気を付けなければいけないポイントは冷蔵庫の搬入動線を設計時に考えることです。ここでは階段の手すりを外して階段から上げています。購入する冷蔵庫のサイズも注意が必要です。
あと2階リビングのメリットは1階と比べて高い場所にあるので、外からの視線を気にせずに景色を楽しめることですね。
構造的に2階は掛かる荷重が少ないので柱間のスパンを飛ばしやすいですし、勾配天井にして開放感をつくり出せるのもいいところです。うちは付けていないですがリビングにロフトをつくることもできます。
渡辺さん たしかに2階で平屋みたいな空間がつくれますよね。
小林さん うちは1階の階高を2,730mm、天井高を2,100mmにしていて、1階の天井と2階の床の間の懐を大きく取っています。そこに大きい梁が入っても階間を空気が十分通るようにするためですね。
で、1階の天井高が低いのに対して2階の天井高が高いので、2階に上がるとギャップで一層広がりを感じられます。

あえて余白をつくり、可変性を楽しむ暮らし。
渡辺さん あと紘大くんの家の2階リビングで特徴的だなと思ったのが、バルコニーと階段の間にフリースペースがあることです。この余白も広さを感じさせる要素だと思いますが、意図的につくった空間ですか?

小林さん フリースペースをつくったのは空間をいろんなバリエーションで使いたかったからです。フリースペースにダイニングテーブルを持って行ったり、ソファを置いてみたり、この1年間で頻繁に模様替えをしています。
渡辺さん なるほど。たしかにフリースペースにダイニングテーブルを持ってくればバルコニー越しの景色を眺めながらごはんが食べられますし、バルコニーとの一体感も楽しめます。家具のレイアウトが自由になる余白は大事ですね。
うちも最近まではリビングにダイニングテーブルを置き、プロジェクターを使って120インチで映画を見ながらごはんを食べていました。
紘大くんの家はキッチンが区切られて、それ以外の空間と明確に分かれているから模様替えがしやすいんだと思います。これが対面キッチンだとちょっとやりづらいかもしれません。
小林さん ちなみにこのキッチンは、キッチン側の壁とカップボードの壁まで2,730mmあり、ちょっと広めなんです。それは構造を優先したからなんですね。普通だとこれよりも455mm短くなるんですが、棟木からまっすぐ柱と壁を落としたかったのでこのようになりました。通路が広いので食器を片付ける作業がしやすいですね。

渡辺さん 僕もプランは構造にならうべきだと思います。それに通路部分にこれだけの広さがあると2人で背を向け合っての作業もしやすいですよね。キッチンは『エクレアパーツ』にしたんですね。

小林さん はい、造作キッチンにすると標準的な既製品キッチンと比べて価格がだいぶ上がってしまいますが、パーツを組み合わせてつくる『エクレアパーツ』は造作キッチンよりも安く抑えることができます。
コスト削減のために、つくりやすい設計を重視。
渡辺さん ところで床に使っている白く塗装されたオークは珍しい床材です。こちらを選んだのはどういう理由からですか?

小林さん これはアンドウッドの遠藤さんにおすすめされたからですね(笑)。1階のアガチスを張った壁も遠藤さんからの提案をそのまま採用しています。僕は素材に対して「どうしてもこうしたい!」というのは少ないので、専門家のアドバイスはそのまま受け入れるようにしています。

渡辺さん 紘大くんは最初に「自分の個性や作風みたいなものは出さない」と話していましたが、その床材の決め方は芯が通っているように感じます。
小林さん 僕は設計者としてこの家をつくったというよりは、マーケッターとしてつくったという感覚があるからかもしれません。そういう意味で「つくりやすく設計する」というところも重視しています。
平面を長方形・正方形でつくるとか、屋根勾配に変化をつけないとか、構造を素直につくることが重要だなと思っていますし、施工をする職人さんが悩まずにつくれることを大事にしたいです。だから、あまり455mmで切らずに3尺(910mm)のグリッドで納めるようにもしています。
渡辺さん たしかに建物は複雑になるほど見えにくいコストが掛かってくるんですよね。例えば455mmという寸法が出るかどうかで大工さんが丸のこを使う回数も変わってきますから。
小林さん それから、コスト削減のために坪数を抑えようという流れがありますが、4間×4間の総二階で32坪の建物の方が、カクカクした26坪の家よりもコストは安いと思うんですよ。自由設計の注文住宅を求める人の満足度をどう高めていくかは悩ましいところではありますが。
例えばもし僕が猫と暮らす家を建てようとしていたら、壁に猫用のキャットステップを付けようかという案が出てくると思うんですけど、それをやるための工事や打ち合わせにはそれなりの時間とコストが掛かります。
でもそれを建築時に付けずに後から自分で無印良品の「壁に付けられる家具棚」を付ければそれで済んだりしますよね。どのあたりまで建築時にやるべきか?というのも大事なテーマだと思います。

渡辺さん 設計事務所って「お施主さんが好きなことを叶えてくれる存在」というイメージがありますけど、そのイメージを変える必要があるのかなと思います。設計に関する深い知識があり、質の高い設計技術を提供できるのがポイントなので。住みやすい家にしながらも、お施主さんの支払うコストを下げるアイデアを提供できるのも設計者の役割だと思うんですよね。設計というのは自由設計とか注文住宅のイメージがありますが、もっと広い意味を持っていると思います。

住学では参加者がレベルアップしていける場を目指す。
渡辺さん 今日お互いの家を訪ねて話し合うことで、お互いの家づくりの違いが分かったのはもちろんですが、「つくりやすい家を設計すること」「コスト意識を高く持つこと」を共通項として持っていることも分かりました。
小林さん そうですね。普段考えていることを言語化して話し合うことが大事だなあと思いました。
渡辺さん 僕らは住学の新しい校長・教頭になり新しい方向性を考えていかなければならないんですけど、いろいろな考え方を持つ人が集まっている建築コミュニティなので、ぜひいろんな人の考え方を「言語化」していきたいですね。
小林さん 住学が始まって8年が経ち、参加者の年齢も上がってきています。住学が若い世代の人たちにとってキャリアアップにつながるような場にもしていきたいですよね。
渡辺さん そうですね。僕らよりも若い世代にもたくさん来て頂いて、今一度いろんな人の考え方を共有しながらみんなでスキルアップしていけるコミュニティにしていきたいです。

アンダーイーヴス・アーキテクツ・渡辺宣一さんと株式会社新潟家守舎の代表・小林紘大さんの対談。いかがでしたでしょうか?
30代後半で建築をしたお二人の自邸には、それまでの建築人生で積み上げた経験に基づく問題意識や理想があり、仮説を検証していこうとする好奇心や情熱があふれています。
家づくりに関わる人は自邸の建築が一つの節目となり、そこから得た経験を糧にさらなる進化をしていく印象がありますが、渡辺さんと小林さんもそんなフェーズの真っただ中。
また、お二人は今年5月に住学の5代目校長・教頭に就任し、新潟の建築コミュニティを盛り上げていこうと計画を進めています。今後のお二人の活動や住学での活動にぜひご注目を!
アンダーイーヴスアーキテクツ 主宰 渡辺宣一さん、株式会社新潟家守舎 代表 小林紘大さん
写真・構成/鈴木亮平

