明るい南国の空気が漂う、吹き抜けリビングが住まいの中心

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鈴木 亮平

新潟市在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。

築2年半が経過した白の家

新潟市西区の高台に広がる住宅街は、迷路のように細い道が入り組んでいる。その中に入り、何度目かの角を曲がると、もう自分がどこから来たのか思い出せない。

スマホの地図アプリを頼りに、ようやく袋小路にあるY邸に辿り着いた。

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築後2年半が経つY邸の外壁は、ガルバリウム鋼板がベース。午後の日差しを受けた白い家は青空がよく似合う。アクセントに使われた杉板や外部収納の木製建具の色が変わってきているところから、2年半という時間の流れが感じられた。

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タイルで仕上げられた約4畳のポーチの一部は、3人の子どもたちの自転車置き場。駐車スペースはその傍らに設けられており、雨天時の車の乗り降りもスムーズだ。

建物全体のボリュームは特別大きいわけではないが、ゆとりあるポーチが大らかな印象をつくり出していた。

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「以前は家族5人で賃貸マンションで暮らしていましたが、子どもたちを伸び伸び遊ばせてあげたいと思い家を建てることにしたんです」とご主人。

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その想いはゆったりとした庭を取れる土地にも現れている。

 

玄関から始まる開口部のこだわり

家づくりの依頼先に選んだのは、株式会社加藤淳設計事務所と株式会社Ag-工務店の建築チーム。全棟許容応力度計算を行い、全棟耐震等級3をクリアした安心の住まいを提供している。

自然素材を使った温かみある空間や、外ととのつながりを大事にした開口部の計画、合理的な家事動線などを重視しているところも加藤淳さんの設計の特徴だ。

「住宅情報誌『ハウジングこまち』で見た加藤淳さんの家のデザインがいいなと思い、依頼することにしました。『お願いします』と伝えたのは、プランの提案を受ける前でしたね」と奥様。

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希望したのは明るい家。広めの土地を生かし、家の中と庭が隔たりなくつながる…。そんな開放的な住まいが理想だったという。

また、家事がしやすい回遊動線も奥様が強く希望をしていたプラン。それらの要望を読み取り、加藤さんはリビングやダイニングから庭を眺められる平面を提案した。

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「外観は水平方向に伸びる間口が長い形にしています。リビングからウッドデッキに出られますが、なるべく光を採り込むためにデッキの上の庇は三角にして面積を抑える工夫をしました。リビングとダイニングの位置をずらし、ダイニングから吹き抜け越しに2階の子ども部屋が見えたりと、家族の気配が感じられることも重視したところですね」(加藤さん)。

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デッキの上に架かる三角形の庇は柱を省略するためでもある。(写真は竣工時)

決して奇抜な平面ではないが、かと言って単純な四角でもない。加藤さんの設計がどのように形になり、どのようにYさん家族は暮らしているのだろうか?家の中を見せて頂いた。

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玄関はコンパクトに抑えつつも、その横には家族5人分の靴や上着を収納できるシューズクロークが設けられている。丸見えにならないようにのれん掛けが設けられているが、Yさん夫婦は特に隠すことはせずに広く使っている。

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玄関に立ち、正面を見たところが下の写真。

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玄関の目の前には1,100mm角のFIX窓が配されており、そこから植栽を眺められる。このちょっとした抜けが空間に広がりと奥行感をもたらしているようだ。

その右にある和室はゲストの宿泊用。

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押入を含めて5畳の空間は、大人が2名で寝るのに絶妙な広さで過不足がない。視線の先に庭木が見えるのも心憎い演出だ。

 

チークの色と素材感に合わせた造作洗面台

再び玄関前に戻り、廊下の先を見たのがこちら。

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正面のドアを開けたところにリビングがあり、その手前右側には洗面スペースが配されている。

幅約1,100mmの造作洗面台は広すぎず狭すぎない、ちょうどいい大きさだ。床は9枚のチークの端材を組み合わせたパーケットフローリングで、洗面台もその色に合わせてダークブラウンに塗装している。

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水がかかる正面と両サイドの壁は落ち着いたベージュ色のモザイクタイルで仕上げられており、鏡のフレームにはチークのフローリングを使うというこだわりも。

帰宅後すぐに手洗いができるし、左にあるドアを開ければサニタリーに入ることもできる。

 

ハワイのアートが飾られた南国風情が漂うリビング

先程ちらりと見えたリビングに入ると、目の前にはダイナミックな勾配天井が2階へと伸びる開放的な吹き抜けの空間が広がっていた。

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リビングは階段を入れて9畳だが、対角線上のダイニングや、掃き出し窓の外の庭へと視線が抜けるため、とても広く感じられる。

鈍く光を反射する重厚な床はミャンマーチーク。2年半の時を経て、落ち着いた穏やかな空気感をまとい始めていた。

「私はフラダンスをしているんですが、家の中でも南国の気分に浸りたいと思いチークを選びました。アンドウッドさんのショールームでインドネシアチークとミャンマーチークを見比べてみると、木目や色味がミャンマー産の方がイメージに近かったです。少し幅が広いのも気に入っています」(奥様)。

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庭を眺められる場所には緑色のファブリックが目を引くソファ。そして、その後ろの壁にはハワイ在住のアーティスト・ヘザーブラウン氏のアートが飾られている。

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カマニツリーと呼ばれる木の合間から見える海と空。鮮やかな絵がスポットライトに照らされ、ギャラリーのような一角ができ上がっている。

「家を建てる前からこの絵を飾りたいと思っていて、ちょうどいい場所にスポットライトを付けて頂きました」(奥様)。

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リビングを奥から見ると、すっきりとした木製スケルトン階段が2階へと伸びている。スケルトン階段と言うと薄いフラットバーの手すりが付いたスチール製のイメージが強いが、側板や手すりも木でつくられた階段は温かみが感じられる。

階段下は床置きエアコンとルンバのスペース。床置きエアコンの左隣に見える白い引き戸の中には1.4畳の収納スペースがあり、日常的に使うものはこちらに収納。そうすることで、リビングに物を置かない暮らしが実現できているという。そんなリビングは、奥様と娘さんたちがフラダンスを練習する場所にもなっている。

施工を担ったAg-工務店の代表・渡部栄次さんは「屋根足場が必要になる5.5寸勾配の屋根で施工には注意が必要でしたが、気持ちいいリビングをつくり上げることができました。ミャンマーチークの床を張り終えた時、すごくきれいに仕上がってうれしかったですね」と話す。

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奥まったダイニングは親密な空間

リビングと少しずれてつながっているのが5畳のダイニング。壁からニョキっと伸びるフレイム社の真鍮製ペンダントライトが味わい深い。

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ウッドデッキ側に大きなFIX窓があり、そこから光が注いでいる。朝日がたっぷりと入る午前中は特に明るいという。

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「LDKの形をL字にして、2面に大きな窓を設けて頂いたことで、とても明るい空間になりました。吹き抜けで天井も高いので窮屈な感じがしませんし、室内から庭で遊ぶ子どもたちの様子もよく見えます。ダイニングとリビングが分かれているので、食事の時間とくつろぐ時間を分けられるのもいいですね」(奥様)。

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ダイニングテーブルの奥にある西面の壁側は、幅約2mのスタディーコーナー。左手には本棚、右手の壁にはマグネットが貼れる下地材が使われている。使い勝手の良さが考えられた細やかな設計は造作ならではだ。

お子さんたちの勉強や、家計簿などのちょっとした作業をするのに重宝しているという。

また、マグネット下地がある壁はリビング側からは見えにくい場所なので、多少乱雑に書類を貼っていても気にならない。

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壁には奥様がこれまで3回訪れたというハワイのマグネットも。

 

生活感が出やすいサニタリーは裏手に配置

南側の明るいLDKが魅力のY邸だが、その裏手にある北側のバックヤードが快適な暮らしを支えている。

キッチンの奥にパントリーがあり、その先の引き戸を開けると通路状のサニタリーにつながる。

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ここは室内干しのスペースであり、収納スペースであり、浴室につながる脱衣スペースでもある。引き違い窓を開ければ、格子に囲まれた屋外物干しスペースもある。

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「格子で目隠しされているので、外干しをしていても外からの目が気になりません。猫が入ってくることもないので、ゴミの一時置きスペースにも使っています」(奥様)。

通路状のサニタリーをまっすぐ進めば洗面スペースにつながり、玄関ホールへと大きく1周できる。行き止まりがない動線は移動のストレスも感じにくいという。

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この充実のバックヤードが、LDK側の生活感を抑えるのに貢献している。

 

個室が中心でも開放的な2階

次に階段を上がって2階へ向かった。

2階は1階の半分以下のボリュームで、2室に分けられる8畳の子ども部屋、ホール、トイレ、ご主人の個室、寝室が配されている。

床は明るくやわらかいヒノキの無垢材が使われており、1階とは異なる印象だ。

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子ども部屋は工事をせずに簡単に間仕切りを取り付けられるように、天井にはあらかじめ木のレールが付けられている。そこにシナ合板のパネルをはめることで2室に分けられる仕組みだ。

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パネルで仕切って4畳にした状態。エアコン部分は完全に仕切らずにつながっている。(写真は竣工時)

子ども部屋の手前はピアノが置かれたホール。ここで演奏すると家中にピアノの音色が響き渡る。

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廊下の途中には4畳のご主人の書斎兼寝室。

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「以前から私は一人で寝ることが多かったので個室を設けて頂きました。家で仕事をする時もこの部屋が役立っています」とご主人。

そして、その奥には7畳程の主寝室。

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2階の建具はすべて引き戸が使われており、開放すれば端から端まで視線が抜けて広く感じられる。春や秋の中間期は自然の風がよく通り、冬や夏はエアコンの暖気・冷気を家の隅々へと行き渡らせやすい。

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改めて2階を見渡すと、全ての引き戸が開け放たれていることに気付く。開いた建具は、それが定位置であるようにあまりにも自然であり、この家全体に流れる大らかな空気の理由がそんなところにもあるように思われた。

 

子どもたちが伸び伸びと暮らせる家

夕方、外に遊びに出掛けていた子どもたちが帰ってきた。ウッドデッキの上に虫かごを置き、「バッタを捕まえてきたんだよ」とワクワクした表情で草の中に隠れたバッタを見つめている。

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「ウッドデッキでは子どもたちがままごとをして遊んだり、洗濯物を干したり、植物に日を当てたり。外とのつながりが感じられるとてもいい空間です。それから、この家ができて変わったことの一つが、家での食事が楽しくなったこと。夫がごはんを作るようにもなりましたね(笑)」(奥様)。

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「賃貸暮らしの時は下の階への音が気になって子どもたちには窮屈な思いをさせていましたが、今は家の中を走り回ったり伸び伸びと遊ばせられるようになりました。最近ウッドデッキを塗り直しましたが、今後も家をきれいに保っていきたいです」(ご主人)。

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開放的なリビングを中心に、1階と2階、内と外、部屋と部屋が大らかにつながる住まい。冬の悪天候や夏の高温多湿など、厳しい気候の新潟にありながら、この家にはからりとした南国の空気が感じられる。

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Y邸
新潟市西区
延床面積 114.3㎡(34.5坪)
1F 67.9㎡(20.5坪) 2F 46.4㎡ (14.0坪)
竣工年月 2021年4月
設計 株式会社加藤淳設計事務所
施工 株式会社Ag-工務店
耐震等級 3(許容応力度計算)

(写真・文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平

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新潟市在住の編集者・ライター・カメラマン。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。累計800軒以上の住宅取材を行う。